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HR DATA

建設業の人的資本ROI
~人手不足が変える大手・中堅のパワーバランス~

当連載では、人的資本の重要指標として「人的資本ROI」の計算法、解釈と業界別分析を行っています。末尾の関連記事と併せてご覧ください。同じ業界であっても商材や経営戦略・ビジネスモデルが異なれば、当然、人的資本ROIの水準にも差が出ますが、一般的な業界水準の理解や、動向の把握が重要です。

今回は、直近5年分の建設業の人的資本ROIを資本金規模別に見ていきます。

図表1は、建設業の資本金規模規模別の2000年以降の人的資本ROIの推移です。まず、俯瞰で見ると、資本金規模や年度により大小がありますが、おおよそ4~6割のレンジで推移しています。一般的に建設業は比較的人件費率が低い業種であり、他業種と比べても一定のリターンが得られやすい構造ですが、超大手の情報通信業(2022年,135%)のような著しい伸びを実現できる構造では無さそうです。

また、資本金規模による比較の観点では、一部の業種では、規模の経済が働き、資本金規模が大きい程リターンが大きくなる傾向がありますが、建設業では水準に大きな差は見られません。むしろ、2021年以降、資本金規模10億円以上の大手企業の水準を、1~10億円規模の中堅企業の水準が上回っていることが分かります。

[図表1]建設業人的資本ROI推移(資本金規模別)

出典: 法人企業統計調査 時系列データを基に筆者計算
※計算式:人的資本ROI={売上高ー(原価+販管費ー(給与+福利厚生費))}÷(給与+福利厚生費)ー1

建設業は、元請けである大手ゼネコンをトップに、多重構造からなる特有の業界構造を有します。従来は、上流企業は圧倒的な交渉力を有し、厳しい納期や条件で仕事を進めてきました。

現在も超大手は一定の交渉力を有しますが、2024年問題と称される働き方改革・労働条件改善の取り組みが進捗し、仕事を進めるために下請け企業が許容する条件を提示せざるを得ない状況になりつつあります。また、人手不足により下請け企業側が受注制限をせざるを得ない状況から、交渉の力関係が変化しつつあると言えます。こうした状況により、中堅規模の企業では健全な水準のリターンを得やすくなっていると言えます。逆をいえば、大手企業が下請け企業に厳しい条件を提示することで、これまで得られたリターンは失われていく傾向になるでしょう。

人口減少による国内市場縮小や、人手不足と深刻な高齢化、原材料高騰等、悩ましい問題を抱える業種ゆえに、今後、適切に人材へ投資をしながらリターンを得るため、構造を転換する契機でもります。業界全体の収益構造の抜本的な変革としては、M&Aによる過剰な多重構造の解消があげられます。また、個社の収益改善の観点では周辺業務のDX投資・DX人材開発による効率化や、新市場・新商流を生み出すイノベーション人材への投資等が考えられます。

以上

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