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新卒初任給の動向<br />~令和5年    令和以降の増加率は平成の倍~ | 人事アナリシスレポート®

新卒初任給の動向~令和5年 令和以降の増加率は平成の倍~

 令和6年の技術者の大卒初任給の平均は約22.6万円であり、令和に入り増加傾向にあります。特にベースアップ・賃上げおよび人材不足の影響を受けて、ここ2~3年の増加は急激です。  ここ最近の初任給の増加傾向を把握するため、平成16年から平成30年の15年間と令和の6年間の初任給額の推移を見てみます。  図表1は、平成16年以降の技術者と事務員の初任給額の推移を示しています。  平成16年からの初任給額の推移を大卒の職種別で見ると、15年間で技術者は8,448円増加、事務員は10,824円増加しています。同じく大卒の職種別の令和以降の初任給額の推移は、技術者は19,752円増加、事務員は18,852円増加しており、平成15年間の増加を令和6年間で約2倍増加していることがわかります。このことから、令和以降の初任給が急激に増加していると言えます。特に技術者は令和以降の増加率が、平成と比べると約2.3倍(事務員は約1.7倍)に増加しており、より顕著な増加となっています。 [図表1]大卒初任給 技術者・事務員の推移(企業規模計) 出典: 人事院「職種別民間給与実態調査」(2004年~2024年)に基づき作成  図表2は、平成16年以降の技術者の初任給額の推移を企業規模別に示しています。  企業規模別に見ると、500人以上の企業が令和以降25,005円増加(平成と比べると増加率は約2.3倍)と、500人未満100人以上の企業の令和以降14,574円増加(平成と比べると約2.2倍)と差は拡大している傾向にあります。 [図表2]大卒初任給 技術者(企業規模別) 出典: 人事院「職種別民間給与実態調査」(2004年~2024年)に基づき作成 ※平成16年、平成17年の調査分類は500人未満の企業のみの為、当図表では100人以上500人未満として示している。  日本の労働市場では、人材不足が顕在化しており、特に技術者の獲得競争が激しさを増しています。その影響もあり、新卒の初任給が急激に上昇しています。これは企業が優秀な技術者を確保するために大きな努力をしていることを示しています。また、この努力の度合いも企業間や企業規模間で差が広がっていることを示しています。  政府が主導する賃上げ方針と人材不足の現状を考慮すると、初任給や賃金の上昇傾向は今後も続くと予想されます。ただし、これらのコストを商品やサービスの価格に転嫁できなければ、企業には大きな財務負担がのしかかることになります。  特に年功序列色が強い賃金制度では、新卒初任給の急上昇に伴い、賃金カーブ全体も急激に上げざるを得ません。その結果、社員全体の賃金が短期間で大幅に増加し、中長期に企業の人件費が増加します。  単に初任給や賃金を引き上げるだけでは、根本的な問題は解決しません。中長期的な人件費の管理を計画し、全体的な人事制度の見直しが必要です。社員一人ひとりが長期にわたって安心して活躍できる職場環境を提供することが、優秀な人材の獲得と定着に重要です。これにより、企業全体の成長と発展が期待できます。 以上  

企業規模別賞与月数比較<br />~令和5年 大企業約5カ月、中堅企業約4カ月、中小企業約3カ月~ | 人事アナリシスレポート®

企業規模別賞与月数比較~令和5年 大企業約5カ月、中堅企業約4カ月、中小企業約3カ月~

 採用時の要件として提示される「賞与月数」は、応募者にとって関心の高い情報となっています。今回は、この「賞与月数」に焦点を当ててご紹介します。  公的な統計データにおいて「賞与月数」がわかるダイレクトな情報はありませんが、賃金構造基本統計調査を基に、近似値を算出することが可能です。そのデータを解釈し、現状の「賞与月数」を見ていきます。 正確な情報を得るためには、賞与額とその算定基礎となる月収額が必要です。今回は、賞与の算定基礎に所定内給与額を使用しますが、多少の誤差が生じる点に留意してください。理由として、所定内給与額には、少額ながら賞与の算定基礎に含まれない属人的な手当が含まれているためです。  図1では、企業規模別に賞与額と所定内給与額を示し、賞与額が月収の何カ月分に相当するかを示しています。企業規模が大きくなるほど、所定内給与額水準、賞与額、賞与月数いずれも多く、大企業では4.3カ月、中堅企業では3.6カ月、中小企業では2.7カ月となっています。また、かっこ内に記載している数値は、所定内給与額に含まれる賞与の算定基礎に含まれないであろう属人的な手当を所定内給与額のうち1割と仮定し、その額を除いたうえで、再計算した賞与月数を示しています。この場合、大企業では約5カ月、中堅企業では約4カ月、中小企業では約3カ月となります。 【図1 企業規模別賞与額/所定内給与額/賞与月数】 「厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査(学歴計)」(2024年3月27日公開)に基づき作成 賞与月数=年間賞与その他特別給与額÷所定内賃金  図2は、企業規模別に年齢階層ごとの賞与月数を示しています。どの企業規模でも、年齢が上がるにつれて賞与月数は増加する傾向にあります。20~24歳は、入社直後で夏の賞与が満額支給されない場合が多く、賞与月数が低くなっています。25~29歳では、年功序列的な運用をしている企業が多く、賞与月数が抑えられていると考えられます。30歳以降は、年齢とともに等級や職位が上がり、組織への貢献度が増すことで、賞与月数も増加していきます。このように、実力主義による成果報酬の傾向は見られず、依然として年功序列が強く反映された推移が特徴的で、特に大企業のほうがその特徴が顕著にみられます。  一方、従業員数が100名未満の中小企業では、50歳を過ぎると賞与月数が減少に転じる傾向が見られます。従業員数100名を基準にすると、賞与月数の絶対値にも明らかな差があり、その推移の傾向にも違いが見られます。 【図2 企業規模別・年齢階層別賞与月数推移】 「厚生労働省 令和5年賃金構造基本統計調査(学歴計)」(2024年3月27日公開)に基づき作成 賞与月数=年間賞与その他特別給与額÷所定内賃金  人手不足が叫ばれる中で、優秀な人材の定着や獲得を考える際、賞与月数に限らず、報酬全体の魅力をどう高めていくかが重要です。また、業績との連動を考慮し、賞与など変動給の割合を高めることは、経営の安定性を高めるだけでなく、社員への還元を通じて企業の成長につなげる手段ともなります。業種によって水準や傾向に違いがあるため、外部水準を定期的に把握、ベンチマークに対して、利益配分や報酬設計の見直しに役立てることが有効となるでしょう。

5大業種別年収水準比較<br />~令和5年 月収は増加するも、賞与は減少する業種も~ | 人事アナリシスレポート®

5大業種別年収水準比較~令和5年 月収は増加するも、賞与は減少する業種も~

 魅力ある給与水準設定のため、同業他社はどのくらいの給料を払っているのか、あるいは直近で給与水準がどう動いているのか、常に注視すべきです。人事管理上非常に重要な論点です。1つの拠り所として、厚生労働省の賃金構造基本統計調査が活用できます。この統計からは、毎年地域別や業種別、職階別、年齢別など様々な角度から月収や賞与の支給実態を把握できます。今回は、令和5年度の調査結果から、業種による年収水準の違いや前年との比較について解説します。  賃金構造基本統計調査では、大分類で16業種、より詳細に業種を分けた中分類では91業種の賃金統計を見ることができます。今回は大分類のデータを使用し、従業員数が多い順に卸売小売業・製造業・医療福祉業・宿泊飲食業・建設業の5業種の年収水準と昨年度対比の動向を確認します。  賃金構造基本統計調査では、きまって支給する現金給与額と呼ばれる月例給与と年間賞与額が得られるため、きまって支給する現金給与額×12か月+年間賞与額により年収を算出できます。図表1は当該業種の令和5年度の年齢階層別年収を示しています。賃金構造基本統計調査では、さらに企業規模別や学歴別、職階別に詳細データを確認することができますが、情報量の都合上、企業規模計・学歴系、職階計のデータを用いています。  令和5年の年齢計平均年収は、卸売小売4,949千円、製造業5,135千円、医療福祉業 4,553千円、宿泊飲食サービス業3,752千円、建設業5,669千円です。建設業は年収水準が最も高く、宿泊飲食サービス業と比較すると200万円弱の乖離があります。これは、そもそもの年収水準の高さに加えて、建設業においては年齢による年収の伸び率が大きいこと、平均年齢が他業種より平均値で2~3歳高いことが影響しています。  年齢による年収の伸び率は、20代前半を基準とすると建設業194%、製造業185%、卸売小売業179%と伸びが大きい業種と、医療福祉業150%、宿泊飲食サービス業148%と伸び止まる業種に分かれます。いずれも若年層より中高年層の方が年収が高い年功序列の傾向はありますが、医療福祉業・宿泊飲食サービス業では40歳ごろに伸び止まっています。 【図表1:令和5年 業種別・年齢階層別 年収】   出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5年)に基づき作成  図表2では、月収・賞与の前年比較を見てみます。グラフは令和5年の令和4年からの増減を示しています。青色は増加、赤色は減少を表しています。いずれの業種も月収は増加しています。人手不足や働き方改革、最低賃金引上げなど外圧が掛かる状況で労働力確保のために賃上げをせざるを得ない状況であったと言えます。特に建設業では5%と大きな増加がみられます。  一方で賞与は、卸売小売業ではマイナス10.4%、医療福祉業でマイナス2.3%、宿泊飲食サービス業でマイナス1.7%と前年比較で減少しています。  【図表2:令和5年 業種別 月収・賞与 前年比較】 出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和5年)に基づき作成  外部水準を考慮し月収引き上げ策を講じても、なかなか賞与が上がらず年収の増加にはつながらない厳しい現状があります。目先のベア議論も重要ではありますが、持続可能な利益追求により、処遇改善と企業成長を両立することが重要です。 以上

建設業の人的資本ROI <br />~人手不足が変える大手・中堅のパワーバランス~ | 調査・診断

建設業の人的資本ROI ~人手不足が変える大手・中堅のパワーバランス~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は、直近5年分の建設業の人的資本ROIを資本金規模別に見ていきます。 図表1は、建設業の資本金規模規模別の2000年以降の人的資本ROIの推移です。まず、俯瞰で見ると、資本金規模や年度により大小がありますが、おおよそ4~6割のレンジで推移しています。一般的に建設業は比較的人件費率が低い業種であり、他業種と比べても一定のリターンが得られやすい構造ですが、超大手の情報通信業(2022年,135%)のような著しい伸びを実現できる構造では無さそうです。 また、資本金規模による比較の観点では、一部の業種では、規模の経済が働き、資本金規模が大きい程リターンが大きくなる傾向がありますが、建設業では水準に大きな差は見られません。むしろ、2021年以降、資本金規模10億円以上の大手企業の水準を、1~10億円規模の中堅企業の水準が上回っていることが分かります。 [図表1]建設業人的資本ROI推移(資本金規模別) 出典: 法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 建設業は、元請けである大手ゼネコンをトップに、多重構造からなる特有の業界構造を有します。従来は、上流企業は圧倒的な交渉力を有し、厳しい納期や条件で仕事を進めてきました。 現在も超大手は一定の交渉力を有しますが、2024年問題と称される働き方改革・労働条件改善の取り組みが進捗し、仕事を進めるために下請け企業が許容する条件を提示せざるを得ない状況になりつつあります。また、人手不足により下請け企業側が受注制限をせざるを得ない状況から、交渉の力関係が変化しつつあると言えます。こうした状況により、中堅規模の企業では健全な水準のリターンを得やすくなっていると言えます。逆をいえば、大手企業が下請け企業に厳しい条件を提示することで、これまで得られたリターンは失われていく傾向になるでしょう。 人口減少による国内市場縮小や、人手不足と深刻な高齢化、原材料高騰等、悩ましい問題を抱える業種ゆえに、今後、適切に人材へ投資をしながらリターンを得るため、構造を転換する契機でもります。業界全体の収益構造の抜本的な変革としては、M&Aによる過剰な多重構造の解消があげられます。また、個社の収益改善の観点では周辺業務のDX投資・DX人材開発による効率化や、新市場・新商流を生み出すイノベーション人材への投資等が考えられます。 以上 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは  人的資本ROIと労働生産性の関係性 人的資本ROI水準に影響する外的要因 小売業の人的資本ROI 情報通信業の人的資本ROI 宿泊業の人的資本ROI 物流業の人的資本ROI 製造業の人的資本ROI

製造業の人的資本ROI <br />~トップは11年間平均80%、広がる業種間の差~ | 調査・診断

製造業の人的資本ROI ~トップは11年間平均80%、広がる業種間の差~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は製造業に絞って人的資本投資利益率(ROI)の特徴を解説します。人的資本ROIは収益構造やビジネスモデルにより水準が大きく異なるため、一概にどの水準であれば良いとは言いきれませんが、外部水準と比較して自社がどの水準にあるかや、自社の指標の推移を確認しておくことには意味があるでしょう。 ここでは資本金1億円以上規模の製造業全体と製造業の内、食品製造業・化学工業・電気機械器具製造業・情報通信機械器具製造業・金属製品製造業について、過去11年分のデータを比較します。 図表1は人的資本ROIの推移を示しています。(凡例の括弧内は11年間の平均値) 2018年からの米中貿易摩擦や2020年の新型コロナウイルス流行、半導体不足、2022年からのロシアによるウクライナ侵攻によるサプライチェーンや物流ネットワークの混乱、等による製造業全体の利益減少の影響は見られるものの、図中の全業種で2013年と比べ2023年の人的資本ROIは上昇しています。 最もROIが高いのは化学工業(11年間の人的資本ROI平均80%)です。食品製造業(同43%)は製造業全体(同44%)と同水準、電気機械器具製造業(同34%)・情報通信機械器具製造業(同32%)・金属製品製造業(同28%)は製造業全体より低い水準です。 [図表1]資本金1億円以上規模の製造業および製造業に含まれる一部産業の人的資本ROI 出典:財務省「法人企業統計調査」を基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 人的資本ROIは人件費投資に対するリターンを示す指標ですが、社員一人当たりが生み出した付加価値の指標である労働生産性と一緒に分析することも有効です。図表2は労働生産性の推移です。 [図表2] 資本金1億円以上規模の製造業および製造業に含まれる一部産業の労働生産性 出典:財務省「法人企業統計調査」 ※ 労働生産性=付加価値額÷従業員数 5業種の人的資本ROIと労働生産性を製造業全体と比較すると以下の4パターンに分類できます。 化学工業(人的資本ROI:同等以上×労働生産性:同等以上) 製造業全体と比較して、人的資本ROIと労働生産性のどちらも高い水準であることから、人件費の投資効率が良く、少ない人数で高い付加価値を創出していると言えます。 電気機械器具製造業・情報通信機械器具製造業(人的資本ROI:低い×労働生産性:同等以上) 製造業全体と比較して、労働生産性は同等以上であることから少ない人数で付加価値を生み出していると言えるものの、人的資本ROIは低いことから人件費投資効率に改善の余地があると考えられます。 食料品製造業(人的資本ROI:同等以上×労働生産性:低い) 製造業全体と比較して、人的資本ROIは同水準であることから人件費投資に対する一定のリターンは得られているものの、労働生産性が低いことから人員が余剰していると言えます。 金属製品製造業(人的資本ROI:低い×労働生産性:低い) 製造業全体と比較して、人的資本ROIと労働生産性のどちらも低い水準であることから、人件費投資効率に課題があり、人員も余剰していると言えます。 今回は人的資本ROIと労働生産性を比較しましたが、他にも設備や人材への投資の指標として、労働装備率(社員一人当たりの有形固定資産)や無形資産ソフトウェア、研究開発費、一人当たり人件費を比較することも意味があるでしょう。自社の方針と関連する指標を定め、モニタリングしていくことが重要です。 以上 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは  人的資本ROIと労働生産性の関係性 人的資本ROI水準に影響する外的要因 小売業の人的資本ROI 情報通信業の人的資本ROI 宿泊業の人的資本ROI 物流業の人的資本ROI

物流業の人的資本ROI <br />~外部環境変化を受けやすい企業・受けにくい企業~ | 調査・診断

物流業の人的資本ROI ~外部環境変化を受けやすい企業・受けにくい企業~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 物流業は私達の日々の生活の基盤となる重要な産業の1つです。コロナ禍において人・モノの移動が制限されたことで、通販や宅配等のサービスがより普及し、より一層身近で重要性を感じる産業の1つになったのではないでしょうか。同業界は国際情勢や資源価格等の影響を大きく受ける業界であることに加え、直近では法改正に伴う人材不足が懸念される等の課題があり、物流の安定性を担保するには様々な施策が必要です。今回は物流業界の過去20年の人的資本ROIの推移を見ながら、今後採りうる施策について述べていきます。 図表1は、陸運業の資本金規模規模別の2002年以降の人的資本ROIの推移です。コロナ禍以前は資本金規模に関わらず緩やかな成長傾向にあり、資本金1億円以上10億円未満は6~35%、10億円以上は30~70%のレンジで推移していました。2019年から2020年にかけて、人やモノの移動が世界的に制限されたことにより、陸運業全体の人的資本ROIが低下しましたが、その後回復基調にあります。 [図表1]陸運業人的資本ROI推移(資本金規模別) 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 陸運業の大企業の特徴として大口顧客をメインで扱う点や人件費や設備費等の固定費が高い点が挙げられ、同業種の中小企業と比較して売上の減少が収益に大きな影響を与えます。コロナ禍においては外部環境の変化に敏感な企業が大きな打撃を受けたことにより、収益が一時的に大幅に低下したと考えられます。一方で中小企業は特定の市場や地域に特化していることが多く、顧客基盤が特定の業界に集中していないことで、大企業と比較すると外部環境の変化の影響を受けにくかったと思われます。 図表2は、水運業のものです。資本金規模によって大きく傾向が異なり、資本金1億円以上10億円未満の企業は40~95%、10億円以上は特に変動幅が大きく、-220~570%を推移しています。 [図表2] 水運業人的資本ROI推移(資本金規模別) 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 [図表3]原油価格とA重油価格の推移 出典:石油製品需給動態統計調査 石油統計 年報を基に筆者作成 水運業の大企業の人的資本ROIは、原油価格の値動き(図表3)に非常に類似しています。水運業の収益は原油やコンテナ運賃等のコストが外的要因により大きく変動することから、人的投資が必ずしも企業の収益に直結する訳ではありません。一方で、中小企業の場合は国内向けの輸送が中心である点や景気動向に関係なく需要のあるものを大量に輸送する点等から、景気動向やコロナ禍のような外的要因の影響を受けづらかったと考えられます。 陸運業・水運業問わず、物流業が安定的に成長していくためには、これまで言及してきたような景気動向や外的要因の影響を最小限に留められるよう、経営・事業の戦略の立案と推進を行える人材への投資が肝要です。顧客・販路の開拓や、エネルギー効率を意識した設備投資、デジタル化による省力化・効率化等、ビジネスを俯瞰的に見られる人材への投資がより一層求められるでしょう。 以上 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~  人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~ 人的資本ROI水準に影響する外的要因~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~ 小売業の人的資本ROI~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~ 情報通信業の人的資本ROI~人材不足が労働集約型ビジネスにもたらす影響~ 宿泊業の人的資本ROI~~苛烈化する競争で求められる次代の人材とは~

宿泊業の人的資本ROI <br />~苛烈化する競争で求められる次代の人材とは~ | 調査・診断

宿泊業の人的資本ROI ~苛烈化する競争で求められる次代の人材とは~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は、直近10年分の宿泊業の人的資本ROIを資本金規模別に見ていきます。コロナ終息後、日本人気の高まりや円安の影響で、再びインバウンド観光客は増加しています。銀座や富士山、京都など、日本各地で連日多くの観光客を見かけるようになりました。 一口に宿泊業といっても、宿泊に特化したホテルチェーンもあれば、レストランや結婚式場を併設したフルサービスホテル、温泉旅館など様々です。施設のグレードや業態も、かなり多様化しています。図表1は、宿泊業の業界マップです。同一規模の企業であっても、保有する施設や所在地、ターゲットによって、事業戦略がまったく異なります。 [図表1]宿泊業 業界マップ 関連書籍から筆者作成 図表2は、宿泊業の資本金規模別の2013年以降の人的資本ROIの推移です。 [図表2] 業種別人的資本ROI推移 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 資本金規模や年度により大小がありますが、俯瞰で見ると、コロナ禍の2019年まではおおよそ1~3割前後の水準で推移しています。一般的に宿泊業は人件費率が収益に対して高い業種なので、人的資本ROIは低水準であることがわかります。その後2020年のコロナウイルスの蔓延により、人の流れが止まり、宿泊業は深刻な影響を受けたため、人的資本ROIは大きく低下しました。 資本金規模による比較の観点では、2013年・2014年までは規模の経済が働き、資本金規模が大きい程リターンが大きくなる傾向がみられました。その後2016年・2017年においては、宿泊業(1億円未満)が宿泊業(1-10億円)を上回っています。コロナの影響を強く受けはじめた、2019年終盤から2022年には、規模が小さいほど人的資本ROIの減少幅は小さい傾向があります。 旅館・ホテルの市場規模は、2023年度4.9兆円であり、2024年度も過去最高を更新する可能性があります。宿泊業は成長産業の1つといえるでしょう。ただ、国内の一等立地には外資系ホテルの参入が進んでいます。これらのホテルグループは、高付加価値サービスで、インバウンド需要を取り込んでいくと思われます。 もともと日本の宿泊業は市場規模に対して施設数が多いため、競争が非常に激しい業界であり、今後ますます差別化が求められます。立地面やハード面において優位性に欠ける場合、例えば地方の中堅ビジネスホテルや老舗温泉旅館は、どのような戦略を立てるべきでしょうか。個社で戦うのではなく、施設所在地の地域全体の競争力を高められるよう、エリアのさまざまな事業者とバリューチェーン・機能を連携・統合し、顧客シェアを高めることが有効と考えます。そのためには、マーケティング戦略をたて、DMO(Destination Management Organization)や地域商社、OTA(Online Travel Agent)と連携・提携をとりつけることができるような人材を獲得する必要があるでしょう。 宿泊業においては、ホスピタリティ人材を重視した人事制度では、新たな事業を推進していく高度専門人材や経営人材を獲得し、活躍・定着を図ることは難しい可能性があります。持続的な成長のためには、事業戦略に応じた人材のポートフォリオを明確にする、戦略を実現するための組織文化を醸成するなど、さらなる人的投資とそのストーリーが求められるでしょう。 以上 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~  人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~ 人的資本ROI水準に影響する外的要因~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~ 小売業の人的資本ROI~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~ 情報通信業の人的資本ROI~人材不足が労働集約型ビジネスにもたらす影響~

情報通信業の人的資本ROI<br />~人材不足が労働集約型ビジネスにもたらす影響~ | 調査・診断

情報通信業の人的資本ROI~人材不足が労働集約型ビジネスにもたらす影響~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は、情報通信業の人的資本ROIを資本金規模別に見ていきます。情報通信業といってもその範囲は非常に広く、情報サービスから、携帯電話サービス、テレビ放送サービス、映画・動画サービス、ウェブ広告サービス、ネットワークセキュリティサービス、ECプラットフォームの運営サービスをする企業など、様々なレイヤーの企業がいます。各レイヤーの企業は互いに連携しつつも独自の技術領域・サービス領域で価値を提供しています。 図表1は、情報通信業における資本金規模1億円以上10億円未満の企業と、資本金規模10億円以上の企業の2018年以降の推移を示しています。 [図表1]情報通信業界人的資本ROI推移 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 2つの表を比較すると、資本金規模1億円以上10億円未満の企業は20~30%で推移し、資本金規模10億円以上の企業は120~130%で推移しています。つまり資本金規模が大きいほど、人件費の投資効率は良いと言えます。要因の一つとして、情報通信業を主業としている企業の72%を占める情報サービス業3,735社では、労働集約型産業の側面が強く、大手企業が受注して、一次請け、二次請けに仕事を卸していく多重構造が特徴としてあります。人手不足を解消するために、労働者派遣も活発な業界です。そのため、大手企業は投資活動(人材投資、システム投資)が盛んである一方、中小企業ほど売上原価のほとんどを人件費が占める労働集約型のビジネスモデルになっています。 情報通信業界を支える主要な労働者である IT人材は、2020年時点で約30万人が不足しており、2030年には最大79万人が不足する可能性があると言われています。労働者不足や AIなどの技術の急速な進化により、情報サービス業における労働集約型のビジネスは大きな転換点にあります。 特に、自社独自の付加価値でソリューションを提供する事業への転換など、事業ポートフォリオの見直しは喫緊の課題です。 例えば、レガシーシステムに精通し、最新技術のスキルを持ちつつモダナイゼーションを主導する事業、下流で得たデータを上流に還元する事業、労働集約型の業務を自動化するシステム開発事業など、様々な事業が考えられます。重要なのは、自社がどのように価値を生み出すかを定め、事業ポートフォリオの転換に向けた投資を行うことです。その中でも、人材への投資を行い、人材ポートフォリオを転換していくことは重要な課題です。 2020年に公表された「デジタル人材と従来型人材の比較調査」(図表2)によれば、先端IT人材(IoTおよびAIを活用したITサービス市場に従事する人材)と従来型IT人材(従来のITシステムの受託開発や保守・運用サービスに従事する人材)を比較すると、従来型IT人材は先端ITの業務に従事する機会がないことが明らかになっています。このこともあり、「先端ITを学んでもそのスキルを発揮する場がない」、「現在のスキルでしばらく活躍できる」といったスキルアップの課題が生じています。従来型IT人材のスキル転換には、企業が主導して先端ITスキルを活用する場を用意する必要があることが示されています。 [図表2] 先端IT従事者(500名) [図表3]先端IT非従事者(500名) 出典:IPA独立行政法人 情報処理推進機構「Reスキル・人材流動の実態調査及び促進策検討」(2020年) ※「<Q>あなたは、現在、以下のような分野の知識やスキルが求められる業務を担当していますか。」への回答状況(「今は担当していない」の回答項目は二つの項目を一つに筆者にて合算) 各企業は、将来の事業ビジョンに必要となるスキルセットを特定し、目標とする人材構成を策定した上で、採用、配置、育成、スキル転換などの人材ポートフォリオの転換施策を企業が主導して総合的に実施する必要があります。また、人材ポートフォリオの転換を成功させるには、IT人材の自社に対するエンゲージメントを高め、それを人材ポートフォリオ転換の推進力とすることが重要です。 「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~  人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~ 人的資本ROI水準に影響する外的要因~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~ 小売業の人的資本ROI~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~

小売業の人的資本ROI<br /> ~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~ | 調査・診断

小売業の人的資本ROI ~労働集約型ビジネスにおける人材投資のあり方~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。 今回は、直近5年分の小売業における人的資本ROIについて考察します。図表1に示すように、この業種には、百貨店、総合スーパーマーケット、コンビニエンスストア、家電量販店、ドラッグストア、ホームセンターが含まれ、さらに専門店や個人経営の商店、無店舗の小売事業(ECや通販など)も含まれます。 図表1:2023年 主要な業態から見る商業販売額 出典:経済産業省「2023年小売業販売を振り返る」(2024年)より引用 小売業は典型的な労働集約型の業種とされており、他業種と比較して人件費率が高い一方で、リターンは比較的低いという特徴があります。 図表2は、小売業の資本金規模別における2018年度以降の人的資本ROIの推移を示しています。データを見ると、資本金規模や年度によって、人的資本ROIが2~6割と大きく変動していることが分かります。特に、新型コロナウイルスの影響により2019年度以降、多くの企業で売上高が大きく変動し、それに伴う人員削減などもあり、数値が乱高下しています。また、資本金規模別の比較では、規模の経済が働き、資本金規模が大きいほどリターンも大きくなる傾向が見られます。 図表2:小売業 人的資本ROI推移(資本金規模別) 出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算 ※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1 人的資本ROIを向上させるには、売上高を増加させること、経費を削減すること、人件費を削減することが必要です。しかし、単純なコストカットは持続可能な成長に繋がりません。例えば、店舗型の小売企業では、物件費と人件費が大きなコスト要素です。利益を生まない店舗を閉鎖し、利益を出している店舗にリソースを集中する施策は一般的ですが、このような施策によって一時的に利益率や人的資本ROIを向上させることはできても、優秀な人材の流出や組織力の低下を招き、長期的な成長に悪影響を及ぼすリスクがあります。人的資本ROIを持続的に向上させるためには、人材への効果的な投資を行い、売上や利益の増加に繋げる視点が重要です。 小売業では、非正規労働者の比率が高く、最低賃金の引き上げが進む中で、人件費の増加が予測されます。従業員教育やキャリア採用による戦略的人材の育成・確保、シニア層の活躍推進など、従業員の能力を最大限に引き出し、付加価値を高めることがこれまで以上に重要となっています。一方で、人口減少による人手不足は深刻な課題であり、セルフレジや自動化を推進し、生産性を向上させることが急務です。また、現在、百貨店と家電量販店、コンビニエンスストアとドラッグストアなどにおいて、扱う商材の差異が小さくなりつつあります。小売業は規模の経済が働きやすい業種でもあるため、M&Aを活用して競争優位性を確保する方策も有効です。 個人消費が本格的に回復するフェーズに備え、人的資本ROIを今後も向上させ、経済の変動に対応できる柔軟な体制を築くことが求められます。人材への投資と並行して、DXの推進やM&Aといった重要な施策を実行できる人材の登用や育成がますます重要になるでしょう。  「人的資本ROI」が分かる!~「HRデータ解説」バックナンバー 人的資本ROIとは~人的資本経営の重要指標:人財への投資効率を知る~  人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~ 人的資本ROI水準に影響する外的要因~ITバブル崩壊・コロナからの回復の早い業種・遅い業種~  

従業員数と営業利益率<br />~人的資本の投資で営業利益率を高める~ | 人事アナリシスレポート®

従業員数と営業利益率~人的資本の投資で営業利益率を高める~

失われた30年と言われた日本経済も、17年ぶりの日銀の利上げや34年ぶりの日経平均最高値の更新、春闘の賃金引き上げ率が史上最高であること等から、回復の兆しが見えてきました。しかし、今後人口減少に伴い就業者数の減少も見込まれ、日本経済を持続的に成長させるための大きな課題となっております。 今回は企業が本業で稼いだ利益率を表す営業利益率の推移と平均従業員数の推移を比較しながら、今後の施策について解説します。日本経済を今後も持続的に成長させるためには成長も大切ですが、各業界がしっかりと収益性を高めていくことも重要です。今回は代表的な業界をピックアップし、その傾向を解説します。 1.運輸業・郵便業 運輸業・郵便業は、コロナ禍である2020年-2021年頃に一時的な営業利益率の大幅な減少が起こり業界全体で赤字となりました。物流の小口多頻度化※1が急速に進行している中での物流コスト増※2が原因であると考えられます。その後営業利益率は回復傾向にありますが、現状は以前の水準に達していない状況です。これを打開するためには、業界そのものが高付加価値型のサービスへ転換していくことが求められるでしょう。 ※1 「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」経済産業省・国土交通省・農林水産省(2022年) ※2 「2022年度物流コスト調査報告書」公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(2022年)や資源エネルギー庁の調査結果から、原油価格等の高騰に伴う物流コスト増であることが考えられる。 (図表1:運輸業・郵便業) 出典:「法人企業統計調査」財務省 をもとに作成 2.情報通信業 情報通信業は平均従業員数も営業利益率も緩やかに上昇しています。営業利益率については8~10%と高い水準を維持し、過去10年で毎年平均約2.8%成長しています。コロナ禍の一時的な景気後退に伴い成長が鈍化したものの、2022年にはコロナ以前に近い水準まで回復しました。同業界は他の業界と比較して、働く時間や場所を限定しない柔軟な働き方を実現しやすく、生産性向上の取り組みを行いやすいことから、今後も業界全体として更なる生産性向上に取り組みやすい業界であると言えます。 (図表2:情報通信業) 出典:「法人企業統計調査」財務省 をもとに作成 3.製造業 製造業については、従業員数が緩やかに減少していく中で、過去10年で毎年平均約9%営業利益率を成長させています。他の業界でも触れていますが、2019年以降に一時的な景気の冷え込みはあったものの、約2年弱で元の水準へ回復しています。従業員数はコロナ以前の水準に達していないものの、2022年は全産業平均でIT投資が前年比約5%増加※3すると見込まれており、特に金融や公共分野で大きく増加したことから業界全体の営業利益が向上したと考えられます。 ※3 「令和6年版情報通信白書」総務省(2024) (図表3:製造業) 出典:「法人企業統計調査」財務省 をもとに作成 日本の人口が減少していく中でビジネスを成長させるためには、ビジネスを牽引する人材への投資や、テクノロジー等への投資が必要不可欠であることは言うまでもありません。企業の置かれている状況、ステージにもよると思いますが、原則営業利益については、短期的に赤字が許容できるものではありません。 一方で人やテクノロジーに対する投資の効果が表れるのは少し時間がかかりますので、その投資効果を測るためには、中長期的な観点が必要です。個別の事業の売上とともに、収益を重視した中期的な検証、経営管理の重要性が今後より一層求められるでしょう。 以上

若手・中堅層人員比率<br />~次世代を担う人材不足の傾向と対策~ | 人事アナリシスレポート®

若手・中堅層人員比率~次世代を担う人材不足の傾向と対策~

少子高齢化という社会背景のもと、自社の将来を担う若手・中堅層の厚みに悩みを持つ企業が増えています。年齢構成における多様性は、人材の「量」の観点だけでなく、同質化を排する「質」の観点からも、企業基盤や競争優位性の強化に繋がる要素として捉えられることがあります。 図表1は、各産業の常用労働者数における「40歳未満比率」を折れ線グラフで示しています。これにより、若手・中堅層の比率の大小を見ることができます。全産業の40歳未満比率の平均は37.3%ですが、業種別に比率の傾向は異なります。 (図1:40歳未満比率‐常用労働者) 出典:厚生労働省「雇用動向調査 上半期結果表 2023年1~6月期」をもとに作成 注1)40歳未満比率=39歳までの常用労働者÷総常用労働者数×100 として算出 注2)常用労働者数: 雇用期間を定めず雇用されている労働者をいう。日雇労働者や季節労働者など雇用期間に定めのある労働者のほか、雇用期間に定めがあって契約期間を更新している労働者は除く。 注3)業種は抜粋 図表2は、40歳未満比率に加えて「欠員率」を軸に置き、4象限に分けて業種をプロットしています。欠員率とは、常用労働者に対する未充足求人の割合です。つまり、各業界の人手不足感を割合で示したものと言えます。欠員率の数値が高いほど人手不足感が強いことを示します。各象限による傾向ともに必要な施策を解説します。 (図2:40歳未満比率×欠員率) 出典:厚生労働省「雇用動向調査 上半期結果表 2023年1~6月期」、「労働経済動向調査 令和5年11月調査」をもとに作成 注1)欠員率=未充足求人数÷常用労働者数×100 注2)業種は抜粋 第1象限について 代表的な業種として「宿泊業・飲食サービス業」と「生活関連サービス業・娯楽業」があげられます。40歳未満比率が高いものの人手不足感は大きいのが特徴です。人の出入りが激しく、常時採用活動を行っている企業が多いことが窺えます。離職率の低下を図る施策に加えて、外国人や中高年の活用なども必要となります。 第2象限について 代表的な業種として「運輸業・郵便業」と「建設業」「医療・福祉」があげられます。若手・中堅層が少なく、かつ、全体的な人手不足にも悩まされている業界です。2024年問題に直面している産業が集まっています。欠員率にフォーカスすると、運輸業・郵便業と建設業との間には大きな違いがあり、人手不足感は運輸業・郵便業の方がより深刻です。生産性を高めるためにDXを推進する人材の獲得や育成、それに伴う人員の新陳代謝が求められます。 第3象限について 代表的な業種として「卸売業・小売業」と「製造業」があげられます。若手・中堅層の比率が低い業界が集まっていますが、人手不足感が比較的少ないのが特徴です。従業員規模が大きく、年齢構成の歪さに多くの企業が問題を抱えています。シニア層の活用が事業運営の継続可否に直結するため、定年延長を含めて適正な役割付与と処遇による高齢者の戦力化が必須です。 第4象限について 代表的な業種として「情報通信業」や「金融業・保険業」があげられます。若手・中堅層の比率が高く、かつ、人手不足感も比較的少ない分類です。現時点では最もバランスが良いと言えますが、今後も継続的に年齢構成を維持していくための取組みが必要です。人材獲得競争が活発な業界ですが、常に処遇の適正化を図る必要があるとともに、従業員のモチベーションを上げる施策も求められます。 今後しばらくはどの業界においても、従業員の平均年齢が上がっていく傾向が続きます。各社におかれては、「若手・中堅層」と呼ばれる年齢層が「50歳未満」となる未来を想定しておく必要があります。想定される未来からバックキャストで現在どういった施策が必要であるか考えてみることも、今後の事業展開において意味のある検討となるでしょう。 以上

人的資本ROIと労働生産性の関係性<br />~人数から投資効率を考察する~ | 人事アナリシスレポート®

人的資本ROIと労働生産性の関係性~人数から投資効率を考察する~

前回は、ISO30414から、人的資本ROIをテーマに、データの見方・業界水準・考察の仕方について概要を紹介しました。 人的資本の開示に注目が集まっていますが、数字を単に列挙すれば良いというものではありません。データをそろえると共に、他のメトリックのデータとの関係性や、他社比較・同業他社比較・自社過去の経年比較をするなど、多面的に考察し、人的資本の価値の増強に向けた施策展開をすることが重要です。今回は、人的資本ROIと労働生産性の関係性について考察します。 人的資本ROIは、ISO30414のうち、生産性領域のメトリックの1つです。人的資本ROIの計算式 「{収益-(コスト-人件費)}÷人件費-1」 のうち、人件費に関する部分は、因数分解すると人件費=人数×単価です。 今回は、人数に着目して考察を進める例として、労働生産性を使います。労働生産性は、付加価値÷従業員数で算出することができ、従業員1人あたりいくらの付加価値を稼ぐことができたかを示します。一定の付加価値を少ない人数で創出することができれば労働生産性が高く、同じ付加価値を稼ぐのに多くの人数を要すれば労働生産性が低いと言えます。 図1のように横軸に人的資本ROIを、縦軸に労働生産性を設定し、それぞれの業界水準を交点としてみましょう。ここでは、サンプルとして、経産省の2022年度の製造業の統計値を利用し、人的資本ROIが42.1%、労働生産性が12.0万円/人を1つのターゲットとし、(x,y)=(42.1,12.0)を境に4象限を設定します。 ターゲットとする値を中心に据えたとき、自社が第1象限~第4象限のいずれの象限にプロットされるか確認すると、課題や施策が見えてきます。 (図1:人的資本ROI×労働生産性)   出典:経済産業省企業活動基本調査 統計表一覧-速報(概況) 2023年企業活動基本調査速報ー2022年度実績ー を参照し、筆者が人的資本ROI・労働生産性を計算・図表作成 人的資本ROI={ 売上高 - {(売上原価、販売費および一般管理費) - (給与 + 福利厚生)}} ÷ (給与 + 福利厚生)} - 1 労働生産性=付加価値額(※)÷従業員数 第1象限は、最も望ましい象限です。人的資本ROI・労働生産性が共に外部水準より高いので、人件費の投資効率が良く、少ない人数で高い付加価値を創出できていることを意味します。 第2象限は、労働生産性は高いので付加価値に対する人数は理想的ですが、人件費の投資効率については改善の余地があります。 第3象限は、人的資本ROIも労働生産性も共に外部より低いので、改善の余地が大きいと言えます。創出する付加価値に対して人数が余剰しているうえ、収益につながらない人件費投資が多いため、人件費の掛け方や収益に対する人数構造のあり方を抜本的に見直す必要がありそうです。 第4象限は、人的資本ROIは外部より高いので、人件費を投資すれば一定のリターンはある状態ですが、1人あたり付加価値が低いので、より効率的な配置・業務遂行を実現すれば、同じ人数でもより高額な収益を上げられるはずです。 併せて、単年度の数字だけなく、経年で自社過去比較をし、人件費の投資効率と人数の使い方の変化や傾向を見ることで、施策の方向性が合っているか確かめることもできます。図2では、参考までに製造業の統計値を4期分プロットしてみました。人的資本ROIの水準を上げながら、労働生産性も同時に上げていますから、直近4期の間、人数を膨張させることなく高収益を上げ、人件費への投資効率を上げてきていること、一過性の特需ではなく少なくとも数年は継続していることが分かります。 (図2:人的資本ROI×労働生産性 製造業2019-2022)   出典:経済産業省企業活動基本調査 統計表一覧(2019~2022年)を基に筆者計算 まずは、図1・図2のようなマトリクスを参考に、ぜひ自社過去比較をしてみてください。必ずしも直近の統計値でなくとも、好業績時の自社過去水準や、競合他社水準など、自社がターゲットとする目標値等があれば、それと比較をすることも有効です。そうすることで自ずと今後目指すべき目指す姿についての議論が浮上するでしょう。 今回は、労働生産性の指標を例に挙げてデータの活用方法について考察をしましたが、その他にも、労働分配率や年収水準・教育研修費等、様々な人事領域関連指標を軸に分析をすることができますから、継続的に紹介します。 以上