©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

MENU

©️ Transtructure Co.,Ltd.All Rights Reserved.

適正人員・人件費算定

column
役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説 | 雇用施策・その他

役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説

役職定年制度とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 役職定年が広まった背景は「退職年齢の高齢化」 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 たとえば、55歳で部長職の役職定年を迎え、その後60歳の定年退職までは「これまでの役職から外れて勤務する」という運用が一般的です。役職定年後の配置は人によって異なり、同じ職場に残って職務が変わるケースや、所属異動になるケースなどがあります。役職定年後の職務は、専任職、専門職、一般職などさまざまです。 役職定年制度は、組織の新陳代謝や人件費の管理、後進の育成などの「経営上の課題を解決する目的」として導入される反面、役職定年を迎えた社員の「モチベーション維持」や「キャリア形成への配慮」も重要な課題です。 「定年退職」と「役職定年」の違いは? ここからは「定年退職」と「役職定年」の違いについて詳しく解説していきます。 定年退職は「会社から退かせる制度」 定年退職とは、会社が決めた一定の年齢に達した従業員が、自動的に退職する制度のことです。つまり、会社が事前に決めた年齢になった従業員は、その時点で会社との雇用契約が終了し、退職することになります。定年退職制度は、法律で決まっているわけではなく、会社が自由に選択できる制度です。ほとんどの会社が定年制を導入しているので、多くの従業員がこの制度の対象となります。 日本では、法律に基づいて、会社は従業員の定年年齢を60歳以上に設定しなければいけません。そのため、多くの会社では60歳を定年としていますが、中には65歳以上の定年を設定している会社もあります。最近は、少子高齢化で労働力人口が減ってきていることを背景に、定年年齢を引き上げたり、定年後も雇用を継続したりする動きが進んでいます。法律の改正により、65歳までの雇用機会の確保が会社の義務とされ、70歳までの就業機会の確保が会社の努力目標とされました。 定年退職は、長年働いてきた従業員にとって大きな節目であり、会社にとっても大切な人材を手放すことを意味します。定年を延長することは、今の高齢の従業員に雇用を保証し、「引き続き活躍してほしい」という意思の表れになります。 一方若手従業員から見ると「ポストが空かない」状況が続くことを意味しますので、スムーズな世代交代を促すことが重要です。定年を60歳にとどめる会社は、長期雇用を望む従業員の流出防止や、定年後の高齢者雇用政策の方向性を踏まえながら、定年退職制度を適切に運用し、従業員個人に対してはキャリアや生活設計、活躍支援に配慮すること、若手世代も含めた組織全体に対しては組織の活性化を図ることが大切だと言えます。 参照元:『令和4年就労条件総合調査 結果の概況|厚生労働省』 役職定年は「役職から退かせる制度」 先にも解説しましたが、役職定年とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。 独立行政法人 高齢・障害求職者雇用支援機構の平成24年の調査時点では、役職定年制度および役職就任規制を導入している企業は28%、見当も導入もしていない企業は61%でした。その後、導入企業は増加し、大手企業を中心に多くの企業で導入された一方、富士通やNECのように役職定年を廃止した企業事例が報道されています。企業によって廃止に至る背景はさまざまですが、「年齢に関係なく、その人の能力と成果で処遇を決する」という考え方が広く受け入れられるようになると、年齢だけを理由に処遇を大きく下げる役職定年制度を合理的に説明することは難しいと言えるでしょう。 シニア層の雇用義務がさらに強化される状況の中で、企業としては「役職定年制度」を導入・継続するか、それとも廃止するかは悩ましい問題です。 昨今の「役職定年制度」に対する現状 【現状1】「役職定年制度」があるものの、延長するケース 役職定年制度の運用状況は、企業によってさまざまです。例外をほとんど認めずに運用している企業は、延長手続きのルールを厳格に定めている一方で、優秀な人は延長されることがあるとしている企業では、例外が多くなる傾向にあるようです。中には、もともとそこまで厳格に運用するつもりがなかったり、課長クラスの役職定年の運用を各部門に任せていたりする企業もあるようです。 つまり、役職定年制度はあるものの、実際には延長するケースが多いというのが実態のようです。企業によって事情は異なるため一概には言えませんが、制度と運用の間にギャップがあるのは確かです。「余人をもって代えがたい」人材に同じ役職条件で残っていただくことは、事業の安定継続の観点や競合への流出を防ぐ観点からよく行われています。問題は、例外対応をする全員がそうとは限らないことです。 例外対応が前例となり、「自分も」「自分も」と長年の功労者に求められた際に、その場しのぎの判断で制度の運用がうやむやになってしまうのです。このような運用は、組織の健全な新陳代謝を損ない、下の世代からも納得が得られず、モチベーションを下げることにつながりかねません。 【現状2】定年に関する法改正に伴い、「役職定年廃止」の動きも 2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」によって、65歳までの雇用確保が企業の義務となりました。さらに、65歳から70歳までの高齢者の就業機会を確保するための措置をとることが、企業の努力義務として新たに定められました。これにより、2025年からは、シニア層の雇用義務がさらに強化されます。 このような状況の中で、企業としては「役職定年制度」を導入・継続するか、それとも廃止するかで、揺れ動く時期が続くと予想されます。将来的に70歳定年が見据えられる中で、シニア層のスキルを活かせる社会への変革が求められているのです。 人事担当者の立場からすると、法律の改正に伴って、役職定年制度の扱いは悩ましい問題かもしれません。しかし、高齢者の雇用をしっかりと確保しながら、シニア層の力を活かせる体制を整えていくことが重要だと言えるでしょう。 下記コラムでは、役職定年制度に関する「年齢」について詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説』

【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説 | 雇用施策・その他

【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説

そもそも役職定年とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 役職定年制度の定義・背景については、下記コラムでより詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説』 役職定年の年齢幅は「55〜60歳」と幅広い 役職定年制の年齢は、法律で一律に定められているわけではなく、会社ごとに設定されています。一般的には、50代後半から60歳までの間に定められていることが多いようです。人事院が実施した調査によると、役職定年制を導入している企業のうち、部長級の役職定年年齢を55歳から60歳までに設定しているのは96.1%、課長級では91.6%に上りました。 参考記事:『平成29年民間企業の労務条件制度等調査|人事院』 役職定年(年齢)で最も多いのは「55歳」という結果に 最も多くの企業が定めている役職定年年齢は55歳で、部長クラスは41.0%、課長クラスは46.8%という結果でした。役職定年年齢は、企業の規模や役職によって傾向が異なることも明らかになっています。企業の規模が大きくなるほど、役職定年年齢も高くなる傾向があります。また、部長クラスよりも課長クラスの方が、役職定年年齢が低く設定されているケースが多いようです。つまり、中小・中堅企業で課長クラスのポストの方が、役職定年が早めに設定されている可能性が高いと言えます。 "退職時期の引き上げ"に伴い、役職定年の設定も引き上げ傾向に さらに、定年退職の年齢によっても役職定年年齢が影響を受けることがあります。定年退職が61歳以上の企業では、それに合わせて役職定年年齢が60歳に設定されているケースが多く見られるようです。近年、定年退職の年齢が引き上げられている状況を受けて、役職定年の年齢も引き上げる企業が増えています。 役職定年年齢は、従業員の長期的なキャリアプランやライフプランを考える上で重要なポイントとなります。企業が役職定年年齢を設定する際は、従業員のやる気やキャリア形成への影響を考慮しながら、適切な年齢を選ぶことが求められます。同時に、高齢者の雇用機会の確保や、組織の新陳代謝といった観点からも、バランスの取れた制度設計が重要となるでしょう。 経営・人事の立場からすると、役職定年制度の年齢設定においては、事業環境の変化や事業に求められる人材要件の変化を踏まえて、どのような人材にどれだけ投資するかといった人事戦略・人材投資の観点も重要です。このような会社の実情に合わせて、適切な役職定年年齢を設定し、従業員のキャリア形成と組織の持続的な発展のバランスを取ることが求められます。 「役職定年」と「定年退職」の年齢の違いとは? 役職定年制と定年退職制は、どちらも企業が自由に年齢を設定できる制度ですが、定年退職制の場合は法律に基づいて最低年齢を決めなければなりません。 定年退職の年齢は、高年齢者雇用安定法という法律により、60歳以上に設定することが義務付けられています。60歳よりも前に定年を設定することは法律違反で、無効となります。さらに、2013年の法律の改正により、2025年4月以降は65歳までの雇用機会を確保するための措置を取ることが企業の義務となりました。具体的には、65歳までの定年の引き上げ、定年制の廃止、または65歳まで働き続けられる制度の導入のいずれかを選択する必要があります。 加えて、2021年の法律の改正では、70歳までの就業機会を確保するための措置を取る努力義務が企業に課されました。70歳までの定年の引き上げ、定年制の廃止、70歳まで働き続けられる制度の導入、70歳まで継続的に業務委託契約を結ぶ制度の導入、または70歳まで継続的に社会貢献活動に従事できる制度の導入のいずれかを実施することが求められています。 【結論】どちらも「シニア層を活用したいか?」で決定すべき 本コラムで解説したように、「役職定年」や「定年年齢設定」というのは、どちらも企業が自由に設定できるものです。 そもそも定年年齢設定(定年延長を行うか否か)は、会社としてシニア層を活用していきたいか?という経営方針をもとに、”企業ごと”に決定していくべきものです。業種職種によっては、一定以上の年齢になると体力的・技術的な理由から活躍が難しくなることがあります。そのような場合は、シニア層を長く会社に慰留するよりも適切なキャリア転換、社外へのマッチングを支援したほうがシニア社員のためにもなります。経営・人事はまず「わが社はシニア層を活用したいか、別の道を探すか」の方針決定から逃げないことが重要です。 役職定年の設定に関しては、当然、役職定年の対象となった人材は仕事へのモチベーションの低下が避けられません。正論を申し上げれば、役職定年制の導入よりも、役割や成果に見合った処遇を実現するための施策に、経営・人事のリソースを割くべきです。人事制度でいえば複線型(専門職)の導入、運用でいえば評価制度を適切に運用し、処遇に適切に反映していくことが、適材適所と人材育成という、人事の本来の役割につながるからです。 しかしながら、実際にはそれらをすぐに実現することが難しい状況があることも承知しています。当社ではこれまで人事のパートナーとして、「役職定年の導入」をはじめシニア活用に向けた経営方針・人事制度設計の課題解決支援を行ってまいりました。 役職定年の導入を検討している 役職定年制度を続けるべきか?について課題感を感じている 上記のような経営課題でお悩みの企業の方は、ぜひ一度ご相談ください。

【収入3割減も】役職定年と「給料の減少額」について|減給による”労働意欲の変化”も詳しく解説 | 雇用施策・その他

【収入3割減も】役職定年と「給料の減少額」について|減給による”労働意欲の変化”も詳しく解説

そもそも役職定年とは? 役職定年制度(やくてい)とは、管理職などの役職に就いている社員が一定の年齢に達したときに、その役職から外れる人事制度のことを指します。つまり、役職定年は「管理職の定年」と言い換えることもできます。 近年、役職定年制度のニーズが増えている背景には、”定年退職年齢の引き上げ”があります。定年退職年齢が上がることで、管理職の年齢も徐々に上がり、人件費の高騰やパフォーマンスの低下が懸念されるようになりました。そこで企業は、管理職の定年である役職定年を設けるようになったのです。 役職定年制度の定義・背景については、下記コラムでより詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『役職定年制度(やくてい)とは?定年退職との違いや”制度の現状”を解説』 役職定年によって給料が下がる理由 役職定年によって給料が下がる主な理由は「役職の降格や肩書きがなくなること」によるものです。多くの企業では、役職定年を迎えた従業員は、これまでの役職・管理職から外れた業務をこなすことが一般的です。 当然これまでの役職(役職に対する報酬)がなくなるわけですから、それに応じて給料も下がってしまうというわけです。 役職定年による経済損失は「1.5兆円」という試算も 定年後研究所とニッセイ基礎研究所は、役職定年による50代社員の意欲低下などで発生する経済損失は約1兆5000億円にのぼると試算しています。中には仕事に対するモチベーション・意欲の他にも「50を過ぎて若手と一緒の学び直しが苦痛」といった悩みもあるようです。 参考記事:『NECさらば役職定年 50代後半「消化試合」にしない』日経転職版2022年11月18日 具体的な減給額はどれくらい? 役職定年による具体的な減給額は、企業や個人の状況によって異なりますが、多くの場合で「年収の2割程度の減少」が見られます。具体的な企業事例でいえば、NTTグループやソフトバンクなどの企業では、役職定年制度によって「最大30%程度」の減少となったケースもあります。民間企業での役職定年後の年収水準については、厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」を基に試算すると、課長クラスの場合、役職定年前の48万6900円から75%の減少として計算すると、役職定年後は36万5175円になります。 一方、公務員の場合は、管理職についていた時点から段階的に基本給が下がっていき、最終的に管理職時の70%まで下がります。例えば、課長クラスで51万円だった場合、役職を降りた翌日には41万円、60歳に達した日後の最初の4月1日には35万7100円(調整額を含む)となります。 減給の対象となる項目は、基本給、ボーナス、管理職手当などが該当します。特に管理職手当をなくす企業は全体の37.7%に上っており、役職手当で一定の年収を維持していた方は、年収が大きく減少する可能性があります。 役職定年による減給は避けられない現実ですが、一部の企業では給与を維持する取り組みもなされています。しかし、その割合は1割以下に過ぎず、多くの場合で減給を見据えておく必要があるでしょう。老後の生活プランを立てる上でも、役職定年後の年収減少を考慮に入れ、適切な準備を進めることが大切です。​​ 経営・人事の立場からすると、役職定年による減給は、人件費管理上の意味合いは大きいですが、従業員のモチベーション維持と生活設計への配慮もまた、重要だと言えます。一部の企業では、給与維持の取り組みもなされていますが、多くの場合で減給となることから、減給を見据えた対応が求められています。役職定年を迎える従業員に対しては、早めに制度の説明を行い、老後の生活プランについてのアドバイスを提供することも大切なのです。 参考記事:『50代で年収3割減も!シニア「役職定年」の残酷な現実、主要企業の実額を初公開』ダイヤモンド・オンライン2022年8月2日 役職定年による減給で社員のモチベーションはどう変わる? 役職定年による減給は、社員のやる気に大きな影響を与えることが明らかになっています。 「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の調査によると、役職定年を経験した労働者の6割が、役職を降りた後に仕事や会社に尽くそうとする意欲が低下したと回答しています。また、ダイヤ高齢社会研究財団による「50代・60代の働き方に関する調査報告書(2018年7月)」でも、役職定年後に収入が減った労働者の6割がモチベーションの低下を経験したと報告されています。 モチベーション低下の主な要因としては、役職手当がなくなることや基本給の減額に伴う年収の大幅な減少が挙げられます。同じ仕事内容なのに給与が下がることへの不満や、生活の安定性への不安から、意欲が低下してしまう社員も少なくありません。 また、役職定年は事実上の降格と受け取られがちで、これまで積み上げてきたキャリアや評価が一度にリセットされてしまうような印象を与えます。肩書きを失うことによる自信の喪失や、会社からの期待感の低下も、モチベーションの低下につながる要因と言えるでしょう。 さらに、役職定年後の自身のキャリアについて前向きになれない様子も浮かび上がっています。新たな仕事や難しい仕事に挑戦する自信を失う傾向があり、これまでの経験や能力を十分に発揮できないと感じる社員もいます。 役職定年制度を導入する際は、これらのモチベーション低下の要因を理解し、適切な対策を取ることが重要です。役職を降りた後も、社員のやる気を引き出すような仕事の提供や、キャリア形成支援などの取り組みが求められるでしょう。また、役職定年による減給の影響を最小限に抑えるための工夫も欠かせません。 社員のモチベーションを維持し、長期的な活躍を促すための制度設計が望まれます。 参考記事:『「50代・60代の働き方に関する調査報告書」公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団2018年7月』 下記コラムでは、役職定年の対象となる「年齢層」について詳しく解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。 関連コラム:『【年齢層の平均は?】役職定年は何歳から対象?最新の傾向を踏まえて解説』

「大学3年の4月から採用活動をしたい」 大企業やメガベンチャー企業の人事部管理職の本音 | 適正人員・人件費算定

「大学3年の4月から採用活動をしたい」 大企業やメガベンチャー企業の人事部管理職の本音

※今回のコラムは、フリーランスのジャーナリスト吉田典史氏の執筆です。内容は個人によるもので、当社を代表するものではありません。 ============================================  最近、人事労務の雑誌で新卒(主に大卒)採用をテーマに大企業やメガベンチャー企業の人事部管理職10人程に取材した。これら8社は売上や経常利益、正社員数で金融、IT、メーカー、商社など各業界で最上位の3社以内に入る。銀行や信用調査機関からの評価は全業界で最も高いグループに位置する。  それだけに、新卒採用での母集団形成は大成功している。ここ10年、総合職の年平均のプレエントリー者数は10~12万人、本エントリーは1~2万人という。この中からセレクトに次ぐセレクトで、約30~40人を選ぶ。1万人とすると、倍率は300倍を超える。  定着率も概して高いようだ。30歳前で退職するのは毎年、同期生全体の3割以下という。年によっては2割以下になるとも聞いた。レベルの高い人材が多数ひしめく、「密度の濃い競争の空間」になっているのだろう。  人事部の管理職たちは、人材を育成するのは次の仕組みが必要だと強調していた。 1、大量のエントリー者の中から自社にとってメリットの大きい人を厳選 2、定着率を高め、密度の濃い競争の空間を作る 3、互いに刺激し合い、競争の空間を作る  ここで筆者が読者に投げかけたいのは、新卒採用における「通年採用」だ。通常、この場合の通年とは就職協定を守るならば大学4年の4月からスタートし、1年後の3月までに繰り返し、試験を行うことを意味する。  今回取材した人事部管理職たちは、この意味での通年採用に関心がないようだった。1年かけて採用活動をしなくとも、4~5月に数万人の学生が押し寄せ、狙い通りの人材を獲得できているのだ。その後、夏や秋、冬に採用する理由がないのだろう。人事部管理職たちは、自社の新卒採用試験の自己採点を「80~90点」と話していた。  欲しているのは、現在よりも採用活動スタートの時期を1年程前にすることだった。大学3年の4~8月には内定を出したいのだという。この時期に、日本に進出する外資系企業(特に金融やコンサルティング業界)が、優秀な学生を獲得する傾向が年々顕著になっているからだ。  ただし、大学2年にまで前倒ししようとはしていないようだった。その大きな理由には、内定を取り消し、裁判などに訴えられると企業側が不利になるケースが多いことを挙げていた。また、現時点で4年4月からスタートしており、2年にまで前倒すことが想像できないとも話していた。  取材した8社のうち3社は大学3年の8~12月には特定のウェブサイトを使い、そこで学生と接点を持つことがあるという。学生から質問を受けると、サイトの掲示板で人事部員が答える。やりとりを繰り返す中、親睦を深め、双方の合意でじかに会う機会を設けるようだ。  人事部員が会うと、就職協定順守の姿勢を打ち出している以上、問題になりうるとして学生の在籍大学のOB・OGが1対1で会うようだ。人事部員から渡された評価シートに、OB・OGは学生の印象などを書き込む。人事部員数人でそれを確認し、その後、さらに違うOB・OGが会うケースもあるらしい。そこで、4年の4月以降の本試験を受けるように誘う場合があるという。ここまでくると、筆者には採用活動にしか見えないのだが、人事部管理職らは「あくまで社会貢献活動」と説明する。  今なお、「一括採用」「通年採用」の議論をしているメディアや識者がいるが、少なくとも今回取材した大企業やメガベンチャー企業の人事部管理職はそれとは違うことを考えている。「大学3年の4月から採用活動をしようとしても、それができない。いざ、採用活動を始める4年の4月に、欲しい学生が他社に内定となり、私たちの前にいないようにならないか。それが、怖い」。こんなことを語っていた。そこに強い不満と疑問、焦りを感じているようだった。  新卒採用のあり方をあらためて見つめ直し、大胆に変えるべきと痛感した。急がないと、取り返しのつかないことになりかねない。もう、遅いくらいではないか。