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吉岡 宏敏

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パンドラの箱 | その他

パンドラの箱

 メンタルヘルスの予防的施策の一つであるストレス診断は、個々の従業員の「心の健康診断」として役立つだけでなく、組織の病理を鮮烈に描出することができる。さまざまなストレス因子が個々人に影響する度合が診られるということは、それを全社的に分析すれば、部門ごとのストレス環境の状態がわかるということになる。  しかも鮮烈に、つまり、そこで検出される組織の問題は、実態的できわめて生々しい。組織診断と言えば、モラールサーベイや従業員満足度調査がよく使われるが、答える側の“警戒と配慮”や本人に自覚できている不満に限られるといった限界があるけれども、自身の健康を診る心理学的テストであるストレス診断では、よりプリミティブな回答が得られるからだ。  たとえば、「自尊心の毀損」という因子によるストレス状況にある従業員が多い部門とは、いったいどういう組織状況なのか。加えて、「リーダーとの関係」にも共通して起因しているとしたら、極めて問題あるリーダーシップが推測できる。また、「組織市民性の低さ」というストレス因子は、同僚が困っていても助けない、というチームワーク状況を示すから、そういう不健全な部門が特定できる。  長時間労働、キャリア展望、雇用条件、リーダーシップ、人間関係等々、多様で詳細なストレス因子をはかる診断ツールを使えば、怖いほど組織がどう病んでいるかが分かる。それは、そのままマネジメント問題としての病理であり、明快で鮮烈なだけに、開けたことを後悔するようなパンドラの箱でもある。  以前、6000人の全従業員でこの診断を使ったことがある。30の部ごとに組織状況の分析を行い、各部のストレス因子状態を部長にフィードバック。状態の悪い部から順次、原因の検討と改善施策を個別に強制し、指導し、実行していくという施策をとった。ストレスマネジメントは、モチベーションマネジメントと表裏であり、当然、業績にも影響するから、これはパフォーマンスマネジメントの施策にほかならない。実際、この会社では部ごとの分析結果と部業績との関係をまず検証している。  通常、メンタルヘルスの診断は、福利厚生担当の所轄だったり、健康管理の一環にとどまり、部門のマネジメント診断にまでは至らないけれども、組織診断としての活用がもっとされてもいいのではないか。それだけ経営施策としての効用が大きい。このケースでは、組織診断としての意義に着目した常務取締役が、むしろ個々人のストレス診断を副次的効用として、実施を決断したものだった。  ただし、この施策は劇薬である。組織のリーダーが突きつけられる結果の深刻さは、360度診断の比ではない。経営者が知ってしまったら、全社的な、踏み込んだ手を打たざるを得ない。  こうしたパンドラの箱を開けてみたいという勇気ある方は、ぜひご一報を。もっとも強烈な診断ツールをご紹介します。

自分の取扱説明書 | その他

自分の取扱説明書

雇用延長や役職定年を前にした人たちのモチベーション向上は難しい。権限と報酬を失うことによる意欲低下を凌駕するような動機付けがそう簡単にできるとは思えない。そうしたキャリア研修の御要請もあるけれども、限定的な効果でよければ、と但し書き付きで、やらせていただくようにしている。 かつての部下が上司となり、同じような仕事を大幅ダウンした報酬でやる限り、100%気持ちよく前向きに働け、ということに無理がある。使われる立場と割り切るから、少なくとも自分が気持ちよく働けるように使ってほしい。たとえば、そうした自分たちの使い方を提案するといった研修で、限定的な動機付けをしたりする。 以前、たいへんうまくいったけど、失敗した、という研修をやったことがある。役職定年直前の方々に対する2日間の研修で、自分たちで自分たちの貢献領域を考え会社に提案する、というものだった。まず、自分の知識やスキル、経験、人脈などを“リソース”として棚卸して、グループの中で各人のリソースをお互いに評価し、その使えるものをグループのリソースとする。 それを使ってグループで起業する計画を立て発表し、その出来栄えを競い合う、までが研修の前半。ゲームではあるが、大いに盛り上がりつつ発想が広がったところで、今度は、再度自分のリソースを検証して、自社の中でどんな貢献ができるかを企画し、会社への提案書を作成するという趣向である。真剣で熱のこもった、また、自身の経験を活かした貢献案がアウトプットされ、受講生の満足度も高いものとなった。 しかし失敗した、というのは、彼らの提案を会社として受け止めなかったからである。案を実際にやるかどうかの採否はともかく、会社として、一旦はきちんと検討するとすべきだったのに、研修の場限りのアウトプットという扱いだと、人事部事務局が研修の最後に宣言。とたん、一瞬にして、炎上。モチベーションは下がり、反発だけが残る結果になったのだった。 会社の対応スタンスさえはっきりさせておけば、「自分たちの新しい使いみちを、自分たちで考える」のは、効果的で元気の出る方策である。間違いなく、活発な議論になる。場合によっては、実際にシニア人材の職域開発につながることもある。あるいは、もっと単純に、自分たちをうまく使う方法を自分たちで整理させるだけでも十分、意義ある研修になる。 たとえば、自分は、こんな経験をしているから、この種の問題であれば応えられる。社内社外のこのことについて詳しい。この技術は教えられる。この部門には言うことをきかせられる。この点をほめると喜ぶ。ここに触れられるとキレる。。。といった自分の使い方を言語化しまとめるのである。 年下の上司や会社にとっては、扱いかたが一様でなく、難しいシニア人材であるからこそ、彼ら自身に「取扱説明書」をつくってもらえば間違いがない。本人の満足度も高く、会社としてアウトプットが現場で使える。限定的ながらも一石二鳥の研修として、推奨したい。

部長がヘンです | その他

部長がヘンです

管理職だけで1,100人もいる企業で、管理職ブラッシュアップ研修をしたことがある。 1グループ約50人で3日間の研修を20数回行うという大型施策だったが、全管理職への一斉研修は初めてということであり、本研修に先立つプレ研修でマインドセットを行うことにした。それも200人ずつ2週間連日で一気に行う企画だった。教育のテーマは「人を育てるリーダー」だったので、プレ研修はそれに先立つ触発を狙い、いろいろな事例を見たうえで、「自身のリーダーシップ論」を書くという事前課題の告知をする場と設定した。 リーダーシップの事例というと企業人でも著名な方々のエピソードが使われることが多いが、それではあまり刺激がない。ここでは、あえて無名の、しかも他社の管理職者を取り上げることにした。4社の4人の管理職者に対して、VTRインタビューを行い、彼らの人を育てるリーダーシップの持論を、個別具体的に語ってもらった。それを各5分ほどの映像に編集して投影しながら、講師が問題提起をするという趣向である。 人選と交渉を入念に行ったこともあり、4者4様、実に興味深い“日常の理論”を堪能することができた。このプレセッションは受講者の反響もよく、期待通りの刺激たりえたことが事後のアンケートにもおどろくほど饒舌に書かれていた。4人ともに触発的な話だったが、そのなかで、「部下管理は子育てと同じだ」との持論を持つエンターテイメント企業の開発部長(男性)の話が、ひときわ面白かった。 彼は、部下たちとのコミュニケーションの、自分なりの行動原理を語った。たとえば、部下に話があるときに、自室に呼ぶことはしない。必ず、部下の席に行って、そこで話す。その際には、立って座る部下を見下ろしながら話すとか、部下を立たせて話すとかではなく、近くのゴミ箱にでも腰を掛けて同じ目線で話をする。あるいは、仕事を与えたら、ある程度自分でできるようになるまで、決して具体的指示は与えない。ここぞというところで介入するといった、さまざまな“ワザ”をその理由とともに楽しそうに話してくれたのだった。 2週間のセッションが終わって、アンケートの好評さからも手ごたえはあったが、組合を通じて、現場の“異変”が人事部に伝えられた。それは、上司がプレ研修に出てから自分達に接する態度が変わったというものだった。なかでも、「部長が突然席まできて、ゴミ箱に腰かけて話かけてくるんですけど。。。」といった報告が複数あった。いったいどんな研修をやったのか、と組合は聞いてきたのだった。 これは、副次的な効果である。研修などをやるくらいで行動を変えるのは難しいといわれる。それでも、「なるほど」と自分が胎落ちするようなやり方であれば、素直に真似てみるということから、行動変容は始まるのだろう。しかし、やってみようという気にさせた原因は、その方法の納得感が高かったからだけではないのでないか。振り返ると映像のなかで持論を語る4人はそろって、いかにも楽しそうだった。そのことこそが、刺激だったのではないか。 人を育てることは、楽しい。そのノンバーバルなメッセージが映像から伝わったからこそ、共感を呼び行動を喚起したのだと思う。

誰を昇格させるか | その他

誰を昇格させるか

昇格審査に関するご相談が増えている。 勝ち組を目指すための人材力強化の機運のなかで、やはり、まず第一の課題は次世代リーダー育成。それには、きちんとした計画的で合理的な昇格が必要ということだが、その背景には、「なぜ、彼が管理職なんだ!?」といった昇格の失敗経験も少なくない。名プレーヤーは必ずしも名マネジャーではない、といった話もよく聞かれる。 昇格の判断は、2段階で行われる。第1段階は、人事考課による昇格候補者の選定。評価項目は、資格等級ごとに決められた能力や行動の要件だから、その基準を満たしていれば、その等級は“卒業”ということになる。通常は、能力評価結果がその材料だ。業績評価結果も考慮されることもあるが、業績評価は本来、賞与に反映され単年度で報われるべきものだから、その材料にはしない方が合理的だ。 ここまでは、評価の制度と運用に問題なければOKだが、難しいのが次の第2段階。上位資格の役割を担えるかどうかの判断、いわば、“入学”の審査である。とくに管理職昇格で悩ましいのがここのところで、卒業要件満たした人のなかから、部門長推薦⇒筆記試験(&適性テスト、論文)⇒役員面接、といったよくあるプロセスでは、どうもうまくない。見極めなければいけないのは、マネジメントができるかどうか。しかし、その役割にないのだから、やったことがないからわからない。これを、筆記試験や役員面接で見極められるのか、という問題である。 そういった未経験状況における能力発揮可能性を測る方法として使われるのが、アセスメントセンター方式というアセスメントである。シミュレーション環境を用意して、その中で各人の意思決定や行動を評価するというもの。2日間の研修形式でじっくり見極めるか、センター方式のアセスメントツールを個別や組み合わせて使うなどで一定精度の診断ができる。 かくて、人事考課とアセスメントセンター方式によって、在籍資格の要件を満たし、かつ、管理職としてやれる可能性レベルがみれるから、昇格者選定の客観的材料ができるということになる。しかしこれは、スキルだけの話である。加えて、自社のコア人材たるマインドをどうみるか。それを診る意味で、役員面接や論文が機能するというわけである。 近年増えてきたのは、そこに、バリュー評価を考慮することだ。企業理念にもとづく行動こそが大事だから、どんなに能力やスキルが優れていても、バリュー評価に問題があれば、昇格させない、といった運用ルールの会社も少なくない。ちなみに、バリュー評価を賞与反映するようなケースもあり、自社のコア人材の要件は、能力やパフォーマンスだけではないというスタンスは根強い。 能力的にできそうかどうかが問われるけれども、能力発揮可能性だけあっても、姿勢や意欲・意思の面で問題あれば昇格には及ばないというわけである。大事なことは、一方で客観的にスキルを評価・測定したうえで、加えて自社固有の価値観や必要な姿勢を共有・体現している人材を見極めるということだ。役員や部門長が「あいつは“人物として”管理職をやらせても大丈夫だ。俺の眼に狂いはない」と、後者だけで選ぶことでは、昇格の失敗の根絶は難しい。

もっとユニバーサルデザインを | その他

もっとユニバーサルデザインを

教育研修の世界では、米国海兵隊の訓練方法がよく取沙汰される。 映画「フルメタル・ジャケット」の異常に圧迫的な訓練光景イメージの裏側で、ロイヤリティやスキルを高める考え抜かれた方法があるからで、例えば、個人特性に応じたチームの編成の仕方を学ぶ研修で教えるメソドロジーを、米国海兵隊に借りたりする。 これは、戦争という極限状態のなかで生まれた組織論だからこそ、その実践性が高いということだが、テクノロジーの革新という点では、さらに戦争の“貢献”はよく知られている。いろいろな分野に応用されるIT技術や電子工学の高度利用はもちろんのこと、インターネットもたしか軍の内部コミュニケーションシステムとして生まれたと聞く。世の中からなくなってほしい戦争ではあるが、それが技術革新の契機であったことも事実だ。 同様にクリティカルな状況打破を目指す、もう一つの技術革新の契機が、ユニバーサルデザインの追及である。つまり、障がいのある方々の生活を支援する技術。かつて、Coup d’Etat(クーデター)ならぬCoup d’Tech(クーデテック)という、多くのIT会社が参画した運動があった。「障がい者の生活を革命せよ」と “技術へ一撃”いれて、新機能や新しい道具を生み出そうという動きであり、その後、実際にたくさんの支援機器や支援環境システムが生まれている。 ウォッシュレットやTVのリモコンの例を持ち出すまでもなく、また、「バリアフリー」ではなく「ユニバーサルデザイン」という言葉になったことにも象徴されるように、障がい者支援を契機に生まれた便利な道具を我々全員が享受している。戦争ではない、こうした技術革新こそ、Coup de Tecの思想の実践こそ、もっともっと進むべきだろう。 障がいある方々のために、ICTや先端技術を使った生活や仕事の道具はずいぶんとできてきているが、まだまだ十分でない。必要な人なら誰しもが、ホーキンズ博士並みの車いすが使えるようなローコスト化技術は生まれないものか。また、日常生活の不都合をなくすための道具はある程度あるものの、生活を楽しむ道具は、まったく足りないのではないか。 たとえば、失われた五感の補完や増幅、もっと言えば新しい感覚の創出に基づく、障がい者の方々にとってのエンターテイメントの世界といったものが、技術の粋を結集して切り開かれるべきではないか。それらは、高齢化社会のQOL(Quality of Life)を高めるだろうし、また、結果エンタテイメントの世界を拡充することになるだろう。 道具や環境整備だけが、技術革新ではない。ユニバーサルデザインとしての、組織論や組織管理技術、人材マネジメント技術もあるのではないか。たとえば、さまざまな障がいをもつ人々や超高齢者をメンバーとして前提した組織のマネジメントの技術。それはきっと、海兵隊のメソッドよりもう一段高度化されたダイバーシティ・マネジメントの方法となるはずである。

暗黙知を引き出す | その他

暗黙知を引き出す

“子供の学習”と“大人の学習”は違う、という説がある。 それによれば、子供の学習は新しい知識を学ぶことだが、大人の学習は知識を整理し体系化することとされる。大人は、いろいろな経験をし、自覚的ではないかもしれないけれども知っていることも多い。その、自身のなかに散在する知識や経験を、意味づけ、体系化し、コトの原理がわかることで、再現化できるようになる。 つまり、経験を踏まえて自身としての方法論化ができるのが、大人の学習ということである。それこそが、企業研修(Off-JT)が大事である理由であり、そこでは学校の授業とは、まったく異なる教育手法が必要になる理由でもある。企業研修は通常、レクチャーにはほとんど時間を割かずに、ディスカッションや考えさせる演習に腐心する。それにより、自身の経験や知見を引き出し、多様な意見により相互に触発し、暗黙知を形式知化させていくことがその狙いである。 暗黙知を引き出すための一番のポイントは、「言葉にする」ことである。言葉にして伝えるために、あいまいな考えや印象的な経験を整理し、形にしなければならないからだ。それにより人に伝えられるし、自分で行動することもできる。 たとえば理念浸透のための教育では、各部門長がメンバーに対する行動指示のメッセージを具体的に作成する、といったことをする。企業理念や行動指針の項目ごとに、例えば、「地域社会への貢献」という項目に対して、個々の部下の担当業務に即して、「こういったことをしろ」、「これだけはするな」といった具体的な行動指示をつくらせる。その際に大事なことは、そのメッセージには、必ず自分の経験を盛り込むというルールを課すことである。 具体的行動を考えるにあたって、自分の体験や知見を振り返る。その上で、「こんな時はこうしろ、なぜなら自分もかつてこんなことがあって〜〜〜」といったメッセージを作成することで、誰でもないその上司だけの行動メッセージができあがる。 たとえば評価者研修で、部署別に能力評価やバリュー評価の項目ごとに行動例を皆で作成するセッションも効果的だ。あいまいで抽象度が高い評価項目でも、マネジャーたちが自身の経験に即して具体例を出し合い、そのレベル感を議論することで、実態的な行動と暗黙の基準が共有されていくという効果がある。 大人の学習とは、教えるのではなく、引き出すことである。管理職とはどうあるべきか、どう行動すべきか、というレクチャーに対しては「そんなことわかってるぜ」と斜に構えるマネジャーたちも、「あなたのマネジメントの持論を語ってくれ」というセッションをすれば、時間が足りなくなるぐらい白熱するものなのである。