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column

マイクロ・ラーニングと経営職・管理職の育成

「業務密着型学習」が増えている。 人材育成体系の構築と運用に取り組む人々にとって、「仕事をしている最中に、必要な情報にアクセスして、学んだものをその場ですぐに用いるという『業務の中で学ぶ』スタイルについて検討すること」は、避けられなくなってきている。

今のところ、業務密着型学習を進めるに際して中心的な役割を担うもののひとつは、マイクロ・ラーニングと呼ばれる、数分程度(モバイル端末では、多くのものが1~3分程度)で視聴できる、データ・サイズの小さな知識や情報を活用した教育・学習方法である。

忘却曲線を意識して、繰り返し学習による「知識の定着」を狙う使い方や、「働き方改革の推進」と相まって「集合研修時間の低減に役立ちそうだ」などとして、注目度が高まっているのが実情だ。

確かに、マイクロ・ラーニングをうまく活用できれば、業務の中で学ぶことが可能になるため、人材育成体系の構築や運用にどのように織り込めばよいのか検討することが、組織能力の向上を図るうえで、重要性を増してきていると思う。

ただし、「万能薬であるかのように、何でもかんでもマイクロ・ラーニングにすればよい」と飛びつくのは、間違いだ!ということを指摘しておきたい。

ここでは、「ハード・スキル」(認知能力)と「ソフト・スキル」(非認知能力※)という切り口を取り上げてみよう。

マイクロ・ラーニングは、「注意を集中させて、情報を処理して、記憶すべき事柄を何度も唱えたり、思い出したり、視覚的に思い浮かべたり…」などといった、「認知能力」の発揮(作業記憶や前頭葉前部皮質などの活動)と相性が良い。認知能力とは、IQで測られるような、理解・判断・論理などの知的機能のことである。

特に、技術的な技能、例えば「新しいソフトウェアの使い方を学ぶ」ようなハード・スキル(形式化された知識を使いこなす技能)を身につける場合には、マイクロ・ラーニングの効果が期待できる。

他方、例えば「自分で何でも処理してしまうのではなく、他者を通して組織業績をあげることのできる管理職や経営職を育成する」には、対象者の(社会情動的スキル、あるいは、非認知能力と呼ばれることもある)ソフト・スキルの向上を狙った、組織をあげての体系的な取り組みが大切である。

管理職や経営職のソフト・スキルを高めるには、「他者の気持ちを感じ取ったり自分の氣持ちを表現したりしながら、建設的な関係を確立して維持する」「責任ある意思決定を行う」などといった「ソフト・スキルを発揮する体験」を実際に積まなければならない。

すなわち、ソフト・スキルを高めるには、「誤りを訂正しながら、状況や関係性に応じた行動を徐々に身につける」などといった「漸進的な学習」(大脳基底核も巻き込んだ活動)が求められるのだ。

このように、「認知」的な能力を発揮することで短期間のうちに身につけやすい「ハード・スキル」と、種々の体験を通して、状況や関係性に応じた「行動」を身につけていく「ソフト・スキル」では、そもそも、学び方や所要時間が生物学的な見地からも異なる。

また、何かを習得する際に同じことを過剰に繰り返して練習すると、状況とセットで記憶してしまい、「状況が変わると思い出せない、応用できない」といった弊害(文脈干渉効果)が生じるという観点からも、「ソフト・スキルの習得にはランダムな順序で様々な練習を行うことが望ましい」ということに配慮したい。(個人的には、没入感のある仮想現実/拡張現実/複合現実シミュレーションを活用して、身体で真似て習得する方法にも興味を覚えている。)

マイクロ・ラーニングに飛びつきたい気持ちはわかるが、自社に適した活用の仕方や、経営職・管理職の育成方法について、改めて検討していただきたいと思う。

※「非認知能力は、先天的知能とはほとんど相関がみられない」と言われている。例:”A Meta-Analysis of the Convergent Validity of Self-Control Measures”, Angela Lee Duckworth and Margaret L. Kern, Journal of Research in Personality, 2011 Jun 1; 45(3): 259–268.
以上

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