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column

人事のリープフロッグ(蛙飛び)

アフリカのほとんどの国では、固定電話の普及率が10%未満であるのに対し、携帯電話の普及率は、既に80%を超えていると言う。固定電話は電話回線を張り巡らすための莫大な投資が必要だが、携帯電話は基地局だけ整備すれば済むため、先進国よりも急速なスピードで普及した。また、我が国は、世界に先立ち、2004年に電子マネー技術を携帯端末に搭載したモバイル決済サービスが開始されたが、その普及率は、現在でも、未だ3割弱であるのに対し、従来の銀行決裁システムが十分確立されていなかった中国では、急速にモバイル決済が広がり、その普及率は80%に達していると言う。

このように、新興国が先進国から遅れて新しい技術に追いつく際に、通常の段階的な進化を踏むことなく、途中の段階をすべて飛び越して一気に最先端の技術に到達してしまうことは、「リープフロッグ(蛙飛び)」と呼ばれている。現金決済より、モバイル決済の方が、釣銭のやり取りの手間もなく、正確で手間もかからないことは理解できても、従来通り、現金で買い物をすることに慣れているし、特段、不自由さも感じないため、モバイル決済を積極的に利用する動機がない、というのが大半の日本人の感覚という事だろう。いわば、既に盤石な現金決済の社会インフラがあるが故に、将来にむけた進歩に二の足を踏んでいるところがあるとも言える皮肉な現象である。

企業業績が比較的堅調に推移する中、政府の推進する働き方改革の影響もあり、数多くの企業が、今、人事改革に取り組んでいる。だが、長年培ってきた人事的慣習やインフラに引きずられる事なく、将来の企業の成長を見据え、最新のテクノロジーを素直に受け入れ、ゼロベースのあるべき姿を目ざしているところは、一体、どれだけあるだろうか。

現行の経営や人事のフレームワークを前提に、小手先だけの見直しでなんとか済ませようと考えている企業も少なくないように感じる。現実をみれば、これだけ情報システム技術が普及している中、大企業であっても、未だ、人事評価シートを手書き、ないし、エクセルベースで行っている企業もかなりある。目標管理制度を導入しているといっても、目標設定は現場任せで、組織的な整合性の検証はされないまま、低い品質で、ただ惰性的な運用を続けている企業もある。人事評価は管理職の重要なミッションであるはずなのに、その評価品質レベルを高めていく事には、相応の手間が掛かる事と現場からの反発を受ける事から及び腰になり、従前のやり方をほどほどに見直すだけで、本当に、これからの時代を生きぬいていけるのだろうか。

こうした悩ましい課題は、人事分野に閉じたものではなく、マネジメントサイクルや経営管理スタイルと統合された経営全体レベルの変革領域となるで、人事担当役員や人事部長だけの判断で解決できるものではなく、経営トップの理解と決断が必要なため、その分、改革の腰が重くなっているところはあるのだろう。

今、人事領域においても、様々なテクノロジーの導入により、全く新しいインフラが構築されようとしている。政府の起こした風に乗る形で始まった今回の人事改革の波の中で、目先の改善程度で済ませてしまうのか、それとも、長年築き上げてきた人事プロセスを思い切って否定して、腰を据えた経営改革、人事改革に取り組むのか、日本企業は大きな岐路に立たされている。逆に言えば、いままで人事面での整備が遅れていた企業でも、今までに苦労して築き上げてきたインフラがない分、しがらみなく自由に改革を行い、一気にリープフロッグ化して、人事面から企業競争力を高めることが可能な時代であるとも言える。

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