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column

「正確な測定」をあきらめるな(評価品質を高めるために①)

 階層別の能力課題を定量的に把握するためには、評価情報を経年で集計分析するとよい。個々人の評価結果は、その資格等級で発揮すべき能力に対しての現状レベルを示すから、各資格等級における共通する能力課題や、その経年変化、部署ごとの違いも浮き彫りになる。この「スキルギャップ」をもとにして育成策を練るのが、合理的な研修設計の常套手段だ。

 だからまず、評価情報を分析しましょうと言うと「いやぁ、でも上司の評価だから、ブレもあるしデータとしてどうかな」との声が返ってくることがある。結果を見る業績評価ならまだしも、能力評価については、その正確性をハナから信じていないかのような反応。経営サイドが、自社の管理職には「正確な評価」はできないとはあきらめているのではないか。そんな印象をうける機会は、実は少なくない。

 能力評価は、通常、昇給・昇格に反映させるが、評価結果に差がある二人の人材について、「この二人同期だし、実際のところ、仕事ぶりはそんなに違わないし、両方昇格させません?」などという情景も珍しくない。それが、年功的運用を助長しているわけだが、そこには「しょせん評価は評価で、実態は別」という暗黙の共通認識さえうかがえる。

 まず、この状況を変えねばならないのではないか。人材の能力や動力(エンゲージメント)を高め労働の成果を最大化すべく人的資本に投資するのであれば、現場での評価はその検証と駆動の道具であり、評価品質のレベルは人的資本経営の品質を左右するからだ。ゆえに「正確な測定」としての評価の実現が愚直に追及されなければならない。

 また、じつに多くの企業が評価運用の問題を抱えている。社員の不満(=評価の不公平感や不透明感)がエンゲージメントを下げる、処遇決定だけで育成には使えない、マネジャーの評価負荷が高すぎる等々さまざまだが、それらを解決するには、評価フィードバックの技法や育成前提の評価運用の工夫以前に、まず「正確な測定」が出来なければ始まらない。

 評価品質を向上させるには、①評価の仕組み ②評価の運用 ③評価のスキル の3つの観点で手を打つ必要がある。 

 最初の観点、①評価の仕組みでいえば、正確な測定のためには「評価項目をいかに明快な基準たりうるものとして設計するか」が勘所となる。正確な測定=絶対評価(基準に照らした評定)であり、評価項目定義が、照らすべき基準だからだ。ともすれば、能力評価項目は抽象度が高く、基準としてはあいまいになりがちなので、その項目で「なにを評価するのか」がきちんと概念整理され、記述されることがポイントになる。

 たとえば、G3等級(管理職手前)の「課題設定力」が以下と定義されていたとする。

 ■方針を踏まえ自組織の課題を抽出・整理し、上位者へ的確に提言している
  これはどの会社でも使えるような一般的な記述だが、自社においてどのような「抽出・整理」を評価するのか、どのような「的確」を評価するかは、見えない。これがA社ではこう書かれている。

 ■方針を踏まえ自組織の現状の問題に対して原因を深く考察し、信頼性の高いデータなどで検証しながら、具体的にやるべきことを上位者に提言している
  このような定義文は、A社のG3等級の課題設定は、「原因を深く考察」「客観的な検証」「施策の具体性」がなければいけないというメッセージになっており、その観点で部下の行動事実に照らせばよいから、判断基準足りえている。

  ついでにいえば、ここでは提言する施策の妥当性は問うていない。妥当な施策を定めるのは上位者たる管理職者で、それは管理職用の「課題設定力」項目定義で問われることだからだ。G3には、提言する施策の具体性とそのもとになる問題の考察と検証の行動だけを問うている。つまり、A社では、「課題設定」のプロセスの何を評価するかが階層的に定まっている。

 こうした評価項目の設計は、人事部門だけではなく、現場の管理職を巻き込まないと難しい。評価項目が抽象的だから職種別「行動例」をつけるという設計をする場合もあり、現場への依頼というと行動例作成としがちだが、実はそうではない。細かい行動例は、むしろ評価のブレを増大しかねない。大事なことは、さきのA社の例のような概念整理にこそ現場管理職の知見をいれ、評価定義自体を実際の行動事実と照らしやすい、いわば「使える基準」として仕上げることである。

 以上は、評価制度の設計や改訂する場合の留意だが、評価の仕組みはもうできあがっていて、確かにあいまいな評価項目ではあるが、現時点で変えようがないという場合でも、評価品質を高める方法はある。次回は、運用のなかで品質を担保し、また確実に評価スキルをあげる手法を提起したい。

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