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HR DATA

人材育成最前線
~OFF-JT実施率から見る業界別動向~

 昨今、人的資本の情報開示義務化の流れを受け、企業の教育投資意欲が高まっています。
 企業向け研修サービス市場は、2023年度に前年度比4.3%増の5,600億円、2024年度には同3.6%増の5,800億円と予測されています。(※1)
 2022年10月配信のHRデータ解説では、平成20年度から令和3年度調査までのOFF-JT(※2)の実施率と労働者一人当たりの教育費の推移を取り上げました。今回は令和5年まで広げた経過を、図表1にまとめてみました。

 コロナ感染が拡大した令和2年(2020年)の出資企業割合は、過去最低の45.7%をマークし、令和3年(2021年)には一人当たりの費用平均額も過去最低の1.2万円となりました。令和4年(2022年)以降は徐々に増加しているものの、コロナ禍以前の値までには回復していません。

【図表1】正社員のOFF-JTに費用支出した企業割合と労働者一人当たりの費用平均額

出所:厚生労働省「能力開発基本調査」(平成20年~令和5年)に基づき作成

 図表2は、縦軸に正社員に対するOFF-JTの実施率、横軸に経年での増減率を置き、各産業をプロットした散布図です。

【図表2】産業別OFF-JTの実施率と増減率)

出所 厚生労働省 「能力開発基本調査」(平成18年度~令和5年) に基づき作成
注1 平成18 ・19年度調査 と平成20年度~令和5年度調査の産業項目種別は一部異なるため、同サービスで集約・編集を行った
注2 「学術研究、専門・技術サービス業」は平成18年度調査ではデータがない為、平成20 年度の数値を一番古いデータとして使用した。

 OFF-JTの実施率が高く経年で増加もしている情報通信業・金融業は、恒常的に新しい知識や技術のアップデートが求められ、OFF-JTを有効活用し効率的な社員教育を実施していると思われます。コロナ禍以降当たり前になったオンライン研修や、デジタル機器の発達も増加要因の一つでしょう。現場主導で実務習得の指導が欠かせないサービス業や宿泊業・娯楽業では、いわゆるOJT(※3)がメインの教育方法であり、OFF-JTの実施率・増減率はいずれも低いと考えられます。

 人手不足が顕著である医療現場や建設現場では、継続的にOFF-JTを実施していても、増加はしていません。戦力として早期の立ち上がりを求められ、集合研修参加の時間捻出が難しい逼迫した就業環境では、時間と場所を問わない教育方法が求められていると予想できます。

 eラーニング市場の拡大(※4)はこういったニーズを受けた結果であるとも考えられます。

 教育投資強化を検討する際、外部データから事業特性の傾向と時流を掴むことは、自社の社員教育の在り方を見つめ直す有効な機会になり得ます。
 企業研修市場が盛り上がっている今、ただ「実施した」ことに満足するのではなく、本当に社員が「学ぶ」ことが出来たのか、時間を投下した分の成果が得られるのか、社員教育の真価が問われる局面ともいえます。人的資本の指標だから、ではなく、自社の目的に最適な教育投資が実を結んだ暁には、人材採用力や人材定着力が強化され、企業ロイヤリティの向上にも繋がっていくでしょう。

※1 出所 矢野経済研究所、「企業向け研修サービス市場に関する調査」(2024)
※2 OFF-JTとは、業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(研修)のこと(出所:厚生労働省、「能力開発基本調査」)
※3 OJTとは、日常の業務に就きながら行われる教育訓練のこと(厚生労働省、「能力開発基本調査」)
※4 2022年度の国内eラーニング市場規模は、提供事業者売上高ベースで前年度比4.3%増の3,705億円を見込み、さらなる拡大が見込まれる(矢野経済研究所、「eラーニング市場に関する調査」、2023年4月)

以上