成果のでない理由(わけ)
人事の課題の中には、時間をかけ、腰を据えて取り組まないと、成果を出すことが難しいものも少なくない。「女性活躍の推進」もそうした課題のひとつかも知れない。多くの企業で、従前より検討されているが、期待される水準を達成できている企業は数少ない。
例えば「指導的な地位への女性の登用」という観点で言うと、我が国の管理職における女性比率は10%程度で、欧米諸国の30〜40%に対し、大きく差をつけられている。取締役における女性比率についても同様で、2016年の上場企業の女性役員数は、わずか3.4 %と、こちらも欧米諸国の水準である20〜30%に比べて、大きく後れを取っている。以前より女性の積極的登用を検討してきたはずなのに、結果が伴ってきていない理由として、何が何でも女性活躍を推進しなければならない、というほどの重要性や危機感を経営層や人事の現場が共有して来なかった事が、正直なところ、あるのではないか。
そもそも女性活躍に限らず、ダイバーシティマネジメントを推進する目的の中には、性別、年齢など人間の属性にかかわらず雇用機会を提供すべきという「人権的な側面」や、人手不足を補う「労働力確保」の意味合いもあり、どちらかというとそうした観点から受け身的にこの課題に向き合っている企業は少なくないようだが、そもそも「企業の競争力強化や組織パフォーマンス向上」という企業価値を高めるための重要な取り組みであるという点を、我々は改めて強く認識する必要があるだろう。
テクノロジー革命やグローバリゼーションの急速な進行により、今後、今まで以上に大きく、かつ急激に社会が変化していくことが想定されるなかで、企業は、異なる知識や発想などを備えた多様な人材を積極的に取り込むことで、より多くのイノベーションを生み出し続けていくことが不可欠となっている。
言い換えれば、従来の男性中心の組織に、より多くの女性を取り込むことで化学反応を起こし、迅速かつ大胆に革新を継続していかないと、これからの厳しい競争下で、企業は生き残っていけないという事だ。
実際、米国ピーターソン国際研究所、クレディスイスなど各所が実施した調査等で、「幹部職における女性比率が高い企業ほど、収益性や時価総額が高い」という上記の仮説を、客観的に裏付ける結果が複数、報告されている。
女性活躍推進の領域で、我が国の前を走っている欧州各国も、最初から女性の役員・幹部職比率が高かったわけではない。危機感をもって、「女性役員クオータ制」の導入も含めた様々な悩ましい議論や取り組みを長年、積極的に行ってきた結果として、ようやく現在の水準までたどり着いている。
我々は、我が国だけが特別に難しい状況という認識を持つべきではないし、我が国だけは諸外国とは別だから、このままでもなんとかなるだろう・・と言った、独善的なガラパゴス発想を持つことはさらに危険である。
いまや、「女性活躍の推進」が企業の継続的発展の成長エンジンになるというのが世界的な見識であり、「社会的要請への対応」や「人材確保のため」と言った受身的、間接的な目的に留まらず、「企業競争で勝ち残るために不可欠な施策」という確信をもって、人事が事にあたっていくことが必要ではないだろうか。
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