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column

脱!自前主義

 ここ10年あまりの間に、産業の水平分業化が著しく進んできたように思える。水平分業とは、企業を構成する諸機能を複数の会社が分担し、相互に補完することだ。ある会社が自社の経営に必要な機能の多くの部分を他の専門企業に委ねる。他方、自らも強みを生かした専門機能業者となって、他社の経営を補完する。そんな産業構造のことを指す。「餅は餅屋」というやつだ。古くからあった元請・下請関係と異なるのは、水平分業するそれぞれの企業が一定の業界標準を形成する力のある企業であって、高い市場シェアを持つところだ。特定の発注者に売上の多くを依存することなく、常に対等の関係で取引する。

 たとえば、多くの製薬会社が、SEO(臨床試験受託会社)に臨床試験を委ねたり、CSO(医薬品マーケティング・販売支援会社)に医薬情報提供や営業の機能を任せたりして、自らは創薬の仕事に集中しようとしている。食品業界や飲料業界では競合他社と協力して物流機能を統合・再構成し、製品物流をこれに任せ、製品企画力と販売力で勝負しようという流れになってきている。電子機器産業の数社が製造を専門アウトソーシング会社(EMS)に任せ、実質的には研究開発会社になりつつあるのは周知の例である。管理間接機能においても、経理、ファシリティマネジメント、給与計算、採用、研修などの領域で力を持ったアウトソーシング受託会社を数多く見ることができる。

 水平分業を有効活用したビジネスモデルにおいては、自社の付加価値の核心と位置付ける機能に経営資源を集中投下し、その機能をさらに鍛え上げることができる。その他の部分は他社が提供する「部品」を組み合わせて会社を経営することから、産業のモジュール化とか、レゴ型経営といった表現も一般的になってきている。
 おそらく今後、グローバル標準機能を提供する強大な機能会社が数多く出現し、多かれ少なかれこれを活用したビジネスモデルで成長と利益を獲得していかねばならない時代になっていくと思われる。自前主義に拘っていてはもう勝てないということだ。

 さて、ここまでは良しとしよう。ここから先が問題だ。周知のとおり、わが国の法制と人事慣行の下では、ビジネスモデルへの転換は容易ではない。これまで自前主義で抱えてきた機能を廃止しようとすれば、長く雇用してきた社員を一定程度削減しなければならない。他方、自社の機能を世界標準に育て上げるためには、これまでに増して豊かな能力を備えた社員を数多く雇用していかなければならない。どちらも不可欠であり、かつ困難な仕事である。

 このように考えていくと、これから先、人事部のミッションが高度化していくことは容易に想像できる。まずは自社の核心的機能は何なのか、それを再定義することが第一歩だ。次に、それ以外の機能の何を外部化していくのかを現実的に判断しなければならない。
 核心的機能を維持発展させるためには、どのような能力を持った人をどれだけの人数抱えればよいのか。そのための社内人材の育成強化をどのように行っていくか。新規採用はどの程度必要か。役員クラスのヘッドハンティングすら必要かも知れない。
 反対に、いくつかの機能を外部化することでどれだけの人員が余剰するのか。自然な退職がどれだけこれに寄与するのか。そのスピードが遅ければ、一定の雇用調整を実行しなければならない。こうしたことを考え、ひとつの計画にまとめ上げる力が求められてくる。会社分割や出向・転籍に関する実務知識も不可欠のものになってくることだろう。

 自前主義から水平分業への転換。その大局を構想し、手順とスピードを考え、適切なロードマップを描くことは、これからの人事部長に課せられた重大な責務だ。

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