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HR DATA

物流業の人的資本ROI
~外部環境変化を受けやすい企業・受けにくい企業~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。

物流業は私達の日々の生活の基盤となる重要な産業の1つです。コロナ禍において人・モノの移動が制限されたことで、通販や宅配等のサービスがより普及し、より一層身近で重要性を感じる産業の1つになったのではないでしょうか。同業界は国際情勢や資源価格等の影響を大きく受ける業界であることに加え、直近では法改正に伴う人材不足が懸念される等の課題があり、物流の安定性を担保するには様々な施策が必要です。今回は物流業界の過去20年の人的資本ROIの推移を見ながら、今後採りうる施策について述べていきます。

図表1は、陸運業の資本金規模規模別の2002年以降の人的資本ROIの推移です。コロナ禍以前は資本金規模に関わらず緩やかな成長傾向にあり、資本金1億円以上10億円未満は6~35%、10億円以上は30~70%のレンジで推移していました。2019年から2020年にかけて、人やモノの移動が世界的に制限されたことにより、陸運業全体の人的資本ROIが低下しましたが、その後回復基調にあります。

[図表1]陸運業人的資本ROI推移(資本金規模別)

出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算
※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1

陸運業の大企業の特徴として大口顧客をメインで扱う点や人件費や設備費等の固定費が高い点が挙げられ、同業種の中小企業と比較して売上の減少が収益に大きな影響を与えます。コロナ禍においては外部環境の変化に敏感な企業が大きな打撃を受けたことにより、収益が一時的に大幅に低下したと考えられます。一方で中小企業は特定の市場や地域に特化していることが多く、顧客基盤が特定の業界に集中していないことで、大企業と比較すると外部環境の変化の影響を受けにくかったと思われます。

図表2は、水運業のものです。資本金規模によって大きく傾向が異なり、資本金1億円以上10億円未満の企業は40~95%、10億円以上は特に変動幅が大きく、-220~570%を推移しています。

[図表2] 水運業人的資本ROI推移(資本金規模別)

出典:法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算
※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1

[図表3]原油価格とA重油価格の推移

出典:石油製品需給動態統計調査 石油統計 年報を基に筆者作成

水運業の大企業の人的資本ROIは、原油価格の値動き(図表3)に非常に類似しています。水運業の収益は原油やコンテナ運賃等のコストが外的要因により大きく変動することから、人的投資が必ずしも企業の収益に直結する訳ではありません。一方で、中小企業の場合は国内向けの輸送が中心である点や景気動向に関係なく需要のあるものを大量に輸送する点等から、景気動向やコロナ禍のような外的要因の影響を受けづらかったと考えられます。

陸運業・水運業問わず、物流業が安定的に成長していくためには、これまで言及してきたような景気動向や外的要因の影響を最小限に留められるよう、経営・事業の戦略の立案と推進を行える人材への投資が肝要です。顧客・販路の開拓や、エネルギー効率を意識した設備投資、デジタル化による省力化・効率化等、ビジネスを俯瞰的に見られる人材への投資がより一層求められるでしょう。

以上

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