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小売業の人的資本ROI<br /> ~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方 | 調査・診断

小売業の人的資本ROI ~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は、直近5年分の小売業における人的資本ROIについて考察します。図表1に示すように、この業態には、百貨店、総合スーパーマーケット、コンビニエンスストア、家電量販店、ドラッグストア、ホームセンターが含まれ、さらに専門店や個人経営の商店、無店舗の小売事業(ECや通販など)も含まれます。 図表1:2023年 主要な業態から見る商業販売額 出典:経済産業省「2023年小売業販売を振り返る」(2024年)より引用 小売業は典型的な労働集約型の業種とされており、他業種と比較して人件費率が高い一方で、リターンは比較的低いという特徴があります。 図表2は、小売業の資本金規模別における2018年度以降の人的資本ROIの推移を示しています。データを見ると、資本金規模や年度によって、人的資本ROIが2~6割と大きく変動していることが分かります。特に、新型コロナウイルスの影響により2019年度以降、多くの企業で売上高が大きく変動し、それに伴う人員削減などもあり、数値が乱高下しています。また、資本金規模別の比較では、規模の経済が働き、資本金規模が大きいほどリターンも大きくなる傾向が見られます。 図表2:小売業 人的資本ROI推移(資本金規模別) 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 人的資本ROIを向上させるには、売上高を増加させること、経費を削減すること、人件費を削減することが必要です。しかし、単純なコストカットは持続可能な成長に繋がりません。例えば、店舗型の小売企業では、物件費と人件費が大きなコスト要素です。利益を生まない店舗を閉鎖し、利益を出している店舗にリソースを集中する施策は一般的ですが、このような施策によって一時的に利益率や人的資本ROIを向上させることはできても、優秀な人材の流出や組織力の低下を招き、長期的な成長に悪影響を及ぼすリスクがあります。人的資本ROIを持続的に向上させるためには、人材への効果的な投資を行い、売上や利益の増加に繋げる視点が重要です。 小売業では、非正規労働者の比率が高く、最低賃金の引き上げが進む中で、人件費の増加が予測されます。従業員教育やキャリア採用による戦略的人材の育成・確保、シニア層の活躍推進など、従業員の能力を最大限に引き出し、付加価値を高めることがこれまで以上に重要となっています。一方で、人口減少による人手不足は深刻な課題であり、セルフレジや自動化を推進し、生産性を向上させることが急務です。また、現在、百貨店と家電量販店、コンビニエンスストアとドラッグストアなどにおいて、扱う商材の差異が小さくなりつつあります。小売業は規模の経済が働きやすい業種でもあるため、M&Aを活用して競争優位性を確保する方策も有効です。 個人消費が本格的に回復するフェーズに備え、人的資本ROIを今後も向上させ、経済の変動に対応できる柔軟な体制を築くことが求められます。人材への投資と並行して、DXの推進やM&Aといった重要な施策を実行できる人材の登用や育成がますます重要になるでしょう。  「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~  人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~ 人的資本ROI水準に影響する外的要因~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~  

人的資本ROI水準に影響する外的要因 <br />~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~ | 調査・診断

人的資本ROI水準に影響する外的要因 ~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~

人的資本の開示に注目が集まっています。前回(「人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~」)・前々回(人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~)は、ISO30414から、人的資本ROIをテーマに、データの見方・業界水準・考察の仕方について概要を紹介しました。今回は、業種別かつ資本金規模別の人的資本ROIの推移について解説します。 同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準を知っておくことや、外部環境の変化による動きを理解しておくことは重要です。 図表1は、資本金規模1億円以上10億円未満の、図表2は資本金規模10億円以上の2000年以降の推移です。まず、俯瞰で見るとて、資本金規模10億円以上規模の大企業では、1~10億円未満規模の中堅企業と比較をして、数字がかなり大きい印象を受けます。 業種別に見ると、特に情報通信業・サービス業でその傾向は顕著であり、小売業も少々その傾向があります。情報通信業のうち通信インフラ系の大手企業など設備・インフラ・装置など仕組みで稼ぐビジネスモデルや、規模の経済が活きる企業で、資本金規模の大小による差が顕著だと言えます。 一方、建設業や製造業では、景気回復期には大企業の方が投資効率が良くなる傾向が見て取れますが、景気低迷時の水準は業種規模によらずほぼ同水準です。卸売業では、大企業の方が中堅企業よりもリーマンショック以降の景気低迷後の立ち上げに苦戦した様子が見て取れます。 (図表1:業種別人的資本ROI(資本金1億円以上10億円未満))     出典: 「法人企業統計調査 時系列データ」を基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 続いて、年代別の経済界における主な出来事が及ぼした人的資本ROIへの影響を見ていきます。 (図表2:業種別人的資本ROI(資本金10億円以上)) 出典:同上 2001年にはITバブルの崩壊(別称:ドットコムバブルの崩壊)が起こり、情報通信業の収益に大きなダメージが生じました。その影響で、大企業では、人的資本ROIの値が2000年の70%超から2001年57.6%、2002年には37.9%と大きく下落しています。収益の減に対して人件費が余剰したことが分かります。人的資本への適切な投資という観点では、短期的な業績悪化時において、必ずしも即座に人件費を削減し、単年度の人的資本ROIを上げねばならないわけではありません。むしろ、中長期を睨んだ投資までをすべて削減してしまうことは望ましくなく、一過性の業績悪化であれば必要な投資をしながら急場をしのぎ、翌期以降の回復期に投資の効果を発揮すべきだからです。 情報通信業の大企業では、ITバブル崩壊後、一度水準を大きく下げていますが、携帯電話の急速な普及を追い風に収益力を大きく回復させ、ITバブル期以上の水準を超えて成長を続けています。一方、同じ情報通信業の中堅企業では、ITバブル崩壊後、収益回復し人的資本への投資効率が2000年水準に戻るまでに15年以上を要しています。ビジネスモデルを転換できず、収益回復に時間がかかり、その間人材も活かしきれなかったことが推察されます。 中長期的にリターンが得られていない状況が続く場合には、早期に見切りをつけ、ビジネスモデル・事業戦略・人材戦略や人材への投資方法を見直さねばならないと言えます。 さらに、外的環境の変化による影響の受け方・その後の回復傾向という観点で、ビフォーコロナ・コロナ禍・アフターコロナの時期を見てみます。ほとんどの業界において、多少なりとも影響を受けていますが、パンデミックにより最も大きな影響を受けたのは、規模を問わずサービス業でした。サービス業は、対面でのサービス提供を生業とするビジネスがほとんどであり、収益を上げる機会が大きく損なわれたことが影響しています。 コロナ禍からの回復傾向については、いくつかの型に分類されます。1つはパンデミックによるコロナ後に、コロナ前の水準を上回る回復を見せている業界で、例えば、卸売業や大手の卸売業・小売業、中堅の建設業です。2つ目は、コロナ前と同水準程度までは持ち直したタイプで、情報通信業やサービス業、中堅の小売業などです。 他の業種とは異なる動きをしているのが大手の建設業で、コロナ禍により5%程低下したのち、アフターコロナの時期である直近期まで継続して低下しています。これはコロナ禍による業績悪化というより、原材料高等や労務費の増加を売上に転嫁できていないことによる利幅の低下が影響しているものと思われます。 ここまで特に顕著な動きをしている点に着目して解説をしてきました。人的資本のROIは単年度で高い水準を出せば良いというものではなく、一度水準を下げてでも、翌期以降の収益に貢献する投資をすべきタイミングもあります。しかしながら、中長期的に同じ投資方法をしていて、結果的に数字が下がり続けている場合には、ビジネスモデルの変革や人材活用方針の転換が必須となるでしょう。経年で正しく把握し、数字が下がったときには、意図的な投資増によるものか、人材投資の方法の経営環境へのアンマッチや成熟・衰退によるものか、見極める必要があります。 以上

現代の退職金制度と未来への展望 <br />~データから見る退職金制度の動向と労働市場の要請に対応するために~ | 人事制度

現代の退職金制度と未来への展望 ~データから見る退職金制度の動向と労働市場の要請に対応するために~

 多くの企業では、一般的に退職後の生活保障・功績報奨(リテンション)などを目的とし、退職金制度を導入している。また、採用魅力の向上として制度を設けている場合もある。本記事においては、現在の退職金制度の実態統計データから、現在のトレンドを把握し、今後の退職金制度の在り方について考えることとする。  図表1は、2003~2023年における5年毎の退職金制度の有無および支給額の推移を表したものである。”退職給付制度がある”と回答した企業は減少傾向にあり、支給額も減り続けている。以前は、新卒~定年まで1つの企業に勤め続け、その対価として退職金を受け取る流れが一般的であった。しかし、近年は転職求人数が転職希望者数を大幅に上回るなど、転職しやすい環境となってきていることも影響し、定年後の生活保障やリテンション対策としての退職金制度は、効果が弱まり、退職金制度の導入・支給額が減少していると考えられる。また、再雇用などのシニア社員への人件費転嫁によって、給付額が減少している可能性もある。 (図表1:退職給付制度の有無・一人平均退職給付額)    出典:厚生労働省「就業条件総合調査」よりデータを加工  ここで退職金制度の一部である企業年金をさらに詳細に見ていくと、図表2のような結果となっている。 図表2は、確定給付型企業年金制度(DB)と企業型確定拠出年金制度(企業型DC)の制度数・規約数および加入者数の推移である。DBとは将来受け取る給付額を企業側が負担することに対し、DCは拠出額を企業が負担し、運用自体は個人が行う仕組みである。傾向としては、DBは、2004年頃から順調に増え続け2018年をピークに横ばい状態である。一方企業型DCは、DBと比較して加入者の増加数は少ないものの、近年も順調に増加している。先程も触れた転職のしやすさや”貯蓄から投資へ”という政府のスローガンもあり、転職時も持ち運びができ、個人で資産形成できる企業型DCを導入する企業や加入者が増えてきていることが分かる。また、今後もこの流れは続くと予想され、企業年金だけでなく、個人年金である個人型確定拠出年金(iDeCo)についても加入者は増加している。 (図表2:DBおよび企業型DCの制度数・規約数、加入者数の推移) 出典:下記複数のデータを加工 DB制度数(2013~2019年) 厚生労働省「厚生労働白書」 DB制度数(2020~2022年)およびDB加入者数 生命保険協会・信託協会・JA共済連「企業年金の受託概況」 企業型DC規約数および加入者数 運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計調査」我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」経済産業省・国土交通省・農林水産省(2022年)  以上のことから、企業側は、自社の退職金制度を再定義することが求められている。退職後の生活保障や勤続年数による功績報奨としての意味合いだけでなく、職務の貢献度に応じた制度など、属する労働市場の特性に応じて変革していくべきである。極端な例で言うと、退職金制度は廃止し、その分毎年の給与で分配する方法であっても、社員にとっては魅力的に感じる可能性もある。 よって、企業側は社員の退職金に対する考えや転職事情など様々な情報をキャッチアップしながら、会社としての雇用方針に応じて、退職金制度の有無および制度としての魅力について考え続ける必要がある。 以上

従業員数と営業利益率<br />~人的資本の投資で営業利益率を高める~ | 人事アナリシスレポート®

従業員数と営業利益率~人的資本の投資で営業利益率を高める~

失われた30年と言われた日本経済も、17年ぶりの日銀の利上げや34年ぶりの日経平均最高値の更新、春闘の賃金引き上げ率が史上最高であること等から、回復の兆しが見えてきました。しかし、今後人口減少に伴い就業者数の減少も見込まれ、日本経済を持続的に成長させるための大きな課題となっております。 今回は企業が本業で稼いだ利益率を表す営業利益率の推移と平均従業員数の推移を比較しながら、今後の施策について解説します。日本経済を今後も持続的に成長させるためには成長も大切ですが、各業界がしっかりと収益性を高めていくことも重要です。今回は代表的な業界をピックアップし、その傾向を解説します。 1.運輸業・郵便業 運輸業・郵便業は、コロナ禍である2020年-2021年頃に一時的な営業利益率の大幅な減少が起こり業界全体で赤字となりました。物流の小口多頻度化※1が急速に進行している中での物流コスト増※2が原因であると考えられます。その後営業利益率は回復傾向にありますが、現状は以前の水準に達していない状況です。これを打開するためには、業界そのものが高付加価値型のサービスへ転換していくことが求められるでしょう。 ※1 「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」経済産業省・国土交通省・農林水産省(2022年) ※2 「2022年度物流コスト調査報告書」公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(2022年)や資源エネルギー庁の調査結果から、原油価格等の高騰に伴う物流コスト増であることが考えられる。 (図表1:運輸業・郵便業) 出典:「法人企業統計調査」財務省 をもとに作成 2.情報通信業 情報通信業は平均従業員数も営業利益率も緩やかに上昇しています。営業利益率については8~10%と高い水準を維持し、過去10年で毎年平均約2.8%成長しています。コロナ禍の一時的な景気後退に伴い成長が鈍化したものの、2022年にはコロナ以前に近い水準まで回復しました。同業界は他の業界と比較して、働く時間や場所を限定しない柔軟な働き方を実現しやすく、生産性向上の取り組みを行いやすいことから、今後も業界全体として更なる生産性向上に取り組みやすい業界であると言えます。 (図表2:情報通信業) 出典:「法人企業統計調査」財務省 をもとに作成 3.製造業 製造業については、従業員数が緩やかに減少していく中で、過去10年で毎年平均約9%営業利益率を成長させています。他の業界でも触れていますが、2019年以降に一時的な景気の冷え込みはあったものの、約2年弱で元の水準へ回復しています。従業員数はコロナ以前の水準に達していないものの、2022年は全産業平均でIT投資が前年比約5%増加※3すると見込まれており、特に金融や公共分野で大きく増加したことから業界全体の営業利益が向上したと考えられます。 ※3 「令和6年版情報通信白書」総務省(2024) (図表3:製造業) 出典:「法人企業統計調査」財務省 をもとに作成 日本の人口が減少していく中でビジネスを成長させるためには、ビジネスを牽引する人材への投資や、テクノロジー等への投資が必要不可欠であることは言うまでもありません。企業の置かれている状況、ステージにもよると思いますが、原則営業利益については、短期的に赤字が許容できるものではありません。 一方で人やテクノロジーに対する投資の効果が表れるのは少し時間がかかりますので、その投資効果を測るためには、中長期的な観点が必要です。個別の事業の売上とともに、収益を重視した中期的な検証、経営管理の重要性が今後より一層求められるでしょう。 以上

若手・中堅層人員比率<br />~次世代を担う人材不足の傾向と対策~ | 人事アナリシスレポート®

若手・中堅層人員比率~次世代を担う人材不足の傾向と対策~

少子高齢化という社会背景のもと、自社の将来を担う若手・中堅層の厚みに悩みを持つ企業が増えています。年齢構成における多様性は、人材の「量」の観点だけでなく、同質化を排する「質」の観点からも、企業基盤や競争優位性の強化に繋がる要素として捉えられることがあります。 図表1は、各産業の常用労働者数における「40歳未満比率」を折れ線グラフで示しています。これにより、若手・中堅層の比率の大小を見ることができます。全産業の40歳未満比率の平均は37.3%ですが、業種別に比率の傾向は異なります。 (図1:40歳未満比率‐常用労働者) 出典:厚生労働省「雇用動向調査 上半期結果表 2023年1~6月期」をもとに作成 注1)40歳未満比率=39歳までの常用労働者÷総常用労働者数×100 として算出 注2)常用労働者数: 雇用期間を定めず雇用されている労働者をいう。日雇労働者や季節労働者など雇用期間に定めのある労働者のほか、雇用期間に定めがあって契約期間を更新している労働者は除く。 注3)業種は抜粋 図表2は、40歳未満比率に加えて「欠員率」を軸に置き、4象限に分けて業種をプロットしています。欠員率とは、常用労働者に対する未充足求人の割合です。つまり、各業界の人手不足感を割合で示したものと言えます。欠員率の数値が高いほど人手不足感が強いことを示します。各象限による傾向ともに必要な施策を解説します。 (図2:40歳未満比率×欠員率) 出典:厚生労働省「雇用動向調査 上半期結果表 2023年1~6月期」、「労働経済動向調査 令和5年11月調査」をもとに作成 注1)欠員率=未充足求人数÷常用労働者数×100 注2)業種は抜粋 第1象限について 代表的な業種として「宿泊業・飲食サービス業」と「生活関連サービス業・娯楽業」があげられます。40歳未満比率が高いものの人手不足感は大きいのが特徴です。人の出入りが激しく、常時採用活動を行っている企業が多いことが窺えます。離職率の低下を図る施策に加えて、外国人や中高年の活用なども必要となります。 第2象限について 代表的な業種として「運輸業・郵便業」と「建設業」「医療・福祉」があげられます。若手・中堅層が少なく、かつ、全体的な人手不足にも悩まされている業界です。2024年問題に直面している産業が集まっています。欠員率にフォーカスすると、運輸業・郵便業と建設業との間には大きな違いがあり、人手不足感は運輸業・郵便業の方がより深刻です。生産性を高めるためにDXを推進する人材の獲得や育成、それに伴う人員の新陳代謝が求められます。 第3象限について 代表的な業種として「卸売業・小売業」と「製造業」があげられます。若手・中堅層の比率が低い業界が集まっていますが、人手不足感が比較的少ないのが特徴です。従業員規模が大きく、年齢構成の歪さに多くの企業が問題を抱えています。シニア層の活用が事業運営の継続可否に直結するため、定年延長を含めて適正な役割付与と処遇による高齢者の戦力化が必須です。 第4象限について 代表的な業種として「情報通信業」や「金融業・保険業」があげられます。若手・中堅層の比率が高く、かつ、人手不足感も比較的少ない分類です。現時点では最もバランスが良いと言えますが、今後も継続的に年齢構成を維持していくための取組みが必要です。人材獲得競争が活発な業界ですが、常に処遇の適正化を図る必要があるとともに、従業員のモチベーションを上げる施策も求められます。 今後しばらくはどの業界においても、従業員の平均年齢が上がっていく傾向が続きます。各社におかれては、「若手・中堅層」と呼ばれる年齢層が「50歳未満」となる未来を想定しておく必要があります。想定される未来からバックキャストで現在どういった施策が必要であるか考えてみることも、今後の事業展開において意味のある検討となるでしょう。 以上

人的資本ROIと労働生産性の関係性<br />~人数から投資効率を考察する~ | 人事アナリシスレポート®

人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~

前回は、ISO30414から、人的資本ROIをテーマに、データの見方・業界水準・考察の仕方について概要を紹介しました。 人的資本の開示に注目が集まっていますが、数字を単に列挙すれば良いというものではありません。データをそろえると共に、他のメトリックのデータとの関係性や、他社比較・同業他社比較・自社過去の経年比較をするなど、多面的に考察し、人的資本の価値の増強に向けた施策展開をすることが重要です。今回は、人的資本ROIと労働生産性の関係性について考察します。 人的資本ROIは、ISO30414のうち、生産性領域のメトリックの1つです。人的資本ROIの計算式 「{収益-(コスト-人件費)}÷人件費-1」 のうち、人件費に関する部分は、因数分解すると人件費=人数×単価です。 今回は、人数に着目して考察を進める例として、労働生産性を使います。労働生産性は、付加価値÷従業員数で算出することができ、従業員1人あたりいくらの付加価値を稼ぐことができたかを示します。一定の付加価値を少ない人数で創出することができれば労働生産性が高く、同じ付加価値を稼ぐのに多くの人数を要すれば労働生産性が低いと言えます。 図1のように横軸に人的資本ROIを、縦軸に労働生産性を設定し、それぞれの業界水準を交点としてみましょう。ここでは、サンプルとして、経産省の2022年度の製造業の統計値を利用し、人的資本ROIが42.1%、労働生産性が12.0万円/人を1つのターゲットとし、(x,y)=(42.1,12.0)を境に4象限を設定します。 ターゲットとする値を中心に据えたとき、自社が第1象限~第4象限のいずれの象限にプロットされるか確認すると、課題や施策が見えてきます。 (図1:人的資本ROI×労働生産性)   出典:経済産業省企業活動基本調査 統計表一覧-速報(概況) 2023年企業活動基本調査速報ー2022年度実績ー を参照し、筆者が人的資本ROI・労働生産性を計算・図表作成 人的資本ROI={ 売上高 - {(売上原価、販売費および一般管理費) - (給与 + 福利厚生)}} ÷ (給与 + 福利厚生)} - 1 労働生産性=付加価値額(※)÷従業員数 第1象限は、最も望ましい象限です。人的資本ROI・労働生産性が共に外部水準より高いので、人件費の投資効率が良く、少ない人数で高い付加価値を創出できていることを意味します。 第2象限は、労働生産性は高いので付加価値に対する人数は理想的ですが、人件費の投資効率については改善の余地があります。 第3象限は、人的資本ROIも労働生産性も共に外部より低いので、改善の余地が大きいと言えます。創出する付加価値に対して人数が余剰しているうえ、収益につながらない人件費投資が多いため、人件費の掛け方や収益に対する人数構造のあり方を抜本的に見直す必要がありそうです。 第4象限は、人的資本ROIは外部より高いので、人件費を投資すれば一定のリターンはある状態ですが、1人あたり付加価値が低いので、より効率的な配置・業務遂行を実現すれば、同じ人数でもより高額な収益を上げられるはずです。 併せて、単年度の数字だけなく、経年で自社過去比較をし、人件費の投資効率と人数の使い方の変化や傾向を見ることで、施策の方向性が合っているか確かめることもできます。図2では、参考までに製造業の統計値を4期分プロットしてみました。人的資本ROIの水準を上げながら、労働生産性も同時に上げていますから、直近4期の間、人数を膨張させることなく高収益を上げ、人件費への投資効率を上げてきていること、一過性の特需ではなく少なくとも数年は継続していることが分かります。 (図2:人的資本ROI×労働生産性 製造業2019-2022)   出典:経済産業省企業活動基本調査 統計表一覧(2019~2022年)を基に筆者計算 まずは、図1・図2のようなマトリクスを参考に、ぜひ自社過去比較をしてみてください。必ずしも直近の統計値でなくとも、好業績時の自社過去水準や、競合他社水準など、自社がターゲットとする目標値等があれば、それと比較をすることも有効です。そうすることで自ずと今後目指すべき目指す姿についての議論が浮上するでしょう。 今回は、労働生産性の指標を例に挙げてデータの活用方法について考察をしましたが、その他にも、労働分配率や年収水準・教育研修費等、様々な人事領域関連指標を軸に分析をすることができますから、継続的に紹介します。 以上

賞与配分前営業利益に占める賞与の割合は20%~40%  <br /> ~社員の成果に報いる賞与制度~ | 人事アナリシスレポート®

賞与配分前営業利益に占める賞与の割合は20%~40% ~社員の成果に報いる賞与制度~

 今回は会社利益と賞与の関係について解説します。  賞与は、月例給与の後払いや生活給といった生計費調整機能と、会社業績や個人の成果に応じて分配する業績連動機能の2つの機能を持ちます。会社業績に応じて賞与額を決定する仕組みにすることで、経営状況に応じた柔軟な支給額調整や、社員の売上意識を高めることが期待できます。  では、会社の利益に対して、どれくらいを賞与として還元すべきなのでしょうか。  社員の成果が表れる利益指標として、本業で得られた利益である営業利益が適しているでしょう。営業利益そのままでは既に賞与額が引かれた金額であるため、営業利益に賞与額を足し戻した『賞与配分前営業利益』と『賞与原資』の関係性を見ていきます。  図表1は資本金規模別の過去10年間の賞与支給額、一人当たり賞与配分前営業利益、賞与配分前営業利益に占める賞与原資の割合(以下、賞与原資率)を示しています。企業規模が大きいほど一人当たり賞与配分前営業利益が高く、一人当たりの平均賞与支給額も高いです。一方で賞与原資率は10億円以上規模で23%、1千万円未満規模で42%と、資本金規模が大きいほど低く、利益に対する賞与の負担が軽いと言えます。 <図表1> 資本金規模別、一人当たり賞与原資額、一人当たり賞与配分前営業利益および 賞与配分前営業利益に占める賞与原資の割合の過去10年間の平均 出典:財務省「法人企業統計調査」 注1) 全産業(除く金融保険業) 注2)営業利益が赤字の期を除く 注3)賞与原資=役員賞与+従業員賞与 注4)賞与配分前営業利益=営業利益+賞与原資  次に、毎年の利益の増減に応じてどの程度賞与額を連動させているのかについても見ていきます。  図表2は資本金規模別の2013年~2022年(2020年、2021年を除く8年間)の、賞与配分前営業利益と賞与原資のデータをプロットしたときの回帰曲線の傾きを示しています。平たく言うと、賞与配分前営業利益が1円増えたときに賞与原資がいくら増えているかを表しています。例えば全規模の傾きは約0.2ですが、これは賞与配分前営業利益が100万円増えたとき、賞与原資が約20万円増えることを示しています。  規模別で見ると5千万円~1億円規模を頂点とした正規分布のようなグラフになっています。小規模の会社では利益の増減に合わせて賞与を大きく変えることが難しく、規模が拡大するほど利益を社員に還元する余地が増えてくるため、中規模までは規模拡大に伴って傾きの値が大きくなっていると考えられます。  それでは大規模な会社は社員に還元していないかというと、決してそうではないでしょう。図表1で示したとおり、生産性が高まり、賞与原資率が下がることで、賞与の増減の影響が薄まっていくものと考えられます。 <図表2> 資本金規模別、2013年~2022年(2020年、2021年を除く)の 賞与配分前営業利益と賞与原資の回帰曲線の傾き 出典:財務省「法人企業統計調査」 注1)賞与支給前営業利益をx軸、賞与原資をy軸にプロットしたときの回帰曲線の傾き 注2)全産業(除く金融保険業)  社員一人一人の頑張りによって得られた利益を賞与として還元することでモチベーションが高まり、更なる貢献が期待できます。目標を超えたときにどれくらい賞与が増えるか、方針を示すことで売上意識はより高まるでしょう。  業界や各社の特性が異なるため、一概に『賞与配分前営業利益に占める賞与原資の割合』や『利益に応じた賞与原資の連動性』が高ければ良いわけではありません。極端な例ですが、利益がまだ出ていないベンチャー企業ではある程度安定的に賞与を支給することがモチベーションに繋がります。安定的な職務遂行が求められる業種も同様です。まずは世間一般の水準を理解し、自社の成長の立ち位置を把握することが重要です。その上で自社の賞与に対するポリシーを持ち、施策を検討すべきでしょう。 以上

労働力の量と質の推移 <br />~人口減少時代に向けて~ | 人事アナリシスレポート®

労働力の量と質の推移 ~人口減少時代に向けて~

 内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の総人口は今後減少し、65歳以上の人口割合が今後更に増えるという推計が算出されています。少子高齢化が進むにつれて生じる労働人口の減少により、日本経済が停滞してゆくことが危惧されています。日本経済が持続的に成長するためには、労働力をいかに維持するかが社会的な課題となっています。  こうした背景の中、労働力として注目されている一つが、65歳以上の人材の労働力確保です。2021年4月の改正高年齢者雇用安定法においても、70歳までの就業確保が企業の努力義務となっています。実際、図表1にもあるように、高齢者の就業率は年々上昇しています。65歳以上の高齢者の就業率は2015年から年々上がっており、直近の労働人口全体も緩やかに増えています。このように、労働力の"量"は高齢者の就業率増加もあり、短期的には維持できていることが見受けられます。 <図表1> 労働人口と65~69歳の就業率の推移 出所: 総務省(2023)「労働力調査(基本集計) 2023年(令和5年)1月分結果 20~69歳の人口、就業者数、就業率」をもとに作成  労働力の"質”の推移を確認するため、業界別の労働生産性 (労働者1人あたりが生み出す付加価値額)の推移と平均従業員数の推移を比較しながら解説します。  飲食サービス業(図表2-1)では、労働生産性は常に減少傾向にあり、従業員数も2019年以降は落ちている傾向があります。昨今、大手飲食チェーン店を中心に注文や配膳等業務の機械化が進んでいますが、一人当たりの付加価値=”質”の面では効果が表れていません(付加価値には人件費が含まれるため)。今後機械化がさらに進み、人員数が安定・最適化されたときに高い付加価値を生み出すことができているのかが重要になってきます。 <図表2-1> 労働生産性×従業員数の推移_飲食サービス業 出所:財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  情報通信業(図表2-2)では、2016-2017年にかけて従業員数が減った一方で労働生産性が上がっており、2017-2018年では従業員数が増える一方で労働生産性が下がっており、それぞれが逆行した動きをしています。新規就労者が多く、業界内での転職等による人の動きが活発な情報通信業では、仮に即戦力採用の中途社員だとしても、付加価値への貢献=”質”といった意味では、業務習熟するために必要な経験を得ることに時間がかかりやすい、もしくは時間がかかってしまっている可能性があります。 <図表2-2> 労働生産性×従業員数の推移_情報通信業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  医療福祉業(図表2-3)では、2018年度に従業員数が減少しましたが2020年以降は上昇傾向にあります。一方、労働生産性も2019年以降で安定的に上昇傾向にあります。高度な知識や資格の基盤が前提にある医療福祉業界では、即戦力として労働生産性=”質”に寄与しやすい業種といえます。 <図表2-3>労働生産性×従業員数の推移_医療福祉業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  定年延長・再雇用の活用によって短期的には労働力の”量”の維持が期待できますが、将来的に総人口が減少する日本では少ない人数でいかに労働力を維持していくかが課題となります。そのため、労働力の“質”にも目を向け、労働人口が将来的に減ったとしても安定的な労働生産性が確保されるサービス形態への変換が求められるのではないでしょうか。限りある労働資源をいかに有効活用していき、労働生産性を高めていくかの議論が各企業内でより活発化していく必要があります。自社の生産性をより高めるための阻害要因を各社で見つめ直し、DX推進やリスキリング、イノベーション推進等によって業務効率化とその価値向上に務めることが重要となります。 以上

賃金引上げ率の推移と参考指標<br />~自律的な報酬水準のコントロールを~ | モチベーションサーベイ

賃金引上げ率の推移と参考指標~自律的な報酬水準のコントロールを~

 2022年以降の物価上昇率の伸長と実質賃金が目減りしている状況等を踏まえ、2023年12月、政府は物価上昇率を超える賃上げを実現できるよう、賃上げ税制を抜本的に拡充しました。同11月末には、「令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査」が厚生労働省より発表されており、2023年の各社の賃上げ状況が見えてきました。  賃金の改定を実施した又は予定している企業は、89.2%(前年86.6%)。管理職のベースアップを行った・行う予定の企業は43.4%(前年24.6%)、一般職のベースを行った・行う予定の企業は49.5%(前年29.9%)と前年から急上昇しました(※ベースアップの実施割合は、管理職及び一般職で定昇制度がある企業を100.0%とした場合の割合)。  図表1は1人平均賃金の改定額・改定率の調査結果と、消費者物価指数(CPI)の推移です。昨年の1人当たりの平均賃金の改定額は9,437円、改定率が3.2%と、消費者物価指数(CPI)の上昇を追いかけるように大幅に伸びているのがわかります。 <図表1> 1人平均賃金の改定額(円)及び改定率(%)と消費者物価指数(%)の推移 出所: 厚生労働省(2023)『令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査』,総務省統計局(2023)『消費者物価指数(CPI)』をもとに作成 注1 図表は「1人平均賃金の改定額及び改定率の推移」と「消費者物価指数(CPI)」より加工 注2 消費者物価指数は生鮮食品を除く総合。2023年のCPIは日銀の予測(2023年10月31日時点)より引用  注目される2024年以降の賃上げですが、皆さんの企業ではどのように検討を進めているでしょうか。他社が何を参考指標としているのか、同調査結果を見てみましょう。 <図表2> 賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素別企業割合の推移 出典:出所:厚生労働省(2023)『令和5年賃金引上げ等の実態に関する調査』をもとに作成 注1 図表は「企業規模、賃金の改定の決定に当たり最も重視した要素別企業割合」より加工したもの。 注2 賃金の改定を実施した又は予定していて額も決定している企業のうちの割合。ただし、平成20年調査以前は賃金の改定を実施した又は予定していて額も決定している企業のうち、改定に当たり最も重視した要素に記入のある企業を100.0%とした割合であり、比較の際は注意を要する。  図表2は、賃金の改定を実施した又は予定している企業において、賃金改定の決定の際に最も重視した要素の推移です。2023年は、「企業の業績や前年実績、関連会社の動向」の割合が42.2%と最も多くなっており、次いで「雇用・労働力の確保」が28.9%、「世間相場・物価の動向」が14.6%となっています。注目すべきは、前年に比べて「雇用・労働力の確保」と「世間相場・物価の動向」の割合が急増しており、「重要視した要素はない」とした企業が減少していることです。それだけ昨年の賃金改定では、世の中の動向と従業員への配慮を念頭に置いて検討した企業が多かったということです。  報酬はハーズバーグの二要因理論からすると「衛生要因」であり、不満足の要因になります。一旦報酬水準が上がったとしても、それを継続しないと、また不満足の要因になるということです。  社員の報酬満足を維持するには、「世間の賃上げの気運が高まっているから」ではなく、労働市場における報酬水準や物価等を定期的(例: 半年ごと、年次など)に把握しつつ、自社の業績なども踏まえ、自律的に報酬水準をコントロールしていくことが望ましいです。  企業は成長を続けないと報酬満足を維持していくことは難しいため、人的資本経営の観点における適正な報酬水準のコントロールとともに、人材のパフォーマンスを高めるマネジメントや育成も重要になってきます。  従業員への適正な報酬とパフォーマンスマネジメントが、企業と従業員の間の相互信頼を築き、持続可能な業績向上へつながっていくでしょう。 以上  

年収の賞与の割合は約10%~20%|社員の意識を高めるための賃金制度 | 人事制度

年収の賞与の割合は約10%~20%|社員の意識を高めるための賃金制度

 年末が近づくにつれて、冬の賞与の使い道を考え始める方も多いのではないでしょうか。 今回は賞与について取り上げます。賞与は、月例給与の後払いや生活給といった生計費調整機能と、会社業績や個人の成果に応じて分配する業績連動機能の2つの機能を持ちます。会社業績に応じて賞与額を決定する仕組みにすることで、経営状況に応じた柔軟な支給額調整や、社員の売上意識を高めることが期待できます。一方、月例給与と異なり、賞与は保証された給与として規程されていない企業も多いため、年収に占める賞与の比率(賞与比率)が過度に高い場合、従業員にとってはリスクとも言えます。  図表1は令和4年度の役職別・企業規模別の年収(縦棒)および賞与比率(折れ線)を示しています。企業規模にかかわらず、係長級以上の役職者の賞与比率は、非役職者よりも約4%高いです。役職者には会社業績に応じて支給額を変動させる余地を多く設ける一方、非役職者には業績や成果に応じて支給額を変動させる余地を抑えていると考えられます。しかし、役職者の中で係長級、課長級、部長級を比較すると差がなく、むしろ部長級の賞与比率は低下しています。  企業規模で比較すると、同じ役職でも企業規模が大きいほど年収が高く、賞与比率も高い傾向があります。10~99人規模の部長級と1000人以上規模の係長級を比較すると、年収は同程度ですが、後者の方が賞与比率が高いです。このことから企業規模が大きいほど業績連動性を重視していることが推察されます。   図表1:役職別・企業規模別、年収と賞与比率 " 出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」 注1)縦棒:年収、折れ線:賞与比率 注2)年収=所定内給与額×12+年間賞与その他特別給与額 注3)賞与比率=年間賞与その他特別給与額÷年収"  業種による傾向の違いも確認できます。図表2は、令和4年度の業種別の年収水準と賞与比率を示しています。横軸には産業計を100としたときの各業種の年収指数を、縦軸には産業計が原点にくるよう賞与比率をプロットしています。年収が高い業種ほど賞与比率が高い傾向があります(決定係数R² = 0.7911)。また年収水準が高いゾーンにおいて、年収が近い業種を比較すると、中長期的な成果や安定的な職務遂行が重要な業種の賞与比率が低い傾向が見られます。   図表2:業種別、年収指数と賞与比率 " 出典:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」 注1)年収指数:産業計の平均年収を100としたときの各業種の平均年収の割合 注2)産業計が原点になるようプロット 注3)業種は抜粋"  『賞与は毎年○か月分出て当たり前』ではないことを社員に理解してもらうことが重要です。社員一人一人が自分の役割を果たすことで会社業績が伸び、得られた利益(原資)が責任の大きさや個人の成果に応じて配分される。このことをしっかりと社員に伝え、理解してもらうことで売上意識が高まり、企業の持続的な成長に繋がります。業績が大きく予算を超過する際には、決算賞与などを導入し、支給することも社員のモチベーションに対しては大変有効な施策です。 また、人材不足が深刻な経営課題になっておりますが、業界によって年収や賞与比率については傾向に違いがあります。業界における年収水準と賞与比率を定期的に把握し、外部水準に対するポリシーを明確にし、賃金制度を整備していくことが重要です。人材の定着や採用の競争力を維持向上させていくうえで欠かせない人事施策と言えるでしょう。 以上

勤務間インターバル制度<br />~働き方見直しの道のりは遠い?~ | 人事制度

勤務間インターバル制度~働き方見直しの道のりは遠い?~

 2017年3月より、働き方改革の一環として始まった「勤務間インターバル制度」をご存じでしょうか。これは労働者の休息時間の設け方に関する制度で、前日の終業時間から次の始業時間の間が短い時間とならないよう、一定時間以上空けなければならないとした制度です。過労の原因となり得る「終業時刻が遅いのに始業時間が早い」という就業状態を、常態化させないための重要な制度であると言えます。2019年施行の働き方改革関連法により、企業への導入が努力義務として求められ、続いて2022年7月30日の「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の中で、以下の目標が閣議決定されました。 ・ 令和7年(2025年)までに、勤務間インターバル制度を導入している企業の割合を15%以上とする。 ・ 令和7年(2025年)までに、勤務間インターバル制度を知らなかった企業の割合を5%未満とする。 この目標に対して、実際の導入状況や認知度はどうなっているのか、現状を見てみました。  図表1は令和4年調査の就労条件総合調査の結果です。勤務間インターバル制度の導入状況を見ると、【導入している】のは5.8%、【導入を予定又は検討している】のは12.7%でした。 <図表1:勤務間インターバル制度の導入状況(%)> 出典 厚生労働省 就労条件総合調査「第19表 産業・企業規模、勤務間インターバル制度の導入状況、具体的な時間の設定状況別企業割合及び平均勤務間隔時間」 注 企業規模別表より抜粋したデータを図表に加工した  図2は、図1の【導入予定はなく、検討もしていない】企業に対して勤務間インターバル制度の認知度を調べた結果で、21.3%の企業が【当該制度を知らない】と回答しました。 <図表2:勤務間インターバル制度の認知度実態(%)> 出典 厚生労働省 就労条件総合調査「第19表 産業・企業規模、勤務間インターバル制度の導入状況、具体的な時間の設定状況別企業割合及び平均勤務間隔時間」 注 企業規模別表より抜粋したデータを図表に加工した  図3は当該制度の導入状況を産業別に見たものです。【導入している】【導入を検討又は予定している】の割合は、運輸業・郵送業がもっとも高く、続いて建設業となりました。これらの業界で導入が進んでいる背景には、いわゆる「2024年問題」と呼ばれる「残業上限規制(原則月45時間・年360時間)の免除」がなくなることで、労働時間に対する意識が高く、取組みが進んでいるのではないかと考えられます。 <図表3:勤務間インターバル制度の導入実態__産業別(%)> 出典 厚生労働省 就労条件総合調査「第19表 産業・企業規模、勤務間インターバル制度の導入状況、具体的な時間の設定状況別企業割合及び平均勤務間隔時間」 注 産業別表より抜粋したデータを図表に加工した  現段階では、2025年の目標値までには導入状況・認知度ともに乖離がある結果となりました。勤務間インターバル制度の導入は、 ①従業員の健康維持・増進につながる②生産性向上に貢献し、従業員のワークライフバランスの実現につながる③企業としてのロイヤリティが向上し、採用競争力や定着率改善が期待できるといったメリットがあります。  一方で、①業務フロー・体制の見直しが必要になる②一時的なパフォーマンス低下が懸念される(サービスの質の低下など)といったデメリットもあります。  事業者の制度導入の負担を少しでも軽減できる助成金制度(「働き方改革推進支援助成金」)も用意されているので、一時的なデメリットよりも中長期的なメリットを見据えて、早めに動き出すことを推奨したいと思います。

データから見る製造業の人事課題<br />~製造業 就業者と有効求人倍率~ | 人事制度

データから見る製造業の人事課題~製造業 就業者と有効求人倍率~

 日本は優れた製造技術によって信頼性の高い製品を生み出し、世界各国から「ものづくり大国」とも言われてきました。日本の製造業は現状どのようなものでしょうか。  ここ数年製造業のGDPは110兆円程度を推移しており、2021年の経済活動別国内総生産(名目)では製造業が最も構成比が高く、次いで卸売・小売業、不動産業となっています。製造業は日本経済を支える大きな産業です。しかし、昨今の世界情勢から原油価格高騰の影響により生産コストの増加など影響は引き続き深刻な状況です。 図表1 業種別GDP 出典:内閣府 2021年度国民経済計算  実際に製造業での人材需給はどのような状況なのでしょうか。有効求人場合率の推移を確認すると、製造業に関わる職業の有効求人倍率は全般的に上昇傾向です。特に「機械整備・修理」「金属材料製造、金属加工、金属溶接・溶断」は3を超えています。「機械組立」「生産設備制御・監視」などは元から相対的に倍率は低い状況でしたが、倍率の上昇率も大きくはなく、IT化、ロボティクスによる省人化が理由として考えられます。製造業の中でも職業による差が生じつつも、人手不足は進むことが考えられます。 図表2: 職業別有効求人倍率 パートタイム含む常用 出典:厚生労働省 「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」  日本経済を支える産業の製造業ですが、働く人々の年齢はどうでしょうか。34歳以下の就業者は2021年で263万人で、この約20年で3割減っています。それに伴って製造業の34歳以下の就業者割合は徐々に下がり、ここ数年は25%台が続いています。反対に65歳以上の就業者数は2021年91万人、2002年と比較をすると、約1.5倍と増えており、業界の高齢化が進んでいると言えます。  他の業種でも同様に、若年層の就業者割合の低下、高齢者の就業者割合の上昇の形になっています。若い人材が減ると言うことは、素晴らしい技術の継承者がいなくなることが考えられ、どのように継承し、発展させていくかを真剣に考えなくてはなりません。 図表3: 製造業就業者数と割合 出典: 総務省「労働力調査」  人材の高齢化と人材不足は一朝一夕に解決できる問題ではなく、これから先、世界はこの問題とともに経済活動を続けていかなくてはなりません。製造業においては、シニア活用の土壌を整えることと同時にどのように技術継承を行うか、また求職者に向けて製造業、会社の魅力を伝える工夫をすることが必要と考えます。  65歳を超えても働いてもらうためには、シニア層の職務の割り当てや待遇方針を明確にし、やりがいを持って働いてもらうための制度の検討が必要です。  また、シニア層がこれまで築いてきた技術をどのように後進に継承するのかも重要です。「経験と勘」、「見て学べ」という属人的なものはなく、どのような人でも一定の成果をあげられるマニュアルを作成するなど継承の準備は必須と言えます。  製造業のイメージとして、厳しい業界というイメージも昔はありました。しかし、昨今は働き方改革の影響もあり改善がされ、働きやすい環境も整備されてきているようです。こういった働きやすさの向上施策は引き続き努力すること、そして採用活動において会社側から魅力をしっかりと求職者に伝えることで人材採用に繋がる可能性があります。 以上