組織をどのように滅ぼすか
衆議院の解散・総選挙が近付いてきた。私もまた、有権者の一人として、誰に投票するか考えることになるだろう。もちろん、どのような判断軸で、誰に投票するかは、有権者の自由だが、限られた選択肢の中で誰を選ぶか、悩ましい場合もあるだろう。ときには「誰に投票すべきでないのか」という消去法になってしまうこともあるだろう。それでも、棄権するよりは遥かにましなのではなかろうか。このように「誰に投票すべきでないのか」を考えるときに、思い出す書がある。ご存じの方もいるだろうが、それは「六韜(りくとう)」という名前の書である。
「六韜」とは「孫子」「呉子」などと並ぶ武経七書に数えられる兵法書である。日本でも飛鳥時代から今日に至るまで、一部の人々に愛読され続けてきた。古代中国周王朝の武王・文王が、軍師太公望呂尚と、政治、外交、軍事などについて対話を交わすスタイルであり、組織論として非常に示唆に富む内容が多く含まれている。
「六韜」の内容は多岐にわたるが、私がよく思い出すのは、「武力を行使しないで敵を征服するにはどうしたらよいであろうか」という文王の質問に、太公望が「おおよそ十二の方法があります」と答える場面である。その十二の方法とは、意訳すると以下のようなものだ。
1)望むままに、その意志に順応して争わない(味方のふりをする)
2)近臣に近づいて親しみ、近臣の権力を君主と二分させる(派閥を作らせる)
3)近臣に賄賂を贈り、その近臣の情を買収する(内通する)
4)君主の淫乱な楽しみを助長させ、その情欲を募らせる(正常な判断ができなくする)
5)相手の忠臣を厚遇し、持たせる贈り物は少なくする(忠臣への疑いを抱かせる)
6)一部の臣下を懐柔し、外と離間させる(内輪揉めを誘導する)
7)本業を軽視させるようにする(大事なことに集中させない)
8)近臣に自国の利益となることをちらつかせる(大義名分を与える)
9)君主を虚栄・虚名で褒め上げる(さかんに持ち上げる)
10)君主に対し、卑下し謙遜して信用を得る(一蓮托生を装う)
11)臣下に厚遇を約束して手なずける(謀反の準備をする)
12)相手を増長させ油断を誘い討つ(タイミングを見て実行させ実権を奪う)
この十二の方法の中には、若干内容が似ているものもあるが、言わんとすることは、敵でありながら友好を装い、上の者を盛んに持ち上げて油断させて判断力を失わせ、徐々に相手の中に内通者を増やすとともに、疑心暗鬼にさせて対立を煽り力を分断し、有能な者が失脚し無能な者が重用されるようにして、大義名分を与えてやがては謀反を誘導する、ということである。現職の国会議員の中にも、「よそから手なずけられた臣下」のような者がいないだろうか、どうだろうか。彼らに投票することは、ゆくゆくは国を滅ぼすことになるだろう。
そしてさらに問題なのは、この手の連中は、しばしば会社のような組織の中にも多く存在するということだ。すなわち、会社のためといいながら自分の利益しか考えておらず、己の立身出世を重視するあまりやたらと派閥で固まっては相手方を追い落とそうとし、上にばかり媚びへつらい良い待遇にありつこうとし、また媚びへつらう者を殊更に重用して引き立て、いざとなれば正当化しながら平気で組織への裏切りを行う者——。彼らは、外部から操られているわけではないだろうし、また意図的ではない場合もあるだろう。しかし組織を内側から壊すという点では結果は一緒だ。組織を守ること、それはまずもって組織の一員を装って組織を内側から突き崩す破壊者を退けることだ。
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