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column

夢のない分布

 社員の評価が適正でない企業では、最終的な手段として“分布規制”を行います。これは社員の能力や業績の評価結果を決められた分布通りにするという発想です。その多くは“正規分布”的発想で、SABCDの5段階であればSが5%、Aが15%、Bが40%のようにあらかじめ“形”を決めておくのです。こうすることにより、甘辛の調整をするという発想です。

この考え方にはいくつか重要な論点があります。多くの企業では社員の評価は“絶対評価”で行い、その結果を相対評価するという建付けになっています。背後には評価者は甘く付ける傾向にあるということでしょう。一次評価した絶対評価を信用しないということなのです。こうすることによって社員からみた評価制度は意味がわからないものとなります。もう一つ重要であるのはそもそも“正規分布”は正しいのかということです。企業内の人材が一定の評価基準で評価した結果正規分布になることなど、どの理論に基づいているのでしょうか。少なくとも私は十分な論拠のある正規分布適正論を見たことはありません。働くアリだけを集めると、一定比率働かないアリが発生するといったことが、この評価の分布議論で、納得性のある話のように流布されています。面白いですがそれだけです。体感的には優秀な人材が多く在籍している企業もその逆もあると思いますので、なぜ正規分布かが理論的にも体感的にもわからないのです。そんなに相対評価したければ、社員に順位を付ける制度のほうがわかりやすいのではないかと思います。等級別の自分の相対順位で自分の位置づけを認識するイメージです。

 この正規分布の考え方は、別な言い方をするとあまりにも夢がありません。人事管理の本質的意味合いを否定しているかの如く感じることさえあります。どの企業でも“優秀な人材の育成”と銘打っていますが、優秀な人材は一定比率しか認めないという矛盾したものとなっているのです。人事管理の視点では優秀な人材の比率が高まることで、より高い生産性、より高い業績を生み出すために行っているのであり、一人でも多くより活躍し、より高い処遇になることが目的です。正規分布はその人事管理の目的を否定している考え方に見えるのです、

 実際には分布規制をしている会社は、そんな悪意を持っていません。甘い評価が横行するのを何とか食い止めるために行っているのでしょう。経営や人事部門の苦悩がこのような手法に表れているのです。いずれにしても評価そのもの、人事制度そのものをより高い効果を出すという視点からは、副作用の非常に強い対処療法でしかありません。

 真に優秀な人材が多く発生して困ることはありません。逆に優秀な社員が多く出現するほうがよいに決まっています。社員を適正に評価できる仕組みやマインドを再構築して、“正規分布的発想”をなくし、攻撃的で夢のある人事管理に変貌しなければなりません。いつまでも正規分布が妥当かを議論したり、正規分布の比率の議論はあまりにも本質から逸脱しているように思えます。

以上

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