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column

VUCAの中で

 新型コロナウィルス感染の第五波は一気に収束した。この事実は、喜ばしいニュースだが、感染者が急速に減少した理由として、専門家は、1)市民の感染対策強化、2)人流、特に夜間の滞留人口減少、3)ワクチン接種率の向上、4)医療機関・高齢者施設での感染者の減少、5)気象の要因という5つ要素を挙げているが、今までの感染者数の波の形や大きさを考えると、挙げられた要因が収束の原因だと素直に納得できる人はあまりいないのではないか。今後、第六波がやってきた際にも、感染者数が増加した要因の説明があるだろうが、結局、本当のところは、専門家でさえも、よくわからないというのが、正直なところだろう。

 10年ぐらい前から、社会経済界でもVUCAの時代と言われるようになった。Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の4つの頭文字を並べた造語で、変化が激しく、先行きが不透明な状況が同時進行しているという事だ。

 その背景には、技術革新のスピードが速まった事や社会のグローバル化やインターネットの普及で、世界中の各地域の様々な事象がリアルタイムで影響を与え合う事などがあると言われている。

 今回のコロナ禍もまた、VUCAな状況と言える。複雑に絡み合った要因が感染の拡大に影響を与えていて、なぜコロナ感染者が増減するのか、理由が説明ができない(複雑性)。どのくらい感染者数が増えるとピークに達するのかという変動幅もわからない(変動性)、いつ収束するかもはっきり言えない(不確実性)、どういう対処をすればよいのか正解もわからない(曖昧性)。

 コロナ禍は、現存の人々にとっては誰も経験したことがない事象で、判断の参考にするだけの十分な情報もないので、各国の政府は、それぞれ、国の環境や事情を鑑みて、ロックダウンなどの行動制限等、それぞれよかれと思う判断をしている。コロナ感染の収束という目的は同じでも、世界各国の対応方法も当然ながら、かなり開きがあった。

 コロナ禍に対する判断と同様、VUCA時代の中で、我々は目の前の課題に、正解を導くだけの十分な情報がない中で、意思決定をしていかなければならない。もちろん、可能な限りの客観情報を集めることは重要だが、大切なことは、自ら、現在の状況を解釈し、仮説を組み立て、自分なりによかれ、という判断をすることだ。

 いまや、この時代に、100発100中、正解を目指すことは無理だと割り切ったほうがよい。むしろ、不十分な状況の中でも、ぎりぎりまで、自らの頭で考え、判断し、間違っていたら、速やかに軌道修正する迅速さのほうが重要になってくる。

 コロナ禍は、こうした能力を備えた人材の採用や育成が、いかに企業人事の優先課題であるかを、認識させられる機会でもあった。

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