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コラム

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生涯現役というソリューション | 関連制度設計

生涯現役というソリューション

生涯現役というソリューション 栄養、医療等のイノベーションで、我々は、今よりも健康で長寿になると言われている。現在の日本の中学生は、2人に1人が107歳まで生きると言う予測もある。長寿自体は喜ばしい事だが、我々が長寿化することで、従来の社会システムのバランスが崩れ、今までは気にせずに済んだ悩ましい問題に向き合わざるを得なくなる。端的に言えば、我々が、今まで80歳まで生きることを前提に人生設計を組んでいたとして、実際は100歳まで生きる状況になった時、追加された20年間の経済的基盤をどう確保するかと言う事だ。 我々の一生を教育ステージ、就業ステージ、引退ステージの3ステージに区分すると、現在のそれぞれの期間は、おおよそ20年、40年、20年と考えられる。引退ステージの後にさらに20年追加されると、当然、この人生の3ステージ全体のバランスを改めて取っていかねばならない。人生80年と想定し、リタイア後の20年を年金とそれまで蓄えていた貯金を使ってやり繰りしながら80歳まで生きてきた時、「おめでとうございます。追加であと20年生きられます!」と言われたら、我々は一体、どうすればよいのだろうか?少子化の中で、政府に何かを期待できる時代ではない。もし、残り20年分の経済的準備ができていなければ、その後の人生は、かなり憂鬱なものとなってしまうかも知れない。もっとも、実際は、ある日突然、一気に平均寿命が延びるわけではなく、年齢が若くなるにしたがって、徐々に平均寿命も延びていくので、現実は、これほど極端ではないが、いずれにせよ、我々ほぼ全員が、いままで以上に長生きする前提で、これからの人生設計をしていかねばならない。 私が20代の頃、若いうちから、かなりハードに働いて、そこそこの額の貯金をため、定年を待たずに4~ 50代までにリタイアして、あとは時折、旅行でもしながら、悠々自適に暮らしたいと話す友人達が、周囲に少なからずいた。「君は一体いくつまで働くの?」飲み会の席などで、友人達からそんな質問を時折受けたことを覚えている。当時は、短期間に強烈に働いて、早々にリタイアする人生を目指す事は、将来の人生を考えるスタンスとして、それほど不適切なものではなく、実際に実現できるかどうかは別として、概ねポジティブに受け入れられていたように思う。 ただ、そうした計画を立て、中には実際に実現できた人々もいるだろうが、今になって、さらに20年分の生活が追加されるとなれば、どうだろう? 再度、収入を得るための活動を再開する必要が出てくるかも知れないし、何より100歳まで生きるのに、4~50歳で、リタイアしたら、引退後の人生の期間は、あまりに長く、時間を持て余してしまうに違いない。当時は、早期リタイアを目指す人生は肯定的であったかも知れないが、やがて来る長寿化時代を見据えると、今や、そうした人生設計はリスクが高く、あまり魅力的とも賢明な選択とも言えなくなってくる。 今後、医療の進歩等で、さらなる長寿化やアンチエイジングが進む事も考えられ、将来の自分の身体能力がどこでどのように変化していくのかも、過去の人々のケースを参考には出来なくなくなって来る。また、どの仕事がAIにとって代わっていくか、明確には予測ができない事などを考えると、これからの人生で、いつまで働こうか、どんな仕事をしていこうか、と算段することが極めて難しい現実に直面する。先を見越して計画を立てるには、自分自身も含めて、将来の環境や前提を安易に見定められない状況がそこにはある。 それならば、いっそ、潔く、生涯現役宣言をして、死ぬまで働く覚悟を持って、健康に留意しつつ生きていく方がよっぽど、気分がよいと思うのだがどうだろうか。 また、どの仕事が今後生き残るか、高い収入が得られるかと検討する事も大切だが、それも不確実性が高く、当てが外れる事も大いにあるだろう。であれば、何より、自分がやっていて楽しく感じられ、自分の特性が最大限、発揮できることで他者に貢献ができると思える仕事が何なのかを今からでも、真剣に自問し、見つけていく事が、何よりも重要なのかもしれない。そんな仕事を見つけられれば、仮に収入は多くなくとも、やりがいを感じ、大きなストレスなく、働いていけるし、より幸せを感じて過ごしていけるだろう。 この問題に対する答えは、どこかで誰かが用意してくれることはない。自分自身をよく理解し、自らその答えを見つけるしかない。今までは、そこまで深刻に考えなくても、ほど良いタイミングで寿命がやって来たが、これからは、社会を大きく変化していく環境の中で、老後を生きていかなければならないのだ。そんな未来を見据えて、我々は、早期リタイアを目指すマインドから、生涯を通じて、考え、学び、働き、そして、それを楽しむ・・そんなマインドセットに切り替えていく事になるのだろう。

変わる評価 | その他

変わる評価

 社員の評価に問題のない企業はない。問題がないどころか、評価が全く機能していないなど極めて深刻な状態にある企業も少なくない。  近年日本企業の人事制度は、緩やかではあるが大きく方向を転換してきた。年功的処遇、終身雇用の制度から、実力、成果を重視する制度へと確実に変化している。今やどの企業でも、実力、成果で社員の処遇を決定することを、基本的な思想として普通に表明している。実力、成果を軸とすると、今までより理論的、体系的な仕組みが要求される。等級制度は、社員のレベルをより詳細に定義しなければならない。また労働市場に合わせて職種別に再編したり、等級の定義をより詳細化する傾向にある。また昇格だけでなく降格も普通の機能となってきた。実力で処遇するためには、実力に応じた等級にすることであるため、等級が上がる一方ではなく、エレベーター式の仕組みが求められるからである。給与制度では、等級が違えば月給に差をつけるような、階段状の月給が多くなった。賞与に関しては、成果を挙げたものに、さらにより多くの配分をする傾向にある。  実力、成果重視の制度を実際に機能させるためには、等級制度、給与制度が理論的、構造的に設計されている上で、評価制度が機能しなければならない。評価が甘い、実際の差を反映しないものであれば、制度の威力は発揮されないからである。この評価が機能している企業が実に数ないのだ。  適正な評価を行うために、今まで経営や人事は様々な手法でこの問題を解決しようとしてきた。代表的なものは、評価者研修である。評価を行う上司に評価に関する教育を行うものである。また二次評価などのように、上司が行った評価をそのまた上の上司が再チェックすることも多くの企業で実施されている。さらに評価表一枚一枚を会議体で検証するような取り組みも多い。絶対評価をやめ、相対順位で評価を決定する企業も一定数ある。結果としてみると、これらの手法は適正な評価を行うための決定打ではなかったということだ。上記の手法は、一部は一時的な効果にとどまり、一部は効果があるが実施の負荷が高すぎるなど課題が残り本質的な解決にならない。  長期雇用で職場内のチームワークを重視する組織体で、上司は部下にストレートな評価が困難である。どうしても甘い評価になったり、差をつけない評価になってしまう。利害関係のある、上司から部下への評価を適正にする努力は実を結ばないということだ。最近はこの問題を解決するために、多面評価と外部評価を用いる企業が現れ始めた。上司だけでなく、多くの関係者の評価のほうが組織内では正しい評価ではないかということである。外部評価は主に管理職などの管理能力を外部の専門家が判定するというものである。社内の衆目の評価と外部視点での実力評価で判定するというものである。たしかにこの手法は解決しなければならない課題はあるが、今までの手法と比較にならない決定的な解決策になる可能性を持っている。評価が機能しない限り人事制度が当初の目的を達しない。評価を機能させるためには、何度も失敗してきた手法を捨て、新たな解決策を模索する必要があるのではないか。 以上

間違いだらけの女性活躍推進 | その他

間違いだらけの女性活躍推進

小学生の子を持つ筆者の周りのワーキングマザーたちに異変が起きている。赤ちゃんの頃から保育園に預けて働き、寝る間を削って雇用やキャリアを維持してきたワーキングマザーが、一人また一人と転職や非正規への転身を果たしているのだ。個人としてはハッピーでも、勤めていた会社としては、ようやく本格的に活躍してもらえると思った矢先に退職されてしまった格好である。なぜこのようなことが起こっているのか、そして避ける手立てはどこにあるのだろうか。 全体を俯瞰してみれば、平成28年4月の女性活躍推進法の施行以来、日本の女性活躍推進は順調に進んでいるように見える。『男女共同参画白書(概要版) 平成30年版』※によれば、生産年齢人口の就業率は女性25~44歳で74.3%、前年比1.6ポイント上昇。出産を契機に女性が退職するいわゆる「M字カーブ」の底も浅くなっており、産んでも辞めない傾向が強まっている。一方で、管理的職業従事者に占める女性の割合は,平成29年においては13.2%であり,諸外国と比べて低い水準となっている。 「就業」という観点からみれば好調だが、「活躍」にはまだまだ課題があるという状態である。冒頭のワーキングマザーたちがその例だ。一体「活躍」の何が課題なのか。彼女たちのコメントから見えるのは、1つには昇格プレッシャーだ。 「管理職になるようしつこく言われて会社を辞めた。ここで会社の言う通り昇格したとしても私にはとても無理だと思ったら、居づらくなってしまった」(金融業・正社員) 管理職になりたくないという声は、女性に限らず、中堅社員でも、専門性の高い職種でもよくある話だ。管理職昇格はモチベーションにはならない。では何で動くのか。それは「やりたい」と気持ちが動くかどうかだ。 「ずっとやりたかった仕事のアルバイトからスタートすることにした。正社員は、残業20時間できますか?と言われてあきらめたけど、とにかく始めてみる」(代理店・正社員) 「やりたい」と思えば、すごいエネルギーが生まれるものだ。女性管理職を増やしたい、男性と同等にチャンスを与えるので応えてほしい、というオファーは、しょせん会社の論理である。会社の論理そのままで、ワーキングマザーだけに変われと言うのは大きな間違いだ。 多くのワーキングマザーは、子どものケアや家事など家庭のさまざまな役割を、「私しかできないこと」という諦めと責任感で引き受けている。会社が仕事に向けて彼女たちの“気持ちを動かす”には、彼女たちが抱えている「私しかできないこと」リストの上位に仕事を位置付けるしかない。が、組織とは本来、だれでも代替できるように仕事を管理するものだから、「私にしかできない仕事」は基本ない。だから「私がやりたい」という気持ちがものすごく強く持てないと、リストの上位には食い込めない。 とすれば女性活躍推進として会社が取り組むべきは、「やりたい」という気持ちを育てるよう、仕事と職場を変えることだ。スモールステップで自分のアイデアを実現する機会を増やす、そういった活動を評価するのは一案だろう。 ワーキングマザーの「やりたい」を引き出せたとき、あなたの会社はすべての社員にとって、「やりたい」を感じられる組織に近づいているに違いない。 ※『男女共同参画白書(概要版) 平成30年版』 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/18-2/dl/gaikyou.pdf

50代半減 | 雇用施策・その他

50代半減

 長期雇用を前提とした日本の人事管理では、社員の年齢構成は非常に重要な論点となる。企業が持続的に成長するためには、その企業のコアノウハウ、文化を次世代に継承し、さらに発展させていくとう連続的な循環が必要となる。そのためには、年齢構成は緩やかな台形型が理想形である。台形型の年齢構成は、毎年ほぼ同数の定年及び自己都合退職者が出て、ほぼ同数の新卒社員が採用されるということだ。退職社員と採用社員がほぼ一定であることから、継続性のある安定したノウハウ、文化の継承がされるという考え方だ。  台形型の年齢構成でない企業では、年齢構成由来で重大な問題が発生する傾向にある。近年日本の大手企業の代表的な年齢構成は、バブル採用の50歳代の社員が非常に多く、逆に40歳、30歳代は極端に少ない。長い採用抑制の影響である。近年は積極的に新卒採用をする企業が増えたため、20代半ば以下は比較的多くの社員が在籍している。このため平均年齢は40歳を超えており、職場の雰囲気もマチュアだ。  50歳代のような年齢構成の突出層は、放置すると大きな問題を発生させる。まず突出層の社員はスキルが高くない傾向が強い。若いうちはこの問題は顕在化しないが、職場の中で中堅的仕事、係長や管理職候補の年代になってくると、実際に担当している業務と処遇の不整合が発生する。下の年代の人数が少ないため、ずっと実務を担当しなければならないからだ。年功的な企業であれば、等級は上昇するため、次第に仕事のレベルと等級のミスマッチが増大する。その結果年齢上昇→等級上昇→人件費上昇という人件費上の問題も発生する。さらに下の年代の社員が極端に少ないため、部下が少ない、ないしはいないこともある。そのためリーダーシップが鍛えられない。管理職として登用するに十分な経験が積めないのだ。管理職等級に昇格してもポストの空きがない、またはそもそも管理職一歩手前の等級に長期間滞留することもある。モチベーションが高まらない。  突出層の問題はこの年代だけに留まらない。突出層の下の年代も育たないのだ。突出層の下の年代は、多数の先輩がいる。若手が十分に補充されないので、長い期間がたっても組織内での相対的序列は高まらない。また突出層でさえ管理職ポスト待ち人材が多いので、自分たちがポストにつける可能性がさらに低い。  突出層は育たない。突出層の下も育たない。そして突出層は50歳代となっている。この問題はバブル採用時からずっと指摘されてきた問題である。中には年齢構成是正施策を実施してきた少数の企業はあるが、大多数は問題と分かっていても手を付けてこなかった。今後経営環境が変化していくなかで、人件費適正化、人材の質の向上、職場の活性化が重視される中で、遅ればせながらこの突出層に対する施策が重要となる。理論的に考えれば50歳代は数年間に半減以上する施策が必要となる。直ちに手を付けなければ、激変する環境下でさらに成長を継続する企業にならず、逆に成長力を失ってしまう。遅ればせながら50歳代の雇用施策がブームとなりつつあるが、この問題に本格的に向き合う最後のタイミングではないだろうか。 以上

インフルエンザとエレベーター | その他

インフルエンザとエレベーター

仮にあなたが病院を訪れ、「熱があって、のどが痛くて、鼻も詰まり気味で…」と話したところ、医師から「熱には解熱剤、のどには抗炎症剤、あと鼻づまり改善薬をそれぞれ処方しておきますね」と言われたら、どう感じるでしょうか? 私だったら不満ですし、不安を覚えます。 なぜなら「対症療法の羅列」で、「総合的な診断」がされていないからです。 いろいろな問題症状を伝えたけれど、総合的な診断の結果、風邪なのか、インフルエンザなのかなどについて伝えてもらえていません。そして、個別症状の解消を試みても、本質的な問題(真因)の解決には至らないことが想像できます。 それどころか、良かれと思って、「モグラたたき」のように対症療法を繰り返している間に、場合によっては、深刻な病気が進行してしまう可能性も否めません。 「そんな医師はいないよ」という声が聞こえてきそうですが…あなたの会社では、「問題症状をリスト化し、それらに対して1:1の解決策を検討する」という手法を用いていないでしょうか? 続けて、有名なエレベーターの話を見ていきましょう。 あなたが所有するオフィスビルで、「エレベーターの待ち時間が長い」という苦情が出ているとします。あなたは、この話をどう捉え、どんな解決策を打ち出すでしょうか? よく出てくる案としては、「エレベーターをスピードの速いものに替える」や「特定の部品やプログラムを高品質なものに替える」といったものがあります。 しかし、優れた成功例として紹介されるのは、「エレベーターの横に鏡を取り付けたら、苦情が格段に減った」という話です。 何が違うか、お気づきになったでしょうか。 「エレベーターの待ち時間が長い」という苦情(問題症状)を聞いて、問題は「エレベーターが来るまでの物理的時間が長い」ことだと捉えると、「エレベーターのスピードを速める」という解決策が出てきます。 一方、同じ苦情を聞いて、問題は「エレベーターが来るまでの心理的時間、手持ち無沙汰で気まずい時間が長い」ことだと捉えると、「エレベーターに乗るまでの時間を、身だしなみのチェックなどに使ってもらうために、鏡を用意してあげてはどうか」という解決策が出てくるというわけです。 あるいは、同じ苦情を聞いて、「エレベーターの需要ピークが集中すること」が問題だと捉えれば、「昼食休憩の時間帯をずらす」といった解決策も出てきます。 冒頭の話では、「システム思考*で真因を捉えて、その解決に取り組みましょう」とお伝えしていました。 他方、エレベーターの話は、「私たちが本当に解決すべき問題は何なのか?それより、もっと良い問題は無いのか?」(真因が1つとは限らない。その事象を、どんな視点から捉えることを選ぶのか?)と考えることも非常に有効であるという内容でした。 私たちは、「短い時間で成果を出す、すぐに行動する」ことを求められ、「解決すべきはその問題なのか?」について吟味する手間を省きがちになってきているのではないかと感じています。 「人手不足だから採用に力を入れよう」、「評価面談が下手だからフィードバック研修をやろう」など、いろいろな話を聞きますが…それが、貴社にとって本当に取り組むべき施策なのか、是非検討なさってみてください。 *システム思考 ここでは、「さまざまな要素の複雑なつながりをシステムとして捉え、構造の全体像を俯瞰し、その複雑な挙動を理解して、システムそのものの改善を図るものの見方」を指しています。

招聘 | その他

招聘

 「私は顔認証技術の研究において誰にも引けを取らない。私の能力を最大限に活かせるポジションを、貴社は提供できるのか。」  東京の理系大学院で研究活動を行う留学生たちが企業に投げかけるのは、こんな質問だ。昨年、年の瀬が押し迫るころに某大学が主催した、中国企業による中国人留学生向けの合同就職説明会での風景である。いま、中国企業は、外国に留学している学生の中から優秀人材を掘り起こそうと、非常にフットワークの良い採用活動を展開している。  学生からの質問に対する企業側の反応も、日本の合同説明会とはやや様子が異なる。 「当社のAI開発技術は世界でトップクラス、君の顔認証技術研究は必ず当社の戦略に役立つでしょう。CV(履歴書)は持ってきましたか。具体的な条件の話をしましょう。」 「当社が求める人材は、あなたのプロフィールとは異なります。あなたの時間を無駄にしてはいけません。他の会社のブースを訪ねてみてください。」  試みに、採用担当者のひとりに尋ねた。貴社はいったい何年間、この学生を雇用しようと思うのか。返ってきた答えは、「長く勤めてもらおうと思っている。長ければ長いほどよい。4年でも5年でも・・。」我が国の雇用慣習に比べると、ダイナミクスが違う。  日本企業の新卒採用では、周知のとおり、終身雇用を前提とする採用が主流である。終身雇用は、新卒学生の40年あまりのキャリアにコミットするということだ。定年退職者が会社を去り、新卒社員を迎える、それ以外の新陳代謝は限られる。晴天に霹靂を聞くような経済環境変化に見舞われようが、雪崩のような技術革新が起ころうが、同じメンバーで何とかやっていかなければならない。だから、日本の企業では入社後に仲間とうまくやっていける能力を重要視する。面接官が最も重要だと考えるチェックポイントは「コミュニケーション能力」だそうだ。  グローバルな競争に勝ち抜くためには、雇用に関するこうした考え方を変えて行かざるを得ないだろう。各企業の成長段階に合わせて、必要なタイプの人材を過不足無く雇用することが重要課題になってくる。人材が不足すれば競争力を作れない。必要でない人材を抱えれば次の成長への投資余力を稼げない。おまけに、肝心の人材要件が、技術の進歩や社会の変化によって目まぐるしく変わっていく。需要と供給の交点で雇用が決まる「市場型」の雇用システムが主流を占める時代は、私たちが想像するより早いスピードで訪れるのではないかと想像する。このような時代を見据えて、活発な新陳代謝を前提とした人事施策を取り入れていく覚悟が不可欠だ。  就中、新卒採用活動においては、大きな変化が求められる。有名大学の卒業生ならばおよそ質が確保されているからと、できるだけ偏差値の高い大学に広く募集をかけて、コミュニケーション能力で絞り込み、相対的に良さそうな学生をとりあえず採用する。あとは会社の教育システムとOJTに任せる。こんなやり方では、きっと立ち行かない。  まずは、「長期的な」という枕詞の後にあやふやな人材像をイメージすることを止め、短期・中期的視点での具体的な能力要件を定義する。そして、あらゆる手段を講じてピンポイントの人材を探しに行き、絶対的にマッチする人材を発掘する。そういった姿勢が必要な時代がやってくるだろう。  中国企業による留学生向け会社説明会は、盛況のうちに終わった。某先進IT企業の採用担当者は、「いつでも東京に足を運びます。次の機会にも必ず声をかけてください。」と、流ちょうな日本語で言い残した。中国語で「雇用」のことを「招聘」というのだそうだ。

チームとしての経営力 | その他

チームとしての経営力

 経営人材育成の取り組みが増えている。  ともすれば、役員=従業員のアガリ、であって、明確な役員登用基準や育成施策がない場合も少なくなかったが、それではVUCA時代の経営として心もとない。ときに痛い目にあった登用の失敗を避け、今後の経営をリードしうる経営人材を計画的に作り出していくには、役員要件をはっきりさせ、そのあるなしを客観的に見極めることが不可欠だと、多くの企業で痛感されている状況がその背景にある。  その方法としては、「今までではなく今後」の自社の役員に求められるスキルや経験が、何かを検討し要件として定義し、アセスメントセンター方式や360度診断、適性診断等複数の測定手法と経歴管理(≒タレントマネジメント)をもちいて、直近の役員登用だけでなく、中長期的な役員輩出の仕組み(=リーダーシップ・パイプライン)をつくるというのが常套的である。ここで大事なことは、定めた役員要件をすべて満たすことが登用の条件ではないということだ。異なる強みを持った人材が集まる経営チームであることこそが、強い経営力なのである。  経営情報の開示がすすむ海外では、経営陣のスキルマップが自社のウェブサイトで公開されている。つまり、役員ひとりひとりの強みの違いが一覧できるようになっているのだ。日本ではまだその例は少ないが、何社かは、それぞれに特徴のある役員スキルマップが掲載されている。共通するのは、ファイナンスやマーケティングといった経営リテラシー領域別の強みだけではなく、能力や資質の項目でもマーキングがされていることだ。  例えば、ある企業では、リテラシーとしての得意分野に加えて、マネジメントスキル、資質・姿勢、さらには行動特性といったカテゴリーでマッピングされている。資質面の項目は、「忍耐性・持久力」、「柔軟性・適応力」、「活動性・指導力」など5項目、興味深いのは行動特性の項目で、「インスピレーション」、「シンキング」、「フィーリング」、「プラティカル」の4項目。これら項目で、社長以下全経営陣のスキルマップがつくられているのだ。ここには、自社はどのような経営チームであるべきかという思想と実態が、要件項目とバランスの両面から示されている。  「チームとしての経営力」をゴールとするリーダーシップ・パイプラインでは、各階層の昇格に際して「総合点」以上に、個別の「強み」の把握がポイントになる。「弱み」の克服は重要ではあるが、強みをより強くする育成こそが求められる。弱みをなくし個人としてバランスの取れた経営人材候補よりも、むしろ突出した強みや明確な思考や行動の特性を有する人材をはっきりと把握し、どう育成するかが問われることになる。  最終的にチームとしてのバランスさえ取れていればよく、個々がとんがった強みをもつ異質人材の集まりは、イノベーションが生まれる創発の場たりうる条件でもあるからだ。VUCA環境下で求められる状況適応力の高い組織とは、多様性を内部に持たねばならないともいわれる。「チームとしての経営力」とは、防衛的ではないもっとも攻撃的なダイバーシティマネジメント施策として、最初に実践すべきことともいえるかもしれない。

隗(かい)より始めよ | その他

隗(かい)より始めよ

経営者や管理職は日々難しい判断と行動を求められているため、それをアシストしてくれる部下をうまく育てていかなければなりません。ただ、部下が全員経営について論じていいのかというとそうではありません。それぞれに見合った役割を与えることが必要です。 たとえば、新規開発をやっていく部門であれば、今までの常識では思いつかないような閃きが仕事につながってくるだろうし、事務部門であればミスなく迅速に仕事をすることが求められます。つまり、柔軟な発想を持ってプランニングをする部下が必要であると同時に、地道であっても仕事をキチンとこなし続ける部下も必要なのです。 AI人材とかベンチャー気質とか様々なスキルが言われていますが、そういう優れた能力を持っている人材は実際にはほんの一握りでしょう。大抵はコツコツと仕事を進め、成果を出すという人です。そういう人がいなければ実際のところ会社は回らないのです。 組織をトータルで見て、経営にとって必要なスキルは何なのか、そのスキルを持った人にどういうことをやってもらえばいいのか、ということを決めるのはトップの判断です。 「能力発揮による評価」という評価軸がありますが、それは会社にとって独創的な人材が何パーセント必要か、地道な仕事をする人材が何パーセント必要かを考えてそれぞれに見合った評価を実施することが求められます。独創的な仕事で成果を出しているか、地道な仕事をキチンとこなしているか、それぞれの人にそれぞれの能力を測る物差しが必要ということです。 最近の若手社員は、仕事は楽しんでやりたいとか、自己実現をしたいとかがベースにあり、その望みがかなわないのであれば会社をあっさりと辞めてしまうほど、その物差しは重要なものになっています。こういった社員をどう使っていくか、組織管理において経営トップや管理職は一層考えなければなりません。それぞれの個性に対して、どのような要求をするのか、どう育成していくのか。そのために会社はどの方向へ進んでいくのか、何を目的とし、何を理想とするのかを明確にしていく必要があります。いわゆる企業のビジョン、グランドデザインが不可欠ということです。漫然と能力評価といってもコンセプトがなければ重みがありません。 企業の経営計画の達成と成長は、経営に必要とされるスキルを保有する人材が必要なだけ配置され、かつ継続的に生み出す仕組みであること、そして人材が期待される行動や意識をもって活躍・成長し続けることによって実現できるのです。「隗(かい)より始めよ」というようにトップから始めないと成長はできないでしょうし、魅力ある会社にはなれないのです。 以上                                          隗(かい)より始めよ 〔「戦国策燕策」にある郭隗(かくかい)の故事。隗が燕の昭王に、賢臣を求めるならまず自分のようなつまらない者を登用せよ、そうすれば賢臣が次々に集まって来るだろうと言ったことから〕 1)遠大な事をするには、手近なことから始めよ。 2)転じて、事を始めるには、まず自分自身が着手せよ。 三省堂 大辞林 第三版より

転換の年へ | その他

転換の年へ

新しい年が始まった。過去数年間にわたり、「日本経済はオリンピックまでは何とかなるだろう」という期待通り、好景気とは言えずとも、深刻な景気悪化には陥る事はないまま、件の2020年になった。未来の事は誰にもわからないが、5G投資の本格化や、オリンピック後の建設需要も当面見込まれる事などから、今年の後半から深刻な景気悪化を予測する専門家は少なく、心配しなくてよいという声をよく聞く。深刻な経済不況にならなくて済むのはなによりなのだが、ただ、そんな感覚で本当によいのだろうかとも思う。 昨年の我が国の実質GDP成長率は、およそ0.9%程度と見込まれていて、ここ数年の水準から見て、決して悪い水準ではないが、同年の世界全体の成長率見込みの約3%、アメリカの約3%、EUの約2%と比べると、やっぱり、さえない成長率と言わざるを得ない。一昨年の日本のGDP(名目)は約5兆ドルで、世界第3位の規模だが、トップのアメリカの約21兆ドル、2位の中国の約14兆ドルから、ずいぶん大きく引き離されている。また、1995年には、日本は世界のGDPシェアの約18%を占めていたが、2018年には5%台にまで低下している。 昨年は、直近の過去と比べてそれほど悪くないというだけで、世界各国の成長スピードにはついて行けていない状態が長年続いているのだが、低成長経済にあまりに慣れてしまったのか、日本経済の相対的地位の低下に対する深刻な危機感はそれほど感じられない。日本は基本的に優秀な国家なので、今のまま頑張っていれば、いずれ、風向きも変わるだろう、くらいに思っている向きも少なくないのだろうか。世界が大きく変化している事を直視せず、従来の世界観が正しいと思い込んでいる事自体が、我々の大きな課題なのかも知れない。 昨年のベストセラー本、「ファクトフルネス」(ハンス・ロスリング、 オーラ・ロスリング 、アンナ・ロスリング・ロンランド 著 日経BP社)を読むと、そうした我々の思い込みがいかに数多くあるかを知らしめてくれる。例えば、「いくらかでも電気が使える人は、世界にどのくらいいるか」の三択(A 20%・B 50%・C 80%)や、「世界の平均寿命はおよそ何歳か」の三択(A50歳・B60歳・C70歳)という問いが本書の中にはある。いずれも答えはCだが、回答者の大半は正しい答えを選べなかったという。世界の貧困や健康の状況は、日々改善されつつあり、過去に学んだ事や認識した事実から大きく変化しているのだが、先進国の国民や知的労働に従事する人ほど、正解率は低かったそうだ。我々が思っている以上の規模とスピードで、世界は日々、変化しているのだ。そうした変化を直視して、認識をアップデートしないままでは、正しい意志決定や適切な行動を行うことはそもそも難しいだろう。 世界の変化に後れを取っている事態は、人事領域にも当てはまる。特に、女性の役員、管理職の登用の推進には、多くの企業で、総じて腰が重い。ILOによると、2018年の世界の管理職に占める女性の割合は約27%に対し、日本はわずか12%とG7諸国で最下位だった。多くの企業ではこの課題を認識しつつも、自社(の業界)は特別なので・・という事で、本気でこのテーマに取り組んでいる企業は少ない。本来、労働力人口の減少に直面する我が国こそ他国以上に、女性人材の積極登用は優先度の高い課題ともいえるのだが、過去から引きずる強烈な思い込みが障害になっているのかもしれない。 ただ、個人的には日本の潜在的能力を強く信じている。なかなか火がつかないところがあるが、オイルショックも、プラザ合意も、一たび、危機に身が置かれると本気で取り組み、一気に世界をけん引する馬力を持ち合わせていたはずだ。2020年はそんなパワーが発揮され、未来に明るい光が灯されるきっかけの年になってほしいと願う。

あふれかえるデータが判断力を鈍らせる | その他

あふれかえるデータが判断力を鈍らせる

 インターネットが普及し始めた1990年代後半からの情報技術の急速な発展が、職場環境や働き方をどれだけ変えてきたか、もはやネットのない世界なんて知らない世代もいるぐらいだから、遥か昔のことのように感じるが、たかだか20数年間のことだ。私たちは既に驚異的なレベルの働き方改革を体験してきているのだ。  情報技術の目覚ましい発展により、個人で大量の情報を容易に得られるようになった一方で、日常的に処理しきれないほどのデータにさらされるようになった。ビジネスパーソンは「何かを探す」という行動に年間に150時間もの時間を費やしているといわれているが、机の引き出しから資料を探したり、PCやファイルサーバのファイルやフォルダ、大量に貯まったメールなど、膨大なデータの中から必要なデータを探し出したりするのは、想像以上に仕事の生産性に悪影響を与えていると考えた方が良い。  人には意思決定を長時間繰り返すと判断の質が低下する「判断疲れ」という現象があることが知られている。スタンフォード大学のジョナサン・レバーブ教授らが、裁判所の仮釈放委員会の「服役中の囚人を仮釈放すべきか」という決断について分析を行った実験によると、午前の初めの方に審査した囚人に対しては仮釈放を認める率が高く、時間が経過するにしたがって仮釈放を認めなくなる傾向がみられるという。つまり、重大な判断を続けて行うことでエネルギーを使い、後半は「判断疲れ」に陥ったというわけである。この例ほどではないだろうが、探したり調べたり、という作業も取捨選択、判断を伴う作業であるから、長時間繰り返すことによって、判断の質の低下が生じることが想像できる。つまりビジネスにおいて、重要な判断をしなければならない者は、極力無駄な判断をしない、というのが合理的なのである。かのスティーブ・ジョブズも常に黒のタートルネックシャツを身に着けていたのは「今日は何を着るか」という選択に頭を使いたくなかったから、と言っていたのは有名な話だ。  人間の生物学的な特性を変えることはできない以上、企業はこのような付加価値を生まない時間を削減し、社員が判断力のレベルを維持しやすい職場環境を整備しなければならない。近い将来、業務システムで扱っているようなデータだけでなく、画像や音声、Web上の口コミ情報、メール、SNSのログといった、従来のシステムでは分析が難しかったような種類のデータも収集・蓄積し、利用者の目的に応じて処理をすることができるようなデータマネジメント基盤が整備されるようになる。分析、将来予測といった業務が人工知能に置き換わっていくことが予想されている中で、人は高度な判断力が求められるようになるだろう。先進的な企業はすでに、そのような取り組みを進めており、成果を出しつつある。まだ着手していない企業は、組織内の情報を整理、蓄積し活用するためのデータマネジメント基盤を整備することが急務なのである。  余談ではあるが、上述の仮釈放委員会の実験の結果から、上司へお伺いを立てたり、あるいは採用面接を受けたりするのであれば、できるだけ早い時間帯、できれば朝一番の方が、エネルギッシュな上司や面接官の好意的な判断を期待できるかもしれない。

キャリア研修2.0 | 人材開発

キャリア研修2.0

キャリア研修参加者の満足度は、対象年代を問わず、たいへん高い。 キャリア研修の中では、自分の過去のキャリアを棚卸し、成功や失敗の経験を通じて発揮されたあるいは獲得されたスキル、やりがいの源泉だったこと等を確認する。つまりは、自身の仕事上の価値観や行動の基準を知り、能力発揮のクセ=キャリアを重ねていく上での強み弱みを内省し腹落ちさせる。そうした「自己発見」のよろこびが、高い満足度をもたらす。 近年、リーダーシップ論で盛んに取りざたされるキーワードでいえば「自己認識力」を高める効用があるということだ。自己認識力(=セルフアウェアネス)には、内的自己認識と外的自己認識力の二つがあるといわれる。内的とは、自身の価値観や譲れぬ信念やモチベーションを喚起するものの自己認識。要は、何のために働くのか、仕事を選ぶ判断の軸は何か、どんな仕事をしている時が楽しいのか、といった自己像である。 対して、外的自己認識力とは「他者から見た自己」像を認識する力。 この内的自己認識力をキャリア研修は高める。自覚していないかもしれない自身の行動原理を知ることは、今後のキャリアをデザインしていく上では、まずおさえておくべき大事な前提だ。そのうえで、組織内の役割として求められることを検討し、強み弱みを踏まえて、将来のキャリア開発計画を描くのが、研修の後半で行うことだ。この計画は、ほかならぬ自分起点の計画であることに大きな意義がある。反面、その自分起点であることに起因する限界もある。 研修内の検討を経て「キャリア目標達成のためにどのように行動するか」の意思と覚悟は宣言されているが、その方法の実効性が検討されていないからである。自身のキャリアゴールを目指す行動は、日々の職場内の行動の積み重ねである。当面の役割を果たし、目指す仕事へ向かうためには、成果発揮へむけ的確に行動し、また上司や周囲の人たちをうまく巻き込まなければならない。そのために必要なのはリアルな行動課題をもつことだ。 「自分は」どのように行動すればよいか。その答えを出すには、内的自己認識力に加えて、外的自己認識力の向上が必須である。外的自己認識つまり、自分が人にどう見えるかの認識=自己客観視能力である。それが高ければ、人との関係のなかでの自分の行動のクセ=行動課題が分かり、自分がどうふるまえばよいかを方法論化できるのだ。 その意味の実効性を高めたキャリア研修2.0のためには、まずは、自分が人にどう見えているかを知らなければならないが、さてどうするか。 360度診断(=周囲の上司、同僚、部下に対するアンケート集計分析)がもっとも有効である。診断結果には、鏡のように自身の行動傾向が写し出される。しかしキャリア研修としては、やや手間とコストがかかるというネックがある。いちばん簡単なのは、受講者が自分で周りの人に聞くことである。自分起点の360度インタビューや簡易アンケートをとることで、「自分の知らない自分」を知るステップを検討作業に組み込めばいい。聞き方さえ、きちんと設計すれば、自身の行動を客観的に振り返る材料としては充分使える。 自己認識力、とくに外的自己認識力は、マネージャーにいちばん求められる能力といわれる。リーダーとして人を動かすには、自己客観視つまり他者の目に映る自分が見えていなければならないからだ。マネジメントの役割でなくても、この事情は変わらない。ほかならぬ「自分のキャリア」の実現のためだからこそ、周りの人々への働きかけやチームとしての成果発揮にむけて、「自分にとっての行動課題」を自覚しなければならないのだ。

部下を育てること | その他

部下を育てること

部下を育てることに関して、企業が大きな勘違いをしていると思うことがあります。 それは、部下はすべて同じ手法で育てるものだと考えているところです。 部下の人材には大きく2種類あり、ひとつは「成長する気がある部下」、もうひとつは 「成長する気がない部下」であり、これを最初に見抜くことが必要です。なぜならそれぞれに対応の仕方が異なってくるからです。 「成長する気のある部下」ですが、これは簡単です。まず話をキチンと聞いてあげる。もし間違っていればその場で軌道修正をして、あとは褒めていけば勝手に伸びていくのです。 ところが、こういった成長する気のある部下は少なく、やはり成長する気のない部下の方が多いと感じるのです。画一的な教育を受けてきて、あまり自分を出したらよくないのではないか、目立ちたくないし、お金もそんなに要らないとか、消極的な考えになっているのです。 そんな消極的な彼らは、いわゆるマニュアル人間であることをふまえて、やり方をこと細かく教えていくことがポイントになります。それから自分の頭で考えさせることが大事です。 「この先はどうすればよろしいでしょうか」と聞いてきたら「自分で考えなさい」と突き放す。「この先はあれをしなさい、これをしなさい」と指示するのは楽ですが、やっぱり自分で考えさせるには答えを教えてはいけないのです。 アメリカで生まれたファストフード店、とにかくマニュアル通りに仕事を進めることで有名ですが、これはアメリカという国事情がからんでいると言われています。それは英語も話せないスタッフを雇用して仕事をさせるため、この通りにやっていけば安全の最低限度が確保されるということです。マニュアルを使うと、どうしてもそれを絶対視する傾向があります。マニュアルにすべて頼ってしまうと進歩がなくなるのですが、このフード店では最低限度のレベルを整えて、そこからそれを超えて創意工夫を期待しているため、店ごとの良い点に少し違いが出ているようです。 また、最近の若手社員を育成するキーワードとしては、マズローのいう「自己実現」があります。仕事の選択は、面白いかどうかであり、この面白さでやる気や意欲が違っています。 例えばゲームソフトを開発する者は、二日や三日の徹夜も平気だし、営業も目標やノルマとなると嫌だが、ゲームとして捉えると面白くなる。スポーツ選手も競技で自己実現する喜びを分かっているから厳しい練習にも耐えているのです。 今のマニュアル人間である若手社員は、基本的に上司の意図を察する能力が欠落しているとよく聞きます。あ・うんの呼吸で仕事を進めるということもありません。 これからの上司は、仕事の面白さを伝え、自分で考えさせることが必要であり、上司自身が「仕事のマニュアル」を作り、こういう方針で進めていく、こういう方法で仕事をするようにと部下にしっかりと伝えていかなければなりません。この上司の作ったマニュアルを超えられた者が、将来のリーダー層になっていくことを期待しながら。