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労働組合組織率<br />~集団的労働法の時代から個別的労働法の時代へ~ | 人事制度運用支援

労働組合組織率~集団的労働法の時代から個別的労働法の時代へ~

 労働組合と聞いてどのくらい身近に感じるかは世代や関わりのある業種・業界によりかなりの差があるのではないでしょうか。  日本における労働組合の組織率は低下の一途をたどっています。労働組合組織率は、戦後間もない1948年の55.8%がピークであり、1980年ごろには約30%まで低下し、2019年には16.7%となっています。   図表1:労働組合組織率 出典:厚生労働省「労働組合基礎調査」(「労使関係総合調査労働組合基礎調査」)  ただし、産業別に見ると低下の度合いや組織率の水準には大きな差があります。労働市場における人材の流動性が比較的高い業種、例えば宿泊、飲食サービス業など、では組織率が低くなっています。一方、長期雇用が前提となっている企業が多い金融業やインフラ産業では組織率が高い傾向にあります。   図表2:産業別労働組合組織率 厚生労働省「労働組合基礎調査」(「労使関係総合調査労働組合基礎調査」)  労働組合員の数の観点では、1994年の1269万人をピークに減少しています。雇用者数が右肩上がりに大きく増加している中で労働組合員数が減少することで、雇用者に占める労働組合員の割合が大きく低下していることが分かります。   図表3:労働組合員数の推移 厚生労働省「労働組合基礎調査」(「労使関係総合調査労働組合基礎調査」  戦後約70年の間に変化したのは単なる数字だけではありません。産業の在り方、経済発展の速度、企業経営の進化など、労使を取り巻くあらゆる環境が変化を遂げる中で、労働組合組織率も変化をしてきたのです。  労働組合の歴史は遠く19世紀のイギリスまでさかのぼります。最も早く資本主義が浸透し産業が急速に発展する過程で、他者に雇われて働く者が急増したためです。当時の労働環境はひどいものであり、労働者個人には雇い主と交渉する力などありませんでした。しかし労働者は数が多いことを利用して、集団で助け合いながらストライキ等をするようになったのです。  日本では、明治維新による資本主義化をきっかけに、イギリスより100年ほど遅れて労使間の交渉が行われるようになりました。最初は製糸工場や炭鉱にて、雇い主に対する抗議やストライキが行われました。その後、1897年ごろから本格的に鉄工組合などの日本最初の労働組合が組織されるようになったのです。爆発的に労働組合が組織されるようになったのは戦後、民主化政策が進められた時期です。1955年には賃上げを要求する春闘が始まり、1974年には過去最高の32%超の賃上げを獲得するなどし、高度経済成長を下支えしました。  一方で、1980年代以降は集団的労働法ではなく、個別的労働法の分野が重視されるようになり、関連した法改正や立法もなされています。具体的には1985年に労働者派遣法の改正があり、その後は労働時間に関して度重なる労働法の改正や、男女の雇用機会均等や育児・介護に伴う働き方に関する立法がなされました。労働紛争の解決についても従来は団体争議が中心でしたが、2001年には個別労働紛争解決法という、個人対企業の争議を前提とした立法がなされるなど大きな変化を見せています。  これらの背景には労働力を集約した画一的な産業・労働の時代から、産業の種類や働き方の多様化の時代への変化があります。個人の事情や価値観を考慮した働き方の実現に労働組合が協力することもありますが、労働者が一丸となって会社と闘うという対立構造自体が薄れてきているのです。  また、企業経営の進化も労働組合組織率の低下に影響しています。昔は経営者VS労働者という単純な構図でしたが、現在は様々なステークホルダーのうちの1つであり、単純な対立構図ではなくなってきているのです。  働き方が多様化し、個としての労働者を守るためのルール作りがなされ、労働環境・条件に関する個人のリテラシーも高まりつつあります。労働者は労働組合に頼るだけでなく、多様な交渉方法を持ちつつあると言えます。  企業側の観点で捉えると、組合との画一的な対立構造における交渉や調整だけでは十分でなくなっているということです。  

可処分所得30年の推移|月収は15%減少、社会保険料は50%増加 | 人事制度設計

可処分所得30年の推移|月収は15%減少、社会保険料は50%増加

 我が国の労働者の月収は直近30年間で減少しています。それにもかかわらずこの間、社会保険料や税負担は増加し続けています。そのため、月収からそれらを差し引いて残る手取りの給料(=可処分所得)は大きく減少しているのです。  また、そもそも物価が上昇し続けているにもかかわらず、それに伴って月収が増えていないため、実質的な賃金としての月収も減少しています。  以上を踏まえると、実質的な賃金としての月収が減少する中、社会保険料や税負担の増加で手取りの給料(=可処分所得)も減少しているという非常に深刻な問題を抱えているということです。  月収はピーク時の1997年頃から最低値の2013年頃まで約15年間で15%も減少しています(371千円から315千円に56千円減少)。これはバブル崩壊やリーマンショックで景気が悪化したこともありますが、企業が内部留保を進め、人件費への配分を抑えるようになったことも理由の一つでしょう。 (図表1) 出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」*月収:一人当たりの現金給与総額(決まって支給する給与と特別に支払われた給与の合計額)  社会保険料(従業員負担率)は増加傾向にあり、直近30年間で負担率が1.5倍になっています。これは高齢化の影響で医療費支出が増加したことや、長引く不況で労働者の給料が伸び悩み、保険料収入が伸び悩んでいることがあげられます。また、所得税に関しては最高税率が年々引き上げられています。 (図表2) 出典:内閣府「税制調査会_社会保険料率(従業員負担分の推移)」*各保険料率について日本年金機構、全国健康保険協会、厚生労働省のデータを参考とした  そして、物価が上昇することによる実質的な賃金の減少です。2000年頃までは物価指数の伸びを名目賃金の伸びが上回っており実質賃金は増加傾向でした。しかし、それ以降は物価指数の伸びに名目賃金の伸びが追いつかず、実質賃金は下降傾向となりました。結果、現在の実質賃金は1990年の88%程度となっています。 (図表3) 出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査」、総務省「消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)」*名目賃金:図1の一人当たりの月収を指数化したもの*実質賃金:名目賃金を消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)でデフレートして算出  直近30年間の賃金推移を先進国内で比較すると伸び悩んでいるのは我が国のみです。今後グローバルに戦う上で優秀な人材を確保するには各国に引けを取らない賃金水準とする必要があります。また、社員に労働の対価として賃金を支払い、生活基盤の安定性を確保する事も企業の重要な責務です。そのため、今後も物価が上昇し、各種の税金や社会保険料も増加していくと考えた時に、社員の実質的な賃金を増やしていくことは非常に重要です。そしてこれらを実現するためにも、今後社員の生産性を一層高めて会社業績を向上させるとともに、社員への人件費配分を高めなければならないでしょう。 以上

道府県別 世帯収入・貯蓄高ランキング<br />~貯金好きな県、消費好きな県~ | 人事制度設計

道府県別 世帯収入・貯蓄高ランキング~貯金好きな県、消費好きな県~

 世帯収入が多い都道府県と言えばどこを思い浮かべるでしょうか。大企業や人が多く集まっている首都圏でしょうか。世帯ごとの収入ランキングを見ると、確かに東京都や神奈川県がトップにランクインしています。一方で貯蓄高のランキングとなると少し様子が異なります。今回は都道府県別の世帯収入・貯蓄高ランキングについて解説します。世帯の構成や消費の傾向なども併せて詳しく見ることで数字だけでは表せない、いわゆる「県民性」も垣間見られ非常に興味深いトピックです。   図表1:都道府県別 世帯収入ランキング 出典:総務省統計局「2019年全国家計構造調査」  道府県別の世帯収入ランキングでは、1位が東京都、2位は神奈川県と首都圏の2都県がランクインしています。東京都は日本の首都であり、大企業が多く集まっていることから個人の年収水準の高さも日本トップです。神奈川県でも個人年収の高さが世帯年収に現れています。東京都内の企業へ通勤し東京都水準の年収を得ている人も多く、また、京浜工業地帯の中核であり関連する業種の大規模な企業に勤める人も多いためです。  3位以降は、首都圏以外の県が高順位にランクインしています。3位愛知県、4位富山県、5位福井県です。愛知県にはトヨタ自動車を中心とした自動車関連企業が集まっています。また、愛知県の名古屋市は日本三大都市の一つであり、多くの人・企業が集まっており、中部地方全体の経済の中心ともなっているため、個人の年収も高い傾向にあるのです。  4位・5位は、上位3位の都県とは上位にランクインしている理由が異なります。上位3位までは主要な経済圏であることによる個人年収の高さが世帯年収の高さに影響していました。一方、4位の富山県、5位の福井県の個人の年収の高さは全国平均を下回っています。個人あたりの単価ではなく、世帯当たりの人数・有業者数が多いため、世帯収入が高いのです。女性配偶者の有業率も他都道府県と比べて高く、共働きランキングでも常に上位にランクインしています。   図表2:都道府県別 世帯貯蓄高÷世帯収入ランキング 出典:総務省統計局「2019年全国家計構造調査」  貯蓄高・収入のデータをもとに、「貯蓄高÷年間収入」のランキングを作成してみました。この表が示しているのは各都道府県において「平均的に何年分の年収を蓄えているか」ということです。  都道府県によって1位の2.9年分~47位の1.4年分まで、約2倍の大きな差が見られました。上位5県のうち、3位神奈川県、5位愛知県は収入ランキングでも上位にランクインしており、収入の高さが貯蓄高の高さにもつながっていると考えられます。。  一方、1位の奈良県、2位の兵庫県、4位の徳島県はそれぞれ収入ランキング23位、20位、35位と決して高くはありません。一定の年収の範囲内で上手く支出をコントロールする傾向、もしくは、支出より貯蓄を重視する傾向にあるのではないかと推察されます。  また、収入ランキングでは1位の東京都は、収入に対する貯蓄高は大きくなく、20位にとどまっています。家賃等の生活コストが嵩んでいることが主な要因でしょう。  下位5県についても、2パターンに分けられます。収入・貯蓄共に低い順位となっているのが鹿児島県、宮崎県、沖縄県です。一方、佐賀県は収入では23位と平均的でありながら貯蓄高は低い水準です。収入に対する支出が他の県よりも多いと考えられます。   図表3:散布図 出典:総務省統計局「2019年全国家計構造調査」  都道府県別の世帯収入と世帯貯蓄高の間には、一定の相関性がみられます。その中で県民性や生活環境等により収入に対して貯蓄が多い、少ない等の一定のバラツキがあることが分かりました。  世帯人員数や女性・高齢者の就業率など、労働市場全体のポートフォリオの変化により、じわじわと変化が生じる可能性はありますが、今回取り上げたデータの傾向は直ちに大きく変化するものではないと考えられます。  他の都道府県別データと併せてこれらのデータをビジネスの観点で見ると非常に興味深いです。当然、消費の内訳などから有利な業種・業態、地価等の多様なデータを含めて判断する必要がありますが、例えば、他の都道府県よりも収入に対して貯蓄が低い地域に出店すれば、人件費は低く抑えられる一方で消費活動が活発で売上を上げやすいかもしれない、などと仮説を立てることができるのです。  

生涯賃金の推移<br />~大きく下がった生涯賃金~ | 人事制度設計

生涯賃金の推移~大きく下がった生涯賃金~

 一般的に生涯賃金とは入社してから定年までの間に受け取る総賃金を指します。当記事では年次別に生涯賃金を示していますが、これは統計調査年別に各年齢の年収を合計して算出しています(諸手当や残業代含む月給及び賞与額から構成され、退職金は含まない)。そのため、調査年の賃金額が景気動向等に影響を受けて変化した場合、生涯賃金もそれに連動して変化しています。  例えば、大卒男性の場合、ピーク時の1993年頃から最低値の2013年頃まで20年間で15%も減少しています(324百万円から277百万円に47百万円減少)。これは、バブル崩壊やリーマンショックで景気が悪化したことや、株主重視経営が進んで労働者の賃金が抑えられたからだと考えられます。  また、男女の生涯賃金を比較すると、毎年約40百万円の差(1990年~2018年の平均)が生じており、一貫して女性の生涯賃金が低い(男性の85%程度)傾向であることがわかります。これは、男性と比較して女性は総合職より一般職の割合が高いことや、総合職で入社したとしても処遇の高い管理職に就けていないためだと考えられます。 (図表1) 出典:労働政策研究・研修機構『ユースフル統計2020』  さらに、生涯賃金データを性別・企業規模別に見てみると、男性の方が企業規模による生涯賃金差が生じやすくなっています。具体的には、男性は最大約90百万円、女性は最大約60百万円の差が生じています(性別に2018年時の1000名以上規模と10-99名規模を比較)。 (図表2) 出典:労働政策研究・研修機構『ユースフル統計2020』  我が国の生涯賃金は過去と比較して大きく下がっていますが、これはあくまで名目賃金で計算したデータであり、実質賃金で見ると更に深刻な状態であると言えます。また、直近約30年間の賃金推移を先進国内で比較すると、伸び悩んでいるのは我が国のみです。今後各国に引けを取らない賃金水準とするためには、会社の生産性を上げると同時に過度な株主重視経営を控え、人件費の適正な分配を実現していくことが重要です。 以上

年功序列の賃金カーブは無くなる|勤続年数ではなく能力や成果の評価制度が必要 | 人事制度設計

年功序列の賃金カーブは無くなる|勤続年数ではなく能力や成果の評価制度が必要

 日本では長年いわゆる「年功序列」による人事運用を行ってきました。「年功序列」とは、社員が会社に長く在籍すればするほど処遇を高くすることです。日本では、時代により多少の差はありますが、入社時と勤続30年時点では約2倍の処遇差があるのです。  入社時と勤続30年時点の処遇の上昇率を時代ごとに見てみると、1976年、1995年、2019年でそれぞれおよそ2.3倍、2.2倍、1.7倍です。上昇率が特に顕著な1976年は高度経済成長後の経済が安定していた時期であり、勤続年数が長ければ長いほど処遇が上がっていく年功序列的傾向が色濃かったことが分かります。  1970年代に対して1990年代はバブル経済が崩壊し、経営の効率化を迫られた時期です。1995年のグラフを見ると、傾向としては右肩上がりではあるものの、1976年と比べると上昇率が抑えられています。年功序列的傾向は残っているものの、その度合いは薄まってきていると言えます。  さらに、2019年の数字を見ると、勤続年数の増加による処遇の上昇率はさらに小さくなっています。近年は失われた30年とも呼ばれる低成長時代であり、年齢や勤続年数の長さに対して報いる余裕がない企業が多くなっていることも一因でしょう。またグローバル化が進んだことによる競争力強化の観点や、自社で育成する余裕がないことから即戦力を求める傾向が強まっていることも関係していると考えられます。自社に貢献している期間の長さではなく、能力に応じて処遇する企業が増えているのです。 (図表1:勤続年数別賃金格差(所定内賃金)) 出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」 注:1976年、1995年、2019年の各調査年での男女計の「勤続0年」の平均所定内賃金額を100としたときの各勤続年数階級の平均所定内給与額を表している  勤続年数増加による給与の上昇率が下がってきているとはいえ、諸外国と比較をすると、日本では近年においても年功的な傾向は依然として強いことが分かります。  「勤続1~5年」から「勤続30年以上」への処遇の上昇率は日本で1.8倍であり、1.4倍前後であるイタリア・イギリス・フランスなど、ヨーロッパの主要な国々と比較して高い水準にあります。また、スウェーデンでは勤続15年を超えると給与は右肩下がりとなっており、ピークである「15年~19年」時点でも1.1倍、「勤続30年以上」では約1倍と低い水準です。ちなみに、ドイツでは日本と同じく長期雇用を前提としているため1.7倍と高い水準にあります。 (図表2:勤続年数別賃金格差(国際比較)) 出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2018」 注1: 日本の勤続1~5年欄は1年以上5年未満, 勤続6~9年欄は5年以上10年未満 注2:公務・防衛・義務的社外補償を除く非農林漁業を対象とした産業計  一部企業では新卒初任給を年収1,000万円とするなど、年齢や社歴に関わらず、能力や成果に対して処遇を決めることなどが話題になっています。また、労働市場の流動化が進み中途入社をする労働者の割合が増加することにより、勤続年数が短くても給与が高い人が増えることが考えらます。これらを要因に、勤続年数が短い属性の処遇が高くなることが予想されます。   一方で、今後は勤続年数が長いからといって処遇が高くなるとは限らないでしょう。長期の功労よりも、現在保有している能力やパフォーマンスの高さに対して処遇する会社が増えると考えられるためです。  これらの影響により、今後は勤続年数と処遇の高さとの関連性はさらに弱まるでしょう。「賃金カーブ」という言葉がなくなる日もそう遠くはないかもしれません。

女性の就業率の推移|女性が活躍できる労働環境・人事制度の整備 | 人事制度運用支援

女性の就業率の推移|女性が活躍できる労働環境・人事制度の整備

 昨今、日本では女性の社会進出が進み、就業者数が増加しています。2019年時点で約2,650万人となっており、2000年の2,450万人から200万人も増加しています。その為、今後は女性就業者がより活躍できる基盤をさらに整備することが重要な経営課題となります。  日本の生産年齢人口(15歳から65歳未満)が減少を続けている中、女性就業者数が増加している背景には、就業率の飛躍的な向上があげられます。女性の生産年齢人口は2000年で約4,300万人でしたが、2019年では約3,700万人と大きく減少しています。その一方で、女性の就業率は2000年に57%でしたが、2019年では70%を超えているのです。  また、女性の就業率向上の主たる要因は次の3つと考えられます。まず、労働需要の増加です。少子高齢化に伴って生産年齢人口が減少し、社会的に労働力の不足が叫ばれていました。次に、女性の就業意識の変化です。例えば、世帯年収の減少に伴って専業主婦世帯では従前の所得水準を維持できなくなり、労働参加している背景があります。他にも、労働参加を促す政策等の法整備が進んだ事も理由に挙げられます。   (図表1) 出典:総務省『労働力調査、人口推計』  また、我が国の女性就業率をG7各国と比較すると、2005年頃までは7か国中6位で他国に遅れを取っている状況でした。そしてこの間、上位3か国と比較すると毎年約10%もの差が開いています。 直近の2019年時点では1位のドイツに及ば無いものの、カナダ・イギリスと同水準(同率2位程度)に位置づけ、大きく躍進しています。また、日本の増加度合いは1位のドイツ、同率2位のカナダ・イギリスより大きいため、この傾向が継続すれば5-10年程度で日本の順位が1位になる可能性があります。   (図表2) 出典:OECD(2021)『 Employment rate (indicator). doi: 10.1787/1de68a9b-en (Accessed on 12 March 2021)』 注) イタリアは直近約20年間連続最下位で比較とならない為データから除いている  短期的には、新型コロナウイルスによる経済活動低迷の影響により、就業率の増加傾向が鈍化する可能性があります。しかしながら中長期的には、再度増加傾向に転じるのではないでしょうか。なぜなら、少子高齢化に伴う慢性的な人手不足や、女性活躍推進法の改正等政府による働きかけが継続すると考えられる為です。  日本は労働需給という観点では需要が多く、慢性的な労働力不足の状態です。その為、女性就業者の増加は人手不足の解消という点で効果があります。但し、就業者数の急速な増加とともに、今後は就業の“質”が大きな課題となります。男女が平等かつ働きやすい環境を整備することが喫緊の課題ということです。その為には、企業においての意識改革と働き方の改革が必要となるでしょう。意識改革とは、「仕事のチャンスは男女平等に与えられる」という考えを醸成する事です。仕事は男性が担い、家事・育児は女性が担うという考えを改める必要があります。例えば、男性の育児休暇を推進する事で、家事・育児を男女平等に分担する意識を育てる事が出来るでしょう。また、家事育児をしながら効率的な働き方をするための具体的な施策の推進も必要でしょう。例えばテレワークの徹底した活用などがその代表的なものになります。 以上

地域別世帯収入 <br />~総力戦で稼ぐ北陸モデル~ | 人事制度設計

地域別世帯収入 ~総力戦で稼ぐ北陸モデル~

 北陸地方は、都道府県幸福度ランキング(一般財団法人 日本総合研究所)などの民間調査でも上位にランクインするなど、「幸せ」「暮らしやすい」といったイメージを持たれている地方です。今回は暮らしやすさにも影響する北陸地方の世帯収入について、データの側面から解説します。  北陸地方は、2人以上の勤労者世帯における月間の家計収支黒字額が1位の地域です。その理由は大きく分けて2つあり、まず、世帯収入額は関東地方に次いで高いこと、そして支出が少ないことです。 (図表1) 出典:総務省統計局『家計調査(2019年)』    北陸地方では、勤労者1人当たりの平均年収は高い訳ではありません。図表2は都道府県別の1人当たりの平均年収ですが、石川県23位、福井県27位、富山県28位、県新潟31位と、いずれも都道府県平均並みかそれ以下の水準です。 (図表2) 出典:総務省統計局『家計調査(2019年)』出典:厚生労働省『賃金構造基本統計調査(2019年)』    世帯収入が高いのには、1世帯当たりの人数が大きく関係しています。他の地方と比べて世帯人数が多く、世帯における有業人数も多いのです。また、北陸地方では他の地域と比較して、女性配偶者の有業率が高いという特徴があります。背景としては、子・両親・祖父母などと複数の世代で同居している世帯も多く、子の世話や家事を分担できることが考えられます。北陸地方では、学生を除くほとんどの家族に稼ぎがあることが珍しくなく、世帯当たりの稼ぎ手が多いのです。  そして、1位の関東地方と比較して収入額はやや低いものの、関東地方よりも世帯における消費額が低いことから最終的に手元に残る黒字額では1位となっています。  複数世代の同居により世帯における有業人数と収入の最大化を実現するモデルを仮に北陸モデルと呼ぶこととします。この北陸モデルは、今後企業がダイバーシティを実現するための大きなヒントとなるのではないでしょうか。世帯内の助け合いによって高年齢者や女性の社会進出を実現している地方において、企業は多様な働き手を確保できるためです。  働き手にとっては世帯収入の最大化というメリット、企業にとっては都心より人件費単価を抑えながらも必要な働き手を確保できるというメリットを互いに享受することができます。仕事のリモート化が進む時世においては、都心においてビジネスを展開している企業にとっても、地方に本拠地を移したり、地方の人材を活用したりすることもより現実味が増してきているのではないでしょうか。 以上

有効求人倍率<br />~不景気は採用のチャンス?!~ | 人事制度設計

有効求人倍率~不景気は採用のチャンス?!~

 新型コロナウイルス感染拡大等の影響を受け、採用を控える企業も増えており、有効求人倍率にも表れています。今回は、有効求人倍率の推移や職種ごとの違いについて解説します。  有効求人倍率とは、ハローワークに申し込まれた求人数を求職者数で割ったものであり、1を下回ると求人の数が求職者数よりも少ないことを示します。有効求人倍率は景気動向による短期的な変化が多く、景気の下降局面では有効求人倍率も下降しています。  過去の推移を見ると、高度経済成長期やバブル経済のピーク時に2.00倍を超えており、リーマンショック時には史上最低値の0.42倍を記録しています。直近の数字を見ると、新型コロナウイルス感染拡大防止による外出自粛要請等の影響を受けて、2020年7~9月に1.05倍まで下がっています。  なお、ハローワークの求人のみが対象であり、ハローワークを経由しない紹介による採用やインターネットを活用した採用活動は反映されていない点、パート・アルバイトの求人も含む点に注意は必要です。 (図表1:有効求人倍率、新規求人倍率) 出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」、内閣府「景気循環日付」注1)新規学卒者を除きパートタイムを含む注2)1973年から沖縄を含む注3)四半期平均注4)図中、灰色の期間は、景気の下降局面(山から谷)である。2018年10-12月期の山は暫定。  一方で、職種別に見てみると、有効求人倍率の高さにかなり差があることが分かります。例えば、とび工や解体作業員等が含まれる職種である建設躯体工事は、令和2年11月度9.79倍、前年同月12.40倍であり、10~12名の採用枠に対して求職者は1名程度という状況です。景気動向による影響は多少あるものの、深刻な人手不足が生じていると言えます。  一方で、飲食店やホテルの従業員を含む職種「接客・給仕」、ソフトウエア開発者等を含む職種「情報処理・通信技術者」では、昨年から有効求人倍率が約半分となり、1倍に近づいています。また、「一般事務」等の職種においては、景気の降下の影響に関わらず、1倍を下回っています。  なお、令和2年11月度の職種別の有効求人倍率が前年比では下がっていることは、いずれの職種においても共通しています。 (図表2:職業別の有効求人倍率(令和2年11月、前年同月)) 出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」、内閣府「景気循環日付」注)一部職種を抜粋している。  コロナ禍における景気低迷を含め、景気の下降局面で有効求人倍率が低下し1倍に近づいた職種や、1を下回っている職種について、人材の強化を目指す企業の観点からは非常に有利な機会であるとも言えます。景気降下局面には採用を控えることを検討しがちですが、求人数に対して求職者が多いということにより、採用において十分なセレクションが可能となるためです。例えば、高い技術力を持つ人材や経験豊富な人材を吟味できるのです。労働市場の動向を見極めて有意義な人的投資を実現したいものです。 以上

新規学卒者初任給<br />~令和の新卒は年収1000万円?!~ | 人事制度設計

新規学卒者初任給~令和の新卒は年収1000万円?!~

 令和元年の大卒初任給の平均は約21万円であり、過去最高額を記録していますが、この金額は高いと言えるのでしょうか。  当然、初任給の水準には業種による差があり、人材を獲り合うような業種では水準が上がります。例えば、令和元年の大卒初任給は、情報通信業の21.8万円に対して、宿泊業・飲食サービス業は20万円と開きがあります。  ここでは全体感を把握すべく、全業種を平均した値により初任給金額の推移を見ることとします。学歴別に初任給金額の推移を見ると、いずれの学歴においても直近24年で2万円前後と、じわじわと増額しているのが分かります。大卒では19,500円、高専・短大卒では22,700円、高卒では16,600円、大学院卒では直近15年間で18,500円の増加です。 (図表1:学歴別初任給金額の推移(全産業)) 出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(長期時系列データ)注:大学院卒の初任給データは平成17年以降のみ  さらに、物価の上がり下がりを加味した実質初任給にて過去の推移を見ると、実質的な増額幅はより小さいことが分かります。物価の変動を加味すると、大卒では約11,000円、最も伸びが大きい高専・短大卒でも約15,000円の伸びに留まっています。 (図表2:実質初任給金額の推移(全産業)) 出典:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(長期時系列データ)   総務省「消費者物価指数」(長期時系列データ)注:初任給金額(円)÷消費者物価指数(%)により算出した  初任給に限らず、平成の約30年間で賃金は大きく上がっていません。産業がすでに成熟し、大きな経済成長の見通しもないことから多くの企業では景況感に不安を抱えており、コスト低減を前提とした戦略を取っているのです。実際、2000年以降労働分配率は低下傾向にあります。  今後の初任給のあり方は、企業の戦略のあり方や採用市場の状況により大きく引きあがる職種と、今後も横ばいもしくは微増を続ける業種の大きく2つに分かれるのではないでしょうか。  事業構造や収益構造に変革をもたらすことができる企業では、コスト低減に依存した収益拡大の戦略を脱し、変革や成長に資する人材の確保に乗り出します。例えば、NECでは2019年10月より新人事制度を導入し、新卒でも年収1000万円以上を得ることを可能にしました。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)や国内のメガベンチャーと人材の獲得競争をする中で、何とかして優秀な研究者を獲得したいという思いがあるようです。¹このように、高いコストをかけてでも確保したい人材に対し、年齢を問わず、より魅力的な金額を提示する企業が多い業種では、企業間の人材の獲り合いも活性化し、初任給水準は大きく引き上がるでしょう。  一方で、年功的に賃金水準を徐々に上げる思想にある会社では、総額人件費の高騰を懸念し初任給水準を上げられないという実情があります。また、なかなか新しい付加価値や収益源を見いだせず、コスト低減による利益のねん出を続けざるを得ない企業や、そうした企業が多い業種においても、初任給水準は今後も横ばいか、人材不足等の影響による最低限の微増に留めざるを得ないでしょう。 以上 参考文献 1:日経ビジネス「NECが「新卒でも年収1000万円」制度を導入した真意」(2019年10月16日)https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00067/101100042/

都道府県別人口<br />~深刻化する人口減少と都道府県間格差~ | 人事制度設計

都道府県別人口~深刻化する人口減少と都道府県間格差~

 現在わが国の人口は減少傾向です。2008年をピークに減少が始まり、2011年以降9年連続で減少しています。そして、国立社会保障・人口問題研究所の調査によると2040年代後半には1億人を割るという推計まで出ています。また、人口減少問題を都道府県別にみると、より深刻な状況がわかります。例えば、都市部への一極集中で都道府県間の人口格差が広がっています。その結果、人口減少の著しい都道府県はマーケットとしての魅力を大きく失いつつあります。  人口の絶対数で見ると、2015年は上位25%の都道府県だけで全人口の60%の割合を占めています。一方、下位25%の都道府県が全人口に占める割合は8%程度です。以上から、一部の都道府県に人口が集中し、人口格差が発生している事が分かります。  2030年時(推計)の人口で見ると、ランキング上位では、東京都、神奈川県、愛知県等は数値が大きく変わらず、依然としてマーケットの魅力が高いと言えます。一方、大阪府と北海道は減少数が約60万人と大きく、マーケットの魅力が大きく下がります。  また、ランキング下位では、宮崎県、富山県、秋田県が100万人を割ります。このことから、相対的な増減数は平均程度ですが、マーケット魅力の低下は避けられません。 (図1) 出典:総務省『国勢調査』2015年時の人口ランキング上位・下位25%を抜粋したもの。また、2030年時の数値はランキングではなく、2015年時のランキングに入っている都道府県の2030年時データである。  人口の増減率で見ると、全国的に東北地方・四国地方の都道府県の減少率が大きいです。その為、これらの都道府県はマーケットの魅力の低下度合いが大きいと言えます。理由は様々ありますが、例えば秋田県は出生率が低いと同時に死亡率が高い傾向にあります。同時に、県外への流出傾向も強いことから減少率が高くなっている可能性が高いです。 (図2) 出典:総務省『国勢調査』  都道府県別に見た人口の減少傾向は、ビジネスの仕方に大きく影響を与えます。例えば、100万人を切る都道府県の場合、ビジネスを行う単位として見ることが出来なくなる可能性があります。その為、支店の設置を県別ではなく中規模の地域単位で行って事業拠点を統合するなど、マーケット運営の効率化が進みます。それに伴い、リモートワークなど社員の働き方を変えなければならない必要性が生じます。特に、人口減少率が高い都道府県の場合、今後急速にマーケットとしての魅力が失われますので、組織の在り方を早急に考えなければなりません。  また、都市一極集中の傾向によって、地域間の物価差がより大きくなる可能性もあります。その為、社員の給与を働く地域によってコントロールがすることが必須となります。  以上  

単身赴任の割合は約1.5倍に増加|単身赴任手当など処遇の見直しが重要 | 人事制度

単身赴任の割合は約1.5倍に増加|単身赴任手当など処遇の見直しが重要

 ワークライフバランスが叫ばれる昨今においても、遠方での業務のために家族と離れて暮らす単身赴任の割合は意外にも増加しています。今回は、単身赴任割合の推移について解説します。  過去の推移を見ると、単身赴任者の割合(注1)は増加傾向にあり、1990年代後半から2017年までの間に約1.5倍となっています。共働き世帯の増加や親族の介護などの事情により、転勤の命を受けた場合であっても家族を帯同して赴任することが難しいケースが増えていることが影響していると言えるでしょう。   (図表1:単身赴任割合の推移) 出典:独立行政法人労働政策研究所「ユースフル労働統計2019」 注1)従業上の地位が雇用者である有業単身世帯数÷雇用者数により算出された割合を単身赴任割合とした。  単身赴任割合を年齢別に見ると、いずれの年齢においても増加傾向にあります。40代だけが横ばいとなっているのには、就職氷河期などの影響により労働者自体が少なく、異動を命じる余地がない割合が他の世代よりも高い可能性があります。  その他の各年代の中でも、1997年と比較して60代以上では2倍近くと、特にシニア世代は大きく伸びています。高年齢雇用安定法の改正によって2006年以降の定年の引き上げや再雇用による継続雇用制度の導入が企業に義務化されたことが影響していると考えられます。再雇用時のポストの空き具合等の都合による異動や、グループ会社への出向などに転勤が命じられるケースが考えられます。   (図表2:年齢別の単身赴任割合) 出典:独立行政法人労働政策研究所「ユースフル労働統計2019」 注2)男性のみ  一部企業ではコロナ禍におけるリモートワークの普及を受け、単身赴任を解除する動きが見られるものの、今後急に単身赴任者が大きく減ることは考えにくいでしょう。  単身赴任に際して支給する単身赴任手当等の支給実態を見ると、支給金額が合理的な理由をもとに決められている会社は少ないのが現状です。今後も単身赴任者が発生し続けることを踏まえ、単身赴任に関する処遇の見直しが必要でしょう。 以上

大卒者の増加 ~総合職・高度専門職の候補者が倍増?!~ | 人事制度設計

大卒者の増加 ~総合職・高度専門職の候補者が倍増?!~

 現代の日本では、少子化が著しく進んでいます。図1は、出生数と22歳人口を示しています。平成元年には約125万人が生まれていましたが、平成27年時点では約100万人と、平成の約30年の間に20%も減少しています。また、大学を卒業する年齢にあたる22歳人口も平成7年をピークに減少し続けており、平成27年にはピーク時の約6割にまで急激に減少しています。    (図1)22歳の人口の推移 出典:総務省統計局『人口推計 長期時系列データ(大正9年~平成12年)』総務省統計局『人口推計 長期時系列データ(平成12年~27年)』 厚生労働省『人口動態調査 人口動態統計(確定数)出生』  一方で、(図2)の大学進学率に目を向けると平成元年には約25%から平成27年の約52%へと倍以上に増加しています。大学進学率とは、高校卒業者のうち大学へ進学する人の割合です。(図1)と併せて見てみると、子供の数自体は減っている一方で、大学に進む人の割合は大きく増えていることが分かります。   (図2)大学進学率 出典:文部科学省『学校基本調査 年次統計 進学率(1948年~)』  さらに、(図3)にて大学卒業者数の推移を見てみると、年により多少の増減はあるものの、基本的には増加傾向です。平成元年には約40万人が大学を卒業していますが、平成27年には約56万人にまで増加しています。大学卒業者数に占める就業者数の推移を見ると、一部景気の好悪の影響を受けている年があるものの、基本的には毎年大学卒業者数の7割程度の人が就業しています。その数も、大学卒業者数と同じく増加傾向にあることが分かります。   (図3)大学卒業者数・大学卒業後の就職者数の推移 出典:文部科学省『文部科学統計要覧(平成30年版)11.大学』  これらのデータから、子供・若手の数自体は減少しているものの、大卒向け新卒採用の母集団は増加していることが分かります。今後も経営幹部・管理職の候補となる総合職人材や高度専門職等の採用の状況は大きく変わることはないでしょう。  一方で、若手の人口自体は減少しながら大卒が増加しているため、高卒・専門卒・短大卒等では採用母集団が縮小傾向です。労働市場におけるこれらの人材の供給は不足する見込みであり、企業の採用のあり方に変化をもたらすでしょう。具体的には、これまで高卒・専門卒・短大卒等を採用してきた人材を若手以外の人材に置き換えたり、社外へのアウトソーシングを活用したりする等、多様な人材の活用が進むことが考えられます。 以上