あらぬ疑い
人事管理は経営管理の重要な領域であり、もっと高度に発達するべきでしょう。そのためには人事管理も他の分野と同じように、より高度に理論武装しなければなりません。今までの人事管理論は、“モチベーション”“やる気”などの言葉が多用されていました。どちらかと言うと定性的視点に立った分析が多く、また人事施策なども合理性に欠いた施策も多くあります。
企業の人事管理は経営管理としての有効性と説明責任がある以上、パフォーマンス、金額や人数などの定量的な視点での議論が不可欠です。今まではあまりに数字、定量といった視点が欠如していました。“人”を扱うのだから、数字的定量的な発想はしてはならないと思っている人が多いのです。数字、定量を人事管理の中に持ち込むことに、違和感を感じる人も少なくありません。
批判的な人の代表的な主張は、人事管理は“人”の管理であるから、人の気持ちを重視しなければならないという主張でしょう。もっと言えば“気持ち”“モチベーション”が重要だから、数字で議論してほしくないという感覚なのです。定量という言葉があるだけで、“気持ち”を大事にしていないと直結する人もいるくらいなのです。ですから定量的、合理性などを多用している私にストレートな意見を言う人もいます。“定量、合理性、理論のような視点は、人を大事にしていない”と。しかし私自身はこのような前近代的な批判はむしろ褒め言葉としか聞こえていません。
人事管理ですので、必要な人材、適正な人件費とともに、社員のパフォーマンスマネジメントとしてのモチベーションやロイヤリティーは重要であることは間違いありません。そういう意味では従来型の“気持ち”を重視した考え方に新たな定量的な視点を提供し、人事管理としての領域の全体像を提示しているという感覚です。
例えばバブル期大量採用をした企業では、昇格を甘くすれば管理職は余剰しますし、昇格を厳格にすれば管理職一つ手前の等級に多くの社員が滞留します。よく管理職手前の等級に長期に滞留する社員のモチベーションを上げるための研修をしたいという話があります。これはこの一団の社員に研修手段でモチベーションが向上できることを前提としています。しかし人員の構成が歪な企業では、高い等級の社員が低い等級の職務を行わざるを得ないので、いくら研修しても本質的な解決にはなりません。社員のモチベーションの問題の背景には、人員数や人員構成といった構造的な原因があることを明確に認識しなければなりません。そのためには全員管理職を目指させる制度を見直す必要もあるでしょうし、雇用調整なども視野に入れなければ解決しないのです。これは定量的、構造的視点で考えればごく自然の帰結です。
“人”を大事にするなら、逆に徹底して人事管理を定量化、見える化し、合理的な施策を施さなければなりません。よく“人を大事にしていない”というあらぬ疑いをかけられることが多いですが、人を大事にするからこそ、定量的視点が必須であると信じています。
以上
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