2024.05.28
役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説
役職定年制度とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 役職定年が広まった背景は「退職年齢の高齢化」 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 たとえば、55歳で部長職の役職定年を迎え、その後60歳の定年退職までは「これまでの役職から外れて勤務する」という運用が一般的です。役職定年後の配置は人によって異なり、同じ職場に残って職務が変わるケースや、所属異動になるケースなどがあります。役職定年後の職務は、専任職、専門職、一般職などさまざまです。 役職定年制度は、組織の新陳代謝や人件費の管理、後進の育成などの「経営上の課題を解決する目的」として導入される反面、役職定年を迎えた社員の「モチベーション維持」や「キャリア形成への配慮」も重要な課題です。 「定年退職」と「役職定年」の違いは? ここからは「定年退職」と「役職定年」の違いについて詳しく解説していきます。 定年退職は「会社から退かせる制度」 定年退職とは、会社が決めた一定の年齢に達した従業員が、自動的に退職する制度のことです。つまり、会社が事前に決めた年齢になった従業員は、その時点で会社との雇用契約が終了し、退職することになります。定年退職制度は、法律で決まっているわけではなく、会社が自由に選択できる制度です。ほとんどの会社が定年制を導入しているので、多くの従業員がこの制度の対象となります。 日本では、法律に基づいて、会社は従業員の定年年齢を60歳以上に設定しなければいけません。そのため、多くの会社では60歳を定年としていますが、中には65歳以上の定年を設定している会社もあります。最近は、少子高齢化で労働力人口が減ってきていることを背景に、定年年齢を引き上げたり、定年後も雇用を継続したりする動きが進んでいます。法律の改正により、65歳までの雇用機会の確保が会社の義務とされ、70歳までの就業機会の確保が会社の努力目標とされました。 定年退職は、長年働いてきた従業員にとって大きな節目であり、会社にとっても大切な人材を手放すことを意味します。定年を延長することは、今の高齢の従業員に雇用を保証し、「引き続き活躍してほしい」という意思の表れになります。 一方若手従業員から見ると「ポストが空かない」状況が続くことを意味しますので、スムーズな世代交代を促すことが重要です。定年を60歳にとどめる会社は、長期雇用を望む従業員の流出防止や、定年後の高齢者雇用政策の方向性を踏まえながら、定年退職制度を適切に運用し、従業員個人に対してはキャリアや生活設計、活躍支援に配慮すること、若手世代も含めた組織全体に対しては組織の活性化を図ることが大切だと言えます。 参照元:『令和4年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省』 役職定年は「役職から退かせる制度」 先にも解説しましたが、役職定年とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。 独立行政法人 高齢・障害求職者雇用支援機構の平成24年の調査時点では、役職定年制度および役職就任規制を導入している企業は28%、見当も導入もしていない企業は61%でした。その後、導入企業は増加し、大手企業を中心に多くの企業で導入された一方、富士通やNECのように役職定年を廃止した企業事例が報道されています。企業によって廃止に至る背景はさまざまですが、「年齢に関係なく、その人の能力と成果で処遇を決する」という考え方が広く受け入れられるようになると、年齢だけを理由に処遇を大きく下げる役職定年制度を合理的に説明することは難しいと言えるでしょう。 シニア層の雇用義務がさらに強化される状況の中で、企業としては「役職定年制度」を導入・継続するか、それとも廃止するかは悩ましい問題です。 昨今の「役職定年制度」に対する現状 【現状1】「役職定年制度」があるものの、延長するケース 役職定年制度の運用状況は、企業によってさまざまです。例外をほとんど認めずに運用している企業は、延長手続きのルールを厳格に定めている一方で、優秀な人は延長されることがあるとしている企業では、例外が多くなる傾向にあるようです。中には、もともとそこまで厳格に運用するつもりがなかったり、課長クラスの役職定年の運用を各部門に任せていたりする企業もあるようです。 つまり、役職定年制度はあるものの、実際には延長するケースが多いというのが実態のようです。企業によって事情は異なるため一概には言えませんが、制度と運用の間にギャップがあるのは確かです。「余人をもって代えがたい」人材に同じ役職条件で残っていただくことは、事業の安定継続の観点や競合への流出を防ぐ観点からよく行われています。問題は、例外対応をする全員がそうとは限らないことです。 例外対応が前例となり、「自分も」「自分も」と長年の功労者に求められた際に、その場しのぎの判断で制度の運用がうやむやになってしまうのです。このような運用は、組織の健全な新陳代謝を損ない、下の世代からも納得が得られず、モチベーションを下げることにつながりかねません。 【現状2】定年に関する法改正に伴い、「役職定年廃止」の動きも 2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」によって、65歳までの雇用確保が企業の義務となりました。さらに、65歳から70歳までの高齢者の就業機会を確保するための措置をとることが、企業の努力義務として新たに定められました。これにより、2025年からは、シニア層の雇用義務がさらに強化されます。 このような状況の中で、企業としては「役職定年制度」を導入・継続するか、それとも廃止するかで、揺れ動く時期が続くと予想されます。将来的に70歳定年が見据えられる中で、シニア層のスキルを活かせる社会への変革が求められているのです。 人事担当者の立場からすると、法律の改正に伴って、役職定年制度の扱いは悩ましい問題かもしれません。しかし、高齢者の雇用をしっかりと確保しながら、シニア層の力を活かせる体制を整えていくことが重要だと言えるでしょう。 下記コラムでは、役職定年制度に関する「年齢」について詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説』