2015.03.03
自分の可視化
行動を変えるには、まず自分を知らなければならない。だから、自身の行動や性格、思考のクセ、対人関係のスタイルなどを可視化するツールを、研修でよく活用する。 360度診断では、自分の行動が周囲の人たちからどう見られているかが分かる。パーソナリティ診断では、コミュニケーションや判断、好き嫌いの特徴やビジネス行動の得意不得意を知る。言動のスタイルを4分類して、自分がどのスタイルにあたり、他のスタイルの人たちとの接し方を学んだりするのは、コミュニケーションスキル研修の常套手段だ。 スタイル分類はいろいろな流派があるけれども、理論的出自は共通なのでスタイル名称は異なるものの意味していることがあまり変わらないから、一度知ると、結構共通言語的に使える。そのトラディショナルなものを初めて体験したときは、驚愕したものだった。 先にチェックリストに答えることで、自分が知らないうちにスタイル分けがされている。同じスタイルでグルーピングされて、演習をやるのだけれども、その振る舞いやアウトプットが、自分たちのスタイルを教えられた後で振り返ると、その特性をあまりにも如実に示していたからだった。 ちなみに私のグループは、例えば営業相手の顧客タイプでいえば、「結論から言え」、「世間話はいらない」、「余計な挨拶は不要」、「長々と理由は言うな」という“単刀直入すぐに決めたい”派。その特性は知らないまま、演習をするという仕掛けで、演習のお題は、(1)自分達を一言でいうと何か (2)自分たちの好きなもの とか他愛ない事柄を話し合って決めるといったものだった。 まず、われわれのグループは、いちばん早く演習が終わっている、というのが後で知る特徴のひとつ。他のたとえば“社交派”グループは声高にうるさく熱く議論をしているし、“親密派”は無駄話ばかりして時間超過といったわかりやすさ。さらにわがグループでは、(1)自分達を一言でいえば、「唯我独尊」だったし、(2)好きなものは「ドイツ製品」という見事にスタイル特性に符合するアウトプットだったのである。 こういった自分の特性の可視化は、それを知ることで、自覚的に行動を変えることができる。360度診断の結果から、なぜ周囲はそう感じているのかを考え、行動改善を図る。資質的にチームワークが苦手ならそういう自分を意識して行動する。スタイル特性を知れば、その活かし方、留意点を踏まえ、ビジネス行動を意図する、といった具合。 たいていはこんな風に行動に生かせるのだけれども、どうやら、自己認識ができても変えられない特性もありそうだということもわかってきた。それは、「対人感受性」。これが、低い人は、なかなか行動変容は難しい。そもそも感受しないのだから、気を付けようがないということもあるけれども、それ以前にその点に気を付けようという気にならないらしい。 あるとき、コミュニケーション不全者だけを集めた研修をしたことがある。2日間、手を変え品を変え対人行動のアセスメントを行い、厳しいフィードバックをした。多くは、以降の行動改善に結びついたけれども、もっとも重篤な受講者は変わらなかった。いわば、筋金入りの確信犯として、行動を変えようとしないのだった。 対人感受性が極度に低いから、対人問題そのものがその人にとっては存在しないのである。つまり、自分にとって、大きな問題ではない。自分の可視化に意味があるのは、それが、自身の問題認識に結びつく限りにおいてだろう。とすればまず、組織として他者とともに仕事し成果を上げていくことに必要な振る舞いは何か、その基本中の基本の問題意識の喚起から始めなければ、コミュニケーション不全の根絶はできないのかもしれない。 以上