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建設業の人的資本ROI <br />~人手不足が変える大手・中堅のパワーバランス~ | 調査・診断

建設業の人的資本ROI ~人手不足が変える大手・中堅のパワーバランス~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は、直近5年分の建設業の人的資本ROIを資本金規模別に見ていきます。 図表1は、建設業の資本金規模規模別の2000年以降の人的資本ROIの推移です。まず、俯瞰で見ると、資本金規模や年度により大小がありますが、おおよそ4~6割のレンジで推移しています。一般的に建設業は比較的人件費率が低い業種であり、他業種と比べても一定のリターンが得られやすい構造ですが、超大手の情報通信業(2022年,135%)のような著しい伸びを実現できる構造では無さそうです。 また、資本金規模による比較の観点では、一部の業種では、規模の経済が働き、資本金規模が大きい程リターンが大きくなる傾向がありますが、建設業では水準に大きな差は見られません。むしろ、2021年以降、資本金規模10億円以上の大手企業の水準を、1~10億円規模の中堅企業の水準が上回っていることが分かります。 [図表1]建設業人的資本ROI推移(資本金規模別) 出典: 法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 建設業は、元請けである大手ゼネコンをトップに、多重構造からなる特有の業界構造を有します。従来は、上流企業は圧倒的な交渉力を有し、厳しい納期や条件で仕事を進めてきました。 現在も超大手は一定の交渉力を有しますが、2024年問題と称される働き方改革・労働条件改善の取り組みが進捗し、仕事を進めるために下請け企業が許容する条件を提示せざるを得ない状況になりつつあります。また、人手不足により下請け企業側が受注制限をせざるを得ない状況から、交渉の力関係が変化しつつあると言えます。こうした状況により、中堅規模の企業では健全な水準のリターンを得やすくなっていると言えます。逆をいえば、大手企業が下請け企業に厳しい条件を提示することで、これまで得られたリターンは失われていく傾向になるでしょう。 人口減少による国内市場縮小や、人手不足と深刻な高齢化、原材料高騰等、悩ましい問題を抱える業種ゆえに、今後、適切に人材へ投資をしながらリターンを得るため、構造を転換する契機でもります。業界全体の収益構造の抜本的な変革としては、M&Aによる過剰な多重構造の解消があげられます。また、個社の収益改善の観点では周辺業務のDX投資・DX人材開発による効率化や、新市場・新商流を生み出すイノベーション人材への投資等が考えられます。 以上 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは  人的資本ROIと労働生産性の関係性 人的資本ROI水準に影響する外的要因 小売業の人的資本ROI 情報通信業の人的資本ROI 宿泊業の人的資本ROI 物流業の人的資本ROI 製造業の人的資本ROI

製造業の人的資本ROI <br />~トップは11年間平均80%、広がる業種間の差~ | 調査・診断

製造業の人的資本ROI ~トップは11年間平均80%、広がる業種間の差~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は製造業に絞って人的資本投資利益率(ROI)の特徴を解説します。人的資本ROIは収益構造やビジネスモデルにより水準が大きく異なるため、一概にどの水準であれば良いとは言いきれませんが、外部水準と比較して自社がどの水準にあるかや、自社の指標の推移を確認しておくことには意味があるでしょう。 ここでは資本金1億円以上規模の製造業全体と製造業の内、食品製造業・化学工業・電気機械器具製造業・情報通信機械器具製造業・金属製品製造業について、過去11年分のデータを比較します。 図表1は人的資本ROIの推移を示しています。(凡例の括弧内は11年間の平均値) 2018年からの米中貿易摩擦や2020年の新型コロナウイルス流行、半導体不足、2022年からのロシアによるウクライナ侵攻によるサプライチェーンや物流ネットワークの混乱、等による製造業全体の利益減少の影響は見られるものの、図中の全業種で2013年と比べ2023年の人的資本ROIは上昇しています。 最もROIが高いのは化学工業(11年間の人的資本ROI平均80%)です。食品製造業(同43%)は製造業全体(同44%)と同水準、電気機械器具製造業(同34%)・情報通信機械器具製造業(同32%)・金属製品製造業(同28%)は製造業全体より低い水準です。 [図表1]資本金1億円以上規模の製造業および製造業に含まれる一部産業の人的資本ROI 出典:財務省「法人企業統計調査」を基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 人的資本ROIは人件費投資に対するリターンを示す指標ですが、社員一人当たりが生み出した付加価値の指標である労働生産性と一緒に分析することも有効です。図表2は労働生産性の推移です。 [図表2] 資本金1億円以上規模の製造業および製造業に含まれる一部産業の労働生産性 出典:財務省「法人企業統計調査」 ※ 労働生産性=付加価値額÷従業員数 5業種の人的資本ROIと労働生産性を製造業全体と比較すると以下の4パターンに分類できます。 化学工業(人的資本ROI:同等以上×労働生産性:同等以上) 製造業全体と比較して、人的資本ROIと労働生産性のどちらも高い水準であることから、人件費の投資効率が良く、少ない人数で高い付加価値を創出していると言えます。 電気機械器具製造業・情報通信機械器具製造業(人的資本ROI:低い×労働生産性:同等以上) 製造業全体と比較して、労働生産性は同等以上であることから少ない人数で付加価値を生み出していると言えるものの、人的資本ROIは低いことから人件費投資効率に改善の余地があると考えられます。 食料品製造業(人的資本ROI:同等以上×労働生産性:低い) 製造業全体と比較して、人的資本ROIは同水準であることから人件費投資に対する一定のリターンは得られているものの、労働生産性が低いことから人員が余剰していると言えます。 金属製品製造業(人的資本ROI:低い×労働生産性:低い) 製造業全体と比較して、人的資本ROIと労働生産性のどちらも低い水準であることから、人件費投資効率に課題があり、人員も余剰していると言えます。 今回は人的資本ROIと労働生産性を比較しましたが、他にも設備や人材への投資の指標として、労働装備率(社員一人当たりの有形固定資産)や無形資産ソフトウェア、研究開発費、一人当たり人件費を比較することも意味があるでしょう。自社の方針と関連する指標を定め、モニタリングしていくことが重要です。 以上 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは  人的資本ROIと労働生産性の関係性 人的資本ROI水準に影響する外的要因 小売業の人的資本ROI 情報通信業の人的資本ROI 宿泊業の人的資本ROI 物流業の人的資本ROI

物流業の人的資本ROI <br />~外部環境変化を受けやすい企業・受けにくい企業~ | 調査・診断

物流業の人的資本ROI ~外部環境変化を受けやすい企業・受けにくい企業~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 物流業は私達の日々の生活の基盤となる重要な産業の1つです。コロナ禍において人・モノの移動が制限されたことで、通販や宅配等のサービスがより普及し、より一層身近で重要性を感じる産業の1つになったのではないでしょうか。同業界は国際情勢や資源価格等の影響を大きく受ける業界であることに加え、直近では法改正に伴う人材不足が懸念される等の課題があり、物流の安定性を担保するには様々な施策が必要です。今回は物流業界の過去20年の人的資本ROIの推移を見ながら、今後採りうる施策について述べていきます。 図表1は、陸運業の資本金規模規模別の2002年以降の人的資本ROIの推移です。コロナ禍以前は資本金規模に関わらず緩やかな成長傾向にあり、資本金1億円以上10億円未満は6~35%、10億円以上は30~70%のレンジで推移していました。2019年から2020年にかけて、人やモノの移動が世界的に制限されたことにより、陸運業全体の人的資本ROIが低下しましたが、その後回復基調にあります。 [図表1]陸運業人的資本ROI推移(資本金規模別) 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 陸運業の大企業の特徴として大口顧客をメインで扱う点や人件費や設備費等の固定費が高い点が挙げられ、同業種の中小企業と比較して売上の減少が収益に大きな影響を与えます。コロナ禍においては外部環境の変化に敏感な企業が大きな打撃を受けたことにより、収益が一時的に大幅に低下したと考えられます。一方で中小企業は特定の市場や地域に特化していることが多く、顧客基盤が特定の業界に集中していないことで、大企業と比較すると外部環境の変化の影響を受けにくかったと思われます。 図表2は、水運業のものです。資本金規模によって大きく傾向が異なり、資本金1億円以上10億円未満の企業は40~95%、10億円以上は特に変動幅が大きく、-220~570%を推移しています。 [図表2] 水運業人的資本ROI推移(資本金規模別) 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 [図表3]原油価格とA重油価格の推移 出典:石油製品需給動態統計調査 石油統計 年報を基に筆者作成 水運業の大企業の人的資本ROIは、原油価格の値動き(図表3)に非常に類似しています。水運業の収益は原油やコンテナ運賃等のコストが外的要因により大きく変動することから、人的投資が必ずしも企業の収益に直結する訳ではありません。一方で、中小企業の場合は国内向けの輸送が中心である点や景気動向に関係なく需要のあるものを大量に輸送する点等から、景気動向やコロナ禍のような外的要因の影響を受けづらかったと考えられます。 陸運業・水運業問わず、物流業が安定的に成長していくためには、これまで言及してきたような景気動向や外的要因の影響を最小限に留められるよう、経営・事業の戦略の立案と推進を行える人材への投資が肝要です。顧客・販路の開拓や、エネルギー効率を意識した設備投資、デジタル化による省力化・効率化等、ビジネスを俯瞰的に見られる人材への投資がより一層求められるでしょう。 以上 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~  人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~ 人的資本ROI水準に影響する外的要因~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~ 小売業の人的資本ROI~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~ 情報通信業の人的資本ROI~人材不足が労働集約型ビジネスにもたらす影響~ 宿泊業の人的資本ROI~~苛烈化する競争で求められる次代の人材とは~

宿泊業の人的資本ROI <br />~苛烈化する競争で求められる次代の人材とは~ | 調査・診断

宿泊業の人的資本ROI ~苛烈化する競争で求められる次代の人材とは~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は、直近10年分の宿泊業の人的資本ROIを資本金規模別に見ていきます。コロナ終息後、日本人気の高まりや円安の影響で、再びインバウンド観光客は増加しています。銀座や富士山、京都など、日本各地で連日多くの観光客を見かけるようになりました。 一口に宿泊業といっても、宿泊に特化したホテルチェーンもあれば、レストランや結婚式場を併設したフルサービスホテル、温泉旅館など様々です。施設のグレードや業態も、かなり多様化しています。図表1は、宿泊業の業界マップです。同一規模の企業であっても、保有する施設や所在地、ターゲットによって、事業戦略がまったく異なります。 [図表1]宿泊業 業界マップ 関連書籍から筆者作成 図表2は、宿泊業の資本金規模別の2013年以降の人的資本ROIの推移です。 [図表2] 業種別人的資本ROI推移 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 資本金規模や年度により大小がありますが、俯瞰で見ると、コロナ禍の2019年まではおおよそ1~3割前後の水準で推移しています。一般的に宿泊業は人件費率が収益に対して高い業種なので、人的資本ROIは低水準であることがわかります。その後2020年のコロナウイルスの蔓延により、人の流れが止まり、宿泊業は深刻な影響を受けたため、人的資本ROIは大きく低下しました。 資本金規模による比較の観点では、2013年・2014年までは規模の経済が働き、資本金規模が大きい程リターンが大きくなる傾向がみられました。その後2016年・2017年においては、宿泊業(1億円未満)が宿泊業(1-10億円)を上回っています。コロナの影響を強く受けはじめた、2019年終盤から2022年には、規模が小さいほど人的資本ROIの減少幅は小さい傾向があります。 旅館・ホテルの市場規模は、2023年度4.9兆円であり、2024年度も過去最高を更新する可能性があります。宿泊業は成長産業の1つといえるでしょう。ただ、国内の一等立地には外資系ホテルの参入が進んでいます。これらのホテルグループは、高付加価値サービスで、インバウンド需要を取り込んでいくと思われます。 もともと日本の宿泊業は市場規模に対して施設数が多いため、競争が非常に激しい業界であり、今後ますます差別化が求められます。立地面やハード面において優位性に欠ける場合、例えば地方の中堅ビジネスホテルや老舗温泉旅館は、どのような戦略を立てるべきでしょうか。個社で戦うのではなく、施設所在地の地域全体の競争力を高められるよう、エリアのさまざまな事業者とバリューチェーン・機能を連携・統合し、顧客シェアを高めることが有効と考えます。そのためには、マーケティング戦略をたて、DMO(Destination Management Organization)や地域商社、OTA(Online Travel Agent)と連携・提携をとりつけることができるような人材を獲得する必要があるでしょう。 宿泊業においては、ホスピタリティ人材を重視した人事制度では、新たな事業を推進していく高度専門人材や経営人材を獲得し、活躍・定着を図ることは難しい可能性があります。持続的な成長のためには、事業戦略に応じた人材のポートフォリオを明確にする、戦略を実現するための組織文化を醸成するなど、さらなる人的投資とそのストーリーが求められるでしょう。 以上 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~  人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~ 人的資本ROI水準に影響する外的要因~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~ 小売業の人的資本ROI~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~ 情報通信業の人的資本ROI~人材不足が労働集約型ビジネスにもたらす影響~

情報通信業の人的資本ROI<br />~人材不足が労働集約型ビジネスにもたらす影響~ | 調査・診断

情報通信業の人的資本ROI~人材不足が労働集約型ビジネスにもたらす影響~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は、情報通信業の人的資本ROIを資本金規模別に見ていきます。情報通信業といってもその範囲は非常に広く、情報サービスから、携帯電話サービス、テレビ放送サービス、映画・動画サービス、ウェブ広告サービス、ネットワークセキュリティサービス、ECプラットフォームの運営サービスをする企業など、様々なレイヤーの企業がいます。各レイヤーの企業は互いに連携しつつも独自の技術領域・サービス領域で価値を提供しています。 図表1は、情報通信業における資本金規模1億円以上10億円未満の企業と、資本金規模10億円以上の企業の2018年以降の推移を示しています。 [図表1]情報通信業界人的資本ROI推移 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 2つの表を比較すると、資本金規模1億円以上10億円未満の企業は20~30%で推移し、資本金規模10億円以上の企業は120~130%で推移しています。つまり資本金規模が大きいほど、人件費の投資効率は良いと言えます。要因の一つとして、情報通信業を主業としている企業の72%を占める情報サービス業3,735社では、労働集約型産業の側面が強く、大手企業が受注して、一次請け、二次請けに仕事を卸していく多重構造が特徴としてあります。人手不足を解消するために、労働者派遣も活発な業界です。そのため、大手企業は投資活動(人材投資、システム投資)が盛んである一方、中小企業ほど売上原価のほとんどを人件費が占める労働集約型のビジネスモデルになっています。 情報通信業界を支える主要な労働者である IT人材は、2020年時点で約30万人が不足しており、2030年には最大79万人が不足する可能性があると言われています。労働者不足や AIなどの技術の急速な進化により、情報サービス業における労働集約型のビジネスは大きな転換点にあります。 特に、自社独自の付加価値でソリューションを提供する事業への転換など、事業ポートフォリオの見直しは喫緊の課題です。 例えば、レガシーシステムに精通し、最新技術のスキルを持ちつつモダナイゼーションを主導する事業、下流で得たデータを上流に還元する事業、労働集約型の業務を自動化するシステム開発事業など、様々な事業が考えられます。重要なのは、自社がどのように価値を生み出すかを定め、事業ポートフォリオの転換に向けた投資を行うことです。その中でも、人材への投資を行い、人材ポートフォリオを転換していくことは重要な課題です。 2020年に公表された「デジタル人材と従来型人材の比較調査」(図表2)によれば、先端IT人材(IoTおよびAIを活用したITサービス市場に従事する人材)と従来型IT人材(従来のITシステムの受託開発や保守・運用サービスに従事する人材)を比較すると、従来型IT人材は先端ITの業務に従事する機会がないことが明らかになっています。このこともあり、「先端ITを学んでもそのスキルを発揮する場がない」、「現在のスキルでしばらく活躍できる」といったスキルアップの課題が生じています。従来型IT人材のスキル転換には、企業が主導して先端ITスキルを活用する場を用意する必要があることが示されています。 [図表2] 先端IT従事者(500名) [図表3]先端IT非従事者(500名) 出典:IPA独立行政法人 情報処理推進機構「Reスキル・人材流動の実態調査及び促進策検討」(2020年) ※「<Q>あなたは、現在、以下のような分野の知識やスキルが求められる業務を担当していますか。」への回答状況(「今は担当していない」の回答項目は二つの項目を一つに筆者にて合算) 各企業は、将来の事業ビジョンに必要となるスキルセットを特定し、目標とする人材構成を策定した上で、採用、配置、育成、スキル転換などの人材ポートフォリオの転換施策を企業が主導して総合的に実施する必要があります。また、人材ポートフォリオの転換を成功させるには、IT人材の自社に対するエンゲージメントを高め、それを人材ポートフォリオ転換の推進力とすることが重要です。 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~  人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~ 人的資本ROI水準に影響する外的要因~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~ 小売業の人的資本ROI~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~

小売業の人的資本ROI<br /> ~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~ | 調査・診断

小売業の人的資本ROI ~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は、直近5年分の小売業における人的資本ROIについて考察します。図表1に示すように、この業種には、百貨店、総合スーパーマーケット、コンビニエンスストア、家電量販店、ドラッグストア、ホームセンターが含まれ、さらに専門店や個人経営の商店、無店舗の小売事業(ECや通販など)も含まれます。 図表1:2023年 主要な業態から見る商業販売額 出典:経済産業省「2023年小売業販売を振り返る」(2024年)より引用 小売業は典型的な労働集約型の業種とされており、他業種と比較して人件費率が高い一方で、リターンは比較的低いという特徴があります。 図表2は、小売業の資本金規模別における2018年度以降の人的資本ROIの推移を示しています。データを見ると、資本金規模や年度によって、人的資本ROIが2~6割と大きく変動していることが分かります。特に、新型コロナウイルスの影響により2019年度以降、多くの企業で売上高が大きく変動し、それに伴う人員削減などもあり、数値が乱高下しています。また、資本金規模別の比較では、規模の経済が働き、資本金規模が大きいほどリターンも大きくなる傾向が見られます。 図表2:小売業 人的資本ROI推移(資本金規模別) 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 人的資本ROIを向上させるには、売上高を増加させること、経費を削減すること、人件費を削減することが必要です。しかし、単純なコストカットは持続可能な成長に繋がりません。例えば、店舗型の小売企業では、物件費と人件費が大きなコスト要素です。利益を生まない店舗を閉鎖し、利益を出している店舗にリソースを集中する施策は一般的ですが、このような施策によって一時的に利益率や人的資本ROIを向上させることはできても、優秀な人材の流出や組織力の低下を招き、長期的な成長に悪影響を及ぼすリスクがあります。人的資本ROIを持続的に向上させるためには、人材への効果的な投資を行い、売上や利益の増加に繋げる視点が重要です。 小売業では、非正規労働者の比率が高く、最低賃金の引き上げが進む中で、人件費の増加が予測されます。従業員教育やキャリア採用による戦略的人材の育成・確保、シニア層の活躍推進など、従業員の能力を最大限に引き出し、付加価値を高めることがこれまで以上に重要となっています。一方で、人口減少による人手不足は深刻な課題であり、セルフレジや自動化を推進し、生産性を向上させることが急務です。また、現在、百貨店と家電量販店、コンビニエンスストアとドラッグストアなどにおいて、扱う商材の差異が小さくなりつつあります。小売業は規模の経済が働きやすい業種でもあるため、M&Aを活用して競争優位性を確保する方策も有効です。 個人消費が本格的に回復するフェーズに備え、人的資本ROIを今後も向上させ、経済の変動に対応できる柔軟な体制を築くことが求められます。人材への投資と並行して、DXの推進やM&Aといった重要な施策を実行できる人材の登用や育成がますます重要になるでしょう。  「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~  人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~ 人的資本ROI水準に影響する外的要因~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~  

労働力の量と質の推移 <br />~人口減少時代に向けて~ | 人事アナリシスレポート®

労働力の量と質の推移 ~人口減少時代に向けて~

 内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の総人口は今後減少し、65歳以上の人口割合が今後更に増えるという推計が算出されています。少子高齢化が進むにつれて生じる労働人口の減少により、日本経済が停滞してゆくことが危惧されています。日本経済が持続的に成長するためには、労働力をいかに維持するかが社会的な課題となっています。  こうした背景の中、労働力として注目されている一つが、65歳以上の人材の労働力確保です。2021年4月の改正高年齢者雇用安定法においても、70歳までの就業確保が企業の努力義務となっています。実際、図表1にもあるように、高齢者の就業率は年々上昇しています。65歳以上の高齢者の就業率は2015年から年々上がっており、直近の労働人口全体も緩やかに増えています。このように、労働力の"量"は高齢者の就業率増加もあり、短期的には維持できていることが見受けられます。 <図表1> 労働人口と65~69歳の就業率の推移 出所: 総務省(2023)「労働力調査(基本集計) 2023年(令和5年)1月分結果 20~69歳の人口、就業者数、就業率」をもとに作成  労働力の"質”の推移を確認するため、業界別の労働生産性 (労働者1人あたりが生み出す付加価値額)の推移と平均従業員数の推移を比較しながら解説します。  飲食サービス業(図表2-1)では、労働生産性は常に減少傾向にあり、従業員数も2019年以降は落ちている傾向があります。昨今、大手飲食チェーン店を中心に注文や配膳等業務の機械化が進んでいますが、一人当たりの付加価値=”質”の面では効果が表れていません(付加価値には人件費が含まれるため)。今後機械化がさらに進み、人員数が安定・最適化されたときに高い付加価値を生み出すことができているのかが重要になってきます。 <図表2-1> 労働生産性×従業員数の推移_飲食サービス業 出所:財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  情報通信業(図表2-2)では、2016-2017年にかけて従業員数が減った一方で労働生産性が上がっており、2017-2018年では従業員数が増える一方で労働生産性が下がっており、それぞれが逆行した動きをしています。新規就労者が多く、業界内での転職等による人の動きが活発な情報通信業では、仮に即戦力採用の中途社員だとしても、付加価値への貢献=”質”といった意味では、業務習熟するために必要な経験を得ることに時間がかかりやすい、もしくは時間がかかってしまっている可能性があります。 <図表2-2> 労働生産性×従業員数の推移_情報通信業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  医療福祉業(図表2-3)では、2018年度に従業員数が減少しましたが2020年以降は上昇傾向にあります。一方、労働生産性も2019年以降で安定的に上昇傾向にあります。高度な知識や資格の基盤が前提にある医療福祉業界では、即戦力として労働生産性=”質”に寄与しやすい業種といえます。 <図表2-3>労働生産性×従業員数の推移_医療福祉業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  定年延長・再雇用の活用によって短期的には労働力の”量”の維持が期待できますが、将来的に総人口が減少する日本では少ない人数でいかに労働力を維持していくかが課題となります。そのため、労働力の“質”にも目を向け、労働人口が将来的に減ったとしても安定的な労働生産性が確保されるサービス形態への変換が求められるのではないでしょうか。限りある労働資源をいかに有効活用していき、労働生産性を高めていくかの議論が各企業内でより活発化していく必要があります。自社の生産性をより高めるための阻害要因を各社で見つめ直し、DX推進やリスキリング、イノベーション推進等によって業務効率化とその価値向上に務めることが重要となります。 以上

遅れているリカレント教育<br />~企業側も理解と活用を~ | 人材開発

遅れているリカレント教育~企業側も理解と活用を~

 近年、リスキリングやリカレント教育など、社会人に対する学び直しが重要視されています。 注目され始めた背景には、DXの加速化など、企業・労働者を取り巻く環境が日々変化している一方で、労働者の職業人生が長期化しており、変化に対応するべく個人の能力を向上させることが求められていることがあります。  リスキリングとリカレント教育の主な違いは、だれが主体となって取り組むのか、そしてその学びのプロセスにあります。リスキリングは、新しい職業に就くため、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、企業側が主体となって、個人が働きながら学ぶことを支援することです。一方リカレント教育は、就業した後も個人が主体となって専門能力を向上させ、キャリアを自身で形成するために、「働く→学ぶ→働く」を繰り返すことです。両者の違いはあるものの、どちらも“学び直し”という観点では同義であり、本記事では、「働く→学ぶ→働く」を繰り返すリカレント教育にフォーカスし、現状を量と質の観点から検証し、あるべき姿について解説します。  まずは、量の観点から現状を把握します。図表1は、大学数の推移を表しています。リカレント教育における学びのプラットフォームのひとつである大学は、2010年までは順調に増加し、2010年以降800校程度と横ばいに推移しています。 <図表1> 大学数の推移 出典:文部科学省「令和4年学校基本調査」よりデータを加工 注) 大学とは、国立・公立・私立を含めた大学数の合計を表しており、短大・専門学校は含まれていない  続いて図表2は、大学院生に占める社会人学生の割合を表しており、2009年を境に増加度合いは小さくなったものの、現在も増加傾向は続いています。  今後、子どもの出生率が低下し、入学者数が減少していくことが予想されているため、大学側は学生だけでなく社会人も含めて広く展開し、社会人教育に力を入れてと想定されます。 <図表2> 日本の社会人大学院生(在籍者)の状況 出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2020」調査資料-295、2020年8月  次に、質の観点から現状を把握します。図表3は、日本における成人学習制度をOECD諸国と比較したデータです。なお、ここでの成人学習制度とは、各社会において成人とみなされているものが参加するフォーマル・ノンフォーマル・インフォーマルなど学習形態を問わない学習過程全体を指します。  財源は、他の諸外国と比較すると高く、個人が自主的に学ぶための財源は十分である一方、柔軟性とガイダンス・整合性・認識されている効果は低く、制度を柔軟に活用することが難しく、かつ効果も薄いということが分かります。つまり、経済面では補助金等の整備によって問題ないものの、個人が活用しづらく、学んだ後の効果も低いと考えられています。 <図表3> 成人学習制度の評価 出典:OECD「2019年成人学習の優先順位に関するダッシュボード (Priorities for Adult Learning, PAL)」 注) 1に近いほどパフォーマンスが高く、0に近いほどパフォーマンスが低いことを表す  今後、社員一人一人のスキルアップは必須であることに加えて、社内研修やOJTだけでなく、大学等の外部の専門機関を有効活用しながら自身の能力を向上させ、より専門性の高い人材となっていくことが求められています。 そのためには、下記2点の意識・制度改革が必要不可欠です。 ①個人が学び直す時間を確保し、自身でキャリアを選択すること ②会社側が学び直しを行うための環境づくりや処遇する仕組みを整えていくこと たとえば、サイボウズ株式会社では、「育自分休暇制度」という退職後、留学や大学院入学など、自由にスキルアップを行い、最長6年間は会社に復職できる制度を導入しています。 このような取組みを参考にし、個人が「働く→学ぶ→働く」の良い循環を行い、会社側が学び直しを行った人材を処遇することによって自社を成長させていくなど、ひとつの選択肢として取り組む必要があるのではないでしょうか。 以上

労働者の自己啓発の実施状況<br />~本人任せではなく企業の支援を~ | 人材開発

労働者の自己啓発の実施状況~本人任せではなく企業の支援を~

 日本企業の能力開発費用の割合が他国に比べて圧倒的に少ない状況です。人的資本経営の潮流の中でも、人材に対してどのように教育を施すかは重要であり、企業が社員の能力開発に積極的に取り組む必要は言うまではないですが、社員各自の自己啓発はどうでしょうか。  労働者(正社員)の自己啓発の実施状況を見ると、この10年以上、自己啓発を実施した人の割合は40%台で推移しています。特に大きな波も無く横這いの状態で推移をしており、平成21年度以降は50%を超えることがありませんでした。日本の労働者がいかに自己啓発を行っていないかがわかります。自己啓発に時間を割けない理由は多種多様かと思いますが、そもそもの仕事が忙しい、女性の場合は家事や育児の問題、そもそも何をテーマに取り組めば良いのかがわからないといった理由もあり得ます。企業側もその事情を調査するなどし、自己啓発の促進を検討する必要があるかもしれません。 図表1:自己啓発をしているもの(正社員)の割合の推移 出典:厚生労働省 能力開発基本調査より作成  労働者(正社員)の自己啓発に対する支援を実施している事業所の推移は、平成20年代前半に比べ、現在は約80%の事業所が実施しています。金銭的支援や情報提供、就業時間や休暇の配慮など様々ではありますが、自己啓発への支援自体はある程度はなされていると考えられます。しかし、自己啓発を実施した労働者の現状を見ると、これらの支援が十分に活用されているとは言えないのではないでしょうか。せっかく準備した人材への投資は確実に活用されているか、確認が必要です。 図表2:労働者(正社員)の自己啓発に対する支援を実施している事業所 出典:厚生労働省 能力開発基本調査※平成26年度調査ではこの調査を実施していない。  産業別での状況を見ると、産業ごとでの特徴が見られます。産業別のOFF-JTの実施と自己啓発を行った労働者の割合を見ると、主に企業が主催する研修などのOFF-JTを実施している割合の大きい産業では、自己啓発を行う労働者の割合も大きいのです。金融業・保険業、情報通信業などはOFF-JT実施、自己啓発ともに高めで、宿泊業・飲食サービス業などのサービス関連の産業ではOFF-JT実施も自己啓発も低めという特徴が出ています。 企業がOFF-JTをしっかりと実施したことで、社員の自己啓発意欲が高まるとも考えられますし、自己啓発が盛んな風土で組織としての取組への期待の声が多く、実施に至るということもあるかもしれません。組織で働く労働者に対しての自己啓発は自分で勝手に頑張るものという考え方ではなく、組織と労働者が相互に求めるものを共有し、自己啓発への取組推進を一緒にしていくことで、自己啓発状況が前進する可能性があります。 図表3:産業別 自己啓発を行ったものの割合とOFF-JTを実施した事業所の割合 出典:厚生労働省 能力開発基本調査 令和4年度より作成  日本企業の能力開発費用は他国に比べて圧倒的に少ない状況ですが、まさにその結果が自己啓発の状況からも見えています。しかし、企業側としてもすべて研修などを準備して学習させるのは不可能です。各個人の自己啓発への積極性を高めていくためには、学びを仕事にどう生かすべきなのかを考えるきっかけづくりが重要です。例えば、研修などの機会を通して、仕事で生せるフレームワークや手法などを学ぶことで、知識欲を高め、成長に向けた動機付けを行います。その後も実践への活用と振り返りを継続することで、学びが定着していくのではないでしょうか。また、支援を行ったならば、教育投資に対する効果の検証をして、次回の教育施策検討に繋げる必要があります。 以上

低い日本企業の能力開発費用<br />~リスキリング時代到来の必然性~ | 人材開発

低い日本企業の能力開発費用~リスキリング時代到来の必然性~

 「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」が令和3年11月19日に閣議決定されました。厚生労働省では、デジタル人材育成の強化等を目的に、令和4年度から3年間で4,000億円規模の施策パッケージを創設しました。人材開発支援助成金に「人への投資促進コース」が設けられ、高度デジタル人材の輩出のため、海外の大学院での訓練を含む職業訓練や定額制訓練が助成の対象で、1社あたり年間最大1500万円が支給されます。  背景には、国際競争力の低さや、日本の労働生産性の低さに対する強い危機感があり、これを克服するには、スキル量の向上や保有するスキルの転換が必要だと考えられています。例えば、2021年の世界経済フォーラム(WEF)の 世界ITレポート(The Global Information Technology Report)によると、日本の弱点として、ICT Skills(68位/130か国)・ICT services exports(86位/130か国)・ICT environment(95位/130か国)、Growth rate of GDP per person engaged(100位/130か国)が挙げられています。「リスキリングした方が良い」という論調より、「リスキリングしなければ先が無い」と表現すべき状況です。  国内でも、産業構造は絶えず変化しています。第3次産業に従事する労働者は労働者全体の7割を超え、第1次・2次産業で働く割合は減少しています。さらに、第3次産業の中でも内訳は変化しており、職種別に見ると専門的・技術的職業従事者・サービス業従事者・事務従事者が増加しています。限られた労働力の中で、成長分野の競争力を強化するためには、(A)衰退産業の労働力を如何に新規分野の労働力に転換するか、(B)現在既に新分野に従事している人材の質をいかに引き上げるかしか選択肢はなく、リスキリングが迫られるのです。 (図表1:職種別労働人口割合の推移(長期時系列)) 出典: 総務省統計局「労働力調査」  能力開発の重要性・緊急度が高まる一方で、GDPに占める企業の能力開発費用の割合は諸外国と比較をすると著しく低水準です。アメリカ・フランス・ドイツ・イタリア・イギリスでは、GDPの1%以上を能力開発費として投資していますが、日本は0.1%程度であり、OJTや個人の自主的取り組みに頼っている状況です。日本では、新しい技術の獲得や付加価値の追求に対する積極性が十分ではないことが分かります。 (図表2:GDPに占める企業の能力開発費の割合の国際比較) 出典:平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-(厚生労働省)  世界中でビジネスの高度化が進み、産業構造の変化もスピードアップしています。一方、日本国内では、少子高齢化により労働力が減る一方です。企業は、生き残りのため・競争力の強化のために、絶えずビジネスモデルの変革と変革を牽引する人材への投資を続けねばならなりません。競争力ある労働力を生み出し、競争力向上をしなければ、日本の国・日本の企業の先は厳しいと言えましょう。 以上

教育研修費<br />~変化対応のための人への投資~ | 人材開発

教育研修費~変化対応のための人への投資~

 日本企業のこの数十年での世界における競争力の低下の原因として、「人への投資」不足があげられます。日本は世界の中でも、能力開発費用の割合が他国に比べて圧倒的に少ない状況です。このような状況を打破するためには、「人への投資」の抜本強化が必要と言われています。  各企業、従業員に対する教育研修をコストと捉えるか、投資と捉え有効な施策を展開できるかが非常に重要なポイントとなります。  これまでのOFF-JTに支出した企業割合と、一人当たりの額の平均の推移を見ると、企業割合は徐々にではありますが増えていました。しかし、コロナウィルス蔓延という経験のない社会情勢となり、その影響から支出した企業割合、労働者一人当たりへの平均額は減少しています。コロナウィルスにより一変した社会、生活、そしてそれを契機に労働者の働き方への価値観も変わりました。この社会の変化と価値観の変化に対応した人材育成の指針策定と実行が求められるのではないでしょうか。つまり、いままで毎年やってきた研修を繰り返すのではなく、今後数年を見通して、会社の経営計画とそれを実現するために必要な人材はどのような人材なのかを明確にし、それに則した研修の組立がより重要となるのです。 図表1:OFF-JTに費用支出した企業割合とOFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額の推移 出典:厚生労働省 令和3年度能力開発基本調査  教育予算を策定する際に最も優先する基準としては、「前年度の実績額」が最も多いという調査結果があります。前年度の予算額と合計すると61%となり、前年度ベースでの教育予算策定が圧倒的に多い結果です。  人を資本と捉え、激しい時代に対応できる人材を育成することが企業の成長につながると考えるのであれば、適宜適切な教育研修の提供が必要です。それが予算策定は前年度踏襲であると、施策を実行したくてもできない可能性も出てきます。 図表2: 教育研修費用予算を策定する際に最も優先する基準 出典:産労総合研究所 2021年度 教育研修費用の実態調査  コロナ以降、劇的に変わった社会の中で、勝ち抜いていくためこれまでの教育研修を見直すのは必須です。企業に必要なスキル-保有スキルで不足する部分を埋めるためにどのような教育を施すのか、それは人事部だけの課題ではなく、企業全体としての課題と捉えるべきです。企業として、この先どのような経営をし、何を生み出すのか、そこにはどのような人材が必要なのかを明確にし、会社全体として教育研修にどれほど力を入れていくのか、未来と人への投資を結びつけた考え方がより一層重要となるでしょう。 以上

経営者の高齢化が招くリスク<br />~事業継承と変革~ | 人材開発

経営者の高齢化が招くリスク~事業継承と変革~

 2021年の全国倒産件数は6015 件(前年7809 件、前年比1794 件・23.0%減)と、2000 年以降で最少、1999年以前と比較しても、1966 年(5919 件)以来半世紀ぶりの歴史的低水準でした。ところが倒産原因の中で「後継者難倒産」は466 件と、全体の7.7%を占めており、特殊要因倒産の中では最も多い状況です。(「帝国データバンク全国企業倒産集計」)  後継者不足率のデータによると、2021年には61.5%の企業で後継者がいない状態であり、後継者難倒産の数も納得がいくものです。(帝国データバンク全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年))  事業継承の継承経緯別のデータを見ると、同族継承が全項目の中では最も多いですが、2017年からゆるやかに低下傾向です。M&Aは2017年と比べて上昇しています。中小企業庁は2021年 4 月に「中小M&A推進計画」を策定し、後継者難などによる中小企業の休廃業防止に有効な手段としてM&Aを主軸に据える方針を明確に打ち出しており、今後内部昇格やM&Aでの事業継承は増えることが予想されます。  外部招聘は横ばいで変化がない状態です。そもそも日本では優秀な経営者を外から迎え、望ましい経営状態を作るという発想が少ないのが現状です。昨今の激しい環境変化に対応しうる経営のために、外に目を向けることも必要と考えます。 (図表1:就任経緯別 推移) 出典:帝国データバンク 全国企業「後継者不在率」動向調査(2021 年)  後継者難という点と関連が深い経営者の年齢を見ると、年々経営者平均年齢は上昇し、2019年には62歳を超え、今後さらに高齢化すると思われます。経営者の高齢化は事業に影響があるのでしょうか。  経営者年齢別に2017年から2019年の間の新事業分野進出への取り組み、投資の実施、会社にトライ&エラーの風土があるかについて調べた結果、経営者年齢が若い企業ほど、積極的な企業の割合が高いとされています。(中小企業庁2021年版中小企業白書)経営者年齢が若い程、新たなチャレンジをする企業が多い傾向にあるということは、裏を返せば経営者年齢が上昇し続けている今、日本企業の新たなチャレンジは減っていると言えると考えます。経営者の高齢化は事業継承の問題だけでなく、その事業自体にも影響を及ぼす大きな問題といえるでしょう。 (図表2:経営者年齢推移) 出典:(株)東京商工リサーチ  社員数が限られる中では仕事の生産性は上がりづらく、新しいことへのチャレンジもでき辛いものです。たとえ雇用を拡大したとしても、技術、スキルはすぐに習熟するわけではなく、即座に生産性向上にはつながるわけではありません。  そこでM&A、外部招聘などを加速させる必要があるのではないでしょうか。M&Aによってそれぞれの企業の技術・ノウハウなどを統合させることが、事業継承および、生産性向上に寄与し、規模の経済のメリットを活かし、効率よくビジネスの拡大、事業継承を展開することとなります。また、外部招聘により、外部から経営者を迎え、事業継承、変革を講じるのも一つの手段です。これらを通常の施策として選択肢に入れ、事業継承とともに、時代に応じた経営をしていくことが重要だと考えます。 以上