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コラム

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ライタープロフィール

村田 義文
村田 義文(むらた よしふみ)

 大学卒業後、陸上自衛隊にて中隊長として、隊員を指揮・統率し、部隊の練成訓練、災害派遣活動に従事。総監部幕僚として、装備計画、各駐屯地等の隊務運営指導の企画、運営を担当。当社入社後は、コンサルティング部門のマネージャーとして組織・人事コンサルティング業務に従事。

その賃上げ、意味ありますか | 人事制度

その賃上げ、意味ありますか

 経団連が発表した大手企業の2024年春闘の回答・妥結状況によると、月例賃金の引上げ率は5.58%(19,480円)と、2023年の3.88%(13,122円)を大きく上回っており、高い水準となっている。  賃金の引き上げは、従業員のモチベーション向上や離職率の低下につながる一方で、企業にとってはコスト増、特に固定費が増加するため、慎重に検討する必要がある。  そこで、月例賃金の引上げを行った2社の例から、その効果について考えたい。A社は、階層ごとに一定の賃上げを行った。一方、B社は、基本給が低い層の賃上げ幅を大きくし、基本給が高くなるにつれ、賃上げ率を低くする改定を行った。    賃金引き上げの意義や効果を考えてみると、以下の3点が考えられる。 従業員のモチベーション向上  報酬に対する満足感が高まり、仕事への取り組み方や成果に対する積極的で高いモチベーションを持つことができる。そのため、従業員の仕事への熱意やパフォーマンスが向上し、結果的に企業の業績向上につながると期待できる。 優秀な人材の確保と定着  賃金が競争力のある水準で維持されることで、優秀な人材を企業に引き留めることが可能となり、従業員の定着率を高め、長期的な競争力を獲得することが期待できる。 従業員の経済的な安定  賃金水準が向上することで、従業員は安定した生活を送ることができ、経済的な安定感が得られるため、ストレスやプレッシャーが軽減され、仕事への専念度も高まることが期待できる。    さて、A社とB社の事例では、この3つの効果が期待できるだろうか。  A社は階層に関わらず全社員の基本給を一律で引上げ、B社は若手層をターゲットとした基本給の引上げを行った。いずれの場合も非管理職層を重点に賃金の引き上げを行っているが、大きく異なる点は、B社は等級や号俸による引き上げ額に傾斜をつけることによって、会社全体の賃金幅を縮小したことである。  これらの違いは、両社の賃金改定に至る経緯の違いに起因していると思われる。A社は、社員の年収を大幅にアップすることを具現化した制度改定であることに対し、B社は、厳しい採用環境への対応と若手の離職防止に主眼を置いた改定を行っている。  そのため、A社の場合だと、全社員に対して万遍なく、賃上げの効果が期待できる。B社の場合では、若年層には大きな効果が期待できる一方で、中堅~管理職層では、現状よりは、賃金が増えているにも関わらず、制度改定に対する不公平感を感じてしまい、将来の昇給期待が持ちにくくなってしまう恐れがある。  賃上げは、決してメリットばかりではない。人件費は増加しているのにデモチベーションになる恐れや、公平性を重視するあまり、従業員が賃金上昇を実感できず、ほとんど効果がなかったということに陥ってはいないだろうか。  どのような効果を期待して、限られた賃金引上げ原資を配分するか、人事・経営に携わる者の腕の見せどころではないだろうか。