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HR DATA

業績好調企業における希望退職制度の導入
~頓服薬から常服薬へ~

 バブル崩壊やリーマンショックなどの急激な景気悪化局面や、コロナ禍のような外部環境の変化に伴う経済活動縮小局面において、企業は頓服薬を服用するように、雇用調整施策、いわゆるリストラを実施してきました。

 景気悪化による赤字をいち早く脱却すべく雇用調整をすることは当然ながら、近年特に、予防策的に黒字下であっても人員数や人員構成をコントロールする方策を持っておくことの重要性は高まってきています。

 図表1は、失業者のうち、会社都合による失業者の割合を経年で示した折れ線グラフです。会社都合による失業とは、倒産や事業所の閉鎖等による失業の他、退職勧奨など経営上の都合により退職を進められて退職をした場合などが含まれ、セカンドキャリアを自主的に選択することなどを目的に恒常的に設けられている制度などを利用し、労働者が自主的に退職を決断した場合は含まれません。

 日本企業において、早期退職に関する議論が最初に興隆したタイミングはバブル崩壊後です。バブル崩壊までは、日本の経済は右肩上がりに成長を続けていました。また、労働市場には団塊世代と呼ばれる人口ボリューム層を中心に労働者の数自体が多かったため、各企業が積極的に雇用拡大をしていたのです。業績拡大に対応すべく数多くの社員を抱えていた状況下で、経済危機に直面し、雇用の在り方や、企業の雇用責任とは何か、ということが議論されるようになったのです。

 グラフはその後の失業者の推移を描写していますが、平成21年のリーマンショック時までは右肩下がりです。その後、リーマンショックの影響による倒産や事業整理、応急処置的な経営効率化により会社都合による失業者の割合が急増しました。さらにその後、コロナウイルス感染拡大による人流制限が生じるまでは右肩下がりであり、令和2年には一時的に増加しているものの、かつてよりは低い水準に収まっています。

図表1:失業者のうち会社都合による失業者の割合

出典:厚生労働省「労働力調査(長期時系列データ)」

 主要な上場企業における早期退職募集状況を経年で見ると、やはり、リーマンショックが生じた平成21年、コロナウイルス感染が拡大した令和2年は実施社数、募集人数共に突出しています。人員数の圧縮による人件費抑制を目的とした応急処置的な雇用調整だと考えられます。一方で、その間の平常時においても一定数実施されています。

 さらに、令和2年に早期退職を実施した企業のうち、凡そ40%超の企業の通期の損益は黒字です。赤字企業が早期退職を募集する主な目的は、業績悪化に対する緊急対応であり、従前から行われてきたものです。一方、黒字企業が早期退職に踏み切るのは、先を見通した上で、先行的な改革を目指しているためです。先行型の早期退職実施の経営上の目的として良く挙げられるのは、人員構成の歪の是正、業務の効率化・生産性向上、年功主義の解消などです。

図表2:主な上場企業 希望・早期退職募集状況

出典:東京商工リサーチ

 当社が人事制度設計で携わる企業においても、恒常的な人員数と人員構成のコントロールの施策として、早期退優遇制度(セカンドキャリア支援制度)を設計したいというニーズは強く、これまで以上に重要性・緊急性が高まっているように感じます。

 背景には、やはり絶えず変化する経済状況に対する危機感や、業務効率や生産性の向上による人員数の余剰感、ビジネスモデルの高度化により社員に求めるスキルの種類が変化すること、会社内の人員構成の歪みなどがあります。特に、多くの会社で高齢化が進み、中高年の社員に多いのですが、新しいビジネスモデルや環境変化のスピード感についていくことが難しい社員を、このまま活用し続けることが難しいと考える企業も多くなっています。今後10年を見通して現在の歪な人員構成を是正するための、最後のタイミングだと言えるでしょう。

 今後は、環境変化についていけない企業にとってはより厳しい時代となるでしょう。各企業は、環境変化になんとか対応しようと、必要なスキルを必要な時に調達せざるを得なくなります。これに伴って、労働市場の流動性もより高まるでしょう。長期雇用を前提とした企業内の人材ポートフォリオを、時代にあった形に是正すべく、雇用調整施策を常備する傾向は今後も続くのではないでしょうか。

以上