投稿日:2022.06.27 最終更新日:2024.01.17
望ましい労働時間・生産性に向けて
~長時間労働の抑制がなければ生き残れない時代へ~
日本のサラリーマンの労働時間は長い、と言われています。OECDが取り纏めているデータベースによると、労働者の1人当たりの年間平均労働時間は、2020年時点で、日本が1,621時間に対して、ドイツでは1,284時間、フランスでは、1,320時間です(※1)。ここで示す労働者にはパート・アルバイトなどの非正規雇用も含まれ、厳密な国際比較はできませんが、日本では非正規割合が他国よりも高いのにも関わらず、年間平均労働時間が長いことから、やはり日本のサラリーマンは長い時間働いている、という感覚の確認はできるでしょう。
残業時間削減に向けた取り組みとして、平成22年(2010年)には、月間60時間を超える法定外超過勤務時間に対して、割増率を1.25倍から1.50倍に引き上げる法改正がなされました。中小企業はこれまで13年間もの間、猶予されてきましたが、令和5年(2023年)4月から対象となります。労働法改正や、各企業の取り組みにより、労働時間は若干の減少をしているものの、正社員1人当たり、年間2時間程度の削減に留まっており、大幅な削減とはいいがたく、継続した取り組みが必要です(※2) 。
企業規模別の時間外労働(平均時間)をみると、いずれの規模においても、30時間未満、10~20時間未満の企業が過半数を占めることが分かります。一方、今回の規制に抵触する60時間以上の割合、ギリギリラインである50~60時間の割合は(図表1、濃い赤・赤)は、1,000名以上規模でも若干みられる他、100~299名未満規模において他の規模より多くなっています。
出典:『労働統計要覧(D 労働時間)』厚生労働省 (mhlw.go.jp)
経団連の2020年労働時間等実態調査によれば、時間外労働時間は年々減少傾向にあります。2019年では、年間の時間外労働時間平均が360時間未満(月平均30時間未満)の企業が90%を超えています。ちなみに、製造業と非製造業を比較すると、非製造業の方が残業時間は長い傾向にあるが、非製造業でも84.2%の企業において、年間の時間外労働時間の平均は360時間未満です。
一方で、母集団に占める割合は低い(2019年時点では0.4%)ものの、年間の時間外労働時間平均が720時間以上(月平均60時間以上)の企業も存在し、これらのほぼ全ては中小企業です。2023年4月の法改正による、中小企業における60時間を超える残業代の割増率の猶予期間終了は、これらの企業の人件費単価に対してインパクトを与えます。
出典: 一般社団法人 日本経済団体連合会『2020年労働時間等実態調査』
中小企業庁による、「長時間労働に繋がる商慣行に関するWEB調査」(平成30年)によると、長時間労働に繋がる主な商慣行上の理由は3つです。①納期のしわ寄せ(前工程の遅れが下請け企業のしわ寄せとなることによって生じる短納期)②受発注方法(川下の取引先に対し過度な要求をすることによって生じる多頻度配送、在庫負荷、即日納入など)③特定業界に依存することによる特定時期の過度な繁忙(売上が特定企業や官公庁に偏重することにより、年末年始などの一時期に業務や納期が集中すること)(※3)
こうした状況に置かれるのは、交渉力が弱い小規模企業である下請け企業が多いです。状況の是正のためには、適正な業務運用ができるだけの交渉力を持つことや、特定の企業・取引先に売上を依存しない取引先のポートフォリオ適正化が必要です。
また、ビジネスモデルの特性上、大きな繁閑の差が生じることが致し方ない場合、人事管理の観点では、現有人材の時間数を長くすること(残業)による業務処理ではなく、短期の有期雇用や人材派遣活用など、人員数・ポートフォリオのコントロールによる業務処理を検討し、現有人員の人件費単価ではなく、人員数による業績連動コントロールも必要です。
日本では、企業数が非常に多く、同業界内で大企業から中小企業へ商流が多重構造になっていることも、下流企業で業務量や納期に無理が生じる主要な要因です。生産性向上のため、統合やM&Aによる業界内の産業構造の見直しも必要でしょう。
生産性向上できない企業は、人件費単価増に苦しむこととなります。また、法整備により他の企業の労働環境が改善されることで、職場・労働環境の魅力の観点から、労働力の流出リスクもあり、改善は急務です。
以上
(※1) OECD Database
http://stats.oecd.org/index.aspx?datasetcode=anhrs
“Average annual hours actually worked per worker” 2021年11月現在
注:データは一国の時系列比較のために作成されており、データ源及び計算方法の違いから特定年の平均年間労働時間水準の各国間比較には適さない。フルタイム労働者、パートタイム労働者を含む。
(※2) 総労働時間の推移
https://https://www.transtructure.com/hrdata/20201201/
(※3) 中小企業庁『長時間労働に繋がる商慣行に関するWEB調査結果概要と今後の対応』
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/koyou/2019/190201jinzai01.pdf