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コラム

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ライタープロフィール

林 明文
林 明文(はやし あきふみ)

青山学院大学経済学部卒業。 トーマツコンサルティング株式会社に入社し、人事コンサルティング部門シニアマネージャーとして 数多くの組織、人事、リストラクチャリングのコンサルティングに従事。その後大手再就職支援会社の設立に参画し代表取締役社長を経て当社設立。代表取締役シニアパートナーを経て現職。明治大学専門職大学院グローバルビジネス研究科客員教授。

社員の幸福感の高め方 | モチベーションサーベイ

社員の幸福感の高め方

 幸福感の高い人はどのような人だろうか?一般的には配偶者のいる人や非喫煙者、心身が健康である人はそうでない人と比べると幸福感が高いと言われています。また、興味深い調査として、幼少時にシルバニアファミリーで遊んでいた女性とそうでない女性を比べたものがあります。この調査では、大人(20~25歳)になった時点での幸福度は、シルバニアファミリーで遊んでいた女性のほうが高いという結果が出ています。  しかし、当コラムを読んでくださっている皆さんが興味をもたれるのは、「幸福感」という概念は、ビジネスの中でどのように活かすことができるのか?特に、「生産性」や「業績」といった代表的な成果指標に対してどの程度の影響を与えるものなのかといったことではないでしょうか。  欧米の研究を見ると、幸福感の高い社員は、生産性が高く、売り上げも多く、リーダーとしても優れ、高い業績を上げる。また、病欠も離職も少なく、仕事のストレスに負けることもないという報告があります。幸福な気持ちで業務に取り組むと、時間の使い方が効率的になり、仕事の質を下げることなく生産スピードを向上させることができるそうです。その結果、幸せな気持ちで物事に取り組んだ人は、そうでない人と比べて生産性が12%向上するという調査結果も発表されています。ちなみに、不幸は生産性を10%低下させるそうです。  では、企業にとって良いことづくめの幸福感は、何から影響を受けているのだろうか。幸福感の高めかたが分からないと施策を講じられませんが、この領域の研究は国内外を通してまだ始まったばかりです。  国内における先駆け的な研究は、2012年に内田・城戸が人材育成学会にて発表した『ポジティブ組織行動論の試み-仕事での「幸福感」と組織内要因-』であると言えます。内田らはこの中で、約300名のビジネスパーソンから集めた定量データを分析し、幸福感を高める5つの組織内要因を明らかにしています。この5つは、「マイビジョンへの挑戦」、「自己効力感」、「地位と給与の満足」、「仕事の社会的評価」、「努力と評価の関連」と名付けられた因子であり、これらが幸福感に対して統計的に有意であることを示しています。  自分の実現したいビジョンをもち、得意分野を活かしながら挑戦的に仕事ができていること。自由裁量の度合いが高く、自分の能力を活用しながら自信をもって仕事を進められていること。現在の地位や役割と、得られる給与等の報酬に満足していること。自分の仕事が社会的にも組織内においても評価されていること。そして、自分の努力が上司などから人事的に評価されること。つまり努力と評価のつながりが認識できることが「幸福感」を高めるのです。  2回のコラムで取り上げた「幸福感」は、組織内で伝播する特性をもっています。自分が職場で幸せであると思えるほど、共に仕事をする仲間だけでなく顧客に対しても、より多くのポジティブ感情を伝えるようになります。そして、最終的には、職場全体がポジティブな状態へと変わってゆき、大きなビジネス成果を生み出すのです。ポジティブ感情のドミノ効果と呼ばれるこの現象は、組織に対して大きな変化を起こすための小さな一歩の必要性を示唆しています。  職場の幸福度について興味をもたれた方、詳しく知りたい方はお気軽にご連絡ください。 以上

異なる期間 | その他

異なる期間

 日本企業の将来は手放しで明るいものではありません。国内市場は総じて縮小傾向にあり、競合に打ち勝っていくことが生き残りのために重要になります。またより成長するためには海外へ進出を加速させることも考えなくてはなりません。市場環境の変化とともに労働市場でも劇的な変化が始まっています。少子高齢化が進行し、社員の平均年齢が徐々に高くなってきます。高齢社員が多くなり若年社員が少ないということですが、これは企業の活性化の維持という観点や、高齢化した社員でより高いパフォーマンスを挙げなくてはならないという、過去の人事問題にはない非常に深刻で重大な問題が起こるのです。厳しい市場環境で成長しなければならないが、同時に高齢化、働き手の不足に対応しなければならないのです。 現在多くの企業で、50歳台の社員が多く30歳、20歳台の社員が極端に少ない人員構成が見られます。そのため発生している問題は、高年齢化による人件費の向上や管理職社員の必要人数以上の増加などが深刻です。また若手社員の不足についても非常に深刻であり、ここまで若手社員が少ないと到底直ちに解消できる問題ではありません。  現在起きている高齢化の問題を正しく認識しなければなりませんが、この問題は時間の経過とともにより深刻さを増していきます。将来の予測を行うと、先ほどの高齢化が進行している企業では今後約20年近く高齢化問題に悩まされることが定量的にわかります。  このような歪な人員構成となった原因はいくつか想定できます。その一つが経営責任と雇用責任の期間が異なることにあるでしょう。経営者は通常4年から6年程度の経営責任を負います。企業の雇用責任は大学新卒社員を一人雇用すると65歳まで実に43年間の雇用責任が発生します。この期間が異なることが人員構成の問題を発生させる一つの原因なのです。時の経営者の経営的判断が雇用責任の期間と合わないために経営的にOKでも人事的にはNOであることが発生するからです。   代表的であるのは新卒の採用人数でしょう。正社員は企業のノウハウや技術、文化を継承していく幹部人材であるので、本来的には緩やかな台形型の人員構成が望ましいです。したがって業績が悪いときに新卒社員採用を抑制するのは、短期的コストカットという観点からは経営的に正しいのですが、企業の中長期の成長を維持向上するための人材基盤という観点では正しくありません。逆に短期の業績がよいからといって新卒社員を大量採用する経営者もいます。これも一年の収入が多いからといって43年ローンを多く組むことがナンセンスであるように、雇用責任という観点ではナンセンスです。  経営者、人事は短期的な最適化を求めることの視点も重要ですが、それに偏重し過ぎると、後の企業や経営者、人事が非常に困るのです。継続的に発展する企業を造ることも経営者の重要な役割であり、短期の経営責任と長期の雇用責任の両方を担っていることを再認識しなければならないということです。 以上

社員の幸福感が経営にもたらすもの | その他

社員の幸福感が経営にもたらすもの

 皆さんは「幸福」と聞くと何を思い浮かべますか?お金、地位、健康…人によって幸福の捉え方は様々です。では、皆さんは幸福ですか?と聞かれたら、何と答えるのでしょうか。  ご存知のように、近年様々な国・機関・団体で、幸福に関する調査が行われています。例えば、国連は「World Happiness Report」を作成しており、2013年の調査結果を見ると、1位デンマーク、2位ノルウェー、3位スイスとなっており、日本は43位です。また、OECDが発表している「Better Life Index」における日本の順位は21位(2013年)です。調査によってその視点や対象が違うため一概に言えないものの、日本の順位は高いとは言えません。  このような幸福に関する調査が数多く行われるようになった背景には、調査対象者が感じている「幸福感」が、その人の人生だけでなく、地域社会や経済活動に対しても、良い影響を与えているということが分かってきたからです。  幸福感に関する研究は、従来ポジティブ心理学の領域でなされていましたが、現在は組織行動論の領域に取り入れられはじめ、「ポジティブ組織行動論(Positive Organizational Behavior)」として、ビジネスで活かすための研究が進んでいます。研究の視点としては「幸福感とは何か」「幸福と成功との関係」「幸福感は何に影響を与えているのか」「何が幸福感を高めるのか」などが挙げられますが、今回のコラムでは「幸福感とは何か」「幸福と成功との関係」について触れさせていただきます。  幸福感は、さきにも述べたように人によって感じ方が異なるため、測定することは簡単なようで難しいと言われています。心理学者による幸福感の研究ではSWLS(ディーナーらの人生満足度尺度)が多く使われていますが、一方で欧米人と日本人といった特性による違いを考慮する必要があるといった考えもあります。これに対し、内田・城戸(2012、2013)は、日本のビジネスパーソンを対象とした幸福感の調査・研究を行い、幸福感は「自分の人生を順調とみなし満足していること」、「自分の将来に対して希望をもっていること」、「周囲の人たちと良好な人間関係を築いていること」から構成されることを明らかにしています。つまり、過去から現在までの時間軸の中で蓄積されてきた満足感や、将来に対する期待や希望。そして、周囲の人との良好な対人関係が日本のビジネスパーソンの幸福感を構成しているというわけです。  では、その幸福感と成功はどのような関係にあるのでしょうか。「何かしら成功したから幸福なのだ」と思われている人も多くいらっしゃいますが、心理学と脳科学の研究によって、幸せは「成功に先行する」のであり、単なる成功の結果ではないということが明らかになっています。  仮に、成功が幸せをもたらすのであれば、期初にたてた目標を達成した社員、昇進した社員など、何らかの目標を達成した人達はみな幸せになっているはずです。しかし実際には、勝利を勝ち取るたびに、成功のゴールポストはさらに前方へと押しやられていきます。悲しいことですが、こうして私たちの幸せは、地平の彼方にどんどん遠ざかっていくのです。  これに対し、幸福だから成功するという「ハピネス・アドバンテージ(幸福優位性)」の考え方は、前向きで受け入れられやすく、私たちの組織への応用展開が可能と言われています。今後は、幸福感によるビジネス上の効果と言われる「欠勤が少なくなる」「離職率が下がる」「生産性が高まる」「高業績をあげる」などを得るための取り組みが、企業内で広がってくるものと思われます。  幸福感がもたらす具体的な効果や、何が社員の幸福感を高めるのかについては、次回のコラムにてご紹介をさせていただきます。 以上

気分が悪い | その他

気分が悪い

 360度評価は対象者からみると気分の悪い仕組みでしょう。直接の上司以外の人から評価されることに、いろいろな抵抗を感じるからです。部下に評価されたくないであるとか、評価者としてのトレーニングを受けていない社員は適正な評価ができないとか、好き嫌いが評価に反映されるとか、その結果部下に強く指導しづらいなどのような話が非常に多いのです。そういう意味では特に経営者や管理職など評価をする上司側から見ると、気分が悪い、気持ちが悪い仕組みなのでしょう。  しかしこの360度評価は今までの評価に比較して実に多くの有用な情報を提供してくれます。様々な関与者から評価をされることによって、被評価者の強み弱みがよくわかります。これを配置や任用、教育に使用するときわめて効果的です。もちろん上司の評価を主評価として他の関与者の評価を参考情報という位置付けで処遇(昇格や昇給)の評価に使用することも有効であることは言うまでもありません。  日本企業ではこの360度評価はストレートに処遇に結びつける評価として使用することはあまり多くありません。逆に処遇に結びつけず、配置や任用や教育に使用することを前面に出すことによって、気持ち悪い部分を緩和し導入している企業が多いでしょう。  日本企業は長期雇用であるために、社内の人間関係は長期にわたり継続します。組織内があまりぎすぎすしないようにという感覚から処遇に関する評価はどんなにがんばっても甘めについてしまうのです。これは長期雇用の特徴であるために、どんなに厳格な評価をしようと経営や人事が努力しても、処遇の逆算で評価をしてしまう傾向にあるのです。  しかし激変する環境下における人事ニーズはこの甘い評価をそのままにしておくことは許されません。そのため処遇の評価を徹底して適正化することの道を選ぶか、処遇の評価と360度評価のような活用育成のための情報収集を平行して行うという道のいずれかを選択しなければならないでしょう。いずれにせよ今後は今以上に360度評価が活用されていくでしょう。当社では2015年2月に多くの実績のある360度評価サービスの事業譲渡を受け本格的にこのサービスを提供し始めました。今までも提携企業と360度評価を行ってきましたが、より高いレベルでのサービス提供が必要であることと、様々な人事関連分析や人事施策、教育施策とのサービスとして連携が重要と認識し、当社ブランドでのサービスとして提供しております。  当社の経営会議で360度評価の重要性を話し全員の賛同を得ました。その後に当社内での360度評価の実施の提案がなされました。会議参加者ほぼ全員が気分の悪さを感じたことがすぐに分かりました。しかし“経営者、管理職は高い視点で度量を持ってこのサービス受けるべきである”というサービス説明に賛同し、これから多くのクライアントに提供していくことを話した後でしたので誰も反対できません。結果当社でも経営者含めて行いますが、このときの反応が象徴的なのです。人事のコンサルティングを行っている当社であってもこの気分の悪さを強烈に感じますので、経営者や人事の強力なリーダーシップ下で推進しなければ導入ができないでしょう。人事がより強くなりその結果企業が成長することを実行するためには、この気分の悪さがブレーキになってはいけないと強く感じたということです。 以上

人事の品格 | その他

人事の品格

 近年の労働市場は以前に比較して徐々に発展し続けています。よく言えば適切な労働流動化が進んでいるともいえますが、そうともいえない寂しい状況も多く目にします。ある企業の人事部の若手社員が、急に退職したいと言い出したそうです。退職そのものについては、特に引き留める理由はなかったのですが、その社員は退職理由も言わず引継も早々に、なにも挨拶もせずやめていったそうです。人事部長は、最近の若年社員は“リセット”的な退職をする社員が多いと嘆いていました。在職中にはいろいろと指導されたり、研修を受けて世話になった人も多いのに対して、その人間関係がなにもなかったかの如く一気に絶ってしまうような印象を受けるというのです。転職した社員のその後についてはよくわかりませんが、他の競合会社の人事に転職したそうです。こんな退職行動しかできない人がよく他社の人事管理や雇用管理の仕事ができるなというのが、その人事部長の率直な感想でした。人事部に所属しておきながら、非常識な転職を何とも思わずにしてしまうことの無頓着さが理解できないのです。そういう意味で人事に携わる人にはより人間を理解し、俗な言い方をすれば“自己を律する”“気を遣う”ことができなければ、本当の意味で人事管理などを全うできないのではないかと言っていました。まったく同感です。  この話に多少関連する他社の話です。ある企業で人事部長を中途で採用しようとしていました。伸び盛りの会社で、社員数も増えてきており、人事管理を高度化する事が必要となってきたからです。採用活動の結果有力な候補が2名残ったそうです。2名の候補者の中で特に入社意欲が強い1名の候補者を採用することになったそうです。当然会社としては常識的な範囲での入社時期や処遇を提示します。その候補者も基本的にはその条件に合意していたはずですが、オファーを受けたとたんに強気の交渉が始まります。本人にしてみれば候補者が自分だけとわかり、採用段階で自分により都合のよい条件を引き出そうと思っていたのでしょう。例えば基本的には定時で帰ること条件にしてほしいとか、できるだけ在宅勤務を認めてほしいなどというものです。また給与もオファーされた金額に若干の上乗せを要求します。制度的には例外的な処理をしなければならないことがわかっていながらです。しかもここまでに至る面接などは本人の都合でリスケジュールやキャンセル、夜遅い面接や遅刻などもあり、採用の責任者はすこし辟易していたそうです。候補者本人はこのことをワークライフバランスなどと表現し正当化しようとする感覚、発言が多かったそうです。結局人物的な観点で採用には至らなかったと聞きましたが、管理担当役員は人事をプロとしながらこのような発言行動は理解できなかったようです。  この変動する環境の中で人事を生業にする限りにおいて、スタンスや意識、行動を常に自己チェックし、常識的であることがいかに重要かを理解しなくてはならないのではないでしょうか。人を扱う専門家が自らを律することができないという状況は冗談にもならない価値観的危機を感じます。ビジネスマンとして、人事のプロとしての品格が問われているのです。 以上

偶数段階評価 | 人事制度設計

偶数段階評価

 日本人は幼いころからの学校教育の影響か、何かを評価するときに五段階で行うことが好きなようです。この五段階とは、例えばS、A,B,C,Dや5、4、3、2、1のようなもので、長年慣れ親しんできています。この感覚が企業の人事にもそのまま持ち込まれているように感じます。  この5段階評価は、特徴的であるのはBや3などの“ふつう”という概念です。平均的、まあ合格レベル的な感覚ではないでしょうか。なぜ特徴的であるかというと、非常に難しい概念であるからです。それは“ふつう”の上下の境界線が決まらなければ“ふつう”が決まらないからです。要は“ふつう”という概念は、二つの境界線を設定しなければ成立しないのです。AとB、BとCの境界線の間が“ふつう”ということだからです。Bの概念には厳密に言えば求められている基準に対して多少上回っていることと、多少下回っていることが混在している、非常にわかりづらい構造なのです。  人事管理の評価でもこの日本的な慣行は一般的で、評価を“ふつう”を中心とした5段階にする傾向が非常に強くあります。もっと言えば慣れ親しんでいる5段階で評価することになんら疑いを持っていないのです。  企業の人材管理で非常に重要であるのは、企業が求めるレベルの人材が適正数在籍しているかということです。これを制度的に言えば、昇格が最も重要と言うことになります。昇格を判断するためには、現在の等級の基準をクリアしているかが問題であります。従ってBとか普通という概念ではなく、大学を卒業すると同じように、等級を卒業するために、昇格基準を越えているかいないかが問題なのです。従って極論すれば“越えている”“越えていない”を判断することが基本的な機能として必須になるのです。これは究極には“○”か“×”かということですが、○にも段階があるでしょうし、×も同じですからそれぞれ2つに分割したら4段階評価ということになるでしょう。  要は人材管理の非常に重要な機能の昇格の判断には今までの5段階評価は合理性が全くないということなのです。基準をクリアしているかいないかが昇格の候補者であり、それがはっきりわかる評価方法に変えなければ機能しないのです。  社員の能力の評価は、昔風の5段階ではなく、クリアしているかいないかが明示できる偶数段階評価が必要になるのです。たまに昔から親しんでいる奇数段階評価でないと社員が理解できないと言う企業もありますが、大学卒業は単位が取れるかとれないかで判断される訳であり、なにも小中高校の感覚でなければ評価しづらいというのもどうかと思います。実務的にもBや普通のある概念は難しさを倍以上にします。評価の目線が合わないと言っているのであれば、合いやすいように偶数段階評価にすれば、合わない部分はたちどころに半分以下になるでしょう。 以上

改革のパターン | その他

改革のパターン

 改革を断行できる経営者はあまり多くありません。改革自体が過去の経営を一部否定することと、社員の削減や処遇の見直しという重い仕事を実際に行わなくてはならないからです。改革を行うには経営者は相当な腹を決めなければなかなか実行できるものではありません。  改革が必要な企業で改革に対しての行動にはいくつかのパターンがあります。まず改革を行わなくてはならないことはよく理解しているが、改革をしないという“戦意喪失”的パターンです。自分が経営者の間はできれば改革はしたくないということです。環境が好転しない限り状況が悪化するケースが多いですが、自分の任期中は行わないのです。次に大胆な改革をぶちあげますが、計画を検討する中で次第にトーンダウンするパターンでしょう。“敵前逃亡”的パターンと言えるでしょう。改革の重要性や方向性はより理解しており、それを行う構えを見せるのですが、構えで終わってしまうのです。改革の検討段階で社外社内からいろいろな抵抗にあいます。この抵抗の強さや抵抗を覆すパワーを考えると、次第に妥協的改革案になり、果てはほとんど何も行わない改革となってしまうのです。このパターンに似ていますが、抜本的な改革はしないけれども、社内外の強烈な抵抗をうまく制御して、決定的な対立がなく、その組織内の許容的範囲で改革を行うパターンもあります。“予定調和”パターンと言えるでしょう。このパターンの企業の多くは、改革のあるべき姿はわかっていますが、過去の経営や現状への配慮も同じだけの比重で考える傾向にあります。非常に頭の良い先の見えるキーマンが先導して行うパターンです。確かに抜本的ではありませんが、制約の中で最大限の成果を上げようとするものです。そして改革を徹底して断行する“正面突破”パターンがあります。このパターンは環境的に改革をしなければ生きていけない企業が多いですが、将来を見据えて徹底して改革を断行するという企業もあります。正確な環境判断と今後の経営のあるべき姿から一気に改革を断行するのです。  改革を断行し成功する企業はいくつか共通することがあります。一つは強力なリーダーがいるということです。このリーダーは現状の正確な把握と将来に対するビジョンがあります。またある程度人望がなければなりません。次に方法論に固執しないということです。実行するための方法論について詳細な意見は言わずに他に任せるのです。また強力なブレーンがいるということも共通しています。そして最後にこれが最も重要ですが、改革が失敗したら自らの身を処す覚悟ができているということです。  これから日本企業の人事は今まで経験してこなかった変革期を迎えます。高齢化やグローバル競争、環境変化に対応して成長を持続しなくてはなりません。そのための人事基盤はあまりにも脆弱で非合理的です。また過去の遺物も多くあります。どこかで大きな構造転換が必要になるでしょう。改革がうまくいくためには“リーダーシップ”と“覚悟”がいかに重要であるかを再認識しなければなりません。  以上

時代遅れの二次評価 | 人事制度設計

時代遅れの二次評価

 多くの企業では人事評価を行う上で、数回に渡り評価の見直しを行うことが普通に行われています。直属の上司がつける評価を一次評価とし、より上位の社員役員による再評価を二次評価、三次評価として運用している企業が実に多くあります。長期雇用、年功序列の人事管理の中では、この二次評価、三次評価はそれなりに機能を果たしてきましたが、実力、成果主義の人事管理を指向しようとすると、とたんにこの二次、三次評価はマイナス以外の何者でもなくなります。  かつての人事管理は、長期に安定して勤務することが非常に重要であり、そのため社員の大多数がある程度満足する評価でなければなりませんでした。評価自体も口当たりの良い甘い傾向であることが当然ですし、また二次評価以降でも組織間のバランスなどの視点から、全社的に多くの社員が満足するバランスをとるための評価調整がなされるのです。もっと言えば社員個々の評価について厳格に管理するという視点はそもそもなく、多くの社員が満足するバランス作りが必要だったのです。したがって一部の優秀な社員と大半のまあ優秀な社員と、ほんの少数の優秀でない社員という暗黙のバランスを指向していたとも言えます。二次評価以降はこの全体バランスという視点で調整することが主たる役割であり、上位の管理職や役員からみて、うまいバランスであるかを検討する場として、それなりの意味があったのです。  しかし経営、人事を取り巻く環境は、大きく変わりました。企業の成長のためにハイパフォーマーをできるだけ育成しなければなりません。労働市場の発達はメリハリのない企業にとっては人材流出のリスクが高まっています。また人件費にも限りがあります。有効な配分をしなければなりません。環境は全員を最後まで雇用することを前提としない、労働市場的にも社内的にも実力主義的人事管理を求めているのです。この環境の変化に対して現在の人事制度はあまりにも旧式です。実力成果主義人事を行うための人事制度に切り替えなくてはならないのですが、未だに実質年功給的な昇給があったり、適正な人員構成実現という観点の昇格になっていない、賞与などの配分に論理性がないなど様々な問題が発生し、新たニーズに対応できていないのが実際でしょう。  実力、成果主義人事制度のもとでは、社員に対する評価は常に“絶対”でなくてはなりません。そうでなければ社員の理解を得ることができないからです。そのためには昔の評価制度風に言えば、一次評価のみが重要であるということです。要は評価を適正に行うためには、直接の業務指示者が正確な評価を行うことに尽きるということです。直接の上司でなければ実際の能力や貢献がわからないからです。この一次評価の品質をいかに上げるかが極めて重要で、一次評価の品質が低い企業は、二次評価以降の評価で品質がよくなることはありません。一次評価の結果を上位者により変更することは、一次評価者、被評価者の理解賛同を得られずらく、混乱し不満に思うだけでしょう。実力、成果主義的人事では二次評価はその存在がそのものに意味がありませんし、逆にマイナスなのです。  よく“一次評価者のレベルが低く、二次評価で修正しなければならない”などという声も聞きます。そのために二次評価をするのだと。しかしそんな社員を管理職として遇し、また適正な評価ができないことを黙認してはいけません。今後の人事管理では二次評価という言葉自体も存在しないということです。 以上

夢のない分布 | その他

夢のない分布

 社員の評価が適正でない企業では、最終的な手段として“分布規制”を行います。これは社員の能力や業績の評価結果を決められた分布通りにするという発想です。その多くは“正規分布”的発想で、SABCDの5段階であればSが5%、Aが15%、Bが40%のようにあらかじめ“形”を決めておくのです。こうすることにより、甘辛の調整をするという発想です。 この考え方にはいくつか重要な論点があります。多くの企業では社員の評価は“絶対評価”で行い、その結果を相対評価するという建付けになっています。背後には評価者は甘く付ける傾向にあるということでしょう。一次評価した絶対評価を信用しないということなのです。こうすることによって社員からみた評価制度は意味がわからないものとなります。もう一つ重要であるのはそもそも“正規分布”は正しいのかということです。企業内の人材が一定の評価基準で評価した結果正規分布になることなど、どの理論に基づいているのでしょうか。少なくとも私は十分な論拠のある正規分布適正論を見たことはありません。働くアリだけを集めると、一定比率働かないアリが発生するといったことが、この評価の分布議論で、納得性のある話のように流布されています。面白いですがそれだけです。体感的には優秀な人材が多く在籍している企業もその逆もあると思いますので、なぜ正規分布かが理論的にも体感的にもわからないのです。そんなに相対評価したければ、社員に順位を付ける制度のほうがわかりやすいのではないかと思います。等級別の自分の相対順位で自分の位置づけを認識するイメージです。  この正規分布の考え方は、別な言い方をするとあまりにも夢がありません。人事管理の本質的意味合いを否定しているかの如く感じることさえあります。どの企業でも“優秀な人材の育成”と銘打っていますが、優秀な人材は一定比率しか認めないという矛盾したものとなっているのです。人事管理の視点では優秀な人材の比率が高まることで、より高い生産性、より高い業績を生み出すために行っているのであり、一人でも多くより活躍し、より高い処遇になることが目的です。正規分布はその人事管理の目的を否定している考え方に見えるのです、  実際には分布規制をしている会社は、そんな悪意を持っていません。甘い評価が横行するのを何とか食い止めるために行っているのでしょう。経営や人事部門の苦悩がこのような手法に表れているのです。いずれにしても評価そのもの、人事制度そのものをより高い効果を出すという視点からは、副作用の非常に強い対処療法でしかありません。  真に優秀な人材が多く発生して困ることはありません。逆に優秀な社員が多く出現するほうがよいに決まっています。社員を適正に評価できる仕組みやマインドを再構築して、“正規分布的発想”をなくし、攻撃的で夢のある人事管理に変貌しなければなりません。いつまでも正規分布が妥当かを議論したり、正規分布の比率の議論はあまりにも本質から逸脱しているように思えます。 以上

振り出しに戻る | その他

振り出しに戻る

 管理職から外れたら専門職に移るという人事制度をよく見ますが、本当に合理的なのか大いに疑問です。  優秀な事業部長を育てるには、複数の部長の経験が必要でしょう。同じように優秀な部長を育てるためには、異なる機能の課長経験が必要となります。優秀な課長として育成するためには、いくつかの異なる部署の経験をすることが望ましいでしょう。異なる環境や異なる機能でのマネジメント経験をさせることで、マネジメントとしての幅が広がり懐が深くなるのです。そのため優秀な管理職はローテーションが必須となるのです。逆に専門職は特定の領域の社内専門家です。企業によってその専門の領域は異なりますが、特定の領域を深掘りしていくことになるので、基本的にはローテーションという考えは必要ないのです。とにかく特定領域を徹底して詳しくなるようにするのです。要は管理職と専門職は全く育て方が異なるということです。  しかし多くの企業の人事制度はあまり合理的に管理職、専門職の設計がなされていないのが現状でしょう。例えば管理職の等級が事業部長、部長、課長クラスに対応してM1、M2、M3とあったとします。それに対応して専門職の等級もP1,P2,P3のように設定したりするのです。これ自体には問題は全くないのですが、M1で管理職から外れた社員を同格のP1に転換させるような人事制度が圧倒的に多いのです。管理職と専門職は行き来が自由のような設計も多く見られます。管理職を外れたのであれば、管理職のもとで何らかの実務を行うことになります。この実務のレベルは同格の専門職と同じとは考えられません。専門職としてもその経験を積んでいない分、同格ではなく一つか二つ下ではないでしょうか。しかし実際にはあまり処遇を下げたくないという感覚から同格の専門職にしたりするのです。  これは専門職の地位を著しく侵害しています。本当の意味での専門職は長年特定の専門領域の職務に就き豊富な経験と高いノウハウを持っているのであり、管理職だった社員が横滑りしてきて同格ということはあり得ないでしょう。そういう意味で現在の専門職は2つの人材が混在しているのです。管理職から外れた人材と専門家として評価されてきた人材が同じ等級・グレードに存在しているとも言えます。そうなると専門職は管理職から外れた社員の処遇の場として認識され、“管理職として処遇できない社員の職種”、“管理職より下”のような位置付けとなり、本当の意味での専門職は根付きません。  まず管理職と専門職はその育成方法の違いと形成する能力の違いから相互の互換性は高くないことを再認識しなければなりません。自由に行き来できるというのは、全くナンセンスなのです。また管理職のどの等級からでも、管理職から外れた場合には専門職の一番下へ格付けるような方法が合理的でしょう。管理職としての能力ではなく専門職としての能力で評価すれば多くの場合にはM1〜M3の社員が専門職に行く場合には、皆P3に格付けるということです。管理職から外れたら、分岐したスタートポイントに戻るのです。“振り出しに戻る”ということです。 以上

矛盾する方針 | その他

矛盾する方針

 企業が新たに人事制度を設計し導入する場合に、その制度のレベルは関与者の知識、スキル、マインドに大きく依存します。多くの企業では、人事制度の導入を計画する場合に人事部が中心となって設計します。また主要組織のキーマンや経営陣などを中心として、“人事制度検討委員会”などを設置して、人事部門が策定した制度を審議します。新たな人事制度の方向性やある程度の骨格を決定するのは、委員会のメンバーと実際には設計する人事部門メンバーとなります。経営者が方向性と大まかな制約事項を提示して、人事部門が自社に適合した経営に効果のある制度を設計し、それを経営者が承認するというのが望ましい進み方です。  しかしこれがうまく機能しない企業が少なくありません。そもそも経営者の方針や制約がよく理解できなかったりします。また経営者の方向性を咀嚼して人事部門が設計しても設計そのものが合理的でないことも散見されます。そうなると説得力のある説明できないのです。さらには設計の途中や設計終了後に経営者と話をすると、ここでも大きな問題が起こることがあります。経営者は自らが発した方針が制度になることによって初めて現実の社員への影響を目の当たりにするのです。そうすると矛先が鈍る人も多く出てくるのです。  ある企業で“担当している職務によって処遇する制度にする”という方針に対して、人事部門は複数段階の職務レベルを設定して、それぞれ適切と思われる給与を設計しました。職務によってということは、担当職務が上がれば給与は上がるでしょうし、担当職務が明らかに下がれば給与はダウンすると解釈しました。給与制度的には職務レベルによってはっきりと差のある給与制度となります。これを経営者に持っていったところ、毎年の昇給や数年ごとの昇格は行いたいという強い要望が出たのです。職務レベルを軸とした処遇と定期昇給や定期的な昇格などは理論的には相入れないのですが、どうもその経営者の認識が明確でないのです。こういう人事に疎い経営者に対して最近の人事制度理論をすぐに理解させることは非常に困難を伴います。経営者も昔の人事制度で慣れ親しみ、かつ昔の制度でよい思いをしてきた人なのです。こうなると人事制度設計も内部承認を得るまで大きな苦労が待っています。結果としては経営者の曖昧なイメージを何度も形にして説明しますが、そもそも矛盾した方針を出しているのですから、設計しても無理があります。設計に無理があることに経営者は次第に気が付いて行くのですが、これには時間がかかるのです。挙句の果てに、個人別の給与の変更案をみると一気に心が萎える人がいることも、多く目にしてきました。  企業にとって重要な人事制度を策定するのであれば、まずは経営者含めて社内の関与する人たちの人事知識を一定レベルまで上げなければ、議論すら噛み合わないのです。いくつかの企業で、制度設計する前に人事の基本的な言葉や理論の研修を社長含めて関与者に行ってから設計をすることがありました。これは非常に効果的でした。ただし社長含めてこのような事前研修に出ること自体に消極的な企業も少なくありません。このような研修ができない企業は、議論が長くなることを覚悟したほうがよいかもしれません。経営者の“人事管理”に関する知識、スキルが足りていないのが現状ではないでしょうか。

間違いだらけのMBO | その他

間違いだらけのMBO

 目標管理(MBO)は多くの企業で、業績の管理の手法として導入されています。このMBOは最初に誰がどのようにして広めたかわかりませんが、あまりにも非現実的で初歩的な誤認識が目につきます。この間違えたMBOについては、あまりにも語ることが多くありますが、その代表的な誤認識について議論したいと思います。  まず目標管理の対象者ですが、多くの企業で社員全員を対象にしています。目標管理の対象者は、適切な目標を設定でき、それが測定可能で、また自分の権限でコントロールができる人であることが絶対的条件です。この原則を守らないと、多くの企業で出てくるいつも聞く問題が発生するのです。“目標が適切に設定できない”などはその代表的なものです。企業によっては目標を適切に設定しようと躍起になる企業もあります。まず無駄だと思います。上記の3つの条件が成立する社員はポストに就いている管理職社員がほとんどでしょう。一般の社員はチームで仕事をしていることが多く、またローテーションでたまたまその職務を担当していたりします。日本の企業では等級・グレード制度が厳格に運用されていないので、等級による目標の差なども明確にすることは不可能です。簡単に言えば目標管理はポストに就いている管理職に限定するほうがよほどわかりやすいのです。分解できない構造であるのに、無理に目標を一般社員にまで分解することが間違いなのです。  目標管理の書籍などを見てびっくりすることがあります。たまに目標は社員自らが立てるべきであると書いてあるものがあります。これは経営管理上全くナンセンスです。根拠としては、会社の方針を理解して積極的に自分の目標を設定することによって社員の自覚意識が高まるなどとも書いてあったりします。会社の経営方針と経営計画が主要な組織に個別の方針や目標として分割されるのであって、社員が勝手に経営方針を咀嚼して自分の目標を立てるなどは時間の無駄でしょう。積極的に会社や部門の計画や目標に関与する姿勢は極めて重要だと思いますが、それは目標管理の中で達成するものではありません。  さらに続けます。目標は経営にとって重要な達成したい事項ですので、その属性が定量なのか定性なのかに過度にこだわる必要は全くありません。なんとなく定量は正しいが定性は正しくないようなイメージや、定量こそ目標で定性はそのサブ的なものであるような解釈をしている企業がありますが、目標は目標であって数で測定できるか否かで大きな区別をする必然性は何もないのです。またいくつかの目標に“難易度”を設定することがあります。これがまたいい加減な指標です。難易度は等級・グレードをまたぐような目標の場合に、上位や下位等級との平均給与差などを使用して決定するのが理論的です。一般的には難易度の解釈も曖昧なことが多く、さらには“係数”の考え方も根拠が不明の企業も散見されます。  他にも多くの論点はありますが、現在の日本企業の目標管理は問題が多すぎです。もっとシンプルにわかりやすく説明可能な形態に直ちに改造するべきです。