1人7役
中間管理職は忙しい。
プレイングマネジャーとして、必死に目標達成に邁進する一方で、経営者から「環境が変化しているから、今までのやり方を続けるだけではだめだ。みずから変革をリードしろ」といわれ、絶対に不祥事は起すなとコンプライアンスの徹底とリスク管理を厳命され、さらには、メンタルイッシューに気配りせよ、ダメな部下だろうがくれぐれもパワハラに注意せよ、と要求は増えるばかりだ。
加えて、次世代リーダーが育っていないと気付いたせいか、近年は、「当社は、管理職者の人材育成力が十分でない。人という経営資源を責任もって育てられるようにそのスキルを高めてくれ」といった、経営からの指示がよく人事部門に出たりする。たしかに管理職者の役割は、教科書的にいえば自組織の目標達成と人材育成ではあるけれども、中長期的な育成マインドと人材育成スキルをにわかに高めることは容易ではない。育成が大事なことと痛感しつつも、マネジャーの負荷感は高まるばかりだろう。
たとえば、「キャリア面談」というものが増えてきた。単年度の人材育成という意味では、期首に目標や課題を握り、期中指導し、きちんと人事評価をして、部下の成長課題を含めてフィードバック面談をするといったサイクルが回されているが、それとは別に、中長期の成長の意思確認と指導を明示的にするというものだ。若年層に対しては、リテンション、中堅社員に対しては“複線化”等の進路選択、50歳前後の社員は役職定年や雇用延長のレディネスといった狙いのキャリアマネジメント施策である。
つまり、マネジャーはキャリアカウンセラーの役割も要請されるのだ。「自分のキャリアは自分で決めろ、そんなことまでできるか」という管理職者の声が聞こえてきそうだな、と思っていたら、米国の人材マネジメントの本を見て驚いた。そこには、マネジャーが果たすべき7つの役割としてこうあった。
1. コミュニケーター
・部下と公式および非公式な話し合いを持つ
・部下の本当の悩みに耳を傾け、理解する
2.カウンセラー
・部下がキャリアに関連するスキル、興味、価値観を明確化できるよう援助する
・部下がさまざまなキャリアの選択肢を探せるように援助する
・部下がそれらの選択肢がそれぞれ適切かどうか評価できるよう助ける
・部下がキャリア目標を達成するための行動計画を立てられるよう援助する
3. 評価者
(略)
4. コーチ
・具体的な職務に関連するスキルや専門的スキルを教える
・部下の効率的な働きを促す
・向上のための行動を具体的に提案する
5. アドバイザー
・組織の成長に関する非公式および公式な現実を部下に伝える
・部下のためになりそうな訓練機会を提案する
・キャリア発達のための適切な戦略を提案する
6. 仲介者
・部下を、キャリアの面で互いに助け合うことができそうな人材に引き合わせる
・部下が適切な教育または雇用機会にめぐり合えるよう援助する
・部下が外部の機関の援助を受けられるように橋渡しし、支援する
・紹介した機関が有効に作用しているかどうか追跡調査する
7. 擁護者
・経営面での改善策がうまくいかなかった場合、別の戦略を部下と一緒に考える
・代表者として、部下の心配事を経営幹部に伝え、具体的な改善策が取れるように働きかける
仲介者や擁護者の記述には笑ってしまうけれども、数の多さに驚きながらも総じてうなずける役割の整理ではある。7役に書き連ねられると辟易するマネジャーもいるだろうが、人材育成やキャリア支援という意味では、多様な役割が求められるのは事実だろう。問題は、それ以外の、自部門の戦略や業務や不測の事態に応じたたくさんのマネジメントの仕事に加えて、こうした役割を果たさねばならないという負荷である。
中間管理職は組織の要であり、その機能発揮が経営を支える。ゆえに役割と責任の拡大とは仕方がないのだとしたら、まず「武器」を与えるべきではないか。たとえば、ICTによるタレントマネジメントシステムは、その観点から設計されるべきであり、武器のひとつとして、早々にマネジャーの手元に配備されることを期待したい。
コラムを読んだら投票を!
コラムをお読みいただきありがとうございます。 今後、さらに興味深いコラムの提供やセミナーテーマの参考とさせていただきますので、ご感想の選択をお願い致します。
※投票いただくと、これまでの感想をグラフで見ることができます。
このコラムの平均評価
投票いただくとこのコラムの評価が表示されます。
- 大変興味深い
- 興味深い
- ふつう
- つまらない
- 大変つまらない
このコラムの感想
- 大変興味深い
- 興味深い
- ふつう
- つまらない
- 大変つまらない