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人材開発

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あきらめる傾聴 | 人材開発

あきらめる傾聴

 会社の運営のカギを握る管理職層、配下の社員たちとの良いコミュニケーションに欠かせないのが「傾聴」のスキルだと言われる。傾聴とは、単に情報を受け取るという意味で「聞く」のではなく、相手に肯定的関心を寄せ、内容の真意をはっきりさせながら、相手が伝えたいことをちゃんと理解することだ、と先生は教える。  英語では「I’m all ears(体じゅう耳)」と言うのだそうだ。先生が言うには、このスキルを使えば部下とのコミュニケーションはとても効果的なものとなり、意思疎通はより深くなり、仕事は円滑に進み、厚い信頼関係が育まれる。傾聴がうまく行われれば、話し手にも良いことがある。自分の言っていることを上手く整理できるのだそうだ。 しかし、効果的な傾聴には、それなりのテクニックが必要だ、と先生は言う。正しい傾聴を行うには、相手の言うことをいちいち解釈せず、心を空(カラ)にしてそのまま飲み込むことが必須。だから、しっかりとアイコンタクトを取り、よく頷き、時には相手の言ったことをオウム返しにし、間を見計らって、「君の言いたいことはこういうことだね」と要約してみせる。そのうちに部下のほうでは「私の言うことをよく聞いてくれる」という気分になり、より心を開いて本当のことを打ち明けてくれる。  米国のある有名企業でも、マネジメント研修の中に「傾聴訓練」というプログラムがあって、その始めのパートでは、部下のコメントをただオウム返しにする練習をするらしい。「課長、今日はちょっと体調が悪いのです…」という部下に、「それはいかんなあ、病院に行って診てもらいなさい」と答えるのは間違い。正しい反応は「そうか、体調が悪いのか…」とそのまま返すことだと先生は言う。  そうは言っても…と思う。仕事場で交わされるコミュニケーションはそんな悠長なものではない。がんばって傾聴しよう、とは思うけれど、やたらに話が長くて何がポイントだかわからない部下もいれば、こちらが尋ねることにストレートに応えない部下もいる。ある程度の落としどころを示して相手の意見を聞くと、妙に否定したり、批判したりしてくる者もいる。…腹が立つ。  仕事の締め切りが迫っていたり、いくつも電話がかかってきたり、落ち着いて話のできる状況ではない場合もある。まして、多様性が大事だと叫ばれる世の中だ。言語や文化が違っていて、何を言っているのだか、皆目わからない相手もいる。…困惑する。  そんな現実を考えると、「話はわかるけれど、傾聴など絵空事ではないか」と思う。しかし、良いコミュニケーションが必要なのは間違いない。うまくいかないたびに腹を立てたりイライラしたりして、結局こちらの言いたいことを押し付けるような会話になってしまったら、信頼関係を損ねることはあっても、厚くすることはできない。例の「心理的安全性」というのを築くことも覚束ない。  では、どうすればよいのか。おそらく、傾聴の障害はどうせ現れる、ということを、予めよく承知したうえで、コミュニケーションに当たることが大切なのだろう。話が長くて何を言っているかわからない部下がいたら、「…そうくるよね」と、日本語がカタコトで何を言っているかわからない部下がいたら、「…そりゃそうだよね」と、思う。思えば、腹が立つことはない。時間が無ければ、またの機会に話せばよい。  なんだか、傾聴などどうせうまくいかないさ、と諦めているように聞こえる。だが、調べてみると、諦める、という言葉の語源は「明らかに観る」ということだそうだ。コミュニケーションの相手の性質を客観的に観察して明らかにしながら話し合うことで、少なくとも腹を立てたりイライラしたりすることを防ぐことができる。傾聴という素晴らしいコミュニケーションスキルの出発点は、この辺りかも知れない。

上司は振り返る力・観察する力を高めたい | 人材アセスメント

上司は振り返る力・観察する力を高めたい

 ある日のこと、上司A氏は人事からメールされてきた部下の人材アセスメントのレポートに目を通していた。ある部下のレポートにはこう記してあった。 「基本的な志向は周囲と業務に関する情報を共有し、協働的に目の前の仕事をすすめることと考えられる。・・・」 このコメントを読んだときにA氏は違和感を覚えた。それは、彼は「情報共有?情報は自分の業績UPのために使っているような・・」「誰かと協働?結構暴走するけど・・」「あれっ?」という明らかな違和感であった。  実はこれ、私が過去の報告会など見受けた出席者のリアクションであるが、このような違和感を覚えたかたも少なからずいらっしゃるのではないだろうか。 人材アセスメントのレポートの内容と皆さんの実感との間に齟齬がある主な原因は、下記の3つがあるように思える。   ・外部評価上の課題   ・その企業独自の専門性の有無   ・業績評価と行動評価の混同  1つ目は、外部から評価できることには限りがあるということである。アセスメントでは姿勢、対人、思考、業務遂行の4つの能力について評価するが、アセスメントで行われる職務シミュレーションでは、どうしても意思決定のプロセスなどの思考面の観察が中心になる。とくに対人面においては観察できる範囲があるため、そういった点では、部下の日常に関する情報は上司のほうが多くもっているはずである。そのため、アセスメントのような外部評価との齟齬が生まれるのかもしれない。  2つ目は、部下のもつ企業独自の専門性の高低が部下に対する評価に無意識に入りこむことである。専門性を評価することは必要なことだが、アセスメントでは個人のもつ専門性は一切考慮されないため、専門性の評価を切離した外部からの評価は、自身の日常的な実感との違和感を覚えるのかもしれない。  3つ目は、よくあることだが、売上や利益の予算を達成できるから、マネジメント能力もあるという誤解である。売上、利益予算の達成度に対する評価はあくまで業績評価であり、業績を得るにいたるプロセスは行動評価を行う。そこを切り分けて評価していないと、「業績をあげる人=マネジメント能力が高い人=アセスメントの評価の高い人」という考えをもってしまう。そのため、出てきたアセスメント結果に対して違和感を覚えるのかもしれない。  人材アセスメントは、社内人材で判定し切れないであろう能力を外部の視点で観察、評価し、現状分析や将来への提言をレポートの形で示す。評定・レポートを部下の指導、育成に生かすのは上司である。  だからこそ、上司は、アセスメント結果を読み、自分の部下の日常の行動に、レポートにあるような行動がなかったかを誠実に振り返る。振り返ることができなければ、改めて部下との関わりかたを変えてみて、観察できるようにしてみるのである。 アセスメント結果と部下の日常の行動への認識との距離を縮め、自身の心に抱く違和感を小さくしていくために、部下の成長支援のために、上司の任たる者こそ、振り返る力、観察する力を高めたい。

いいわけ文化がイノベーションを阻害する | モチベーションサーベイ

いいわけ文化がイノベーションを阻害する

 新製品や新サービスが次々に生まれる会社と、何か閉塞感のある会社は何が違うのだろうか。 数多くの企業研修に立ち会わせていただいていて分かったことがある。言い訳が多い会社では新商品は生まれにくい。  「忙しいから」「上が決められないから」「若手が育っていないから」「予算が厳しいから」そんな言葉が飛び交っている会社は要注意だ。  いやいや、成功している会社は時間や予算に余裕があって、素晴らしい経営陣と主体的に動いてくれる若手がいるんでしょう?と思うかもしれない。でもちょっと待ってほしい。そこで思考停止に陥るかどうかが分かれ道だ。  言い訳が多い会社の特徴として、管理職が「部下に失敗をさせないこと」に注力している点が挙げられる。きちんとマネジメントをすべく、きっちり計画を立て、分からないことがあれば親切に教えてあげる。部下に過重労働させるわけにはいかないから自分が誰よりも働く。誰よりも頑張っているからこそ、何か問題が起きたときに上司に叱られるのは理不尽に感じる。「自分はしっかり仕事していたのに」「自分は悪くないのに」と考えてしまう。  上司に「なぜ失敗したんだ?同じ失敗を繰り返すな」と注意をされた部下はもうチャレンジをすることはない。「上司に文句を言われないように仕事をする」スタイルになっていく。 きちんとマネジメントすることが悪いのではない。ただし全てのことを失敗しないように進めようとするのは危険だ。確実に成功するチャレンジなどない。失敗のリスクがあることこそがチャレンジと言えるのだ。  チャレンジを推奨する文化がある会社では、失敗が起きたときに「誰が悪いのか」は焦点にならない。だから言い訳をする必要もない。周りの人は失敗を責めるのではなく、どうにか自分が手助けできないかと考える。失敗を失敗で終わらせない。その失敗から学んだことをどのように活かし、次のチャレンジに繋げるかが重視される。失敗したときに周りが助けてくれた、失敗を乗り越えて成功をつかんだ経験を持つ人は強い。次のチャレンジも迷うことはない。  若手がチャレンジしないことを嘆くよりも、まずは自分から、そして周りの人の行動を変えることから始めるべきだ。

人的資本経営と人事の反省会 | 調査・診断

人的資本経営と人事の反省会

 「人的資本経営」は、ここ数年人事の世界においては最も注目されている言葉の一つである。2020年に出された経済産業省 の 「人材版伊藤 レポート 」 、2022年に政府が「人的資本可視化指針」の中で、人的資本の開示項目を示していることなどの 影響 もあって、近年急速に議論が進み、経営課題として議論されるようになっている。 近年急速に発展した議論ではあるが、長らく人事の世界に身を置いていると、実はそれほど目新しい考え方ではない。人材を資源としてみるのではなく、資本として捉えるという概念整理には新鮮さを感じつつも、経営における人事の機能は今も昔も変わらないし、経営計画を実現するために極めて重要であることも変わらない。昔から我々は多くの企業と経営と人事の連動性や経営計画を実現できる人事管理を目指して議論をしてきたことを考えると、人的資本という言葉に代わったところで目指している姿にそう大きな差を感じていない。(もちろん様々な発展はあるが)また、多くの日本企業は長期雇用を前提とし、「企業は人なり」といって、人材を大切にし、長期的に人材を育成してきた。「投資」という言葉は使わないものの、人を育て、短期・中長期の観点から会社を発展につなげていくことの重要性は経営者であれば皆考えてきていることだろう。「無形資産」とはあえて言わないが、そう考えてきた人も多いはずだ。  だとすると、今も昔も変わらず、目指している人事のありようがあるが、そこに到達していない原因を認識しておく必要があるだろう。  そもそも、人事の世界はあるべき姿が曖昧で議論がしづらいと言われてきた。「人」に対する施策の効果測定は難しい。「人」に関する情報が可視化されていないので、人事について議論しようとしても同じ情報量で話をすることも難しく、議論がかみ合いづらい。故に経営と人事が連動しているかもわかりづらく、どう経営として実のある議論となっているのか自信も持てず、もやもやする。結果として、経営の議論として人事は後回しにされやすいのではないかと思う。また、仮に議論していたとしても経営目標達成のための人事全体としての大局的な議論ではなく、個別性の高い、ないしは個別課題に対する局所的議論であったりして、経営に資する人事という観点では本質的ではなかったりすることもあるのではないか。もっと個別に考えてみたらいろいろ出てくるだろう。人事基盤の設計の問題か運用の問題か。様々な施策の効果が測定できないからか。それとも人事機能の経営上の重要性を軽視していた、というスタンスの問題か。振り返っていただきたい。多くの企業が経営目標達成には、「変革人材が必要だ」「自律型人材は必要だ」といって人事基盤を整備して10年以上たつが、なぜ企業に変革がおきなかったのか。。  つまりは、「人的資本」という新しい概念が立ち上がったところで、議論の本質は変わらないし、また人事の領域の議論の難しさも変らない。よって、人的資本の観点で一生懸命議論しても、これからも目指している人事のありように到達しないかもしれない、ということだ。昔から人事が重要な機能であるということをわかりながらも、うまく経営と連動させることができなかったということに対して、まずはしっかり向き合う、ということが必要なのではないだろうか。  経営として人事について活発に議論されるようになったのは、人事としては好機である。伊藤レポートが「人事・人材変革を起こすのに、資本市場の力を借りようと試みた。」ということは確実に効果があったのではないかと思う。機関投資家や欧米の外圧によって、人事課題が検討せざるをえない経営課題になってきているのだ。今こそ経営としてしっかりと人事の反省会を開き、目指すべき人事のありようの実現の一歩を踏み出していただきたい。

まれに重篤な副作用を起こすことがあります | 人材開発

まれに重篤な副作用を起こすことがあります

 DXとは一体何のことだろうか。日々のニュースや記事の中で、政府の広報文書の中で、または職場の会話の中で、あまりにも数多く使われるこの用語、きちんと定義できる人はどれほどいるだろうか。このような流行り言葉で、政治家や学者がもっともらしく使う一群の言葉を「Buzz Words」と呼ぶのだそうだ。時代のトレンドを示す重要な概念をたった一語で伝えることができる、また、それを通じて、産業界や国民を一つの共通の方向に導くことができる魔法の言葉だ。だが、このような言葉を使うときには、その本当の意味を正しく認識しておくことが不可欠だ。 「DX」を引き合いに出して考えてみよう。DXとは、言わずと知れた「Digital Transformation」の略語だ。ICTを戦略的に活用し、圧倒的に高い付加価値を創造すべく、従来のビジネスモデルを画期的・抜本的に変更することを言う。ならば、DX人材とは何か。DX人材の育成とはどのようなことを言うのか。  DX人材を考えるとき、「D」の側面と「X」の側面の両方を意識する必要がある。「D」の側面は、先進のICTに関する知識と技能だ。これは、しかし、必要条件であって十分条件とは言えない。そこで、「X」の側面を考える。これは、ビジネスモデルを抜本的に変えることのできるセンスや志だ。だから、DX人材を育てるには、ICTの教育に加えて、経営全般に関わる知識、並々ならぬ好奇心、進んでリスクを負う気概などを醸成していく必要がある。人事評価を含む会社の環境を整えることも必要だろう。  翻って、巷で実際に行われているDX教育とは何か。ほとんどの場合、特定のソフトウェアの利用教育や、新しい開発言語の教育といったものに留まる。シニア層にパソコンの起動の仕方を教えてDX教育と称する企業すらある。新聞紙上には、DX人材〇千人を育成、といった見出しが躍るが、会社のビジネスモデルを抜本的に変えようとする人材が〇千人も要るのだろうか。PC教育を〇千人に実施してDX推進企業だというのは、株主を欺くことにならないか。 ご存知のとおり、他にも、あまたのBuzz Wordsがある。DXの尻馬に乗ったような、GX、SXは何を表すのか。DXの「X」とCXの「X」は同じことか。リスキリングという言葉の元々の目的を私たちは知っているだろうか。HRBPとは本来、どんな仕事か。1on1と個人面談はどこが違うのか。人的資本経営というが、その本当の意味は何なのか。社員の働きの価値が低下したら減損会計の対象となるのか。ジョブ型とは何を表す言葉だろうか。雇用の在り方を言っているのか、給料の仕組みを言っているのか・・。  経営者や人事部員は、人事管理に関する世の動静に敏感であるべきだ。そして、DXのようなBuzz Wordsは、このような議論を効率的に進めるための重要かつ効果的な道具ではある。これらの用語を駆使しつつ、周囲の人々を巻き込んで、自社の経営が時流に乗り遅れないようしっかりと行動する必要がある。この意味では、Buzz Wordsは、小さくて飲みやすく、効き目の確かな新薬のようなものに思える。 しかし、Buzz Wordsを安易に大量に服用することはあまりにも危ない。その言葉の正しい定義や、それが生まれた時代背景をよく知らず、自分流に解釈してわかった気分になる。つまり、思考停止の状態に陥るのだ。これはかなり強い副作用だ。会社を間違った方向に誘導しかねない。万が一、「うちもDXをひとつ入れといたほうがいいんじゃないか。」といった表現で社長から指示が下りてきたら、その会社はかなり重篤な状態だと思ったほうがよい。すぐに社長向けDX研修を企画しよう。

あなたの会社にCLOはいるか | 人材開発

あなたの会社にCLOはいるか

 ここでいうCLOとは、Chief Legal Officer(最高法務責任者)でもなければ、Chief Learning Officer (最高人材育成責任者)でもなく、Chief Logistics Officer(最高ロジスティクス責任者)である。と説明せざるを得ないほど、CLOは言葉として知られていないし、その役職のある日本企業はほとんどない。  ロジスティクス(兵站)は、もともと軍事用語。戦争の趨勢は兵站術に左右されることは常識であり、「戦争のプロはロジスティクスを語り、戦争の素人は戦略を語る」とさえ言われる。モノを扱うビジネスにとっても同じ事情(戦争のプロ≒経営のプロ)のはずだが、多くの企業にとってロジスティクス責任者は物流サービスの発注担当者にとどまる。そうした経営意識ゆえCLOの不在が当たり前ではあったが、ここにきて急にCLO設置の「外圧」が高まってきた。  ロジスティクス環境の危機的状況が加速しているからである。来年2024年には、時間外労働時間の上限規制が、ドライバー職にも適応される。もともとロジスティクス業界は、昨今の宅配ニーズの高まりもあって物流量は増大、低賃金長時間労働が常態化し、恒常的な人手不足による将来の物流能力不足が危惧される構造だった。  そこに、時間規制により業務量が減り売上がさがる。人材確保のためには時間外勤務報酬を前提しない賃金レベルアップは必定であり、利益は減少、さらなる物流コスト増や徹底せざるを得ない効率化の取り組みは、ロジスティクス業界のみならず産業界全体のサプライチェーンを揺るがす事態となることはあきらかだ。  かくて、昨年9月より国が主導する「持続可能な物流の実現のための検討会」では、荷主企業に役員クラスの物流管理統括者(≒CLO)の選任を義務づける措置案があがっている。この検討会は、物流業者、発荷主企業、着荷主企業の三者それぞれの物流効率化へ向けての取り組み促進を目指し、その一環としてのCLOの設置は、荷主企業経営者に対する物流生産性向上の意識醸成が狙いとされる。  しかし、単に物流生産性向上のためのCLOでは、「経営のプロはロジスティクスを語る」には物足りない。そもそも、三者関係においては、一方の効率化が他方のコスト増をもたらしかねない。物流というサービスの売買である限りは、「三方よし」の追求は難しい。持続可能な物流のためには、従来の、安くて融通のきく物流サービスを使うという発注姿勢からの転換が必要なのではないか。  たとえば荷主企業は当たり前のように、出荷タイミングにあわせ待機させ、指定の時間に届けることを最優先に要求する。たとえば私たちは気軽にアマゾンで、近所のコンビニ行けば買えるような日用品をひとつ、時間指定の宅配で購入したりする。物が運ばれる/物が届けられることは、産業と生活にとって不可欠な機能であり、物流は経済社会の血脈ともいえる。だとすれば、そうした顧客の身勝手な個別ニーズ以前に、その仕組み維持と効率的使用のための社会共通の使用規則と標準手順があってもいい。  経産省と国交省が旗を振る「フィジカルインターネット」構想は、そのような社会インフラとしてのロジスティクスネットワーク、いわば公共財としてのロジスティクスへの構造転換を予感させる。インターネットとは、①情報を「パケット」に分割しそれが ②都度、さまざまな通信経路を自在に経て届き ③共通プロトコルによって各局面が制御されるしくみ。それにならって、①「コンテナ」や「パレット」といた標準化された荷単位を使い、②最適なルート(空き容量があり時間の合う輸送手段)を経て配送され、③集荷・配達・情報管理の汎用ルールによって荷主とのインターフェイスが制御されるしくみとし、ロジスティクスを社会的装置として組み立てるということだ。  となれば、荷主企業には、インターネットのようにユニバーサルなロジスティクス機能を自在に使えるリテラシーと、それを使いサプライチェーンマネジメントをどう最適化するかという戦略的意思決定が、日々問われるだろう。安く自社の都合に合わせてくれる物流業者をどう調達するかが勝負で、あとは業者任せ、ではなくて、自社のサプライチェーン戦略にあわせて、みずから柔軟に物量機能自体をどう設計し制御するかが問われてくる。さらには、個別業者のキャパシティの制約から解放されて、サプライチェーン戦略自体の自在な策定も可能になるからだ。  兵站術では、戦闘の作戦が「兵站支援限界」によって規制される方策と、戦闘に必要な兵站をなんとか用意する「作戦追随型」の方策があるとされる。国と国の戦争ではもっぱら前者が歴史的に選択されてきたが、近年のテロとの戦闘においては後者にならざるをえないらしい。ビジネスにアナロジーすれば、それはVUCA時代のロジスティクスであり、フィジカルインターネットはそれを可能にする。と考えれば、これは先行き不透明ななかでの柔軟自在なロジスティクス=攻撃的なサプライチェーンマネジメントへの機会かもしれない。  その担い手としてのCLOであれば、魅力的でチャレンジングだ。単なる物流合理化ではない、ロジスティクスの構造転換に今から主体的に与し先行してリテラシーを磨くという意味で、CLOの設置の好機なのである。

パワハラを産む「黒い大三角」を排除するために有効な360度人事評価 | 360度診断

パワハラを産む「黒い大三角」を排除するために有効な360度人事評価

●気づきで是正できるパワハラ言動  真面目な上司がついつい部下指導に力が入ってしまって、パワハラ言動に至ってしまうことはよくあるものです。特に新しくリーダーやマネジャーに昇格した上司にありがちなことかもしれません。部下の能力を底上げしてあげたい、そんな善意が背景にあったとしても、結果として、部下のモチベーションを下げ、チームのエンゲージメントを損なう指導になってしまっていたとしたら逆効果です。力みすぎによるパワハラ言動は、それが最低最悪のマネジメントであるという気づきから、改善される場合も多いでしょう。しかし一方で、気づきによって、是正が期待できない場合もあるのです。 ●黒い大三角 〜 気づきで是正できないパワハラ気質  心理学的に次の三つの要素を兼ね備えたタイプの人間は、人としていかがなものかと思える邪悪な言動を平気で行うことができると考えられています。 ・自己利益ファースト(マキャベリズム) ・異常に高い自己評価 (ナルシシズム) ・罪悪感や感情の欠如(サイコパシー) これは「黒い大三角(ダークトライアド)」と呼ばれるものです。 図表1 邪悪な性格特性:黒い大三角(ダークトライアド) 資料出所:『パワハラ上司を科学する』 津野香奈美 ちくま新書”Dark Triad” Paulhus Delroy L., Williams Kevin M. The dark triad of personality 2002  黒い大三角をもつ社員は得てして優秀で、仕事で結果を残す場合が多く、組織の中で高い評価を得ていることが多いと言われます。特に上司に対しては表の顔しか見せず、いつの間にか成果を独り占めし、踏み台にした同僚や後輩に対して何ら罪悪感を持つことはありません。そんな人間がリーダーになると巧妙に部下を追い込み、成果を独り占めし、何ら恥じることなく堂々と振る舞います。  「追い込まれ、踏み台にされる人たちの痛みを感じろ!」と言ってみても、そもそも、このタイプは人の痛みを感じないのです。「なぜいけないのですか?私は結果を出しています」と静かに微笑むことでしょう。たとえ一時的に成果が上がっても、メンバーの身体や精神が損なわれたとしたら、組織にとって好ましくはありません。結果のために手段を選ばずメンバーを追い込み、人の痛みを感じることなく、成果だけは独り占めにするリーダーやマネジャーは存在してはならないのです。  それでは気づきを促しても無駄だとすれば、どうしたらいいのでしょう?  黒い大三角タイプはそもそもリーダーやマネジャーにしてはいけないのです。プレイヤーとしては優秀であっても、リーダーやマネジャーにする際にはスクリーンをかけ、排除することがベストだといえましょう。 ●黒い大三角社員を排除するために有効な360度評価  通常の人事評価では、黒い大三角の本当の顔は見えないかもしれません。ましてや管理職アセスメントでは逆に高い得点をたたき出すかもしれません。そもそも能力は平均以上なのですから。  そこで、周囲の人たちからの評価がとても参考になります。普段の職場の振る舞いから、ふと覗かせる裏の顔は周囲のメンバーたちが一番よくわかっています。陰湿なパワハラ言動の数々や、手柄や成果を横取りされた独り占めされたというケースが浮き彫りになってくるかもしれません。表の顔しか知らない上司の評価、高すぎる自己評価(ナルシシズム)、同僚や後輩からの裏の顔の評価、これらを総合する360度評価により、黒い大三角社員の存在を浮き彫りにして、そんな特性を持った人たちを排除していくこと、少なくともリーダーやマネジャーに昇格させないことをお勧めします。

初めての、部下評価 | 人事制度運用支援

初めての、部下評価

■先輩、ちょっと相談していいですか。管理職になって初めての人事評価つけるのですが、まだまだ未熟な自分が人を正しく評価できるかすごく不安なのです。私のつけた評点で処遇が決まるのも重圧だし、年上の部下もいてちゃんと本人に納得させられるのか自信がなくて。 □未熟、つまり経験とか人間力が足りないから不安と言っているなら、君は評価の原理がわかっていない。自分の経験や価値観をもって評価する=つまり、自分の「中」の基準で人を評価するなら、そうかもしれないが、君がやるべき評価はそうではない。君の「外」にある基準に照らして、部下の行動や能力発揮度合を見る、ということなのだぜ。 ■「外」にある基準? □公開されている会社としての基準(こんな行動をとってほしい、こんな能力を発揮してほしい)に照らして各部下の行動を見ればいいのだから、君の人としての成熟度とは関係ない。「基準に即しての評価=つまり、絶対評価をせよ」と評価者研修で習ったでしょ? ■だとしても、評価項目は抽象的だし、基準もあいまい。個々人をその基準に照らして1~5点なんて、正しくつけられるとは思えないのだけど。 □ここは確かに、最初は難しいかもね。場数を踏んで磨かれていくという面はある。でもすぐできるコツがあるのだけど、知りたい? ■ぜひ。 □たとえば、部下が5人いたとしたら、評価項目ごとに、できている順に並べてみる。 ■それは相対評価では? それはしないと習ったけど。 □まぁ聞いて。ちゃんと絶対評価になるから。で、Aさんが一番できているとするなら、なぜ、君がそう判断したかの根拠をならべてみる。同様に、BさんやCさんについても、Aさんとの違い、それぞれの違いがどこにあるかを考えてみる。 ■根拠、つまり行動事実の違い? □そう。そこで、あらためてそれを評価基準に照らして、レベル分け=評点化してみればいい。 ■なるほど。できている、できていない、と私が感じる「事実の違い」を材料に絶対評価をするわけですね。うん、それならできそうだ。でも、、、そもそもの、この行動事実ならOKとみた私の判断自体が会社として正しいのかどうかが私には自信がないけれども。 □はい、そのとおり、そこが大事なところ。それは君一人では確認できないし、二次評価者の上司の眼も現場を見てないから怪しい。方法は、たったひとつ。ほかの評価者との間でつけた部下の評価表を開示して、相互検証をするのです。 ■え、そんなことしてもよいの? □大丈夫、君はまだ経験していないけど、「評価会議」というイベントがこの会社では用意されているから。一次評価者同士で評価結果の妥当性を相互に検証する会議。他の評価者が、どのような行動事実をもとに、どう評点をつけたかを知り、またその妥当性を検証しあうことで、評点レベル、つまり評価者の目線があう。 ■なるほど、人のふり見てわがふり直せ。 □いやいや、意味ちがうけど。。。正確にいえば、個々の判断が妥当かどうかを検証していくというよりも、会社ごとの「見えない基準」を明示化し共有していく場という方が正しいかな。評価基準は抽象度が高くどの会社でも似たようなものだけど、具体的実態的な基準は、会社ごとに違ってしかるべきだから。 ■個別具体的な評価基準とは、会社の「暗黙知としての価値基準」の明示化である。 □いきなり難しいこと言うなぁ。。。平たく言えば、「勤務態度」みたいな項目で、一回でも遅刻したらダメな会社もあれば、二回まではOKという会社もある。そういう暗黙の基準が評価会議で確認・共有され、皆が同じように評価できるようになるわけね。 ■評価って、どこか内密にっていうか、上司部下の間だけ、せいぜい二次評価者までの間での秘匿性高い印象あったけど、もっとオープンに論じるべきものなのですね。少し気が楽になりました。 □評価時期の評点のつけ方よりも大事なのは、その材料となる日常の観察と指導。日々君が部下をよく見ていて、都度、指導をしていて、個々人の成果達成にむけて気配りを怠らないこと。まぁそこは大丈夫でしょう、初評価の責任を痛感し不安を覚えていること自体が、君が誠実な管理職者であるということだから。

リスキリングへの第一歩 | 人材開発

リスキリングへの第一歩

 VUCAの時代と言われ、将来の予測が難しい世の中とは言っても、デジタルトランスフォーメーション(DX)が、社会の発展や企業の成長のエンジンとなっていく事は、かなり確かな事だろう。新しい情報技術を活用し、現在のビジネスモデルを発展的に解体し、より優れたものに再構築できれば、社会や企業が創出する価値が大きく増大することは疑う余地はない。だからこそ、世界中の国や企業が、こぞってデジタル社会に適合した事業改革に取り組んでいるが、その取り組みの最大の障壁が、それを推進する「人材」であり、いかに現有人材をDXに適合する高付加価値人材へと「リスキリング」するかが、企業の人事施策の優先的な課題となっている。  2020年のダボス会議では、2030年までに世界の10億人により良い教育、スキル、仕事を提供するというイニシアチブが発表され、諸外国の政府や企業も、デジタル化社会にむけ、具体的なリスキリング施策を進めている。シンガポールでは、2015年からスキルズフューチャー運動と言う政府のスキル獲得の制度が始まり、25歳以上の全ての国民に最大1500シンガポールドル(約15万円)の資金枠を与え、2万4千以上の様々な講座で使えるようにした。また、アマゾン社では、倉庫作業者(非技術職)人材を技術職に移行させる「アマゾン・テクニカル・アカデミー」などを行い、2025年までに米アマゾンの社員10万人(一人当たり投資額約75万円)をリスキリングすると発表した。  日本企業でも、リスキリング施策を進めている話は聞くが、限られた大手企業にとどまっているのが実情だ。大半の企業で、思うようにリスキリングが進んでいない背景にはいくつかの理由がある。日本企業において今まで、社員のスキルアップの中心的な機会は、OJTと言われて来たが、従来のビジネスモデルを変革させるためのスキルを、そもそもOJTで獲得しようとする事は難しい。従来の職場から離れて、それなりの投資を伴うリスキリング施策をおこなう必要があるが、そうした施策の実行に踏み込めていない。  また、IT人材がSI企業などに集中するという我が国の労働市場の特徴的構造も大きい。日本では、多くのITスキルを持つ人材が、外注先のITベンダーに多く存在し、社内にITスキルを持つ人材が圧倒的に少ないことから、自社の事業をよくわかりつつ、どのようなデジタルスキルを融合させる事が有効であるかを、検討する社内の人的リソースが足りないため、リスキリングを始めるにもその勘所がつかめないでいる。  また、社員個人にとっても、デジタル社会に向けて、自らをスキルアップしようにも、どのようなスキルを習得すれば、どのような職種・仕事に就けるのかがわからず、何に取り組めばよいか、わからないという状況もある。リスキリングを推進するためには、こうしたそれぞれの課題に対して、取り組んでいかねばならないが、まず、優先的に行うべきは、何よりも経営層がリスキリングの重要性を高く認識する事だろう。自動車産業をはじめ、あと10年先には、既存のビジネスモデルでの事業の多くが、競争力を失ってしまう事を現実と捉え、将来の継続的な企業成長のためには、リスキリングによる自社の人的資本のレベルアップ自体が、優位性の大きな源泉となる事を何よりも理解する事が重要だ。  最初から、正解を求めることは難しいが、デジタル化社会の中で、経営戦略実現のためにどんな業務領域で、誰に対して、どんなリスキリングが必要なのか、経営層が自ら検討し、短期的な利益を犠牲にしてでも、トライアンドエラーを直ぐにでも始めて行かなければならないタイミングにある。

社長の仕事 | 人材開発

社長の仕事

 「社長業というのは、つまるところ金勘定ですから」と自嘲気味に語ったのは、重厚長大企業グループの基幹企業を率いた元社長だった。企業人のキャリア開発のあれこれを話題にしていて、キャリアゴールとしての社長に話が及んだときに、彼が最初に口にした言葉である。だから社長業なんてつまらない、と言えるのはそれをこなしてきた自負の裏返しで、戦略も戦術もその成否が金勘定の巧拙に左右されるのは経営の常識だろう。  別の会社の現役社長は、競争に勝つ策を出し続けることが社長の仕事だと言った。IT業界で独立系企業として成長続け確固たるポジショニングを得た経営者ならでは言葉で、その言葉の裏側には、勝つための力を磨く不断の自己研鑽を日々自身に課しているという自負がある。彼は、先見力、分析力、構想力を鍛える独自の「脳のトレーニング」を毎日行っているのだった。  経営とは、端的に言えば「競争と金」である。そのバランスは、規模や歴史や市場ポジショニングによって異なるだろうが、「競争と金」を両にらみしてひとり最終判断をするのが社長の日常業務である。金勘定には、投資判断や資金調達から日日の経費状況検証まで、「木を見て、森を見て」、「過去を解釈し、未来を展望する」全方位的な計数センスが必要である。競争には、市場内での競争のみならず「ファイブフォース」との闘いや社会に対する提供価値の差別化という意味で、やはり全方位的な競争を勝ちぬく胆力(=意思と信念と知力)がなければならない。  そのように戦略の策定と推進をリードする際に、もうひとつ、社長にしかできない仕事がある。それは、ダイレクトなメッセージよる人々の触発や行動喚起だ。経営目標に向けた従業員のパフォーマンスマネジメントとは、ビジョンや方針を提示し、モチベーションを高め、方針に沿ったあるべき行動発揮を促し、成果を出させることである。グローバル標準の人的資本管理の言い方でいえば、「Engage & Align」。これは、ヒエラルキー組織のなかでマネジャーが担うべき役割だが、ときにそれだけでは充分ではない。社長が、人々への行動要請の意味と意義と覚悟を、自分の言葉で人々に直に語りかけることがあってはじめて、人々は強くエンゲージされアラインされるのだ。  そのことを自覚していない社長は、意外に多い。確かに、たくさんの人を動かす仕組みが組成され、マネジャーたちがタスクと人をマネジメントし、階層化・分業化された統制がされるのが組織である以上、現場のパフォーマンスマネジメントは現場に任せるしかないし、任せるべきである、ということは正しい。しかし、顔の見えない、雲の上の人が率いるのであっては、戦略遂行に画竜点睛を欠く。社長の顔、つまり、経営者としての意思と覚悟が全社員に見えることが、エンゲージメントの前提になるのだ。  社長が社員たちに直接語りかける場をどれだけ持つか。さまざまな階層別の会合への参加はもちろん、若手研修の冒頭メッセージ、車座セッションの全国行脚といったイベントを「コミュニケ―ション戦略として」、かつ「社長自身の意思をもって」、組み上げ、その実行に大量時間投下することもまた、きわめて重要な社長の仕事なのである。

褒めれば伸びるか | 人材開発

褒めれば伸びるか

 成功体験が人を成長させる、ということは、ほとんどすべての人が知っている原理である。だから、幼児に対して、「あーひとりで靴下はけたねー、○○ちゃんえらいねー」と誰しも申し合わせたかのように、こぞって声をかけるのだ。原理だから大人でも通用するはずと、部下にむかって、「○○さん、よくやった。さすがたいしたものだ」と褒めれば伸びるか、というとコトはそう単純ではない。無理して褒めたばかりに勘違いした部下を生み出してしまうかもしれない。部下を成長させるには、褒めたあとのもう一押しがいる。  幼児の場合、褒められることにより、自分で「できた」という事態を強く認識し、その繰り返しが自己効力感の醸成につながるのだが、大人はそれだけでは充分ではない。自他の違いがやっと分かってきたくらいの幼児とちがって、大人はすでに社会的存在(=関係の中で生きる存在)だからである。ゆえに、一個人としての学習の原動力である自己効力感よりも、関係の中で自分が何をなしえたかの発見こそが成長のエンジンとなる。成果の意味のフィードバック、つまり、なしえたことの価値をわからせるという後押しが必要になる。  会社の一員たる大人の成長にとって、もっとも大事なことは、自分の成し遂げた成果の「意味」を知ることだ。自分の業務遂行上の意味はもちろんだが、職場や同僚にとっての意味、会社にとっての意味、ひいては社会全体にとってどういう意味を持つか、それを知ることで、自身の価値を発見する。同時に、それを成しえた能力を自覚できるから、さらなる成長に向け新たなチャレンジにも臨める。で、次の目標を定め、成果を出し、その意味を知りさらなる価値を発見するというサイクルこそが、シンプルにして唯一の人間成長の原理なのである。  このサイクル、経営心理学で「心理的成功体験連鎖」と呼ぶモデルとかつて教えられた。図式的に言えば、①能力の確認→②目標の設定→③目標の達成→④価値の発見→①能力の確認→……という4フェイズの循環サイクル。すぐにわかるように、これは本来のMBOに他ならない。MBOの本義は、組織目標の達成というゴールよりも、自律的な業務遂行と業務を通じての人間成長というプロセスこそを狙いとした方法論であり、だからこそ、ストレッチした目標設定や本人の主体的意思やフィードバックの重要性が強調されるのだ。  自分の価値の発見とは、ことばを換えていえば、成長実感ということである。よくエンゲージメントサーベイでは、「仕事を通じての成長実感」の項目がカギとなることが指摘されるが、その向上策は、個々人の感じ方やレベル観がちがうから打ち手が定まらないことも多い。  成長実感を高めることでエンゲージメントレベルをあげたいのであれば、まずやるべきは、自社の人材育成施策全般を「心理的成功体験連鎖」の観点で検証することだ。業務アサインと育成のしくみとして、加えてマネジャーの部下育成スキルとして、このサイクルが埋め込まれているかどうかをチェックすることである。しくみという意味では、さきにあげたMBOもそうだし、たとえばトレンドワードであるタレントマネジメントを、個々のタレントの確実な成長システムとして具現化できているかという話であり、マネジャースキルという意味では、この成長メカニズムを踏まえた部下コミュニケーションが浸透できているかという話である。  さて、部下の成果の意味をわからせよ、と冒頭書いたが、上司が唐突に、一方的にそんな話を部下にしてもダメなのだ。大事なことは、たとえば入社間もない社員が「ワタシ、なんか成長したかも、、、」と自分で気づき始めたタイミングで、すかさず、「君はようやく組織の一員っぽくなってきたな。だって言われなくても周りをよく見て、自分のやるべきことをちゃんとやれるようになっている。次は○○○○できるようになることだな」とはっきりと言葉にして、上司の眼からみた解釈をフィードバックすることだ。  もっとも効果的な意味づけは、自分でもストレッチできたかなという思うところにミートして指摘する(=褒める)ことであり、これもまた褒めて伸ばす秘訣なのである。

管理職昇進を望まない社員増加は心配事ではない | スマートアセスメント®

管理職昇進を望まない社員増加は心配事ではない

 近年は労働観が多様化し、管理職になりたくないという人が増えています。厚生労働省の調査(平成30年版労働経済の分析)によれば、実に61.1%もの人が「管理職に昇進したいと思わない」と回答しており、更に直近の調査会社の結果では80%という数字も散見されます。管理職になりたくない理由として、「出世欲がない」「責任が伴う」「仕事量が増える」が上位を占めます。バブルの時代「24時間戦えますか?」というフレーズが流行り、管理職になることはキャリアにおける一つの目標であったものの、現在は誰もが出世を夢見た時代は終わり、働き方が多様化し、仕事はほどほどに、私生活の充実も重視するライフワークバランス派の増加だけでなく、専門性を突き詰めるために管理職にならない道を選ぶポジティブなキャリアを選択する社員も増えているということです。  この様な状況から、企業の人事担当者との商談で、管理職登用試験を受けない社員が増えているが他社でも同じ傾向ですか。自分が試験を受けた時は、試験を受けられなかったらどうしようと思っていたのに・・・、という場面がリピートします。  企業としては、管理職になりたくない人が今後も増えていくことを前提に人事管理を行っていく必要となるものの、一方、現状の管理職層の問題課題として、40歳前半になると管理職に昇格させてきたことで、部下無し管理職や会社貢献が希薄な管理職の扱いに苦慮している企業は少なくありません。 「2:6:2の法則」「8割を2割が生み出す“パレートの法則”」から、会社を牽引する管理職は20%が適切で、80%の社員が管理職になりたくないことは、管理職の歪な状態を見直すトリガーになり得るとも言えます。ただし、留意点としては、会社が管理職にしたい社員が管理職を目指す仕組みが整っているかです。ミスマッチを回避するために、以下のようなことを確認することをお薦めします。これが全てではないですが。 ①本人のキャリアプラン確認(入社5年・10年の節目で複数回設定) ②会社からのメッセージ(上位職から君は管理職として会社を牽引する人材だと情熱を持って伝える、情熱が欠けると意味がない) ③人事制度(キャリアプランが選択できる複線型パス、適正な評価、報酬格差等) ④能力把握の適正診断(アセスメント等) ⑤管理職候補者に絞った育成研修(社員全員の底上げでなく選抜型での育成)  働き方の多様化から、管理職昇進を望まない社員の勢いは止めることは出来ないでしょう。管理職試験を受けたくない社員がいること自体、50代の管理職は理解できないことかもしれません。この傾向を管理職の歪さ解消を中心とした組織見直しのチャンスと捉え、前向きに人事管理に向き合っていくことができれば、決して心配することではないと言えます。どの様な場面においても、プラス思考を忘れなければ、進むべき路は見えてくるものです。