人事のコピーワーク
人事用語は味気ない。味気ないだけではなく、意味が矮小化される言葉ではないかとつねづね思う。一人一人意思や思いをもった人と人が組織をなしている中での統制機能=人事というものの本来持つべき消息があまりにもないのだ。
たとえば、管理職、一般職といった職群名称からは、リーダーシップといった大事な機能が匂ってこない。配置、異動、要員計画という言葉は、その機能を端的に示しているけれども、そこには、「モノ的なヒト」のイメージがある。もっと、モチベーションや意欲、成長の愉しみや協働のよろこびを喚起するような名称=コピーワークがあってもよいではないか。
といったことを思うようになったのは、人事にまつわる英語表現に触れてからだ。グローバルで事業展開をしている米国本社の組織人事コンサルティングファームにいたときに、サービス領域を整理する枠組みがあった。その会社は、多くのコンサルファームを買収しつづけていたので、サービスアイテムが多種多様に増え続けていて、いつもいろいろな整理の仕方に挑戦しては、また、すぐに別の整理に変えたりしていた。
そのなかである時期2年間くらい使われていて、秀逸だと思った整理フレームが、Human Capital Lifecycle と名付けられた4フェイズだった。それは、
(1) Attract&Assess
(2) Develop
(3) Engage&Align
(4) Transition
とラべリングされていた。
要は、人々を選び、育て、配置し、代謝する一連の流れを言っているのだが、その表現がすばらしい。採用でも昇格審査でも、評価し選ぶには、本人に対する意味づけをもってまずは惹きつけることを前提にするといった気配のある「Attract&Assess」。また、「Develop」というシンプルな英語には、他動詞と自動詞があるから、そこには、育成と成長の両義性がそもそも漂っている。
特に唸らされるのは、パフォーマンスマネジメントのフェイズを「Engage&Align」と表現する感覚だ。意味することは、人々を適正に配置し、ビジョンや方針を提示し、モチベーションを高め、成果を出させることだが、そこで経営がやるべきことの本質をこの一言で言いきっている。最後の「Transition」は、広くキャリア・チェンジを示し、その一つとして、社外のキャリアへの転換=退職し転職する、を含んでいることも、確かに、“人材のライフサイクル”だと納得する。
人事に関する限りは、そもそも英語表現のほうがイメージ豊かなのかもしれない。昇進よりも、Promotion、後継者育成よりも、Leadership pipelineとかLeadership cascade、と言ったほうが、そのニュアンスは実態的でヒトを扱う(=人事)の風情があるのではないか。
だからといって、人事用語を英語にしようと提案したいのではない。そんなことを言うと、いやいやそんなカタカナ用語は、受け入れがたい、という声が聞こえてくる。ちなみに今でも、「研修でカタカナ用語は、できるだけ使わないでほしい」、「経営に対するプレゼンでは英語表現はNG」といったご要請は少なくないのだ。
日本語をもって、意味豊かな人事用語をコピーライティングしてみたらよいのである。日本語とは、あるいは日本人の感覚は本来繊細である。たとえば、英語では「To be」の一種類の言葉でも、日本語は、モノに対しては、「ある」、生き物に対しては「いる」と、截然と使い分けるように。
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