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若手・中堅層人員比率<br />~次世代を担う人材不足の傾向と対策~ | 人事アナリシスレポート®

若手・中堅層人員比率~次世代を担う人材不足の傾向と対策~

少子高齢化という社会背景のもと、自社の将来を担う若手・中堅層の厚みに悩みを持つ企業が増えています。年齢構成における多様性は、人材の「量」の観点だけでなく、同質化を排する「質」の観点からも、企業基盤や競争優位性の強化に繋がる要素として捉えられることがあります。 図表1は、各産業の常用労働者数における「40歳未満比率」を折れ線グラフで示しています。これにより、若手・中堅層の比率の大小を見ることができます。全産業の40歳未満比率の平均は37.3%ですが、業種別に比率の傾向は異なります。 (図1:40歳未満比率‐常用労働者) 出典:厚生労働省「雇用動向調査 上半期結果表 2023年1~6月期」をもとに作成 注1)40歳未満比率=39歳までの常用労働者÷総常用労働者数×100 として算出 注2)常用労働者数: 雇用期間を定めず雇用されている労働者をいう。日雇労働者や季節労働者など雇用期間に定めのある労働者のほか、雇用期間に定めがあって契約期間を更新している労働者は除く。 注3)業種は抜粋 図表2は、40歳未満比率に加えて「欠員率」を軸に置き、4象限に分けて業種をプロットしています。欠員率とは、常用労働者に対する未充足求人の割合です。つまり、各業界の人手不足感を割合で示したものと言えます。欠員率の数値が高いほど人手不足感が強いことを示します。各象限による傾向ともに必要な施策を解説します。 (図2:40歳未満比率×欠員率) 出典:厚生労働省「雇用動向調査 上半期結果表 2023年1~6月期」、「労働経済動向調査 令和5年11月調査」をもとに作成 注1)欠員率=未充足求人数÷常用労働者数×100 注2)業種は抜粋 第1象限について 代表的な業種として「宿泊業・飲食サービス業」と「生活関連サービス業・娯楽業」があげられます。40歳未満比率が高いものの人手不足感は大きいのが特徴です。人の出入りが激しく、常時採用活動を行っている企業が多いことが窺えます。離職率の低下を図る施策に加えて、外国人や中高年の活用なども必要となります。 第2象限について 代表的な業種として「運輸業・郵便業」と「建設業」「医療・福祉」があげられます。若手・中堅層が少なく、かつ、全体的な人手不足にも悩まされている業界です。2024年問題に直面している産業が集まっています。欠員率にフォーカスすると、運輸業・郵便業と建設業との間には大きな違いがあり、人手不足感は運輸業・郵便業の方がより深刻です。生産性を高めるためにDXを推進する人材の獲得や育成、それに伴う人員の新陳代謝が求められます。 第3象限について 代表的な業種として「卸売業・小売業」と「製造業」があげられます。若手・中堅層の比率が低い業界が集まっていますが、人手不足感が比較的少ないのが特徴です。従業員規模が大きく、年齢構成の歪さに多くの企業が問題を抱えています。シニア層の活用が事業運営の継続可否に直結するため、定年延長を含めて適正な役割付与と処遇による高齢者の戦力化が必須です。 第4象限について 代表的な業種として「情報通信業」や「金融業・保険業」があげられます。若手・中堅層の比率が高く、かつ、人手不足感も比較的少ない分類です。現時点では最もバランスが良いと言えますが、今後も継続的に年齢構成を維持していくための取組みが必要です。人材獲得競争が活発な業界ですが、常に処遇の適正化を図る必要があるとともに、従業員のモチベーションを上げる施策も求められます。 今後しばらくはどの業界においても、従業員の平均年齢が上がっていく傾向が続きます。各社におかれては、「若手・中堅層」と呼ばれる年齢層が「50歳未満」となる未来を想定しておく必要があります。想定される未来からバックキャストで現在どういった施策が必要であるか考えてみることも、今後の事業展開において意味のある検討となるでしょう。 以上

人的資本ROIと労働生産性の関係性<br />~人数から投資効率を考察する~ | 人事アナリシスレポート®

人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~

前回は、ISO30414から、人的資本ROIをテーマに、データの見方・業界水準・考察の仕方について概要を紹介しました。 人的資本の開示に注目が集まっていますが、数字を単に列挙すれば良いというものではありません。データをそろえると共に、他のメトリックのデータとの関係性や、他社比較・同業他社比較・自社過去の経年比較をするなど、多面的に考察し、人的資本の価値の増強に向けた施策展開をすることが重要です。今回は、人的資本ROIと労働生産性の関係性について考察します。 人的資本ROIは、ISO30414のうち、生産性領域のメトリックの1つです。人的資本ROIの計算式 「{収益-(コスト-人件費)}÷人件費-1」 のうち、人件費に関する部分は、因数分解すると人件費=人数×単価です。 今回は、人数に着目して考察を進める例として、労働生産性を使います。労働生産性は、付加価値÷従業員数で算出することができ、従業員1人あたりいくらの付加価値を稼ぐことができたかを示します。一定の付加価値を少ない人数で創出することができれば労働生産性が高く、同じ付加価値を稼ぐのに多くの人数を要すれば労働生産性が低いと言えます。 図1のように横軸に人的資本ROIを、縦軸に労働生産性を設定し、それぞれの業界水準を交点としてみましょう。ここでは、サンプルとして、経産省の2022年度の製造業の統計値を利用し、人的資本ROIが42.1%、労働生産性が12.0万円/人を1つのターゲットとし、(x,y)=(42.1,12.0)を境に4象限を設定します。 ターゲットとする値を中心に据えたとき、自社が第1象限~第4象限のいずれの象限にプロットされるか確認すると、課題や施策が見えてきます。 (図1:人的資本ROI×労働生産性)   出典:経済産業省企業活動基本調査 統計表一覧-速報(概況) 2023年企業活動基本調査速報ー2022年度実績ー を参照し、筆者が人的資本ROI・労働生産性を計算・図表作成 人的資本ROI={ 売上高 - {(売上原価、販売費および一般管理費) - (給与 + 福利厚生)}} ÷ (給与 + 福利厚生)} - 1 労働生産性=付加価値額(※)÷従業員数 第1象限は、最も望ましい象限です。人的資本ROI・労働生産性が共に外部水準より高いので、人件費の投資効率が良く、少ない人数で高い付加価値を創出できていることを意味します。 第2象限は、労働生産性は高いので付加価値に対する人数は理想的ですが、人件費の投資効率については改善の余地があります。 第3象限は、人的資本ROIも労働生産性も共に外部より低いので、改善の余地が大きいと言えます。創出する付加価値に対して人数が余剰しているうえ、収益につながらない人件費投資が多いため、人件費の掛け方や収益に対する人数構造のあり方を抜本的に見直す必要がありそうです。 第4象限は、人的資本ROIは外部より高いので、人件費を投資すれば一定のリターンはある状態ですが、1人あたり付加価値が低いので、より効率的な配置・業務遂行を実現すれば、同じ人数でもより高額な収益を上げられるはずです。 併せて、単年度の数字だけなく、経年で自社過去比較をし、人件費の投資効率と人数の使い方の変化や傾向を見ることで、施策の方向性が合っているか確かめることもできます。図2では、参考までに製造業の統計値を4期分プロットしてみました。人的資本ROIの水準を上げながら、労働生産性も同時に上げていますから、直近4期の間、人数を膨張させることなく高収益を上げ、人件費への投資効率を上げてきていること、一過性の特需ではなく少なくとも数年は継続していることが分かります。 (図2:人的資本ROI×労働生産性 製造業2019-2022)   出典:経済産業省企業活動基本調査 統計表一覧(2019~2022年)を基に筆者計算 まずは、図1・図2のようなマトリクスを参考に、ぜひ自社過去比較をしてみてください。必ずしも直近の統計値でなくとも、好業績時の自社過去水準や、競合他社水準など、自社がターゲットとする目標値等があれば、それと比較をすることも有効です。そうすることで自ずと今後目指すべき目指す姿についての議論が浮上するでしょう。 今回は、労働生産性の指標を例に挙げてデータの活用方法について考察をしましたが、その他にも、労働分配率や年収水準・教育研修費等、様々な人事領域関連指標を軸に分析をすることができますから、継続的に紹介します。 以上

賞与配分前営業利益に占める賞与の割合は20%~40%  <br /> ~社員の成果に報いる賞与制度~ | 人事アナリシスレポート®

賞与配分前営業利益に占める賞与の割合は20%~40% ~社員の成果に報いる賞与制度~

 今回は会社利益と賞与の関係について解説します。  賞与は、月例給与の後払いや生活給といった生計費調整機能と、会社業績や個人の成果に応じて分配する業績連動機能の2つの機能を持ちます。会社業績に応じて賞与額を決定する仕組みにすることで、経営状況に応じた柔軟な支給額調整や、社員の売上意識を高めることが期待できます。  では、会社の利益に対して、どれくらいを賞与として還元すべきなのでしょうか。  社員の成果が表れる利益指標として、本業で得られた利益である営業利益が適しているでしょう。営業利益そのままでは既に賞与額が引かれた金額であるため、営業利益に賞与額を足し戻した『賞与配分前営業利益』と『賞与原資』の関係性を見ていきます。  図表1は資本金規模別の過去10年間の賞与支給額、一人当たり賞与配分前営業利益、賞与配分前営業利益に占める賞与原資の割合(以下、賞与原資率)を示しています。企業規模が大きいほど一人当たり賞与配分前営業利益が高く、一人当たりの平均賞与支給額も高いです。一方で賞与原資率は10億円以上規模で23%、1千万円未満規模で42%と、資本金規模が大きいほど低く、利益に対する賞与の負担が軽いと言えます。 <図表1> 資本金規模別、一人当たり賞与原資額、一人当たり賞与配分前営業利益および 賞与配分前営業利益に占める賞与原資の割合の過去10年間の平均 出典:財務省「法人企業統計調査」 注1) 全産業(除く金融保険業) 注2)営業利益が赤字の期を除く 注3)賞与原資=役員賞与+従業員賞与 注4)賞与配分前営業利益=営業利益+賞与原資  次に、毎年の利益の増減に応じてどの程度賞与額を連動させているのかについても見ていきます。  図表2は資本金規模別の2013年~2022年(2020年、2021年を除く8年間)の、賞与配分前営業利益と賞与原資のデータをプロットしたときの回帰曲線の傾きを示しています。平たく言うと、賞与配分前営業利益が1円増えたときに賞与原資がいくら増えているかを表しています。例えば全規模の傾きは約0.2ですが、これは賞与配分前営業利益が100万円増えたとき、賞与原資が約20万円増えることを示しています。  規模別で見ると5千万円~1億円規模を頂点とした正規分布のようなグラフになっています。小規模の会社では利益の増減に合わせて賞与を大きく変えることが難しく、規模が拡大するほど利益を社員に還元する余地が増えてくるため、中規模までは規模拡大に伴って傾きの値が大きくなっていると考えられます。  それでは大規模な会社は社員に還元していないかというと、決してそうではないでしょう。図表1で示したとおり、生産性が高まり、賞与原資率が下がることで、賞与の増減の影響が薄まっていくものと考えられます。 <図表2> 資本金規模別、2013年~2022年(2020年、2021年を除く)の 賞与配分前営業利益と賞与原資の回帰曲線の傾き 出典:財務省「法人企業統計調査」 注1)賞与支給前営業利益をx軸、賞与原資をy軸にプロットしたときの回帰曲線の傾き 注2)全産業(除く金融保険業)  社員一人一人の頑張りによって得られた利益を賞与として還元することでモチベーションが高まり、更なる貢献が期待できます。目標を超えたときにどれくらい賞与が増えるか、方針を示すことで売上意識はより高まるでしょう。  業界や各社の特性が異なるため、一概に『賞与配分前営業利益に占める賞与原資の割合』や『利益に応じた賞与原資の連動性』が高ければ良いわけではありません。極端な例ですが、利益がまだ出ていないベンチャー企業ではある程度安定的に賞与を支給することがモチベーションに繋がります。安定的な職務遂行が求められる業種も同様です。まずは世間一般の水準を理解し、自社の成長の立ち位置を把握することが重要です。その上で自社の賞与に対するポリシーを持ち、施策を検討すべきでしょう。 以上

労働力の量と質の推移 <br />~人口減少時代に向けて~ | 人事アナリシスレポート®

労働力の量と質の推移 ~人口減少時代に向けて~

 内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の総人口は今後減少し、65歳以上の人口割合が今後更に増えるという推計が算出されています。少子高齢化が進むにつれて生じる労働人口の減少により、日本経済が停滞してゆくことが危惧されています。日本経済が持続的に成長するためには、労働力をいかに維持するかが社会的な課題となっています。  こうした背景の中、労働力として注目されている一つが、65歳以上の人材の労働力確保です。2021年4月の改正高年齢者雇用安定法においても、70歳までの就業確保が企業の努力義務となっています。実際、図表1にもあるように、高齢者の就業率は年々上昇しています。65歳以上の高齢者の就業率は2015年から年々上がっており、直近の労働人口全体も緩やかに増えています。このように、労働力の"量"は高齢者の就業率増加もあり、短期的には維持できていることが見受けられます。 <図表1> 労働人口と65~69歳の就業率の推移 出所: 総務省(2023)「労働力調査(基本集計) 2023年(令和5年)1月分結果 20~69歳の人口、就業者数、就業率」をもとに作成  労働力の"質”の推移を確認するため、業界別の労働生産性 (労働者1人あたりが生み出す付加価値額)の推移と平均従業員数の推移を比較しながら解説します。  飲食サービス業(図表2-1)では、労働生産性は常に減少傾向にあり、従業員数も2019年以降は落ちている傾向があります。昨今、大手飲食チェーン店を中心に注文や配膳等業務の機械化が進んでいますが、一人当たりの付加価値=”質”の面では効果が表れていません(付加価値には人件費が含まれるため)。今後機械化がさらに進み、人員数が安定・最適化されたときに高い付加価値を生み出すことができているのかが重要になってきます。 <図表2-1> 労働生産性×従業員数の推移_飲食サービス業 出所:財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  情報通信業(図表2-2)では、2016-2017年にかけて従業員数が減った一方で労働生産性が上がっており、2017-2018年では従業員数が増える一方で労働生産性が下がっており、それぞれが逆行した動きをしています。新規就労者が多く、業界内での転職等による人の動きが活発な情報通信業では、仮に即戦力採用の中途社員だとしても、付加価値への貢献=”質”といった意味では、業務習熟するために必要な経験を得ることに時間がかかりやすい、もしくは時間がかかってしまっている可能性があります。 <図表2-2> 労働生産性×従業員数の推移_情報通信業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  医療福祉業(図表2-3)では、2018年度に従業員数が減少しましたが2020年以降は上昇傾向にあります。一方、労働生産性も2019年以降で安定的に上昇傾向にあります。高度な知識や資格の基盤が前提にある医療福祉業界では、即戦力として労働生産性=”質”に寄与しやすい業種といえます。 <図表2-3>労働生産性×従業員数の推移_医療福祉業 出所: 財務省(2021)「法人企業統計調査」をもとに作成  定年延長・再雇用の活用によって短期的には労働力の”量”の維持が期待できますが、将来的に総人口が減少する日本では少ない人数でいかに労働力を維持していくかが課題となります。そのため、労働力の“質”にも目を向け、労働人口が将来的に減ったとしても安定的な労働生産性が確保されるサービス形態への変換が求められるのではないでしょうか。限りある労働資源をいかに有効活用していき、労働生産性を高めていくかの議論が各企業内でより活発化していく必要があります。自社の生産性をより高めるための阻害要因を各社で見つめ直し、DX推進やリスキリング、イノベーション推進等によって業務効率化とその価値向上に務めることが重要となります。 以上

賃金生産性<br />~人的資本の投資価値を把握する有効な指標~ | 人事アナリシスレポート®

賃金生産性~人的資本の投資価値を把握する有効な指標~

 企業は従業員に対して労働の対価として賃金を支払い、経営者は支払った賃金に対する有効性を評価しています。今回取り扱う賃金生産性とは、人件費がどのくらい付加価値創出につながっているかを評価する生産性指標です。  図1は全産業(金融、保険をのぞく)の賃金生産性と従業員の平均賃金の10年間の推移です。賃金生産性は、2020年のコロナウイルス蔓延にともない経済が停滞した影響などから、大きく低減した時期はありますが、増加傾向にあります。また平均賃金をみてみると、増加傾向にはありますが、賃金生産性ほどの増加ではありません。経営側からすると賃金生産性は上昇基調にあり、賃金の有効性が高められていますが、従業員側からすると賃金水準はそれほどあがらず、得られた成果の還元が十分になされていない状況にあることがわかります。 図1 生産性と平均賃金の10年間の推移 出典:財務省「法人企業統計調査」全業種(金融保険除く)よりデータを加工 注1)賃金生産性=付加価値÷人件費 注2)2011年を100とした場合の10年間の推移  各業種別にみると、傾向や課題に違いが認められます。図2は宿泊業の10年間の推移です。宿泊業は非正規社員の比率が高い業種ですが、インバウンドなどにより発展が期待されている業種です。人手不足もあり、外国人労働者の活用や、人が担う業務を機械に置き換えるなど、さまざまな取り組みをし、事業運営を行っている点が特徴です。 賃金生産性は、上昇傾向にありましたが、2019年以降は2011年の水準を割り込んでいます。これはコロナウイルス蔓延の影響を強く受けたためです。一方で平均賃金は2018年以降ようやく2011年当初の水準を上回りましたが、その後やや低下、横ばいとなっています。インバウンドによる需要が回復しているなかで、今後の賃金生産性と賃金の回復が期待されています。 図表2:宿泊業の賃金生産性、平均賃金 出典:財務省「法人企業統計調査」宿泊業よりデータを加工  図3は医療福祉業の10年間の推移です。高齢化などを背景に市場のニーズは拡大しており、人手不足を補うべく人材の獲得を目指し、積極的に平均賃金を増加させているのがわかります。一方で、賃金生産性が賃金水準と比較すると、その増加率は低くなっており、まだ投資に対するリターンが十分に得られていないかもしれません。人命にかかわる業種であり、効率よりも品質が絶対的に優先されることなどから、人材のパフォーマンスを高めていくことについては時間がかかるなど、生産性を高めることが非常に難しい業界と思われます。従業員の平均賃金は上昇傾向にあり、従業員にとっては望ましい傾向になってはいるものの、付加価値をさらに増やしていくことが重要な課題といえます。 図表3:医療福祉業の賃金生産性と平均賃金 出典:財務省「法人企業統計調査」医療福祉業よりデータを加工  今後、企業として対応すべきことは、業種によって異なる賃金生産性の傾向を把握し、自社との比較を行うことで、自社の課題をまず認識する必要があります。賃金生産性を、将来の利益を生み出すための人的資本の投資価値を把握する有効な指標として中長期的に管理することが重要です。賃金生産性の改善には人材への教育や、業務をより効率的に推進できるように労働装備率を高め、それにより、付加価値をしっかり高めていくことです。従業員にとって賃金は、働くうえで欠かせない衛生要因です。サービスを提供し、また生産している従業員の満足度を下げないように、収益をしっかり賃金に還元し、賃金水準を継続的に高めることが重要です。生産性を高める施策を講じ、創出した付加価値を従業員に還元し、そしてさらなる投資につなげていく、この好循環をもたらすことが理想です。 以上

第一次産業労働力の特徴<br />~危機的状況に打開策はあるか~ | 人事アナリシスレポート®

第一次産業労働力の特徴~危機的状況に打開策はあるか~

 戦後経済の成長は産業構造の変化に伴いながら進展し、第一次産業から第二次産業、第三次産業へとシフトしていきましたが、それは就業者構成にも影響を及ぼしました。  戦後まもなくは第一次産業の就業者数が最も多く、高度経済成長を通じて、第一次産業はその割合を大きく低下させ、1960年を過ぎたころから第二次産業、第三次産業が逆転しています。1954年(昭和29年)に「神武景気」と呼ばれた好景気を皮切りに、日本の戦後高度経済成長が始まり、「岩戸景気」、池田内閣による「国民所得倍増計画」、1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博と、日本の経済成長は目覚ましく、特に第二次産業の重化学工業による生産性の向上によりGDP世界第二位にまでなったという時代です。  その後、第二次産業の就業者数は低下していきますが、第三次産業の就業者数は伸び続けています。  農林水産業中心の構造から、製造業の拡大、そしてサービス業の拡大へと繋がり、産業構造の変化に応じて就業者構造が変化していったのです。   図表1:産業別就業者数推移 出典:総務省「労働力調査」  第一次産業の現状を見ると、就業者は非常に高齢であるということがわかります。  60歳以上の割合は農業、林業においては64%、漁業においては47%です。次世代の担い手が減る中で、今後、高齢の農業者、漁業者のリタイアが増加することが見込まれ、日本の第一次産業は非常に深刻な状況にあると言えます。  日本の食料自給率は過去最低レベルとなっており、輸入に頼らざるを得ない状況では今後の気候変動や食料危機、円安の影響などによって輸入ができなくなる食料がでてくる可能性もあります。  就業者を増やす努力と、企業が第一次産業に参入するなど多方面からの対策が必要であると言われています。   図表2:第一次産業年齢別就業者数 出典: 令和2年国勢調査 就業状態等基本集計  この10年の農業経営体数の推移を見ると、個人経営体は、平成22年を100とすると令和2年には63まで減少し、農家の減少が進行していることがわかります。これは、就業者の高齢化と、後継者がいない問題が直結した結果です。しかし、法人経営体を見ると、平成22年を100とすると、令和2年は136と増加しており、企業の農業への参入が増えています。平成21年の農地法改正に伴い、企業が参入しやすくなったことで、農地法改正後のリース方式での参入が5倍にまでなりました。個人経営体の減少が止められない中で、企業の参入に大きな期待が寄せられています。   図表3:農業経営体数推移 出典: 2020農林業センサス 「推移」は平成22年を100としたときの指数  就業者の高齢化、そして後継者もいない中で、日本の第一次産業は危機的状況にあります。産業を守っていくには企業の参入が不可欠なのではないでしょうか。第一次産業を救う社会貢献活動の意味でも、既存企業が参入し、組織的に取組みをしていくことで、産業を守りに行くことが必要であると考えます。そして近年はAI、ICT、ロボット、ドローンといった最先端技術の活用も不可欠とされています。技術を持った企業が参入し、人手の不足解消、生産性向上のために研究が進んでいますが、さらなる推進が期待されます。  社会全体がこの危機を認識して産業を守っていかなければならないという改革が必要と言えます。 以上  

ICTによる生産性向上<br />~ICT投資の推移と効果~ | 人事アナリシスレポート®

ICTによる生産性向上~ICT投資の推移と効果~

 近年、新しい経済・社会の仕組み、更には新しい生き方、働き方が現れており、それは情報通信技術(ICT)の力無くしては実現しえないものです。情報通信機器を揃え、ソフトウエアを導入したとして、実際の効果どうなのでしょうか。  日本のICTに対する投資の推移を見ると、2007年を100とした指数で見ると、2020年は115となり、投資額わずかな上昇です。コロナウィルスの影響から新たな働き方に対応するための方法としてICT投資が必要に迫られたことや、今後のDX推進に向けた投資も必要なことから投資額は伸びていくのではないでしょうか。また、外的要因(経済危機や震災など)によって投資額が減少することもわかります。  弊社HRデータ解説の「DX人材戦略~IMD世界デジタル競争力ランキングから考える日本企業の課題~」において、日本は情報通信への投資は世界の中でもランキングが低く、働き方のニューノーマルに向けた企業によるテクノロジーの投資は課題と言えます。 (https://www.transtructure.com/hrdata/20220719/) (図表1:ICT投資の推移) 出典:総務省(2022)「令和3年度 ICTの経済分析に関する調査」  ※赤線は2007年の合計値を100としたときの指数    生産性向上を目的としたデジタル化の効果を国別にみると、「期待通り」とする回答が多いですが、日本においては「期待以上」という回答は極端に少なく、また「期待する効果を得られていない」という回答も約30%です。一方、米国では「期待以上」が非常に高く、ドイツ、中国では「期待通り」が日本と比較して多いことがわかります。この他国との比較において差が出る理由は「本来必要なものに対しての投資が少ない」「日本人のデジタルに対する期待値の高さ」かもしれませんし、「導入したシステムを使いこなすスキルや人材が不足している」「デジタルに対する理解が不足し組織内で推進しにくい」といった事情があるかもしれません。いずれにしても、期待した効果が得られないということは、さらにデジタル化を進めていこうとする風は吹きづらくなってしまうのではないでしょうか。 (図表2: 生産性向上を目的としたデジタル化の効果(国別)) 出典:総務省(2022)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」    ICT投資をしたとして、効果が得られなければ意味がありません。効果を得るためには、経営レベルでの投資の目的および目標や評価指標の明確化を行うこと、実際に使用する人々の理解と意識改革、システム活用による生産性向上のための現在の業務改革、といった一連の取り組みが必要なのではないでしょうか。 理解と意識改革の面ではITリテラシー向上が必要ということであれば、リカレント教育やリスキリングの機会も必要でしょう。また、業務改革については、慣例的業務の撤廃や導入するシステムに業務を合わせに行くぐらいの改革が必要かもしれません。  そして、ICTを活用した「新たな価値創造」が重要になります。そこにはIT人材やサービスの価値創造、変革を推進する人材の採用や既存社員からの配置、活用が必要になるでしょう。  働き方の変化やDXの推進に際して、企業は適切なICT投資への検討と実践に取り組まなくてはなりません。 以上

生産性を高める積極的な設備投資のすすめ<br />~労働装備率と労働生産性~ | 人事アナリシスレポート®

生産性を高める積極的な設備投資のすすめ~労働装備率と労働生産性~

 企業は機械や設備に投資をし、そしてその機械や設備をより有効に活用することで、付加価値を創出し、生産性の向上につなげています。企業の機械や装備がどの程度充実しているのかを示す指標として「労働装備率」があります。労働装備率とは、有形固定資産を労働力で除した指標になります。  日本は国際的には生産性が低く、また生産性を高めていくための投資がまだ不十分であると言われています。図1はその労働装備率と労働生産性、そして人員数の推移です。まず労働装備率は低下傾向にあり、2018年度にやや増加はしましたが、2014年度水準には至っておりません。企業の有形固定資産は増え続けていますが、それを上回る形で人員数が増え続けたことが要因です。一方で労働生産性は上昇トレンドではありましたが、直近は横ばいに推移しており、今後、適切な投資を行い、労働生産性を高めていくことが企業の課題となっております。 (図表1:全業種の労働装備率と労働生産性、人員数) 出典:財務省「法人企業統計調査」全業種(金融保険除く)よりデータを加工 注1)労働装備率=有形固定資産÷人員数 注2)労働生産性=付加価値÷人員数 注3)2014年度を起点とした各年度の3年間の移動平均値の推移、2012年は東日本大震災、2019年度以降はコロナウイルス蔓延における影響が大きく、数値として平時ととらえづらい時期として、除外    また各業種別にみると、傾向や課題に違いがみられます。機械や設備への投資をはかり、少ない人員数の中で、生産性を高めている業種があります。運輸業郵便業です。ドライバーの長時間労働など労務問題が多い業種ですが、大幅に人員数が減っていく一方で、労働装備率は全産業に比べ高い水準で推移し、労働生産性ともに上昇傾向にあります。 (図表2:運輸業郵便業の労働装備率と労働生産性、人員数) 出典:財務省「法人企業統計調査」運輸業郵便業よりデータを加工  そして労働装備率をより高めていったほうが望ましい業種として医療福祉業があります。高齢化などを背景に市場のニーズは拡大していることもあり、大幅に人員数が増加している一方で、労働装備率は低下しています。肝心の労働生産性も横ばいとなっております。 (図表3:医療福祉業の労働装備率と労働生産性、人員数) 出典:財務省「法人企業統計調査」医療福祉業よりデータを加工  業種によってその傾向をとらえることが前提にはなりますが、全般として今後企業として対応すべきことは以下2点となります。  1つ目は、減少傾向にある日本の労働力人口を補うためにも、ICT、DXといったテーマの下、積極的に設備投資をおこない、新たなビジネスモデルを創出し、不足している人材を補いつつ生産性を高めていくことが重要です。  そして2つ目は業務を高度化し、生産性向上につなげていくことです。投資した機械や設備を効果的に活用していくため、企業の業種、特性にあったテクニカルスキルを磨き、付加価値につなげていくことが重要になります。 企業としては、労働装備を充実させ、業務の効率化を進め、人員数を適正に維持しつつ、生産性を高めていくこと、そして収益をしっかり賃金に還元し、賃金水準を継続的に高めていくことを目指していく必要があります。 以上

労働分配率<br />~人への分配の好循環に向けて~ | 人事アナリシスレポート®

労働分配率~人への分配の好循環に向けて~

 『配当金100円以上を目標に、・・・・・積極的かつ安定的な株主還元を行っていきます。』というのは、IR関連の資料で見かけることがあります。しかし、『中期経営計画では、3年間平均の労働分配率は60%を基準とし、従業員の平均年収1,000万円を目指して、積極的かつ安定的な従業員還元を行っていきます。』 このような文章はあまり見かけません。 自社の人件費総額、人件費の分配方針(労働分配率)について、意識している企業は多くないのではないでしょうか。  近年、日本の労働分配率は緩やかに低下しています(図表1オレンジ線)。企業が事業活動を通じて新たに生み出した価値(付加価値)を、人件費として従業員に分配する割合が減少していることを意味します。一方、従業員1人当たりの人件費(図表1緑線)は横ばいです。  労働分配率は、経年で推移を把握し、内部環境や外部環境の変化に応じて見直すことが必要です。自社の利益分配の観点からは、労働生産性の推移が、社員の生活面での安定という観点からは、消費者物価指数の推移が代表的な参考指標となります。従業員1人が生み出す価値である労働生産性(図表1青線)は、やや上昇傾向にあり、2007年度を底として、消費者物価指数もほぼ同じような推移を描いています。   図表1   労働分配率、消費者物価指数と労働生産性、1人当たり人件費の推移 資料出所:財務省 法人企業統計調査時系列データ 全産業(金融業、保険業以外)、全規模より作成  また、適正な労働分配率水準は、同規模同業種の水準を参考にすることができます。図表2は、労働分配率と従業員1人あたり人件費の関係を図示しています。大型の設備や施設を要する装置産業や大企業では、「労働分配率が低く、人件費は高い」、労働力に頼る割合が高い労働集約産業や中小企業では、「労働分配率が高く、人件費は低い」傾向が分かります。前者は、会社と従業員にとってwin-winの状態です。会社および従業員は、新たに生み出す価値(付加価値)を高める努力をし、人件費上昇分以上に利益があがった結果として、労働分配率が下がります。こうなると、利益の余剰分を将来への投資、株主・社会・地域といったステークホルダーに還元していくことが可能になります。こうした分配の循環スパイラルを回していくことが、企業成長の目指す姿の一つです。   図表2 業種・資本金規模別労働分配率と1人当たり人件費 資料出所:財務省 法人企業統計調査時系列データ 全産業(金融業、保険業以外)、全規模より作成 創意工夫や新しいアイデアを生み出す「人」は、付加価値の源泉であり、人への分配を未来への投資として捉えることが、会社と従業員にとってwin-winの状態や分配の好循環につながっていくのではないでしょうか。自社が生み出す新たな価値について、株主配当、内部留保や設備投資に関する価値分配と同様、人に対する価値分配についても、自社で議論しておくことが重要です。 【用語解説】 ・付加価値=人件費(役員給与+役員賞与+従業員給与⁺従業員賞与⁺福利厚生費)+支払利息等⁺動産・不動産賃借料⁺租税公課⁺営業純益 ・労働分配率=人件費÷付加価値 ・従業員1人当たり給与=(従業員給与+従業員賞与+福利厚生費)÷従業員人員数 ・労働生産性=付加価値÷(役員人員数+従業員人員数) ・消費者物価指数 総合(All item) 年度平均  ※資料出所:総務省 以上  

最低賃金2,000円?!人件費を下げるのでなく付加価値の向上が迫られる時代へ | 人事アナリシスレポート®

最低賃金2,000円?!人件費を下げるのでなく付加価値の向上が迫られる時代へ

 毎年改正される最低賃金ですが、今年2022年は全国平均で時給961円(前年比31円)とすることが決定し、現在と同じ最低賃金の仕組みとなってから、過去最大の増加幅となりました。東京都の最低賃金は1,072円に引き上げられました。  この決定は、特に、人件費の単価が最低賃金水準のパート・アルバイトを数多く抱える企業に、大打撃となるはずです。また、改正のたびに、初任給水準だけを引き上げる改定を繰り返してきた企業からは、「賃金カーブの角度が寝てしまう」ことについての相談が多くなっており、年齢と共に徐々に賃金を上げていく「賃金カーブ」の処遇思想自体が、既に限界を迎えていることが分かります。  今回は、国内の最低賃金引き上げの推移の他、最低賃金や労働生産性の各国比較を参照し、今後のあるべき事業展開・人材活用方針、処遇制度方針について考えます。  2022年の最低賃金は、2021年と比較して3.3%の上昇率と、過去最大の増加幅です。この決定に際して、国際情勢の変化による物価上昇などが考慮されました。2002年の663円と比較すると20年間で約1.4倍に引き上げられており、かなり大きく引き上げられてきた印象を持たれるかもしれません。   図表1:最低賃金引き上げの推移 出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」  一方で、諸先進国の最低賃金と比較すると、日本の最低賃金水準はまだ十分に高いとは言えません。G7のうち、最低賃金の仕組みが存在しないイタリア、州により水準が異なるカナダを除く5か国の中で日本は最低水準です。為替レートにもよりますが、2022年10月21日時点の為替レートを用いて、ドル換算で比較をすると、日本の最新の最低賃金は、イギリス・フランスの60%程度の水準です。消費財の多くを輸入製品に頼る日常生活を考えると、日本で給与を得ながら輸入された商品を消費し続ける生活をするには、1,500円~2,000円ほどの時給単価が必要かもしれません。   図表2:最低賃金各国比較 出典:データブック国際労働比較2022|労働政策研究・研修機構(JILPT)P127 を基に筆者加工 注:USD換算においては2022/10/21の為替レートを使用  さらに、1人当たりがどれだけの付加価値を稼いでいるかを示す指標である労働生産性の各国比較を参照します。日本は、単価自体が低いにも拘わらず、労働生産性も低く、他国と比較して労働生産性の伸びも鈍化しています。   図表3:労働生産性各国比較 出典:OECD Database (https://stats.oecd.org/index.aspx?DataSetCode=PDB_LV#) 2022年2月現在  単価の低い労働者が、薄利な利益を稼いでいる事業の構造が示唆されます。メーカーを例に上げると、同じ分野のモノを作る企業であっても、日本企業では、原料を輸入し、部品を製造・輸出するケース多く、一方、労働生産性が高い欧州諸国の企業では、日本を含むアジア諸国から部品を輸入し、より上流の部品や完成品を製造・輸出する割合が多いです。原料を部品にするよりも、部品を完成品にする方が利益率が良く、付加価値額が高いため、多少人件費水準が高くとも、労働生産性を高く維持できます。すべての産業や企業で一概に同じ傾向にあるとは言えませんが、少子高齢化により日本国内の内需が伸びない状況下では、グローバルに需要を見出し、ビジネスプロセスの中で、より優位な立ち位置に立つだけの競争力が必要なことが分かります。  ビジネスモデルや商品・サービス、商流の変革無しに、人件費削減・抑制に依存した労働生産性の向上には限界があります。極端に言えば、「最低賃金上昇による人件費コスト上昇分をどこで帳尻合わせようか」という議論から永遠に抜け出すことが出来ません。  より利幅の高いビジネス領域にポジショニングをシフトし、付加価値額を向上するビジネスモデルの追求、人件費単価を上げても1人あたりが稼ぐ価値が上がるビジネスの構造・人材活用の仕組み作りが迫られます。 以上  

内部留保と賃金<br />~株価が上がっても賃金は上がらない~ | 人事アナリシスレポート®

内部留保と賃金~株価が上がっても賃金は上がらない~

 企業が生み出した当期純利益が内部留保である。またその当期純利益が利益剰余金として自己資本に計上される。利益剰余金は、設備投資やM&A(合併・買収)などに活用され、企業価値を高めていくことを目指す。図表1では2011年度を基準とした10年間の利益剰余金(緑色折線)は毎年増加を続けていることがわかる。直近の2021年度にはその額が516兆円にも及ぶ。   図表1:10年間の内部留保、株価、人件費、人件費単価の推移 " ※1)内部留保:財務省法人企業統計調査より金融・保険業を除いた他業種の利益剰余金(利益準備金、その他利益準備金の総和、期末数値)を算出 ※2)日経平均株価:年度末の終値を利用 ※3)TOPIX:年度末の終値を利用 ※4)人件費:財務省法人企業統計調査より金融・保険業を除いた他業種の従業員給与・賞与の総和を算出 ※5)人件費単価:財務省法人企業統計調査より金融・保険業を除いた他業種の従業員給与・賞与の総和を従業員人数をもって算出"  企業価値を図るひとつの指標に株価がある。会社の業績が客観的に評価され、証券取引所で行われる売買価格、時価である。日経平均株価の対象となる銘柄数は225銘柄だが、TOPIXは東証一部上場のほぼ全ての銘柄で4,000銘柄以上である。日経平均株価は「株価平均型」であるのに対し、TOPIXは「時価総額加重型」である。よって日経平均株価は株価が高い銘柄の影響を受けやすいのに対し、TOPIXは時価総額が高い銘柄の影響を受けやすい。企業が投資の結果、企業価値の向上、つまり株価も上昇していることが望ましい状態である。図1の2011年度から10年間の日経平均株価(図1水色折線)とTOPIX(図1青色折線)は、ともに大きく上昇を続けている。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災などにより経済は落ち込んだが、2012年より政策として実行されてきたアベノミクスの「民間投資を喚起する成長戦略」などといった時代背景があった。  このように企業の価値は株式市場で評価されてきた一方で、従業員の人件費(図1橙色折線)や人件費単価(図1赤色折線)は、ほぼ同水準で推移している。これは企業価値が高まり、内部留保が増えているにもかかわらず、従業員への還元が十分に行われていないということが如実に表れており、日本の重大で構造的な問題である。  この問題を解決していくために、今後人事として重要となる役割は、投資の効果的な実行を人事の側面で機能させていくことである。環境の変化が早く、グローバル化の推進など、難易度は高い課題を解決できる優秀な人材は取り合いとなっている。今後を見据えた事業領域に対してM&Aなど推進できる人材を獲得、確保していくことが欠かせない。また組織全体の生産性を高めていくために、テクノロジーの活用を前提とした設備投資も重要である。その投資を実現していくためにはDX人材などの育成、獲得も重要な役割である。  そしてこれだけ物価が上昇すると従業員の生活不安も更に高まる。内部留保を増やしているにも関わらず、従業員への還元ができていないことも踏まえると、企業は投資をしっかりと実行することに加え、2~3割平均賃金を引き上げ、優秀なグローバルな人材の獲得や従業員に対する生活不安を払拭させていくことが重要な役割になる。 以上  

望ましい労働時間・生産性に向けて<br />~長時間労働の抑制がなければ生き残れない時代へ~ | 人事アナリシスレポート®

望ましい労働時間・生産性に向けて~長時間労働の抑制がなければ生き残れない時代へ~

 日本のサラリーマンの労働時間は長い、と言われています。OECDが取り纏めているデータベースによると、労働者の1人当たりの年間平均労働時間は、2020年時点で、日本が1,621時間に対して、ドイツでは1,284時間、フランスでは、1,320時間です(※1)。ここで示す労働者にはパート・アルバイトなどの非正規雇用も含まれ、厳密な国際比較はできませんが、日本では非正規割合が他国よりも高いのにも関わらず、年間平均労働時間が長いことから、やはり日本のサラリーマンは長い時間働いている、という感覚の確認はできるでしょう。  残業時間削減に向けた取り組みとして、平成22年(2010年)には、月間60時間を超える法定外超過勤務時間に対して、割増率を1.25倍から1.50倍に引き上げる法改正がなされました。中小企業はこれまで13年間もの間、猶予されてきましたが、令和5年(2023年)4月から対象となります。労働法改正や、各企業の取り組みにより、労働時間は若干の減少をしているものの、正社員1人当たり、年間2時間程度の削減に留まっており、大幅な削減とはいいがたく、継続した取り組みが必要です(※2) 。  企業規模別の時間外労働(平均時間)をみると、いずれの規模においても、30時間未満、10~20時間未満の企業が過半数を占めることが分かります。一方、今回の規制に抵触する60時間以上の割合、ギリギリラインである50~60時間の割合は(図表1、濃い赤・赤)は、1,000名以上規模でも若干みられる他、100~299名未満規模において他の規模より多くなっています。 (図表1:平成28年9月時間外労働(平均時間)(規模別)) 出典:『労働統計要覧(D 労働時間)』厚生労働省 (mhlw.go.jp)  経団連の2020年労働時間等実態調査によれば、時間外労働時間は年々減少傾向にあります。2019年では、年間の時間外労働時間平均が360時間未満(月平均30時間未満)の企業が90%を超えています。ちなみに、製造業と非製造業を比較すると、非製造業の方が残業時間は長い傾向にあるが、非製造業でも84.2%の企業において、年間の時間外労働時間の平均は360時間未満です。 一方で、母集団に占める割合は低い(2019年時点では0.4%)ものの、年間の時間外労働時間平均が720時間以上(月平均60時間以上)の企業も存在し、これらのほぼ全ては中小企業です。2023年4月の法改正による、中小企業における60時間を超える残業代の割増率の猶予期間終了は、これらの企業の人件費単価に対してインパクトを与えます。 図表2:時間外労働時間(一般労働者) 出典: 一般社団法人 日本経済団体連合会『2020年労働時間等実態調査』  中小企業庁による、「長時間労働に繋がる商慣行に関するWEB調査」(平成30年)によると、長時間労働に繋がる主な商慣行上の理由は3つです。①納期のしわ寄せ(前工程の遅れが下請け企業のしわ寄せとなることによって生じる短納期)②受発注方法(川下の取引先に対し過度な要求をすることによって生じる多頻度配送、在庫負荷、即日納入など)③特定業界に依存することによる特定時期の過度な繁忙(売上が特定企業や官公庁に偏重することにより、年末年始などの一時期に業務や納期が集中すること)(※3)  こうした状況に置かれるのは、交渉力が弱い小規模企業である下請け企業が多いです。状況の是正のためには、適正な業務運用ができるだけの交渉力を持つことや、特定の企業・取引先に売上を依存しない取引先のポートフォリオ適正化が必要です。  また、ビジネスモデルの特性上、大きな繁閑の差が生じることが致し方ない場合、人事管理の観点では、現有人材の時間数を長くすること(残業)による業務処理ではなく、短期の有期雇用や人材派遣活用など、人員数・ポートフォリオのコントロールによる業務処理を検討し、現有人員の人件費単価ではなく、人員数による業績連動コントロールも必要です。  日本では、企業数が非常に多く、同業界内で大企業から中小企業へ商流が多重構造になっていることも、下流企業で業務量や納期に無理が生じる主要な要因です。生産性向上のため、統合やM&Aによる業界内の産業構造の見直しも必要でしょう。  生産性向上できない企業は、人件費単価増に苦しむこととなります。また、法整備により他の企業の労働環境が改善されることで、職場・労働環境の魅力の観点から、労働力の流出リスクもあり、改善は急務です。 以上 (※1) OECD Database http://stats.oecd.org/index.aspx?datasetcode=anhrs “Average annual hours actually worked per worker” 2021年11月現在 注:データは一国の時系列比較のために作成されており、データ源及び計算方法の違いから特定年の平均年間労働時間水準の各国間比較には適さない。フルタイム労働者、パートタイム労働者を含む。 (※2) 総労働時間の推移 https://https://www.transtructure.com/hrdata/20201201/ (※3) 中小企業庁『長時間労働に繋がる商慣行に関するWEB調査結果概要と今後の対応』 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/2019/190201jinzai01.pdf