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企業規模別年収水準比較<br />~令和5年 中小は年収増、大企業は減少傾向~ | その他

企業規模別年収水準比較~令和5年 中小は年収増、大企業は減少傾向~

 従業員にいくらの給料を払うべきか、同業他社はどのくらいの給料を払っているのか、は人事管理上非常に重要な論点です。1つの拠り所として、厚生労働省の賃金構造基本統計調査が活用できます。この統計からは、毎年地域別や業種別、職階別、年齢別など様々な角度から月収や賞与の支給実態を把握できます。今回は、令和5年度の調査結果から、企業規模による年収水準の違いや過年度との比較について解説します。  まずは令和5年度の年収水準につき、概観を解説します。図表1では、いずれの年齢階層においても、年収の低い順に10~99名規模、100~999名規模、1000以上規模との順番は過年度から変わりは有りません。企業規模別の年収水準に大きな差が付くのは30~50代です。小規模企業では30代後半以降年収の伸びが鈍化し500万円弱で留まる一方、1,000名以上の大企業では50代後半まで伸び続け約730万円に達します。100~999名規模の中堅企業における年収のピークは50代後半で600万円弱です。 大企業・中堅企業では50代後半の年収が高い一方、60歳以降では大きく落幅しています。今後、シニア活用努力義務による定年延長と同一労働同一賃金によって現役世代と同等の年収水準を求められるようになる場合には、大きくコスト増となる懸念が高いと言えます。 【図表1:令和5年度 企業規模別年代別 年収比較】 出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5年)に基づき作成    図表2からは、企業規模が大きいほど年収が高いものの月収・賞与では差のつき方が異なることが分かります。月給は差が小さく、中規模企業は大企業の90%ほど、小規模企業でも80%程度です。一方、賞与で大きく差が付いており中規模企業では大企業の75%程度、小規模企業では55%程度です。小規模企業でも最賃や生活水準、採用競争力を考えると月給は下げ難いが、賞与は利益や企業体力に依存するため、生産性が高く利益も高くなりがちな大企業ほど多いと言えます。 【図表2:令和5年度 企業規模別年代別 1000名以上規模を100%としたときの月収・賞与・年収比較】 出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5年)に基づき作成 注:きま給とは、きまって支給する現金給与額の略であり、基本給、職務手当、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などが含まれるほか、超過労働給与額を含む額面である。  続いて、図表3にて前年との比較を参照します。年齢階層により程度に差は有りますが、中規模・小規模企業では押しなべて3%程度年収が増加しており、全体的にベースアップしていると言えます。特に20代前半は初任給水準の改定の影響か、4%と明らかな増加がみられます。55歳以降も増加しており、同一労働同一賃金の意識の高まりや人手不足により雇用延長をするケースなど、シニアの処遇改善の結果だと推察できます。一方、大企業では、年収は年齢階層によっては減少が見られます。月給は微減です。大きく減少したのは賞与で、全年齢平均マイナス3.6%でした。大企業の賞与は、令和3年度から令和4年度の間に5%程度増加しおり、揺り戻しと見ることもできます。賞与は利益連動とすることが多いので、毎年秋に公表される法人統計企業調査など、営業利益等の業績指標の昨対比に注目したいところです。 出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5年、令和4年)に基づき作成  月給は最低賃金や採用市場の競争、生活水準を考慮すると、賞与よりは企業規模による大きな差が付きづらいですが、賞与に関しては企業の体力と利益が直接反映されるため、大きな差が出ます。賃上げ議論が過熱する昨今ですが、健全な企業経営を持続し、利益を確保することが従業員の年収水準を向上させるための唯一の条件であると言えるでしょう。持続可能な成長を目指す企業経営が重要です。 以上

人的資本ROIとは<br />~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~ | その他

人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~

 今回は、人的資本ROIをテーマに、データの見方・業界水準・考察の仕方について解説します。従来、企業価値を測る際には、主に有形固定資産を表す財務情報が重視されてきましたが、無形固定資産を表す非財務情報の開示が求められる潮流にあります。無形固定資産の中でも、人材は最も重要とされ、人的資本の開示に注目が集まっています。  2018年にISO30414が出版され、世の中にインパクトを与えました。ISO30414には11の人的資本領域と58のメトリック(測定基準)が定められています。各メトリックは、各企業がデータで示すべきものであり、まずはデータを揃えると共に、各メトリック同士の関係性や、他社比較・同業他社比較などの考察を通じて得られるものは多いでしょう。  人的資本ROIは、ISO30414のうち、生産性領域のメトリックの1つです。そもそも、ROIとは、Return On Investment(投資利益率)の略であり、投資額に対してどれだけのリターンを上げられたかを測る指標です。「ROI(%)=利益率÷投資額×100」で計算されます。  人的資本ROIは、人件費への投資がどれだけ利益に貢献しているかを測る指標であり、「(売上高-人件費を除く経費)÷人件費-1」により求められます。なお、人件費には、給与や賞与といった直接人件費だけではなく、法定福利費や教育研修費などの教育訓練費用、その他の福利厚生費を含むことに注意が必要です。    (図表1:人的資本ROIの計算式) 出典: ISO30414 Human resource management-Guidelines for internal and external human capital reporting (英和対訳版)   ISO30414の指標には、従業員数やダイバーシティ、離職率など、業種の垣根を超えて参照・活用可能なメトリックと、ビジネスモデルの特徴ごとに傾向や水準が異なり、業種ごとに参照・活用すべきメトリックがあります。人的資本ROIは収益構造の如何により水準が大きく異なるため、同業他社比較が有効です。そこで、今回は、経済産業省による企業活動基本調査の統計値を活用し、主要な業種ごとに直近4期分の人的資本ROI値を算出し、比較してみました。   最も人的資本ROIが高水準にある卸売業では4期平均51.6%、反対に最も低水準であるサービス業では、4期平均17.5%と、業種により水準が大きく異なることが分かります。また、同じ業界であっても、業界における収益トレンドによる影響を受けます。例えば、卸売業や製造業では、2021年に大きく水準が上がっていますが、これは、コロナ禍からの回復により、分子の売上高・営業利益が大きく伸長した一方で、分母の人件費総額は横ばいであったためです。   ちなみに、売上高人件費率は、卸売業で4.5%、製造業で11.7%と低く、対して、情報通信業は22.7%・サービス業は37.8%と比較的高水準(いずれも2022年実績)です。コロナ禍で収益が下がり、その後、程度の差はあれど回復傾向にあることは業種共通ですが、人件費率が収益に対して低い業種ほど、そもそも人的資本ROI水準が高く、また、増益に伴いビビットに水準が上がりやすいと言えます。例えば、人件費率が低く、直近の収益の伸長が著しい卸売業では、65%を超える高水準に達しています。   (図表2:業種別人的資本ROI) ※科目ごとの統計値を基に { 売上高 - {(売上原価、販売費および一般管理費) - (給与 + 福利厚生)}} ÷ (給与 + 福利厚生)} - 1 により筆者計算   人的資本ROIは、分母が小さければ小さい程、または、分子が大きければ大きい程、計算結果が大きくなります。人件費を抑制すれば、短期的には人的資本ROIの数値が上がりますが、低賃金による人材流出やエンゲージメントの低下、教育研修費の削減による新技術獲得機会の逸失やスキル量の低下が生じては本末転倒です。収益貢献に資する適切な人件費投資による高水準を目指すべきです。   なお、人的資本ROIの指標は、単年度の数字ですから、中長期的視点で物事を語ることができない点が弱点です。弱点を補強するため、経年で傾向を把握したり、人員数や労働生産性・労働分配率など、他の指標と併せて考察したりすることが重要です。   以上    

減少する企業数、増えない起業家<br />~サラリーマン大国、ニッポン~ | その他

減少する企業数、増えない起業家~サラリーマン大国、ニッポン~

 近年、働き方の多様化、価値観の多様化という言葉を頻繁に耳にするようになりました。テレビやインターネットでは、頻繁に若い起業家やフリーランスが取り上げられるようになったり、個人のスキルを販売するようなサービスが展開されたりと、企業に属さない働き方が増えている感を覚えます。  しかしながら、実際には独立や開業・起業はさほど多くありません。1999年を基準として企業数の推移をみると、右肩下がりに減少してきたことが分かります。起業・開業が少なく、開業率より廃業率が高いことが原因です。 (図表1:企業規模別企業数の増減率(1999年対比)) 出典: 総務省「平成11年、13年、16年、18年事業所・企業統計調査」、「平成21年、26年経済センサス基礎調査」、総務省・経済産業省「平成24年、28年経済センサス‐活動調査」注:企業数=会社数+個人事業者数とする。    開廃業率の推移をみると、2000年ごろまでは開業率が廃業率を上回っており、企業数が増加していたことが分かります。しかしながら、その後は、廃業率が開業率を上回る年も多く企業数が減少してきました。近年、再び僅かながら開業率が廃業率を上回っていますが、盛んに開業が行われているといえる程の水準ではありません。 (図表2:開業率・廃業率の推移) 出典: 厚生労働省「雇用保険事業年報」    一方、企業に雇用されている労働者の数は、2019年には2002年の雇用者の約115%と大きく増えています。企業が減っている中で雇用者数が増加していることは、1企業あたりの従業員数が増加していることを意味します。企業の集積度が高まってきていることが分かります。 (図表3:役員を除く雇用者の推移) 出典: 総務省統計局「労働力調査 長期時系列データ」注:役員を除く雇用者には、正規社員・非正規社員(パート、アルバイト等)、契約社員、嘱託社員等が含まれる    昨今、働き方の多様化がよく議論されますが、現在の日本においては企業数は増えておらず、サラリーマンの数は増加傾向にあります。ビジネスパーソンにとって、主要な選択肢は独立・開業することや、フリーランスとして活躍すること、そしてサラリーマンとして雇用されることでしょう。前者の2つは輝かしく、また自由な生き方を想起させ注目度も高まっていますが、起業・開業にはリスクも伴うことから、実際に選択する人はさほど多くないようです。実際にキャリア選択の幅が広がるのはまだ先のことでしょう。

労働力人口<br />~多様な人材の活用と労働力需要の抑制がカギ~ | 適正人員・人件費算定

労働力人口~多様な人材の活用と労働力需要の抑制がカギ~

 現在、日本の人口は減少傾向にあり、同時に労働力も伸び止まりを見せています。今回は労働力人口の推移や、年齢別や性別といった属性ごとの就業者数について解説します。  労働力人口の過去の推移をみると、1990年代半ばまでは増加傾向にあり、1990年以降は伸び止まり、そして若干の減少傾向にありました。2010年代半ばからは僅かながら減少に歯止めがかかっています。女性や高齢者の活用により労働力の内訳を変えることにより、大幅な減少は免れている状況ですが、いずれは減少傾向に転じるでしょう。 図表1:労働力人口(単位:万人) 出典: 総務省統計局 「労働力調査」注)労働力人口の1952年以前は14歳以上人口のうちの該当する者 労働力人口とは、満15歳以上のうち、労働する意思と能力を持った人口を指す。具体的には、実際に働いている人のほか、労働の意思や能力があるものの失業中の人が含まれており、満15歳以上であっても専業の学生や主婦は除かれている。  そこで、年代別の就業者数と就業者に占める60歳以上人口の割合を見てみると、就業者全体の数は1995年をピークに減少傾向にあるものの、60歳以上の就業者は増加しています。60歳以上の就業者は1980年時点で約540万人でしたが、2015年には約1270万人と2.3倍の伸びを見せています。就業者全体に占める割合においても、1980年ごろまでは9%前後で推移していたものの、2015年時点では21.5%とやはり大きく増加しています。  今後は、少子高齢化により59歳以下の労働力の確保がますます難しくなるため、労働力を充足すべく定年延長や定年再雇用はますます進み、60歳以上の就業者は増加するでしょう。 図表2:年齢別就業者数・60歳以上割合 出典: 総務省「国勢調査」  続いて、男女別の就業者数と就業者に占める女性の割合を見てみます。男性の就業者数は、労働力人口・就業者数全体の推移と同様に伸び止まり、1995年以降は減少傾向にあります。  一方、女性の就業者数は1995年から近年に至るまで2600万人弱の水準でほぼ横ばいに推移しており、労働者に占める女性労働者の割合は増加傾向にあります。労働力人口の減少に伴っていずれは女性就業者数も伸び止まりを見せると思われますが、当面は女性労働者の割合が増え、労働市場全体や各企業内の労働力構成が大きく変わっていくでしょう。 図表3:男女別就業者数・女性割合 出典: 総務省「国勢調査」    女性・高齢者の他に外国人労働者の活用も年々進んでおり、2008年の48万人から2020年の172万人へと約3.5倍に増えています  少子高齢化により日本全体の人口が減少する中、今後も労働力人口が大きく増加することは考えづらい状況です。国内労働力の減少や構成の変化を受けて企業内のポートフォリオも大きく変化をしていくことでしょう。例えば1980年以前は外国人や高齢者の労働者は割合的にはほとんどおらず、女性も1/3程度でしたが、近い将来、男女が5:5の割合となり、外国人労働者が労働者全体の10%を超え、高齢者の割合も現在と比べて非常に高くなるでしょう。  今後に目を向けると、労働力の需給のコントロールが重要性を増します。前述の通り労働力は減少傾向になるので、女性や高齢者・外国人の活用によってダイバーシティを促進し供給量を増やすことが必要です。そして、ITやロボティクスなどの先端技術の活用や生産性向上施策によって、そもそもの労働力需要を抑えることも重要となります。  迫りくる労働力人口の不足を前に、各企業は女性・高齢者、外国人を戦力化しやすい労働環境の整備と、従業員の生産性向上施策、そして先端技術の活用による労働力需要の抑制を両立しなければなりません。