パワハラを産む「黒い大三角」を排除するために有効な360度人事評価
●気づきで是正できるパワハラ言動 真面目な上司がついつい部下指導に力が入ってしまって、パワハラ言動に至ってしまうことはよくあるものです。特に新しくリーダーやマネジャーに昇格した上司にありがちなことかもしれません。部下の能力を底上げしてあげたい、そんな善意が背景にあったとしても、結果として、部下のモチベーションを下げ、チームのエンゲージメントを損なう指導になってしまっていたとしたら逆効果です。力みすぎによるパワハラ言動は、それが最低最悪のマネジメントであるという気づきから、改善される場合も多いでしょう。しかし一方で、気づきによって、是正が期待できない場合もあるのです。 ●黒い大三角 〜 気づきで是正できないパワハラ気質 心理学的に次の三つの要素を兼ね備えたタイプの人間は、人としていかがなものかと思える邪悪な言動を平気で行うことができると考えられています。 ・自己利益ファースト(マキャベリズム) ・異常に高い自己評価 (ナルシシズム) ・罪悪感や感情の欠如(サイコパシー) これは「黒い大三角(ダークトライアド)」と呼ばれるものです。 図表1 邪悪な性格特性:黒い大三角(ダークトライアド) 資料出所:『パワハラ上司を科学する』 津野香奈美 ちくま新書”Dark Triad” Paulhus Delroy L., Williams Kevin M. The dark triad of personality 2002 黒い大三角をもつ社員は得てして優秀で、仕事で結果を残す場合が多く、組織の中で高い評価を得ていることが多いと言われます。特に上司に対しては表の顔しか見せず、いつの間にか成果を独り占めし、踏み台にした同僚や後輩に対して何ら罪悪感を持つことはありません。そんな人間がリーダーになると巧妙に部下を追い込み、成果を独り占めし、何ら恥じることなく堂々と振る舞います。 「追い込まれ、踏み台にされる人たちの痛みを感じろ!」と言ってみても、そもそも、このタイプは人の痛みを感じないのです。「なぜいけないのですか?私は結果を出しています」と静かに微笑むことでしょう。たとえ一時的に成果が上がっても、メンバーの身体や精神が損なわれたとしたら、組織にとって好ましくはありません。結果のために手段を選ばずメンバーを追い込み、人の痛みを感じることなく、成果だけは独り占めにするリーダーやマネジャーは存在してはならないのです。 それでは気づきを促しても無駄だとすれば、どうしたらいいのでしょう? 黒い大三角タイプはそもそもリーダーやマネジャーにしてはいけないのです。プレイヤーとしては優秀であっても、リーダーやマネジャーにする際にはスクリーンをかけ、排除することがベストだといえましょう。 ●黒い大三角社員を排除するために有効な360度評価 通常の人事評価では、黒い大三角の本当の顔は見えないかもしれません。ましてや管理職アセスメントでは逆に高い得点をたたき出すかもしれません。そもそも能力は平均以上なのですから。 そこで、周囲の人たちからの評価がとても参考になります。普段の職場の振る舞いから、ふと覗かせる裏の顔は周囲のメンバーたちが一番よくわかっています。陰湿なパワハラ言動の数々や、手柄や成果を横取りされた独り占めされたというケースが浮き彫りになってくるかもしれません。表の顔しか知らない上司の評価、高すぎる自己評価(ナルシシズム)、同僚や後輩からの裏の顔の評価、これらを総合する360度評価により、黒い大三角社員の存在を浮き彫りにして、そんな特性を持った人たちを排除していくこと、少なくともリーダーやマネジャーに昇格させないことをお勧めします。