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1on1をラクにするコツ | 人材開発

1on1をラクにするコツ

 上司と部下がマンツーマンでミーティングを行う1on1は、社内のコミュニケーションを改善し目標の達成度を高くできるため、導入している企業・導入を検討している企業は数多い。上司と部下が対話形式でじっくりと話し合えることで信頼関係を築きやすく、週1回~月1回の高い頻度で定期的に行う中で、部下の仕事への動機づけを行いやすいのがその理由だ。  ビジネスのスピードが加速し、半年前に立てた目標や計画が早い段階で陳腐化しやすい現在では、1on1を通じて部下の状況を逐一把握し、目標を修正したり予期せぬ課題に早く手を打ったりすることが益々重要になっている。しかし、運用における上司の負担感が大きく、導入を難しく感じている企業もまた多いのが現実である。本稿では、そんな1on1の高い敷居を少しでも下げ、なるべく軽い労力で導入することができないかを考えてみたい。 ①何を話せばよいか、わからない  上司が負担を感じる最も多い理由のひとつとして挙がるのが、部下との対話のネタだ。会話がもたないかもしれない不安感もあるだろう。対応としては、部下が自分自身で仕事に対する気づきを得られるように、本人が話したいことを話させることが大切である。上司は話を注意深く聴くことに集中し、部下に主体的に参加してもらえるよう話したい内容を事前に本人で決めておいてもらうと良い。参考として、以下の3つのことを事前に考えてもらっておけば、部下の状況を把握しやすく、対話は立派に成立する。 (1)最近の取り組みで良かったこと・その理由・良かったことを継続するために取り組みたいこと (2)最近の取り組みで悪かったこと・その課題・課題に対して取り組みたいこと (3)キャリアについての相談・困っていること等  大事なポイントは、上司が一方的に話したり、業務の単なる進捗確認をしたりしないということだ。報告・確認は日々の業務指示の中で行えばよく、対話の中では部下の本音を引き出し、会話のキャッチボールをすることに専念してもらいたい。 ②時間がない  次に多いのは、対話できるまとまった時間が取れないという理由だ。一人で何十人もの部下を管理しているのなら分からなくもないが、数人の部下に対してひと月15分~20分くらいの時間を確保することぐらいはできるのではないだろうか。時間は部下の状況によって調整する工夫もできる。仕事が順調で大きな課題感もない部下の場合なら、10分程度で終わってしまっても良いと思う。あるいは、困難な課題に直面していて、20分では終わらない場合は、部下の方で自発的に対話時間の再調整をしてもらい、2回目・3回目と時間の許す限り実施しても良いだろう(このような場合、じっくり話し合う時間をとった方が、結果として生産性が上がりやすいことが多い)。  大事なポイントは、部下が相談しやすい環境を作り、とにかく対話を継続することだ。月1回が無理でも隔月1回~四半期1回とするなど、取り組み可能なペースでやり続けることが、部下への浸透につながる。 ③効果がわからない  最後に挙げるのは、果たして1on1による効果が測れるのか、という疑問だ。これについては相当な時間がかかると思った方がいい。なぜなら、1on1の効果の一つである人材育成は、評価制度や教育施策等と同様に、かなり時間の掛かるものだからだ。まして、1回の対話の中で解決策が明確化して部下の行動が劇的に変わる、などといったことは殆どないだろう。上司は対話の中で「結論を出そう」「成果を出そう」とあまり気を張らずに、部下の自発性を尊重して、本人自身の経験から学ぶための気づきのきっかけ作りに努めてもらいたい。  とはいえ、せっかくの1on1が単なる雑談で終わってしまう懸念があるかもしれない。しかし、上司が部下の本音と気づきを上手く引き出すことさえできれば、以前よりも部下の状態や業務の状況を正確に把握し、より早くより適切な助言をすることは確実に可能になる。ときには部下からもフィードバックをもらい、1on1の有効性について認識を合わせることも効果的だ。  以上、部下の自発性・主体性がいかに重要かを強調しながら、なるべく楽に取り組める方法はないか検討してみた。上司だけでなく部下にも参画意識をなるべく高く持ってもらい、1on1をお互いの努力で有意義なものにしていく必要がある。しかし、部下の参画意識を引き出すことができるのは、日々の業務における上司の部下に対する接し方と、人材育成にかける強い意志に他ならないことを忘れてはいけない。上司が、部下との関係性に日頃から気配りしていれば1on1実行の障害は少なく、対話による相乗効果によって組織のコミュニケーションは着実に活性化していくに違いない。もし、1on1が上手くいかないと悩んでいる時があれば、まず最初に「部下が近づきやすい・話しかけやすい雰囲気づくりができているか」と、自身に問いかけてもらいたい。

組織の共通言語と多様性の二兎を追うには | その他

組織の共通言語と多様性の二兎を追うには

 ある会社で、採用面接に来られた方が、志望動機として「ホームページに親近感を感じたから」と言った。自分の専門領域で日ごろ使っているキーワードと会社のそれの共通性が高かったのだという。ある程度の専門性を前提として、さまざまな会社を見比べて、業務の考え方や価値観に相通ずるものやリスペクトを感じた、というのは、立派な志望動機になろう。「共通言語」が通じるということだから。    会社や組織における共通言語とは、一緒に働く人々の間で共有されている用語、ナレッジ、さらには規範やものの考え方などを指す。共通言語が成立している職場では、仲間どうしの相互理解は早く正確になるし、分かり合えないストレスは軽減されるので、効果的効率的に協働しやすい。有名なところではトヨタ自動車の「問題解決」や、仕事の手順書、バリューやクレドなど、さまざまな共通言語の形態がある。    共通言語の促進に慎重な企業もある。ある研究開発企業は、さまざまな共通言語の手法・事例を研究した上で、「わが社がもっとも重要視する自由な発想を妨げる」という理由で検討を止めた。悩ましいのは、多くの業界で既存プレイヤーの再編・規模化が進むなかで、組織がどんどん大きくなっている。共通言語経営で組織力を強化することと、自律性・多様性の二兎をどう追えばよいかが、人・組織の運営方針として重要命題になっているのだ。    ここで現実の言語政策にヒントを求めてみたい。  24の公用語と60の少数民族・地域言語が存在すると言われるEUでは、言語を文化的資産と捉え、話者数に関わらず等しく価値を認め尊重する「多言語主義」を取っている。さまざまな公文書は少なくとも一部は全公用語に翻訳され、言語アクセスを保証しているという。加えて、言語政策として、母語に加えて少なくとも二つの外国語(EU諸国で使用されている言語)を幼少期から学ぶべきだという指針のもと、「多言語教育」を推進している(「駐日欧州連合代表部公式ウェブマガジンEUMAG」より)。多大なコストを払い、多大な投資を行って、公用語を持つメリットと、さまざまな言語のもたらす歴史・文化的な豊かさの両方を追及している。    このような多言語主義の考えを組織運営に当てはめてみると、社内のプラットフォームとして共通のツールや価値観を共通言語として推進する意味はあるものの、それだけでは多様性が失われる懸念がある。組織運営においても「多言語教育」に当たるものが必要だろう。社員一人一人が多様なバックグラウンド、仕事以外の領域の知見・視点を、共通言語のアップデートに活かしてもらうこと。さまざまなやり方があるだろうが、EUの多言語政策と同様に、投資や仕組みが必要だ。    おりしも、多くの企業で、リスキリング促進の流れを受けて、副業や学びのための休職といった組織外の活動が奨励され始めている。組織の統合と、社員の多様性を両立させていくための道具立ては少しずつ揃い始めている。

未来への舵取り<br />管理職になりたがらない若手や早期離職してしまう若手に向けての提言 | 人材開発

未来への舵取り管理職になりたがらない若手や早期離職してしまう若手に向けての提言

未来を担う若手諸君へ。  先輩として50代を迎え、数々の経験を積んできた私から、管理職への抵抗や早期離職への理由に向き合う上で重要な視点を共有したいと思います。キャリアの岐路での選択は一つのステージに過ぎません。その先に広がる未来への舵取りについて、ぜひ考えてみてはいかがでしょうか。 1. 「成功」の定義を見直す  若手の皆さんの中には、管理職になることが唯一の成功だと考える者もいれば、それに抵抗を感じる者もいる。しかし、成功とは人それぞれ異なるものであり、それが必ずしも役職や給与に結びつくものではないことを理解することが大切だ。キャリアの成功は、自分自身の価値観や目標に基づいて定義されるものであり、他者の期待に応えるだけでなく、自分の意義や喜びも含まれている。 2. 職場の文化と自己調整力  若手の皆さんが管理職を避ける理由の一つに、職場の文化との不一致が挙げられることがある。しかし、組織は変化するものであり、現在の状況が永遠に将来も続くわけではない。まずは自分が働きやすい環境を模索し、同時に変化に対応する柔軟性を育むことが重要だ。職場の文化に馴染まない場合でも、自分の強みを活かし、ポジティブな影響を与える方法を模索することがキャリアの成功に繋がる。 3. 専門性とリーダーシップのバランス  若手の皆さんが管理職に上がることで専門性を失うのではないかという不安があるかもしれない。しかし、管理職としてのスキルは専門性と同様に重要であり、そのバランスが真のリーダーシップを生む。自らの専門性を磨きながらも、新しい役割に挑戦し、組織全体を俯瞰する視点を養うことが、将来のキャリアにおいて大いに役立つだろう。 4. 資格やスキルの積み重ね  将来的なキャリアにおいて、資格やスキルの積み重ねは重要な要素となる。管理職になることが目標であれば、マネージメントやリーダーシップに関する資格やトレーニングを積極的に受講することを検討しよう。逆に、専門性を強化したい場合は、関連するスキルや資格の取得を進めることが重要だ。これらはキャリアの柔軟性を高め、新たなチャンスに備える力となる。 5. キャリアの中・長期ビジョンを描く  キャリアは一つのポジションや職種に縛られず、中・長期的なビジョンを描くことが重要だ。目の前の仕事だけでなく、将来的にどのような役割を果たし、どのような影響を与えたいかを明確にしよう。その上で、現実的なステップを踏むことで、キャリアを着実に築いていくことが可能だ。  未来を見据えたキャリアの選択には様々な選択肢が広がっています。管理職になることが重要だと感じるならば、そのステップを踏む準備を進めつつ、自らの価値観やビジョンを大切にして欲しいと思います。一方で、他のキャリアパスを選ぶこともまた一つの成功だと理解し、その中で充実感を追求して欲しいと思います。決して、管理職になると時間外手当がなくなるからとか、今すぐにやりたい仕事ができないからという短絡的な理由で判断をして欲しくないと思います。  今は、若手でも皆さんも確実に歳はとります。マネジメント経験もなく、もしくは専門性もない自身の40代、50代を想像してみて下さい。いや、決してそうなって欲しくないです。 今回の提言が皆さんのキャリア形成において、少しでも参考になれば幸いです。未来への舵取りは、今、この瞬間から始まります。

組織の健全な血液循環を | その他

組織の健全な血液循環を

 年末年始の休暇の間に、昨年起こった様々な出来事を振り返ってみた。一番、印象深かかったのは、複数の権威ある企業や組織において、長い間、黙認されていた、過去から続く大きな問題が表面化したという事だ。中古車販売会社しかり、政党派閥しかり、人気劇団しかり・・。それぞれ、詳細な真偽はわからぬが、長年の実績が積み上げられて、権威ある組織ほど、周囲が忖度をしてしまうのか、物事が大きくなる前に気づき、自浄する機能が働かなかった。  周囲が忖度して、その問題を肯定、ないしはスルーしてしまう。トップはそれを良しとして、見て見ぬふりして、現状を正当化する。むしろ、都合の悪い事には、目をつむるばかりか、積極的に、蓋をしてしまう事で、ますまず気づかれにくくなり、組織の中にある問題はさらに深刻化していく・・。昨年だけでもあれだけ、多くの組織で表面化したのだから、こうした事態は、特定の業種・業界に問わず、どこの組織でも、起こりうる事だと考えておいたほうがよい。  最近になって、過去から続くこうした行いが、表面化し、問題として認識されるようになってきた背景の一つには、インターネット社会が進行する中で、問題と思われる事実が、一個人から拡散しうるようになったという事があると言われている。いまや、誰でもXやYouTubeで様々な情報を、不特定多数に向けて発信できる時代であり、だれでも、社会に対して、それをリークし、問題提起させることができる。  そういう意味では、組織内部で大きな問題が堆積し、深刻化する前に、迅速にそれがオープンになり、早々に手が打てるような気がするかもしれないが…事はそう単純ではない。発信する側も、発信した際の影響を考えてしまい、慎重になってしまう傾向はあるだろう。 組織の中に、何かあれば、それをオープンにしてもよいという雰囲気がない、と、なかなか、逡巡して、意見や情報を発信することに踏み切れない。そういう組織の中の空気が、問題が表面化することに、無言のブレーキをかけてきた事も否めない。  多くの企業でも、組織内の問題について、報告する通報窓口などを設置しているが、実際にそれが機能するのは、限られた場合であり、多くの問題が、水面下でくすぶっていることも少なくない。形式的には、通報窓口があるので、どうぞ、なんでも報告してくださいと、しているが、実際には、組織の各所でパワハラが行われていても、そうした通報がなされるのは、かなり限定的であるのが、多くの企業の実態とも言える。  結局のところ、そうした情報は受け身で待つのではなく、組織として、積極的に取りに行かねばならないという事だ。再起には、そうした認識に立つ経営者が増えてきているのか、率先して、見えていない、聞こえてこない組織の問題を取りに行こうという声が大きくなっていて、エンゲージメントサーベイや多面評価(360度診断)の実施について、トップ自ら、相談に来られる企業も少なくない。  サーベイの実施の際に、我々のような外部組織を使う事で、言いにくい事もストレートに 情報が上がってくることを期待する企業も多い。日本人的な文化なのだろうか、社内のサーベイだと、なかなか、情報の出どころを特定されて、堂々と話せない社員も少なくないのかも知れない。  国内外で、人的資本経営の重要性が強く叫ばれる中で、組織の健全な状態を維持・向上していく事は不可欠であり、通報され次第、対応するというような受動的な対応では手遅れで、自ら、組織の内部で起こっている事や状況を積極的に把握し、問題があれば、即、その芽を摘み取り、いつでも、組織の状態を健全なレベルにキープしていこうとする風通しのよい組織目指す経営者が徐々に増えてきていることは間違いない。  トップダウンの指令だけで、各部門が機能させていると、現場に問題があったり、疲弊したりしていても、気づかない。ヒトの動脈と静脈の関係のように、経営層から各社員へ、社員から経営層へ、双方向でコミュニケーションさせる仕組みを持つことが、組織の健全化、活性化にむけて不可欠な時代だ。

社員アンケートに真剣に答えてもらうには | モチベーションサーベイ

社員アンケートに真剣に答えてもらうには

 「社内アンケート」と聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか?モチベーションサーベイ、パルスサーベイ、ストレスチェック、職場環境調査、360度診断…一口に「アンケート」といっても社内で実施するアンケートとして、様々なものが存在します。  弊社でも「モチベーションサーベイ(社員満足度調査)」「360度診断」は調査分析のサービスとして提供しています。このところ着目していることとしては、はたして回答者である社員のみなさんはどのような気持ちでアンケートに答え、捉えているのか?ということです。 アンケートに対して負担を感じている、面倒くさいと思っている、期待している、本音を伝えるチャンスと思っている…様々な捉え方があるでしょう。アンケートを実施するのならば、本音で、忖度なく回答してもらう必要があります。そのためには、アンケートを実施する側の姿勢や投げかけがとにかく重要なポイントだと思うのです。  なぜアンケートを取るのかというと、「社員からの声を拾い上げ、それらを反映させて会社をよくするため」。シンプルにまとめればこういうことではないでしょうか。今後の会社の発展のために、会社の様々な環境、仕組み、業務を整え、さらに成果をあげてもらう、その検討材料としてアンケートは実施されます。果たしてその意図、目的が回答者に正しく、熱意を持って伝えているでしょうか。 また、よくあるアンケートに関するご相談としては、「アンケートは実施したが、結果を放置」「結果を経営陣や担当部署のみに限定して社員にオープンにできていない」というものがあります。せっかくアンケートを取ったとしても、その結果を使って会社として何をするのかがわからないようなアンケートは答える側としては答えたくありません。忙しい中を縫って回答時間を捻出するのならば、自分が答えた内容が返ってくることを人間は求めるでしょう。毎年実施していたとしても、結果のフィードバックもなければ次は答えたくなくなります。  それでは、期待を持って、前向きにアンケートに取り組んでもらうには、どうすればいいでしょうか。 最後に以下の3点にまとめます。 ①アンケートの意図、目的を明確に回答者に伝える 初めが肝心ということです。回答開始前に、なぜこのアンケートが実施されるのか、そして結果をどのように活用し、どのように開示するのかを明確に伝える必要があります。方法はメールや、イントラ、各組織長からメンバーに落としてもらうなど様々な方法が考えられます。もっとも効果があると考えられるのは、アンケートを管轄する担当者、または経営層から直接言葉で伝えることだと思います。本気で取り組む姿勢と言葉は期待感を醸成させることでしょう。会社規模などで可能、不可能はあると思いますが、アンケート前に各拠点を回って説明会を実施するような例もあります。 ②すべて解決はできなくても、優先順位を付けてアンケート結果を踏まえた施策を実施する とにかくアンケート結果を放置しないことです。アンケート項目が多い場合、しかも多く課題が見つかってしまった場合、どこから手をつけるべきかわからず放置してしまうことがあるかもしれません。優先順位をつけ、何から取り組むのかをはっきりさせて少しずつでも進んでいくことで、アンケートの意味が出てきます。社員はそれを見て、答えた結果が反映される実感を持ち、「答え損」という気持ちは無くなるはずです。 ③結果は社員に開示する 自分の会社の仲間はどういう意識なのか知ってもらうことは重要です。開示する粒度は様々ですが、大きく集計した結果だけでも開示することで、会社がオープンに見せてくれるという意識になり、また、結果から業務改善に取り組む人も出る可能性もあります。特に、組織長、管理職レベルには、自身の組織の結果をしっかり開示し、それを受けて組織内で取り組むべきことなどを検討してもらうのは重要です。アンケートを実施したのが人事部だとしたらば、「アンケート結果を見て動くのは人事部でしょ」という意識は排除させるべきです。自分事として受け取る仕組みを作ることです。

シンメトリー(左右対称)とアシンメトリー(左右非対称)のあいだで | その他

シンメトリー(左右対称)とアシンメトリー(左右非対称)のあいだで

 一昔前、いやもっと前だろうか。自称「熱血上司」(現代の言葉で言えば「パワハラ上司」にあたる)みたいな方々が、それぞれの職場に、今よりもずっとずっとたくさんいた時代があった。部下のミスや目標未達成に対し、激昂して他の従業員の面前で罵倒し、ときには物を投げつけるということさえあった。一般の従業員からしてみれば、「心理的安全性」以前に、「身体的安全性」さえ危ぶまれるような事態であったのだが、ほとんど誰もこれを問題視することもなく、半ば常識と化していた時代が確かにあったのである。  このような事態は、思えば職場だけに限った話ではなかった。学校や部活動、ときには家庭の中にまで、暴力まがいのアプローチが蔓延っていた。一定の年齢層以上の方であれば、誰しも思い当たるところがあるだろう。  このような傾向は、歴史を遡るほど強くなるようである。日本の軍隊の中で私刑に近い暴力行為がずっと継続的にあったらしいことはよく知られているし、日本の首相の中には、不幸にも暗殺されてしまった方もいるが、逆に明治期の首相であるが、暗殺や殺人の実行犯であった可能性が高いと思われる方も、実は存在するのである。江戸期以前は言うに及ばない。戦国の三英傑(信長・秀吉・家康)は、もし現在にタイムトラベルされたならば、「パワハラ上司」どころか、犯罪者扱いされかねない。  そう考えると、あの自称「熱血上司」たちも、良い悪いは別にして(おそらく最悪ではあるが)それなりに日本という文脈の中に根差して発生した一種の文化的遺産のようにも思われてくる。我々は彼らと訣別したつもりでいるが、これだけ根が深いと、どこか深いところで依然つながったままなのではないかという不安に苛まれるのである。  そもそも、なぜ自称「熱血上司」(パワハラ上司)たちの不可解な行動が起きるのか。これは「暴力の暴走」と言ってしまえばそれまでだが、やはり「思い通りにならない苛立ち」「完全・完璧にならないことへの不快」が、心理的背景として横たわっていると考えるべきであろう。基本的に彼らは、ある意味「完全主義者」なのであり、思い通りにならないことにそもそも苛立っているのだ。その点では、我々の中にも多かれ少なかれ似たような萌芽はあって、何らかの事情によりかろうじて踏みとどまっているにすぎないのだと考える方が自然であろう。  ほとんど文化的とも言える根深さを持つ、我々の中の「完全主義者たち」と、いったいどう向き合えばよいのだろうか。その点でヒントになることは、やはり日本文化の中に見出される。  よく知られているように、姫路城は、天守閣をはじめ、門、窓に至るまで、敢えて非対称に設計され建築されている。「日本的美」の典型とされるこの建築物の美学は、対称性を重んじた欧州建築の美学とは明らかに異なっている。通常このことは、「対称であることは完全・完結・完成を意味し、成長しないこと、さらには停滞や死を含意するからである」と説明される。しかしこのことは同時に、「不完全性を許容する謙虚さと寛容さを持て」と教えてはいないだろうか。「不完全さもまた不可避であり、受け入れるべきなのだ」と。  大きな建築物だけではない。価値があるとされる茶碗は、どれもこれも、なぜか非対称な一品である。対称的な完成形をよしとするものではなく、不完全さ、不均一さ、自然さが表れることをよしとするからである。そこにもやはり「不完全性を許容する謙虚さと寛容さこそが美しい」とする美学が読み取れる。  私は何も、頭から「完全主義」を否定しているのではない。当初想定されたゴールが素晴らしいものであれば、それは完結に近づくよう実現すべきである。そして我々は黙っていても、思い通りにならなければ苛立ってしまうし、落ち着かない気持ちになり、思ったところを完結させようとするだろう。しかし、ときには物事は思い通りにならないものなのだ。なぜなら、誰しもが完全ではなく完璧ではありえないのであり、そして「正しいゴールとは何か?」、もはや誰も正確に指し示すことなどできないからである。であればこそ、我々は、不完全であることをある程度受け止める謙虚さと寛容さをも、併せ持っていなくてはならないのではないか、と思われるのである。我々の先輩たちは、確かに反面教師でもあったが、有難いことに先述のようなとてもよい教材を残してくれてもいるのである。

360度診断という道具 | 360度診断

360度診断という道具

 360度診断は、人事部の方であれば、ほとんどの方が知っている調査診断サービスです。近年、当該サービスを活用される企業が確実に増えています。その背景には、「心理的安全性(psychological safety)」、ハーバードビジネススクールのエイミーエドモンドソン教授により提唱され、Googleが実証実験で「チームの生産性向上の最重要要素」と位置づけたことがあるのでしょう。心理的安全性とは、“自分の意見や気持ちを安心して表現できる状態”と私は理解しています。自分の意見を発しづらい組織は、生産性向上が難しいという事です。日本企業は生産性が低いと言われ続けていますので、社員が意見しづらい企業が多いのかもしれません。生産性向上は、多くの企業が課題とされています。心理的安全性は、やはり注目すべきワードであることは間違いないようです。 皆さんの所属している組織は、自分の意見を素直に発言できる組織になっていますか。自信をもってYesと言える方は少ないのではないでしょうか。近道は、周りとのギャップを知り、解消に努めることです。ギャップ解消は、自分の意見や気持ちを安心して表現できることに必ず繋がります。360度診断は、自己評価と上司・同僚・部下評価のキャップを知るために最適な道具になります。  別の角度からのお話しです。皆さんが出社するまでの行動ってどうでしょうか。最寄り駅の同じような場所から電車に乗り、会社の最寄り駅で下車。同じコンビニやカフェに立ち寄り、同じ物を購入して出社する。人の行動はいつも同じです。ここで、会社の裏の個人店だけど、朝8時から9時まで全て半額ですよと教えてもらったら、多くの方がその店に足を運ぶことになると思います。教えてくれたこと、知ったことで、初めて行動が変わります。社会人になって、10年・20年経つと、残念ながら自分の行動が正しいと思っている場合がほとんどです。根付いているので行動は変わりません。こんな時、自分が周りからどの様に評価されているかを突き付けられたら、自分の行動について考える機会に向き合うことになります。自信の成長を考える人であれば、何らかの行動変容の必要性に気づきます。360度診断は、気づきを与える道具になります。  弊社が360度診断を継続的にご支援している企業のお話しです。毎年管理職を対象に調査を実施しています。年々点数が向上しギャップも解消に向かっています。心理的安全性が向上し、働きやすい組織になってきていることが想像できます。但し、その裏では管理職を入れ替えたことが点数向上に貢献していたことがわかりました。周りからの評価を認識したとしても変わらない方は一定数存在します。その場合には同社のように管理職の入れ替えが必要です。360度診断は、配置を考える道具になります。  360度診断について、ネットではメリット・デメリットが語られています。私はメリットの方が大きいと考えます。弊社でも実施しており、実際に評価された者としては、自分の強み・弱みの認識(自己認識)、その後の行動変容に役に立っているからです。 デメリット(忖度、犯人捜しがはじまる等)から考えてしまう企業が少なくないのは事実ですが、360度診断を導入されていない企業には、是非、一度は試してみることをお薦めしたいと思います。  弊社でも360度診断を提供しております。興味がある方は、弊社ホームページの問合せフォームからお問い合わせください。私が直接ご説明させていただきます。

いいわけ文化がイノベーションを阻害する | モチベーションサーベイ

いいわけ文化がイノベーションを阻害する

 新製品や新サービスが次々に生まれる会社と、何か閉塞感のある会社は何が違うのだろうか。 数多くの企業研修に立ち会わせていただいていて分かったことがある。言い訳が多い会社では新商品は生まれにくい。  「忙しいから」「上が決められないから」「若手が育っていないから」「予算が厳しいから」そんな言葉が飛び交っている会社は要注意だ。  いやいや、成功している会社は時間や予算に余裕があって、素晴らしい経営陣と主体的に動いてくれる若手がいるんでしょう?と思うかもしれない。でもちょっと待ってほしい。そこで思考停止に陥るかどうかが分かれ道だ。  言い訳が多い会社の特徴として、管理職が「部下に失敗をさせないこと」に注力している点が挙げられる。きちんとマネジメントをすべく、きっちり計画を立て、分からないことがあれば親切に教えてあげる。部下に過重労働させるわけにはいかないから自分が誰よりも働く。誰よりも頑張っているからこそ、何か問題が起きたときに上司に叱られるのは理不尽に感じる。「自分はしっかり仕事していたのに」「自分は悪くないのに」と考えてしまう。  上司に「なぜ失敗したんだ?同じ失敗を繰り返すな」と注意をされた部下はもうチャレンジをすることはない。「上司に文句を言われないように仕事をする」スタイルになっていく。 きちんとマネジメントすることが悪いのではない。ただし全てのことを失敗しないように進めようとするのは危険だ。確実に成功するチャレンジなどない。失敗のリスクがあることこそがチャレンジと言えるのだ。  チャレンジを推奨する文化がある会社では、失敗が起きたときに「誰が悪いのか」は焦点にならない。だから言い訳をする必要もない。周りの人は失敗を責めるのではなく、どうにか自分が手助けできないかと考える。失敗を失敗で終わらせない。その失敗から学んだことをどのように活かし、次のチャレンジに繋げるかが重視される。失敗したときに周りが助けてくれた、失敗を乗り越えて成功をつかんだ経験を持つ人は強い。次のチャレンジも迷うことはない。  若手がチャレンジしないことを嘆くよりも、まずは自分から、そして周りの人の行動を変えることから始めるべきだ。

ノーレイティングの時代は来るか | モチベーションサーベイ

ノーレイティングの時代は来るか

 先日、アメリカ企業に20年勤めていた知人が日本に戻り、日本企業に転職した際に人事評価にまだMBOを使用していることにびっくりしたという話を聞きました。  このMBO(Management by Objectives and Self Control)は、アメリカの経営学者ピーター・ドラッカーによって提唱され、日本に上陸したのは意外と古く1960~70年代と言われています。その後1990年代から多くの企業で導入され現在も広く使用されていますので、もう30年程度使用されていることになります。また現在、日本で導入されているコンピテンシー評価もアメリカ発祥の手法です。  これは人事評価やパフォーマンス評価の一環として使用され、社員の強みや改善のポイントを特定し、組織全体の目標達成に貢献するために役立つものとして使用されています。  前出の知人によると、アメリカでは人事評価そのものが廃止されていて、それは2010年頃からの動きとのこと。それまでは、社員個々の成果(業績)に基づき、事実ベースで評価を行い、結果に報酬を結びつけるというものが主流でした。ただ、現在の業務遂行においては多種多様なスキルが必要なことや、目に見える成果(業績)だけで判断することが難しくなってきたことが挙げられ、人事評価を撤廃する動きが急となったそうです。  人事評価を撤廃?と聞くと人事評価を行うことをやめたのかと思う方もいるかもしれませんが、人材や企業の成長を促すうえで、評価を行うこと自体をやめることはできません。人事評価をやめるというのは、人材に点数やランク付けをやめるということです。  本来、人事評価は社員のモチベーションを上げ、成長意欲や会社への貢献度を上げていくための人材育成ツールであるにもかかわらず、評価点数やランクが思ったより低く、逆にモチベーション低下を招いてしまったなんてことがあるのです。    そこで、アメリカでは「ノーレイティング」という手法に切り替えた企業が多く、GoogleやMicrosoft、Adobeをはじめ、有名な大手企業も取り入れています。  ノーレイティングは点数で評価を行うのではなく、目標に至るまでの行動内容、どのように目標を達成したのか、目標の見直しは行われたのかといったことも含め「面談」をこまめに行うことで人事評価を行います。また、ノーレイティングは行動改善なども評価の対象とするため、チームのコミュニケーションが取れ、改善するべき点が浮かび上がりやすくなります。また、業務遂行中にフィードバックなどを行うことにより、年度末にまとめて行っていた評価者の負担も軽減といったメリットもあります。  ここまでの流れでいうと、日本にはアメリカの人事評価の手法を取り入れる傾向が顕著で、今後日本でも人事評価がなくなっていくのかと思うかもしれません。しかし、今の日本で人事評価をすぐに撤廃することは難しいでしょう。日本では、アメリカですでに多くの企業が行っているタレントマネジメントが浸透しきっていないことが挙げられます。  日本企業は伝統的な組織文化を持っており、ヒエラルキーが強調され、社員のスキルや成果を評価するといった文化があります。このような文化では、タレントマネジメントが十分に評価されず、個人の成長と適材適所の配置に焦点を当てるのが難しいのです。  ノーレイティングは、数値評価や従来の評価スケールに頼らず、社員の個々の成長と発展に焦点を当てます。タレントマネジメントは、社員のスキルやキャリアの目標を明確にし、それを支援するためのプランを策定するプロセスです。これを組み合わせることで、社員の成長をより効果的に促進できるのです。  タレントマネジメントを導入するには、社内の現場や部門・部署を超えての連携が不可欠となります。そのため、タレントマネジメントが行き届いてからでないと人事評価を廃止・簡易化するのは難しいのではないでしょうか。  ただ、日本でもグローバルなビジネス環境の変化や若年層の価値観の変化により、タレントマネジメントの重要性が認識されつつあり、いくつかの企業では取り組みが進んでいます。何年後かには導入が進み、タレントマネジメントが当たり前の企業が増え、ノーレイティングを前向きに導入する時代が来るのかもしれません。 以上

人的資本経営と人事の反省会 | 調査・診断

人的資本経営と人事の反省会

 「人的資本経営」は、ここ数年人事の世界においては最も注目されている言葉の一つである。2020年に出された経済産業省 の 「人材版伊藤 レポート 」 、2022年に政府が「人的資本可視化指針」の中で、人的資本の開示項目を示していることなどの 影響 もあって、近年急速に議論が進み、経営課題として議論されるようになっている。 近年急速に発展した議論ではあるが、長らく人事の世界に身を置いていると、実はそれほど目新しい考え方ではない。人材を資源としてみるのではなく、資本として捉えるという概念整理には新鮮さを感じつつも、経営における人事の機能は今も昔も変わらないし、経営計画を実現するために極めて重要であることも変わらない。昔から我々は多くの企業と経営と人事の連動性や経営計画を実現できる人事管理を目指して議論をしてきたことを考えると、人的資本という言葉に代わったところで目指している姿にそう大きな差を感じていない。(もちろん様々な発展はあるが)また、多くの日本企業は長期雇用を前提とし、「企業は人なり」といって、人材を大切にし、長期的に人材を育成してきた。「投資」という言葉は使わないものの、人を育て、短期・中長期の観点から会社を発展につなげていくことの重要性は経営者であれば皆考えてきていることだろう。「無形資産」とはあえて言わないが、そう考えてきた人も多いはずだ。  だとすると、今も昔も変わらず、目指している人事のありようがあるが、そこに到達していない原因を認識しておく必要があるだろう。  そもそも、人事の世界はあるべき姿が曖昧で議論がしづらいと言われてきた。「人」に対する施策の効果測定は難しい。「人」に関する情報が可視化されていないので、人事について議論しようとしても同じ情報量で話をすることも難しく、議論がかみ合いづらい。故に経営と人事が連動しているかもわかりづらく、どう経営として実のある議論となっているのか自信も持てず、もやもやする。結果として、経営の議論として人事は後回しにされやすいのではないかと思う。また、仮に議論していたとしても経営目標達成のための人事全体としての大局的な議論ではなく、個別性の高い、ないしは個別課題に対する局所的議論であったりして、経営に資する人事という観点では本質的ではなかったりすることもあるのではないか。もっと個別に考えてみたらいろいろ出てくるだろう。人事基盤の設計の問題か運用の問題か。様々な施策の効果が測定できないからか。それとも人事機能の経営上の重要性を軽視していた、というスタンスの問題か。振り返っていただきたい。多くの企業が経営目標達成には、「変革人材が必要だ」「自律型人材は必要だ」といって人事基盤を整備して10年以上たつが、なぜ企業に変革がおきなかったのか。。  つまりは、「人的資本」という新しい概念が立ち上がったところで、議論の本質は変わらないし、また人事の領域の議論の難しさも変らない。よって、人的資本の観点で一生懸命議論しても、これからも目指している人事のありように到達しないかもしれない、ということだ。昔から人事が重要な機能であるということをわかりながらも、うまく経営と連動させることができなかったということに対して、まずはしっかり向き合う、ということが必要なのではないだろうか。  経営として人事について活発に議論されるようになったのは、人事としては好機である。伊藤レポートが「人事・人材変革を起こすのに、資本市場の力を借りようと試みた。」ということは確実に効果があったのではないかと思う。機関投資家や欧米の外圧によって、人事課題が検討せざるをえない経営課題になってきているのだ。今こそ経営としてしっかりと人事の反省会を開き、目指すべき人事のありようの実現の一歩を踏み出していただきたい。

「人が集まる企業」のKPI | 調査・診断

「人が集まる企業」のKPI

 人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方、とされる。  人的資本経営の情報開示が求められるのは、投資家がそうした非財務的情報も考慮して投資判断をするためであり、それが株価に影響するため各社本腰をいれて情報開示の巧拙を競わなければならなくなった。しかし、人事施策と株価変動の関係については、せいぜい人員削減施策の影響がプラスに出たりマイナスに出たりといった事例があるくらいで、調査も分析もされていない。よって「金融商品としての自社」に最適な開示情報の選定ははなはだ難しい。  ゆえにそこはいったんおいて、では、そもそもわが社の企業価値向上につながる人的資本経営とはなにか、と考えたのが、情報開示に臨んだ各社に共通するスタンスだったろう。しかし、何が企業価値を高めるかについても普遍的な答えはない。例えば、エンゲージメントレベルをあげることが生産性向上につながる、ダイバーシティ&インクルージョンがイノベーションの苗床になる、従業員が幸福であれば(Well-being)結果的に企業は成長する・・・、といったよく言われるコトワリを自社にあてはめても、そうした人事施策が自社の企業価値向上につながる保証はない。    で結局のところ、多くの企業は国から例示された定型一般的な指標情報の開示に留まるといった横並び姿勢を見せたのが、情報開示初年度の状況だった。女性管理職比率〇〇%、目標○○%といった当たり障りのない指標開示には、独自の指標はほとんど見当たらないし、その会社ならではの人的資本経営の思想は伝わってこない。  企業価値向上うんぬん以前に、なにより「優秀な人材の確保」がなければ始まらないのだから、開示すべき情報は、求める人材像が明快で、働く場として魅力的かどうか、つまりその情報を見た人が働きたいと思うかどうかの観点でまず検討すべきではなかったか。開示情報=新卒採用広報の際に提示する情報だと考えれば、人材獲得競争のなかで差別性の高いメッセージたりえているかが問われるから、横並びなどもってのほかで、独自性の高い情報開示に腐心しなければならなかったはずである。  新卒採用広報における企業PRとは、製品やサービスのPRのように「企業の現状」を魅力的な効用として見せることではない。入社した自身の将来の姿がイメージできるような「企業の未来」を確かなものとして提示することである。確かさを保証するものは、組織と人材に関する明確な経営意思(=方針)と実現のリアリティ。人的資本経営としてその会社は何を目指すか、つまり入社する自分たちがどのような人材を目指しどのような場に身を置くか、そのリアリティを裏付ける重要なファクターこそが、開示情報に示される固有の指標、その現状の達成度合いと目標に向けたマイルストーンである。  とすれば、人的資本経営とはまず、「人が集まる企業」としての自社のアイデンティティを問い直し、追究し、形づけることから始まるのではないか。人的「資源」を「資本」と言い換えても、企業都合で人々の能力を高め、十全に使用/活用し、企業価値(¬つまり経済価値)を向上させるという構図に変わりはない。それだけではない、人々が交通し、成長し、機会開発する「場」としての企業の価値向上に目を向けることからも、各社各様の人的資本経営の指標はさまざまにありうるはずである。

50年後、定年はなくなります | 人事制度設計

50年後、定年はなくなります

 わたしたちは何歳まで働かなければならないのでしょうか。老後をそれなりに過ごすための金銭的な事情もあるでしょう。ずっと好きな仕事を続けたい、引き継ぐ人がいないから、などなど、置かれている立場などにもよって、働く目的は様々だと思います。また中高年の方にとっては、来るべくしてきた親の介護、突然の病気など、働きたくても働けなくなることもあるでしょう。若い方にとってはそんな先のことは考えたことないし、考えられないという方もたくさんいることでしょう。そんな未来をおぼろげながら理解し、不安に感じながら働いている方がたくさんいることでしょう。  昨年、高年齢者雇用安定法改正に伴い、70歳までの雇用延長が努力義務となりました。そして人生100年時代とのことです。人生を謳歌するという意味でいえば、寿命より大事なのは健康寿命です。厚生労働省によると健康寿命は女性で75歳、男性で72歳です。そして2001年から2019年で約3歳延びており、健康志向、安定した社会環境など、様々な影響を受けていると思いますが、しばらくはこの寿命も延びていくでしょう。そう考えると70歳までの雇用延長は、みんな70歳はまだ元気だから働いてください、ということなのでしょう。  そういった背景も受けて、定年後の再雇用制度の改定を予定している企業が増えています。多様な社員側の働く事情と、企業側の働いてほしいという需給のバランスを保つ、企業独自のシステムを構築していく必要性が高まってきています。ただその際に思うのは、数年先の程度の短期的な目線では、本質的な解決はできないということです。だれも未来がどうなっているかなどはわからない、そんな未来に自分はいないと思うと無責任になりがちで、パッチワーク的な課題の解決になりがちです。若い世代にまで視野を広げ、将来目指す組織のあり様などをイマジネーションするなど、継続的に取り組んでいく姿勢が今まで以上に求められているように感じます。  社員の健康や家族の状況など、企業の取り巻く組織の状況は変化し続けるでしょう。そして70歳まで働くつもりもなかった世代と、75歳以上働く可能性が高い若い世代の双方の健康寿命や時間、金銭的な価値観は変化し、そのギャップの意味も変化していくことでしょう。この変化し続ける複雑で難解な状況を踏まえながら、需要と供給のバランスを絶妙に保つために、人事のファンクションの継続的な強化はやはり避けられません。そして強化していくうえで、真っ先にしなければないことは、やはり目先の定年再雇用制度の見直しだけではありません。社員にとって企業の中で働くことの目的や意義は何かということに、向き合い続ける企業の覚悟が求められているのかもしれません。