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column

関係の体系としての企業

 いつのころからか、「ヒト、モノ、カネ、情報」と言われるようになった。情報つまり企業固有の知識・技術が経営資源であることは、昔から変わりはないが、それらは、ヒトに属するものだった。それを、情報という独立項目として外出ししたのは、ICTの進化により、情報の蓄積と活用がしくみとして可能になったからだろう。ナレッジマネジメントという概念もまた、そこに生まれている。

 ナレッジマネジメントがすでにある情報・知識を管理し活用するだけだったら、情報をそのようなもうひとつの経営資源とみて、高度活用の術を追及すればいい。しかし、組織を情報知識体系とみるときの眼目は、「情報創造」にある。経営にとって、会社が存続し、また存立する価値を持ちうるためには、新しい情報や知識を創出し続けることの重要性が含意されている。

 AIがヒトを超えるという事態が迫っているからには、もはやそうではなくなるかもしれないけれども、情報を創造する主体は、どこまで行っても、ヒトである(と信じたい)。とすれば、ナレッジマネジメントが本来的に機能するためには、「独自の情報・知識をどう管理するか」の対極にある、創造性の喚起に関わる二つの問題が議論されなければならないだろう。

 一つは、個々人にどう創造させるか、である。創造のためのフレームワークの活用や創造技法をあるものの、人々の内発的な創造性開発研修といったものが存在しないように、創造をもたらす方法はテクニカルにはつかみがたい。人がある事象を、考えに考え抜いたその先に生まれるブレークスルーの理屈はわからないけれども、ただ、寝食忘れて考え抜くという情熱と持続力が要件になることは確かだろう。

 それができるのは、その創造せねばならないことが、自分にとって大きな意味と意義があるからである。人は、目的の意味に共感するときにはじめて創造を可能にするといわれる。とすれば、従業員が創造するためには、その目的、事業的な意味とか社会に対してどのような価値を提供したいのか、といった会社や仕事の目的が共感でき、真剣にその達成を願えるものでなければならない。

 会社は利潤追求装置である。自身の仕事で問われる創造性=新しい効果的な方法の創出、が会社の利潤拡大に大きなインパクトを持つことだけでも、やりがいはある。さらに、その利潤獲得のための事業そのものに意味と意義があれば、ヒトはその行為に大げさにいえば、“全存在かけて”投企するのではないか。

 つまり、本業そのもののCSR性がそこに要請され、また、従業員がそれを体感できていることが大事になる。これが、一つ目の議論であり、それは自社のアイデンティティを問うことに至らざるを得ない。しかし一方で、そのアイデンティティは、全社一丸、固有の価値観を共有し、自社独自の情報資源を守り、再生産するための「自社の枠組み」として“閉じて”いてはならない。

 これが、創造性を喚起するための、もうひとつの議論である。新しい発想は、他の発想との相互刺激によって、創出促進される。ヒトの発想行為では、相似性の追求や異質性と交換が有効ともいわれる。またそもそも現代社会では、新しい知識や技術はそれ単体としてよりも、他との連関性のなかで活用され、そこにさらなる知識・技術を生み出していく。

 とすれば、自社内を越えた情報創造、たとえば他社の知識・技術をもつ人との情報連関と相互作用こそがブレークスルーの鍵かもしれないし、企業の壁をこえたCSRがそこに生まれるかもしれないのだ。そうした自在なやりとりには、堅固な“わが社アイデンティティ”は、邪魔でしかない。

 つまり情報知識体系としての組織は、オープンシステムであることを要請する。さて、そのように情報が、その担い手であるヒトが、自在に交通する組織は、いかにして可能か。その組織論や戦略論、制度論や人材マネジメント論はおそらく、「個別企業の壁をどう超えるか」ではなく、「(社内外を通底する)関係の体系としての企業」という企業観から始めなければならないだろう。

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